21話 貴族たちは完璧に扇動された
さて、お手並み拝見ね。
3倍の魔力とやらはどの程度かしら?
私が内心を隠して不安そうに口に手を当てたら、勇者は勝ちを確信したのかいつもの腹立つ上から目線に戻った。
「さあ今から俺の数値を見て絶望しろ! 絶望してもお前に醜態を晒させるために魔力診断はしてもらうけどな!」
「そ、そんなヒドイわ」
面白くなってきたので奴にのってやる事にした。
「まあでも、今の内に調子こいた事を謝って俺の2号になるなら、お前の診断は無しにしてやってもいいんだぜ?」
「2号?」
「てめえはそこそこ可愛いから、ヴィーの次に俺の女にしてやるよ」
げぇ、奴に色目使われた。
あまりの事にじんま疹が出て、気色の悪さに全身が震える。
最近告白が続いて調子にのってた自分を大いに反省した。
何があってもこいつだけは勘弁願いたい。
ところで、ヴィーってヴィネグレッタっていう女魔導士の事かしら?
あれ?
さっきの場所に彼女がいないみたい……。
直後、ドスッという鈍い音が周囲に響いた。
「痛ってぇ―、てめえ何すんだよ!」
いつの間にかこちらに移動した彼女が、勇者の脇腹を殴ったようで奴が屈んで悶えている。
「ふざけんな! 私がいつからあんたの女になったのよ。こっちは訳わかんない執事に魔力量で負けて腹立ってんのに! 無駄口叩いてないでさっさとやんなさいよ!」
「ちっ、ヴィーの奴、これさえなきゃなあ」
ぶつくさ言いながら勇者デグラスが診断宝珠に手をかざした。
「ゴホン。さあ、注目してくれ! これが勇者である俺様の力だ! 人類最強に驚愕するがいい!」
診断宝珠が力強く光り輝き、板に数値が表示される!
28XXX
285XX
286XX
28650
数字は『28650』で表示が停止。
そして宝珠の色が黄と緑に変化した。
ウ、ウオオオォォーー!!!!
人の限界を超える数値を期待していた貴族たちは、その想像をも超える魔力量に大歓声をあげた。
「これなら魔族軍など楽勝だ!」
「勇者様がいらっしゃってよかったわ」
「まさしく我が国の守護神だ」
「これは勝ち馬に乗らねば。レグハルツ将軍の軍なら戦争賠償で大金の獲得は間違いないぞ」
「あなた、早くハリオス侯爵と関係を構築なさいな」
貴族たちがあまりに騒ぐので、少し不安になってルートリアを見る。
「流れがかなり向こうに行ってない?」
「そうだな。少々本気を出して扇動する必要がありそうだ」
せ、扇動するの……?
人を統べる権力者は、普通とは目線が違うみたいだわ。
ルートリアが勇者の方に顔を向けると愛想笑いを浮かべる。
「確かに勇者デグラス殿の魔力量は高い。これは非常に心強く思う。私は勇者殿を頼りにしている」
ルートリアが勇者を褒めたたえたことで、こちらが負けを認めたのかと向こうの陣営は色めき立った。
「ガハハ、王国軍の運営管理は今まで通り私ハリオスがやるしかありませんな。貴族の皆さまのご期待には応えなければなりませんからのう。そうであろう将軍」
「ええ。ハリオス侯爵からこのレグハルツに任をいただけるなら、魔族軍など恐れるに足りません」
後ろで席を立つ音が聞こえた。
「ハリオス貴様! 勝手に話を進めて、王国軍最高司令のこのカストラルを蔑ろにする気か!」
「何をおっしゃいますか、カストラル様。将軍や勇者などの有能な人材を抱える私に全てお任せいただければ、カストラル王太子には軍事以外の国家運営に注力いただけるのですぞ」
言い換えれば有能な人材は俺の手の内にあるんだから黙って任せろ、軍事に口を出さずに他の事をしておけ、という意味ね。
「これだけ頼りになる勇者がいるんだ。ハリオス侯爵の抱える人材は豊富なのだろう」
「あの勇者はレグハルツ将軍の配下な訳か。こりゃ我が王国軍は最強だな」
「そうですわ。王族は下手に軍事に口を出さないで、任せた方が良いと思います」
「せっかく戦争に向けて景気がよいのですもの。治安の維持やインフラなど、今の内に王家がすべき事はあるのでなくて」
貴族がたちから聞こえる会話は、向こうの陣営に肯定的のようね。
さっきの勇者の魔力量パフォーマンスが貴族たちに与えた影響は大きく、完全に流れがハリオス侯爵側に傾いているみたい。
貴族たちも大人数になれば、場の空気に流される愚かな大衆とそう変わらない。
ハリオス侯爵とレグハルツ将軍が裏で好き勝手やって、王国を内部から腐らす事に思いが至らないのだろう。
悔しそうに歯噛みしたカストラルはイスに座り直すと、私の方を見て早く何とかしろとばかりに2回連続で顎をしゃくって催促してきた。
「これをひっくり返すのは大変じゃない?」
心配になってルートリアを見ると彼は余裕そうに微笑んだ。
「これから小さな火種をおこす。その後、レイナが大炎上させて欲しい」
大炎上って……。
ためらう私をそのままにして、彼は声を張り貴族たちに語り始めた。
「戦争は情報が何より有用だ。そこで魔族軍がどの程度行動を起こしているか情報を掴むために、我々は頼りになる協力者を獲得した」
「協力者? 将軍、殿下が何の話をしているか知っておるか?」
「し、知りません」
彼ら2人が首を傾げ、同様に聞いている貴族たちがざわつく。
「本来、女神様や邪神は互いに対立こそしているが、人族や魔族などの信者同士の争いには不干渉である。だが、今回は事情が異なる!」
彼は貴族たちにそう言いながら、私の方に少し顔を向ける。
「王国に降臨された聖女様は、伝説の通り平和を愛しあらゆる争いをおさめようと行動を開始された。その聖女様の魅力で、本来魔族側である有力者を味方に付けることに成功した。これにより、かなり魔族側の状況が分かってきた」
それってファルやベクタードレインの事よね。
その前に聖女様の魅力って何よ。
良いように言ってるだけで、2人が一緒にいる本当の理由は女子トークと女神様の紹介じゃないの。
心の中でツッコミを入れる私の思いを他所に、貴族たちへ訴えかける彼の言葉は一層熱を帯びる。
「今から大切な事を伝える。皆、心して聞いて欲しい」
そこで一息入れたルートリアは、少し音程を下げて脅すように続けた。
「魔族側は多大な供物と忠誠を捧げる事で、邪神ゲヘナにこの戦争の協力を取り付けたのだ!」
衝撃の告白に会場内が騒然とした。
人族や魔族の争いに不干渉のはずの邪神ゲヘナが魔族に力を貸す。
それは子供のケンカに大人が介入するようなものだ。
それも一方だけに味方する、その結果がどうなるかは火を見るより明らかだ。
「そ、それはマズいぞ。いくら勇者が強くても邪神になんてかなう訳がない」
「どうするのよ。魔族に滅ぼされちゃうじゃない」
「で、でも、私たちには女神様がいるわ」
「そうだ。俺たちは女神様を頼ればいいんだ」
「女神様を味方にしなければ!」
貴族たちは最初こそ驚いていたけど、魔族が邪神を頼ったように、自分たちは女神様を頼ろうと騒ぎ出した。
「皆、聞いてくれ!」
そこで一際声を張ったルートリアが、騒然とする会場を制する。
「確かに女神様なら邪神に対抗できる。だが、女神様は我々の戦争には介入されないだろう。何故なら女神様は、どんな物事も完全に善悪で判断されるからだ。これまで同様、戦争は女神様にとって善でも悪でもないのだ。そして、皆も知っての通り、女神様は邪神のように供物や忠誠などで態度を変えられたりはしない」
戦争とは互いに正当性を主張して殺し合うもの。
単に、双方の理で戦争が正当化されているだけであって、結局のところただの殺し合いと言える。
仮に侵略戦争を仕掛けられている国であっても、過去の歴史でその国に何も落ち度が無い場合でなければ、女神様は助けてくれないのだろう。
そして、貴族たちも女神様が金品や物になびかない事を知っているようで、皆一応に押し黙った。
静まり返った会場で不安な表情の貴族たちが、解決策を求めてルートリアの次の言葉を待った。
「だが、我々には戦争に頼らず平和に導いてくださる方がいる」
そう言うと私に向かって小声で「前へ」と促した。
ここで前に出たら絶対注目されるよね。
でも、こんな状況ではもう何処にも逃げられないし……。
後の展開が予想できるだけに前に出るのをもの凄くためらったけど、ルートリアがもう一度「前へ」と言うので、もう抵抗するのを諦めた。
私は静かに前へ出る。
貴族たちの視線が再び私に集中した。
「伝説で女神様と邪神の争いを神力によりおさめたとされる方。相手が邪神なら我々の希望はこの方しかいない……」
静まり返った会場で、皆が私を見つめる。
「レイナ・カガミハラ、伝説の聖女様だ」
ウ、ウオオオォォーー!!!!
会場は熱狂の渦と化した。
宿でルートリアから今回のミッションを聞いたとき、演説慣れしている人だと感じたけどそれは正しかった。
さっきルートリアが宣言した通り、貴族たちは完璧に扇動されたのだ。
祀り上げられた孤児院出身の平民女を、伝説の聖女様だと信じ込んで……。
会場全体が興奮する異常事態の中、私はぼそりと呟いた。
「どうすんのこれ」
次回、「わたしの魔力量」お楽しみに!




