21話 本気で魔力を込めるのってどんな感じ?
別に彼女らにダーティな仕事を任せるつもりはないので、普通に冒険者登録をお願いしたけど彼女たちに断られた。
理由は、冒険者登録をしても冒険者ギルドの依頼を受けて報酬を貰ったり、狩猟物を買い取りして貰えるなどの便宜が得られるだけで、大したメリットが無いからだそうだ。
彼女らの場合は登録の際に、魔道具で真実を丸裸にされるデメリットの方が大きいのだろう。
という事で、ファルと同じで冒険者登録をしないパーティメンバーという位置付けになった。
「遅いわ!」
食事をせずにジュースだけ飲んでいたファルが、ベクタードレインの冒険者登録が遅い事に不満を言った。
「ダメよファル。受付嬢を睨んじゃ」
ギルドマスター直々にベクタードレインを魔道具で身辺調査しているのだけど、まだ長引いているようね。
それが終わったら中庭に移動して能力測定があるんだけど、まだ中庭に続く通路を移動する姿を見ていない。
「ちょっと彼の様子をさ、見に行こうか」
プレシオの誘いを受けて私とルートリアの3人でさっきの会議室へ移動する。
ギルドマスターが仕事中の部屋へお邪魔するので、一応冒険者登録をしている私たち3人で向かう。
扉をノックすると「ど、どうぞ……」とギルドマスターの弱弱しい返事があった。
ど、どうしたの?
何かあったの?
急いで会議室の扉を開けると信じられない光景が目に飛び込んできた。
あの老健で眼光鋭いギルドマスターが体を小さくしてすすり泣き、右腕の袖で涙をぬぐっている。
隣の助手の女性は目の周りを真っ赤に腫らして大泣きしていた。
それをベクタードレインが必死に慰めている。
「ど、どうしたのよ!? 一体、何があったの!?」
ベクタードレインが2人を泣かせたようなので慌てて事情を聞くと、どうやらベクタードレインの過去が涙なしでは聞けない内容らしく、真実を明らかにする魔道具で彼の内面を見てしまったギルドマスターと助手の涙腺が崩壊したそうだ。
「ギルドマスター、すまないが我々は急いでいる。今日中に教会で魔力診断を受けたい。問題が無いなら能力測定に移ってくれないか」
ギルドマスターはルートリアの言葉に何回か頷くと魔道具を仕舞う様に助手に指示して、ベクタードレインに中庭へ移動するように鼻声で促した。
歴戦の強者であっただろうギルドマスターをこんなに泣かせるなんて、ベクタードレインは一体どんな過去を持っているのかしら。
あれから半時程でようやく能力測定が終了して冒険者登録が完了したので、やっと冒険者ギルドの建物を出る事が出来た。
ぞろぞろと7人で歩いて教会に向かう。
ベクタードレインは昼食がまだだけど、通りがかりの露店で売っている串焼きで我慢してもらった。
サラミがプレシオの隣を歩きながら、長身の彼を見上げた。
「ねぇプレシオさん、何で今更教会で魔力診断なんてするの?」
「レイナは魔道具士として魔道具に魔力を溜めた事しかなくてさ、魔法の適性や魔力量を測った事が無いんだ。だからさ、今から試すんだよ」
どうも魔力診断で魔法の適性や魔力量を測るのは、本来幼少の頃に済ませるらしい。
ルートリアと並んで先頭をしばらく歩くと、ほどなくして教会に到着したので正面の扉を開ける。
前世の記憶にあるような西洋風の教会ではあるが、大広間に椅子や机はなく赤い絨毯が敷き詰められている。
大広間の周囲の壁は白っぽい石材が使われていて全体的に白い部屋で、床に敷かれた赤い絨毯とのコントラストがとてもきれいだ。
真正面の壁には、白い石材を使用した女神様の彫像と、その両脇には天使たちの彫像が並んでいる。
広間には誰もおらず、プレシオが私たちへここで待つように言うと、左側の壁にある扉を開けて関係者を呼びに行った。
「へえ! こっちはこっちでそれなりなのねぇ」
物珍しそうにあたりを見回す悪魔少女のファルは、どうやら人族の教会に来るのが初めてのようね。
そういう私も別件で王都の教会に1回行った事があるだけで、ほとんど何も知らないんだけど。
「今回は特別ですからね」
左側の壁にある扉が開いてプレシオが出てくると、後ろから白い装束を着た女性が箱を抱えて登場した。
「ご存じと思いますが、魔力診断は本来であれば春の最初の1の日と秋の最初の1の日に行われます。今回は特別ですからね!」
入室したときと同様「今回は特別」と感じ悪い口調で繰り返していた。
プレシオが頼み込んでくれたのだろう。
こんなキツイ感じの女性に頭を下げさせてしまいプレシオに悪い事をした……。
教会の女性はシスターテルマと名乗った後、箱を空けて中にあるリンゴくらいの大きさの水晶玉の様な青い石を見せた。
「ねえプレシオ。これってどうなったらいいの?」
「あの青い石を手の平に乗せて下から支えるんだ。魔力を込めると数字が表示されるからさ、最大出力になるまで魔力の放出を高めていって、数字の上昇が高止まりした値をみるんだよ。魔力出力と魔力量は比例するからさ、今の魔力出力を測る事で総魔力量が分かる仕組みなんだ」
へえ! 面白い診断ね!
魔法的な原理なんだろうけど、魔力量が数字で分かるところはハイテク機器みたいだわ。
「2人はどれくらいの数字なの?」
ルートリアは魔法剣を使うときに魔力を使っているのを見たけど、プレシオは魔力を使っているところを見た事がない。
「身体補助系なんだけどさ、俺もちょっと魔法を使えるんだよ。まあ、数値は1600くらいかな」
「私は2100ぐらいだ」
プレシオとルートリアが楽しそうに教えてくれた。
なるほど。
そうすると、ルートリアの魔力量の10倍と言っていたファルの魔力量は21000くらいって事かな?
私たちの会話が終わるのを待っていたせいか、シスターテルマが少しイラついた様子だ。
「で? どなたが魔力診断をされるのでしょうか?」
「わ、私です」
おずおずと彼女の前に出ると私の事をちらりと見たシスターテルマは、私に両手の平を上に向けさせてからリンゴぐらい大きさの青い玉をのせた。
魔力を込めていいのかしら?
ルートリアの方を見ると頷いている。
青い玉を見るために皆が私を取り囲んだ。
一カ所に密集したのでシスターテルマが少し鬱陶しそうにしている。
「さぁ! 早く魔力を込めてください!」
青い玉を見つめた彼女はぶっきらぼうに指示した。
ほんの少し、僅かずつ魔力を込めていくと青い玉に数字が表れた。
65XX
66XX
67XX
68XX
69XX
百の位がもの凄いスピードで増えていく。
十の位と一の位は変化が早すぎて数字が読めない。
「あ、あれ? 変ね……。数値が大きすぎるわ……」
数値を見たシスターテルマが動揺している。
周りで見ている皆から歓声が上がった。
「わお! 想定してたけどさ、やはりレイナは凄いね!」
「もう既に王国最高魔導士の魔力量を上回っている!」
「流石レイナさんですね。私もアンデッド操作で魔力量に自信がありましたが、足元にも及びません」
「ちょっと! レイナってこんな凄いの!? 指令書には書いてなかったわよ!」
「ま、まさか、ファ、ファル様ほどではないよね!?」
皆が青い玉に現れる数字を見て一様に驚いていた。
そんな中、ファルだけがちょっと白けた表情で私を見ると冷たく言った。
「ねえレイナ。……あなた加減してるでしょ?」
ファルの言葉を聞いた皆が、互いに顔を見合わせてから私に注目する。
ルートリアが喜びと驚きを合わせたような複雑な表情をしてから、肩を上下させて大きく息を吐いた後に静かに言った。
「加減はするな。本気でだ」
本気で魔力を込めるのってどんな感じ?
私はルビカンテに襲撃されたときの事を思い出して、神器に必死で魔力を注いだのと同じように、全力で青い玉に向かって魔力を放った。
青い玉は力強く光り輝き、表示されていた数値が大きく変化する!
89XXX
90XXX
91XXX
92XXX
93XXX
「魔、魔力量9万!!!!????」
誰よりも身を乗り出したシスターテルマが眼を見開いて声を裏返らせた。
「そ……、そ、そんな、まだ上がって……。き、きっと、壊れてるんだわ……」
声を震わせた彼女は表情が抜け落ちて顔面蒼白になった。
97XXX
98XXX
99XXX
99999
!!!!!
きゃあっ、ま、まぶしいっっ!!
一瞬だけ9が並んだ後、10万に繰り上がるところで、フラッシュのように強い閃光が発生して目が眩んだ。
目がちかちかする。
健康診断で眼底検査をしたときのように、光の残像が目の中に残って回復するのに数秒掛かった。
様子を見ていた皆もかなり眩しかったようで目を瞬いている。
手の平にあった青い玉を確認すると、粉々に砕け散っていた。
「あ、あ、あ、ありえないわ……。そ、そうよ、古い物だから壊れていたんだわ。……そうじゃなきゃオカシイもの、数字が5桁も並ぶなんて……」
シスターテルマは腰を抜かして床にへたり込んだまま、虚空を見つめて独り言をぶつぶつと言った。
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