18話 王子様が私を娶るって言ってる
ここからが大変だった。
続々と詰め掛けた貴族たちが王様から順番に挨拶を始めたからだ。
主役である第四王子アルセロール殿下への挨拶は、第三王子であるルートリアの後になる。
つまり貴族たちがルートリアへ挨拶に来るのだけど、私も横に立って挨拶をする羽目になったのだ。
その度に「こちらは?」みたいな感じになって、ルートリアが「レイナ・カガミハラ様、私の客だ。時が来れば正式に紹介する」と意味深な返しをするので、貴族たちがハハーンと間違った解釈をして、丁寧に「どうぞよろしく」と挨拶された。
おかげで何度も何度もカーテシーをして、随分上手くできるようになった。
だけど困ったことに、主役のジェミニ侯爵令嬢よりも私の方が、貴族たちの反応が大きいせいで彼女の機嫌が悪くなった。
挨拶地獄の合間に、彼女が刺すような視線を向けてきて、すぐにでも逃げ出したかったけど、ルートリアが私を気遣ってくれたので何とか最後の1人まで挨拶をこなした。
「ごめんね。ちょっと外の風に当たりたいの」
「向こうにバルコニーがあるから一緒に行こう」
ルートリアと執事と3人でバルコニーへ出た。
周囲に誰もいなくなり、ようやくストレスから解放されると、軽くルートリアを睨む。
「もう! こんなに大変だと思わなかったわ」
「お疲れ様。私も挨拶は疲れるよ」
「それに王妃様よ! あんな感じだなんて聞いてないわよ?」
「いや、貴族女性はだいたいあんな感じでは。まあ、確かに母上は少しキツイ方か」
私はふうと息を吐くと、これ以上ルートリアを困らせても可哀そうなので責めるのを止めた。
「……それで、ハリオス侯爵とレグハルツ将軍の追求はどうするの?」
気を取り直してミッションの話を振ると彼も真面目な表情になる。
「婚約パーティでいきなり彼らを断罪するのは難しい。だけどちょうどいいタイミングがある」
「ちょうどいいタイミング?」
「魔力量の余興を我々が提案したら、勇者の魔力量を測るために自分たちで仕切ると言い出したんだ。魔力量の余興で勇者の有能さを自ら煽りたいんだろう。だから彼らが仕切り出したらタイミングをみて悪事を暴露しようと思う」
つまりだ。
私が勇者と魔力量診断をして注目を集めたところで、貴族たちに軍部の実態を暴露して彼らを失脚させ、ついでに私たちの方に貴族たちから支持を取り付けようというのだ。
「そんなにうまく行くかしら……」
緻密な作戦を期待していたのに、思ったより相手の動きに合わせた不確定な対応だ。
「ディベート勝負になるなら、ある程度相手の反論も予測できるだろうし、何通りも対応策を考えた方がいいわよ?」
「ディベート? ああ討論か。流石、昔交渉で鳴らしただけあるな。だが大丈夫だ。レイナが魔力量勝負で活躍すれば必ずチャンスはこちらに来る」
そんな救国の英雄みたいに思わないで欲しい。
私には口喧嘩以外に勇者に適うようなスキルも経験も無いんだから。
ただ神器が使えて魔力量が多いだけの平民女よ。
あとちょっとだけ力が強いかな?
バルコニーで夕陽を見ながらこれからの作戦に思いを巡らせていると、急に真横にいる王子様が私の名前を呼んだ。
「レイナ」
「な、何?」
彼はこちらを見ずに夕日の方を見ていた。
横顔は夕日に照らされて綺麗な顔立ちが、いつもより凛々しく見える。
「実はずっとレイナに恋焦がれていた」
え? え? え~っ!?
急な告白にたじろいだけど、彼が何か続けて言おうとしているのでそのまま黙って次の言葉を待った。
「レイナが城で父上に謁見するようになって、偶然プレシオと一緒に君を見かけた」
「う、うん」
「そのときこんな子供がいるのかと衝撃を受けた。10歳にも満たない、自分と同年代の少女が先頭に立って父上に謁見し、来るたびに世界平和の話をしているのだ。この国はもとよりあらゆる種族を救いたいと。私には信じられなかった。その歳の私など、学問の教師から逃げ回り、剣術の稽古といってプレシオと棒切れを振って城を走り回っていたというのに」
だから私のことを昔から知っている様子だったのね。
それなら私が2人のことを知らなくても仕方ないのか。
「それからレイナが城に来るたびに、一体どんな話をしているのか気になった。陰から様子を見たり、侍女や衛兵に話の内容を確認したりした。当時の私にはレイナがどうやってその理想を実現するか、まったく分からなかった」
「あの頃、私の話をまともに聞いてくれたのはヘラルド王だけだったわ。その王様からも、理想は大切だけど会話だけで実現を目指すのは現実的ではないと言われてた」
「ああ、我が国は他国や異種族からの侵略を武力で排除してきた歴史がある。外交だけでは限界があったからだ。だから、初めから外交にはまず武力ありきと考えるのが当然だった」
「そうね。カストラル王太子なんか、私の事をバカ扱いしてたもの」
「だが、レイナは次々と異種族間で国交を結び平和を実現していった」
国境付近に沈む夕日を眺めていたルートリアは、横にいる私の方を見た。
「貴女は私に無いものを持っている」
「ルートリアに無いもの?」
「そうだ。私はこの国の王族としてあるべき姿を目指し、必死に国を守るための素養を身に付けようとした。それが歴代の王族の歩んだ道だ。だが、レイナの姿を見て気付いたのだ」
私は息をのんだ。
彼が今から言おうとしていることは、長い戦いの歴史をもつこの国にあって、その王族がようやくたどり着いた結論なのだから。
「武力で得られる平和はほんの束の間。決して本当の意味での平和ではない。真の国の安寧とは決して力で押さえつけるのではなく、相手の心を動かして初めて得られるものであると」
「うん!」
「父上も兄上もそのことに気付いておられた。もちろんレイナのお陰だ」
「え? わ、私の?」
「そうだ。そして私は決めたのだ」
彼の決意を持ったその顔はいつになく真剣で、そして……かっこよかった。
「レイナ。伝説の聖女のように素敵な貴女を私は娶る!」
へ?
娶るって?
「私は貴女に惚れた。そして心から尊敬している。生涯を共にする相手はレイナしか考えられない」
こ、こ、ここここれって……。
「プロ……ポーズ……」
事態に付いていけず動揺しまくる私の前に王子様はひざをつくと、私の手を取って手の甲にキスをしたのだ。
いつかの宿でのプロポーズもどきではない。
今回のは明らかに本物のプロポーズ。
それも王子様からのプロポーズだ。
いつもの様に恥ずかしさで体が固まったけど、不思議と今回は思考が停止せずに頭だけ冷静なままだった。
えっと?
これってどうしたらいいの?
やっぱり返事するの?
そりゃあルートリアのことは正直いいなあとは思ってたけど、それは友達以上恋人未満というか……、娶られるとかそういう次元じゃなくて……。
で、でも、いいなあと思ってる事は確かだから、それならもう結婚してもいいのかしら。
いや、だけど孤児院出身の平民女よ?
王族の仲間入りなんて許される訳ないじゃない!
後できっと酷い目に合うわ。
例えば貴族たちに暴動が起きて不敬だって殺されちゃうかもしれない。
あれ? でも王族みんなが味方なら大丈夫なんじゃない?
当然私が平民女だって承知な訳だし。
あのやばそうな王妃だって、信じられないけど私の事を気に入ってくれたって話だし。
そもそも王子様が私を娶るって言ってるのに、平民女の意見なんて通る訳ないじゃないの!
これは決定事項なのよ。
断る権利の無い決定事項なのよ。
昨日、プレシオに告白されたときとは違い、一瞬の内に私の脳は高速で思考を廻らして、そして一つの結論に達した。
「じ、実はね……、別の人からも婚姻を申し込まれているの。でも今は国の命運を左右する大事なミッションの最中……。ねえ、これが終わってから話しの続きをするのでもいいかな」
急な告白でどうしていいか分からなくなった私は、目の前で跪くルートリアに立ち上がってもらうため、とりあえず問題を先送りにした。
次回、「伝説の聖女だと祀り上げられて、嵌められた」お楽しみに!




