22話 「私スゲェー!!」とか全然したくないのにっ!
眼を見開いたルートリアがプレシオの方へ振り向く。
「……驚いたな……。まさか測定不能とは……」
「ファルの話で万単位の魔力量だとは考えていたけどさ、まさか10万を超えてくるとはね……」
皆は黙って私を見たまま、2人の話に頷いている。
私だって驚いているわよ。
だってプレシオが1600よね。
ルートリアが2100くらいなんでしょ?
だけど、私の魔力量が10万以上で、ルートリア50人に相当するって分かっても、なんだかピンとこないのよね。
単純に数値が異常だという事は頭で理解できるのだけど……、これって魔法が使えるようになれば実感できるようになるのかしら。
「うむ。……しかし困ったな。これではレイナの魔法属性が分からない」
ここに来るまでにルートリアに教えて貰っていたのだけど、粉々になってしまったこの青い玉は魔力量を数値で表した後、玉の色が変化してその色で魔力属性を判別する事ができるのだそうだ。
「な、なあシスターテルマ、ここにはさ、替わりの診断法具はないのかな?」
少し声のトーンを落としたプレシオが控えめに尋ねた。
シスターテルマは診断法具が元々壊れていたと思っているみたいだけど、さっきの様子だと私が壊した可能性もあるのよね……。
プレシオの問いにシスターテルマは無言で首を横に振る。
「うーん、後は王都の教会で診断してもらうかだけどさ、目的のパーティまでにちょっと時間が無いよね。パーティの後にする?」
「いや、貴族たちを味方に付けるためにはパーティの後では遅い。何とかして、能力の高いレイナがこちら側に付いていると印象付けたい」
少し考えたルートリアが、シスターテルマの目線の高さに合わせて屈むと、優し気に微笑んだ。
「すまないが、王都教会のグリドル教長に魔力診断の事で手紙を書きたい。ちゃんと寄付はさせて貰うから書斎に案内して貰えないだろうか」
プレシオが差し出す金貨1枚を無言で受け取ったシスターテルマは、登場したときとは別人のように素直にルートリアを書斎に連れて行った。
なんだかシスターテルマに悪い事をしたような気がする。
急に来て異常な魔力量の数値を見せて混乱させてしまったし、診断法具と言われる青い玉は壊してしまったし……。
「大丈夫だよレイナ。あれが壊れた事でシスターテルマが責められないようにさ、ルートリアが事情を手紙に書いてると思うよ。たださ、後で少し騒ぎが大きくなるかもしれない……」
「やっぱり壊した事は問題なの?」
「いや、問題というよりは事件だな……」
それっきりプレシオは黙って何か考え込んでしまった。
半時程してルートリアが1人で戻って来た。
彼女は仕事が残っているので見送りはしないそうだ。
「サラミ、スモーク。パーティの仕事として頼みがある。今すぐ王都へ出発して、この手紙を教会のグリドル教長へ渡して欲しい。それが終わったら王城へ行って門番にこっちの手紙を渡してくれないか?」
サラミとスモークは顔を見合わせた。
「まるで使い走りね。それに一体何で別行動な訳?」
「ファル様と一緒に行くんじゃだめなのか?」
プレシオがルートリアの真意を理解したのか、代わりに説明を始める。
「すまないねサラミ、スモーク。3日後に王城で第四王子婚約のパーティが開催されるんだけどさ、その場で貴族たちを俺らの味方に付けたいと考えているんだ」
「ちょっと待ってプレシオさん! 3日後の第四王子様の婚約パーティって、勇者様……騒乱の元凶である勇者が出席するって言ってたわ! そこにレイナを登場させて貴族に支援を募るから、それでレイナを連れて来いっていう説明をされたのよ」
なんですって!?
あの勇者もパーティに出てくるの!?
私の方を見たルートリアが微笑んだ。
「勇者デグラスには悪いが、レイナはこちら側の協力者として私がエスコートして貴族たちに紹介するつもりだ」
それを聞いたプレシオがルートリアに鋭い視線を送りながら説明を補足する。
「いや! それはその場限りの演出だよ! 今回大事なのはレイナを我々の協力者として貴族たちに紹介する事なんだ。魔族との戦争が噂される今の情勢で、邪神にも匹敵するレイナの魔力量を貴族たちに見せ付けたい」
「え? 私の魔力量を見せつけるの? それって一体どうやるの?」
するとプレシオは私にウインクしてきた。
「つまり婚約パーティの会場でグリドル教長にレイナの魔力を診断して貰ってさ、貴族たちの度肝を抜いて俺たちの派閥を増やそうということさ!」
えっ、ええっっーー!!
神器で王太子のカストラルを味方に付けるだけじゃないの!?
パーティ会場で魔力量の測定なんかしたら、私、超目立っちゃうよー!!
「あ、あの、私はあんまり目立ちたくないんだけど……。魔道具で仕事をするだけだと思ってたのに……」
皆の前でアピールして「私スゲェー!!」とか全然したくないのにっ!
「確かに緊張すると思うが安心して欲しい。私がちゃんとフォローする」
ルートリアが私を見て頷いているけど、人前で緊張するとかじゃなくて目立ちたくないんだって……。
「最初に話していた内容にお願いが増えてすまないと思っている。だが、第四王子の婚約パーティに勇者が出てくるとなると、今の軍部に勇者が深く関係していると考えられる。貴族たちを我々へ振り向かせるには、ただ王太子を味方にするだけでは弱いだろう」
あの能力だけは高い勇者が、猫を被り腹黒さを隠してカリスマを総動員すれば、確かに貴族たちを味方に付けるのは容易なんだろう。
そうやって勇者は国の中枢に入り込んで甘い汁を吸い、自作自演の戦争を起こして罪のない人たちを死の危険に巻き込もうとしている……。
目立つのは嫌だけど……、でも……、神器を持つ私が罪のない人たちを守らなくて、一体誰が皆を守るのか……。
2年前までは、異種族ばかりのこの世界で不可能と言われた平和を、神器の力で実現できていた。
争いの無い世で皆が幸せそうに笑う姿は、まさに私が望んだ優しい時間の流れる暮らしだった。
でも、あの勇者の所為で異種族同士の友好は失われ、今まさに戦争が起ころうとしている。
軍に強く関わって人々を不幸にする勇者を、このまま好き勝手させておく訳にはいかない。
2年前の私と違うんだ!
今は、頼りになる仲間がいる。
きっと大丈夫、私だけだった2年前とは違う。
私は勇者に立ち向かい、過去の自分から変わるんだ!!
「分かったわ。きっと貴族たちが勇者を見限るように、今の流れを変えてみせる」
プレシオもルートリアも、私が相応の覚悟の元に決意したのが分かったのか、私の方を見て大きく頷いてくれた。
私の事を見ていたサラミはすぐプレシオに視線を戻す。
「つまり、その第四王子様の婚約パーティで魔力診断をするために、王都教会のグリドル教長を呼びたいんですね? それで1日も早く要請を伝える必要があると……」
「そうなんだ。俺たちの方はそのパーティで必要な物を受け取るためにさ、今から行かなきゃいけない場所があるんだ」
そう言うと彼女らに経費として金貨を1枚ずつ渡した。
「任せてプレシオさん! 王都で合流したら作戦の詳細を教えてくださいねっ」
「まあ、経費が金貨1枚なら不満はないけど……」
サラミはプレシオの説明で納得したようだけど、スモークは言葉とは裏腹に不満があるようだ。
スモークの様子を見たファルが、しょうがないわねぇという感じで腰に手を当てた。
「あなた、王都の女神教会では自分が悪魔教徒だって事をちゃんと隠しなさいよ? これでも信徒のあなたの事が心配なんだからねっ」
「ファ、ファル様ぁ!!」
にへら顔になったスモークが少し頬を赤らめて頷いた。
流石、ファルだわ。
信徒の掌握はお手のものね!
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