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19話 伝説の聖女だと祀り上げられて、嵌められた

 ルートリアの手を握って軽く引っ張り、彼に立ってもらう。


 昨日プレシオが告白してくれたお陰で、少しはこんな状況でも言葉が出て来るようになった。

 そうよ。

 いつまでも言葉に詰まって固まっている私じゃないんだから!

 まあ、顔はたぶん真っ赤だと思うけど。


「あ、ありがとう、ルートリア。でも平民の私に王族のあなたの気持ちはもったいないわ。それに私があなたと知り合ったのはほんの半月前だし……。昔から私を見てくれたあなたと違ってまだ心の整理が出来て無いの。このミッションが終わるまでに気持ちを整理するから、続きはその後でもいいかな」


「分かった。まずは目の前の事を片付けよう。だが、もしレイナが身分の事を気にしているならそれは無用だ。私はレイナ自身をみている。別に身分と結婚する訳ではないからな」


 身分制度の頂点に位置する王族が、身分を気にしなくてどうするのかしら。

 それに、貴族たちを差し置いて平民が王族と婚姻したら、不満を持つ貴族も絶対に出て来るはず。

 貴族たちを納得させるには、例えば私が実は聖女だとか、そういう身分を超える特別な存在でなくては。


 そこまで考えた私は、少し前にルートリアが言った言葉が気になった。


「ねえ、さっき言った伝説の聖女って何?」


「ああ、この大陸には聖女伝説があるんだ。聖女様は女神様と邪神の中間の存在で、その神力により無血で女神様と邪神の争いをおさめたという。あくまでただの伝説で実在した事はないらしいが……。だが私には、魔道具と交渉で平和を実現するレイナが、まるで聖女様のように見えるからそう例えたんだ」


「そっか、ただの伝説か」


 まあ異世界だからって聖女までいる訳じゃないもんね。


 外の空気を吸って元気を取り戻した私は、ルートリアと執事ルビカンテと一緒に会場内に戻った。




 ああ、プレシオとルートリアからプロポーズされてしまった。

 ちゃんと恋人期間も過ごしてないのに話が急すぎるのよ。

 でも、プレシオへの返事だっていつまでも待たせる訳にはいかない。

 この婚約パーティの件が終わったら、自分の気持ちを整理してしっかりと2人のプロポーズに答えを出さなくては。




 ルートリアの隣の席に座ってさっきの出来事を思い出していると、彼の声で思考の深みから呼び戻された。


「レイナ。いよいよ魔力量診断が始まる。勇者デグラスが入場した」


 会場の正面ドアに人だかりができてざわざわ騒がしくなっている。

 その人垣をかき分けてこちらに来る2人組いた。


 勇者デグラスだ!

 奴はいつもの冒険者装備ではなく、この国の軍服を着ている。

 肩には白の礼章が付いているから上位階級扱いのようね。


 そしてもう一人は、軍服には不似合いな長い髪で勇者より随分と小柄だ。

 歩き方にがさつさが無くて軍人のようには見えない。

 よく見ると奴の仲間、あの女魔導士のようだわ。


「何よもう! 綺麗なドレスが着れると思ってパーティ会場の方を選んだのに軍服じゃないのよ」

「まあ、そういうなって。女が凛々しい恰好をするのも悪くはないぜ」


 相変わらず奴らには遠慮という発想が無いのか、大声で喋りながらこちらまで歩いてくると、壇を上がりヘラルド王の前で2人とも跪いた。


「昨日ぶりです、陛下」

「ああ、今日はハリオス侯爵の余興に参加してくれるとの事、楽しみにしておるぞ」


 奴はカストラル王太子や他の王族を流し見た後、第四王子アルセロール殿下とその婚約者ジェミニ侯爵令嬢に対して「おめでとうございます」とだけ言った。

 最後にルートリアを見てからヘラっと笑った。


「あれ? 第三王子様も婚約者連れなんだ。へえ、やっぱ王族は美人をゲットできるんだな」


 私を品定めして感想を言うと、そのまま魔導士の女と壇を下りて行った。


「レイナ。勇者デグラスが君を美人と評したな。あれは多分レイナだと気付いてないぞ」


 なぜかルートリアが嬉しそうに声を弾ませた。


 あんなの王族への気遣いよ。

 それに、軽蔑するほど嫌いな相手から褒められても気分が悪いだけだわ。

 ……でもこれはこれで都合がいいかも。


「ねえ。奴には私がレイナだとバラさずに魔力量の勝負をしたいんだけどいいかしら?」

「うむ。確かに奴と揉めたのは昨日だから、レイナであることを隠した方が場を混乱させずにすむ。分かった。私から君を上手く紹介する」


 壇下に降りた勇者デグラスは、そこで立ち止まった。

 すぐにハリオス侯爵とレグハルツ将軍が法衣を着たおじいさんを連れて合流すると、王族たちに背を向けて大勢の貴族たちに向き合う。


「皆様! 今日のアルセロール殿下ご婚約のお話、真にめでたく嬉しく思っております。このめでたいパーティを盛り上げるべく、我が国が庇護する勇者の圧倒的強さをお見せしたいと思います」


 大声で貴族の注目を集めたハリオス侯爵は、勇者に一歩前へ出るように促す。


「私はレグハルツ将軍の配下で、王国軍の特別英雄称号を受けたデグラスと申します。今日は王都教会グリドル教長の協力を得て、私どもの圧倒的魔力量を皆様にご覧いただき、迫りくる魔族軍との闘争は勝ち戦になる事を確信いただきたいのです」


 勇者デグラスは、信じられない事にかなりまともな口上を述べた。

 昨日の王族への態度と比べてまるで別人のようだ。

 レグハルツ将軍が頷いているところをみると、勇者は彼らから相当甘い汁を吸っていて、その見返りで侯爵や将軍の要望に応えているに違いないと思う。


「儂は王都協会の教長、グリドルじゃ。今日は魔力量の診断を王城でしたいと要請があってここに参ったんじゃが……」


 貴族たちに向けて話し始めたグリドル教長は、語尾を濁して壇上の王族に目をやると、ルートリアに視線を止めて信じられない事を言った。

  



「勇者様を診断するだけでなく、伝説の聖女様も診断するというのは本当なのですかな?」




 会場が静まり返った。


「せ、聖女だと!?」


 勇者が高い声を出して反応した。

 隣の女魔導士も「はあぁ?」と声を出して眉を寄せる。


 ルートリアがすっと立ち上がった。


「本当だ。教長、わざわざ登城いただき手間を掛けさせた。これから我が国に降臨された、伝説の聖女様の力を皆に見てもらいたいと思う」


 声を張って会場に呼び掛けたルートリアは、こちらを向くと私に小声で言った。


「私が下りた後で、ゆっくりと立ち上がりゆっくりと歩いて来て欲しい」


 そしてさっさと壇を降りてグリドル教長の横に並んだ。


 私はいぶかしく思いながらも、とりあえず言われた通りにゆっくりと立ち上がると、ゆっくりと階段まで歩く。


 私へ向けられた貴族たちの視線が凄かった。


 およそ参集した数百人全ての目が、ゆっくりと歩く私の姿を追っていた。

 歩いている姿の一挙手一投足に注目された。


 その間誰も口を開くことはなく、巨大な会場が無音で包まれた。


 異様な雰囲気の中、やっとルートリアの元にたどり着いた私は、ようやく彼に伝説の聖女だと祀り上げられて、嵌められたのだと気がついた。


次回、「ルビカンテにさせるの!?」お楽しみに!

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