20話 ルビカンテにさせるの!?
ルートリアの横に私が並び、その少し後ろに控えるように執事が並んだ。
貴族たちからの視線が凄いので私は正面を向いたまま、口を片手で隠してごく小さな声で彼に不満を言う。
「ちょっと! いきなり聖女だなんて……。これ、後で違うってバレたらどうするのよ?」
「レイナだと紹介して勇者がいきり立っても困るだろう?」
そんなこと言ったって、もうすでに勇者が睨んできてるのよ?
「おいおい、聖女なんて存在する訳無いだろう。おとぎ話でも始めるつもりか?」
「勇者デグラス殿! 聖女様に失礼を働かないように。我々王族は我が国に降臨された聖女様に対して、家族の様に大切に接している!」
大声で文句をつけた勇者に対して、ルートリアが大声で返した。
そうね。みんな優しくて距離が近いのは事実だわ。
でも、他の人が聞くと私が特別待遇を受けていると思うわよ。
勇者とルートリアのやり取りを皮切りに、会場内がざわつき始めた。
「本当に聖女様なんだろうか?」
「王族が大切にするならそうなんじゃないか?」
「普通の令嬢にも見えるわ。綺麗とは思うけど」
「あの方、先程アルトラン様がエスコートされていた方ですわよね」
「執事連れを許された特別な存在とは思っていたが、なるほどそういう事か」
様子を見ていたハリオス侯爵が右手を上げて、貴族たちの注意を引き付ける。
「まあまあ皆さま。真意のほどは魔力量の測定で分かるじゃないですか。いくらおとぎ話とはいえ聖女様を語るのは大問題ですからな。まさか偽物ではありますまい、のうアルトラン様?」
一見好好爺のように見えるハリオス侯爵は、片眉を上げてルートリアを小ばかにしたように挑発した。
レグハルツ将軍が続きを引き継いで喋り出す。
「せっかくグリドル教長を招いている。我が勇者デグラスの魔力量を測る前に、まず最初は彼の仲間であり魔導士団長をも上回る魔力量の我が軍最強魔導士、ヴィネグレッタの魔力量を計測する」
にやりと笑った女魔導士ヴィネグレッタは、一歩前に出ると小声でつぶやいた。
「見世物になるのは気が進まなかったけどぉ、割と気分のいい紹介だわ。今日は美味しい酒が飲めそう」
グリドル教長が手を挙げると脇から神官2人が、大きな玉がはめ込まれたタンスのような特殊な家具を運んできた。
貴族たちによく見えるように、女魔導士の横に置かれた家具は、どうやら私が前に壊した診断宝珠の大型版のようだ。
「ちょっとぉ、この診断宝珠デカくない?」
ヴィネグレッタが馴れ馴れしくグリドル教長に話し掛けている。
「なぜかアルトラン様から、必ず集団儀式用の診断宝珠を用意するようにと依頼されたのじゃ。宝珠の上の板の部分に魔力数値が表示されるぞ」
「フーン。別にいいけどぉ。じゃあさっさとやるから」
彼女が診断宝珠のはみ出て露出した部分に手を当てて魔力を流すと、上の板の部分に光り輝く数字が大きく表示される。
46XX
47XX
485X
4863
数字は『4863』で表示が停止する。
そして宝珠の色が赤く変化した。
ワアアァァーー!!
静かに見守っていた貴族たちから歓声が沸いた!
貴族たちも子供の頃に魔力診断をしているのだ。
当然この数字の大きさを理解できる。
「ハイハイ、騒がない騒がない」
このくらい大したことないから騒ぐなと言うヴィネグレッタだけど、口角を上げて胸を張るドヤぶりをみせた。
「レイナ、ちょっといいか?」
顔を寄せたルートリアが小声で囁く。
「何?」
「魅せ方としてレイナは最後の方がいい」
「まあ、この後私がやったら勇者はやらずに逃げるわね」
「そこで次は……」
そう言うと私の後ろで神器を持って立つ執事に目線を動かす。
「ルビカンテにさせるの!?」
「順番にやると考えるなら」
「ファルが言うに彼は戦闘タイプで、魔力量は大した事ないそうよ」
「それでも悪魔だ。4863は超えるだろう」
正直、人の事を小ばかにするあの魔導士にも嫌な思いをさせられた。
ここはルビカンテにお仕置きをしてもらうのもいいかもしれない。
私がルビカンテに事情を説明している間、ルートリアが声を張る。
「では次はこちらの測定をする。だが、折角聖女様の魔力量を測るのだ、楽しみは最後にしよう。まずは聖女様が頼りにしている執事の実力をみせてもらおう」
「あはは! バッカじゃないのぉ? ただの執事が私に敵う訳ないじゃない!」
「おもしれぇ余興だな! いいじゃねぇか、どうせヴィーに敵う奴なんて俺だけなんだからよ」
診断宝珠の横に移動したルビカンテが片手に神器のバッグを持ったまま、もう片方の手で宝珠に触れる。
彼の魔力で診断宝珠が輝き、長い爪が刃物のようにキラリと光った。
板の部分に数字が光って表示される。
80XX
81XX
818X
8192
数字は『8192』で表示が停止する。
そして宝珠の色が赤黒く変化した。
少しの間沈黙が続き、そして……
ウ、ウオオォォーー!!
歓声が爆発した!
貴族たちは信じられないものを見たと大騒ぎである。
「えっ、ええっー!? 私の上はデグラスしかいないんじゃないのぉ!?」
「おいおいマジかよ。信じられねぇ」
「な、何とした事か。将軍! 話が違うではないか!」
「こ、こんな事が……。い、いや問題ありません侯爵。今のは余興の余興。あれならデグラスの方が上です」
向こうの陣営はルビカンテの実力に驚いたようだけど、勇者が控えているのでまだ余裕を失ってないみたい。
「ねえ、ルー……アルトラン様。最後に赤く光るのは何? 測定終わりって事?」
「色が変わるのは測定終了と魔力属性を表している。赤は炎で黒は闇だ」
てことは女魔導士が炎属性で、ルビカンテが炎と闇の二重属性なのか。
ふと敵側を見ると、向こうは向こうで勇者と女魔導士が会話している。
「……おい、なんか変だぜ。あれだけの魔力を持つ奴を俺が知らねぇなんておかしい。それにあの執事の爪はなんなんだよ。長すぎねぇか?」
「私も爪長いけどぉ? それよりもあの女よぉ。同性は敵だから私には分かる。彼女とはどっかで会った気がするわ」
「そうか? まあどうせ俺が勝ちゃ仕舞いだが……一応、念には念を入れとくか」
まずいわ。
女性の感は侮れないわね。
これ以上勘繰られないように、私はそっと顔をそむけた。
ハリオス侯爵が落ち着きを取り戻したのか、さっきまでの余裕そうな口ぶりで話し出す。
「ま、まあ前座はさておく。次は正真正銘、とっておきの真打、勇者デグラスの力をお見せする!」
紹介で前に出た勇者に将軍が近寄る。
「貴公! 大丈夫なんだろうな!? 執事であれだけの魔力。いくら偽聖女でも執事より魔力が多いのではないか?」
「ハッ、平気だよ。禿のおっさんが喋ってる間に魔力増強ポーションを飲んだ。今なら倍だ。負ける訳がねぇ」
奴は「経費だからな!」と将軍に言った後、診断宝珠の横に立った。
横にいる私たちを気にせず堂々とドーピングを告白するなんて!
……まあ、いいけどね。
別にルールなんてある訳じゃないし。
ルートリアも聞き流してるし。
ふーん、倍なんだぁ。
へー、やばいやばい。
勇者はじっとルビカンテを観察した後、ルートリアと私の顔色を見ている。
「チッ、もう一本いっとくか」
凄い速さで後ろを向いた奴は、何かを不味そうに一気飲みすると診断宝珠に向き直った。
「へっ、へっ、へっ。3倍だ、覚悟しやがれ!」
3倍なんだ。
そうなんだぁ。
あー、まずいまずい。
これ以上不味い栄養ドリンクを飲まれても話が進まないので、口に両手を当てて驚くポーズを取ってあげた。
次回、「貴族たちは完璧に扇動された」お楽しみに!
しばらく毎週火曜日更新になります。




