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20話 仕事を任せるのが凄く不安だわ

「どうかしら? 私なら信じられるでしょ? こう見えて私、かなり強いわよ。それにあなたよりはるかに年上だし。それとも悪魔の私じゃダメかしら?」


 ファルはそう言うとスモークに対していたずらっぽく笑った。


「……し……信じます! 俺は別に女神や天使の信望者って訳じゃないし、何よりファルファレルロ様は人ではありえない可愛いらしさだ……」


 ファルの微笑みに当てられたのか、棒立ちのスモークは頬を紅潮させて返事をすると、何とベクタードレインと同じように跪いたのだ!


 人は人智を超える存在を目の前にしたとき、今までの主義主張など初めから無かったかのように、現状を受け入れるのかもしれない。


 ちょっと気になるのは、跪いたスモークが顔を赤くしてファルの事を見つめたままボソリと呟いたのだ。


「悪魔美少女……ヤ、ヤバい……」


 スモークってもしかして幼女好き!?

 この反応、かなりヤバいんだけど……。


 スモークの反応に満足したのか、ファルは床に降り立つと黒い翼を折りたたんで風魔法を使うのを止めた。


「よし、じゃあレイナの魔力診断で教会に向かうか」


 ルートリアが改めて皆に声を掛けて出発を促したのだが……。


「おい、お前たち! 少し話があるから奥の部屋に来るんだ!」


 さっき後ろで武器を構えて受付嬢と話していた初老の男性が、眉間にしわを寄せて強い口調で私たちに話し掛けた。


 誰かしら?

 冒険者ギルドの関係者みたいだけど……。


「誰? この渋いおじさんは?」

 ファルが私と同じ疑問を抱いてプレシオに聞いた。


「……ファル、この人はギルドマスターだよ。奥の部屋に来いってさ……」


 プレシオとルートリアが顔を見合わせて気まずそうに眉を寄せた。


 ギルドマスターって何だろう。

 奥の部屋で話って一体……。


 私たち『自由の剣』は奥の会議室に連れて行かれた。

 今回の騒動の切っ掛けとなったサラミとスモークも一緒である。







 しこたま怒られた。


 奥の会議室に連れて行かれた私たちは、全員いい大人なのに激怒するギルドマスターに頭を下げて謝罪する羽目になった。


 私もベクタードレインも冒険者ギルドのルールなんて知らかなかったので、怒られて初めて何が問題だったのか分かった。


 まず、ギルド建物内でもめ事を起こすなと言われた。

 まあ、多少の言い合いぐらいは許容されるそうだけど、相手に武器を抜かせるぐらいの威圧はご法度だそうだ。


 言われてみればそりゃそうね。


 人を殺せる武器や能力を持った人たちが集まっているのだから、相手が逆上して我を忘れれば刃傷沙汰にんじょうざたでは済まず大勢の人死にもありえるからだ。


 そして、ギルド建物内での魔法の使用は絶対にダメだそうだ。


 前回はルビカンテの豪火球魔法、今回はファルの風魔法が問題だったそうだ。


 魔法を使ったのが冒険者ではなく同行者で、どちらも悪魔という人智を超えた存在だったので処分の対象にはしないそうだけど、次はたとえ同行者が原因でもパーティ全員を出入り禁止にすると言われた。


 流石に冒険者資格をはく奪する事は、社会のセーフティネットである底辺職を奪う事になるのでしないのだろうけど、建物内への出禁はギルドマスターにとって自組織を守る上で必要な防衛なのだろう。


「ごめんね☆」


 ワンピースの前で両手を揃えて可愛らしく謝罪するファルは、下を向いたときに小さく舌を出した。

 元々謝罪する気持ちなんて、ファルにはこれっぽっちも無いのだろうけど、早くこの場を後にしないと次に進めないので形だけふざけて謝罪していた。


 ギルドマスターの方も悪魔のファルをどう扱っていいのか分からないようで「いや、まあ……」とあいまいな返事をしただけだった。


 で、実際に魔法を使ったファルには特に何も言わず、全てのお小言は冒険者登録している私たち3人に向けられた。


 一通り苦言を呈して一段落(いちだんらく)したところで、今度は横で黙って聞いていたベクタードレインに質問が向けられた。


「お前は魔族だよな?」

「はい、魔族のベクタードレインと申します」


「今、人族と魔族の関係が微妙な状況にあり、戦争へ発展すると噂されている。一体何が目的で人族の町に来た?」

「私はレイナさんに夢を叶えて貰うため、レイナさんの仲間になったのです」


「あんたか……」

 私の顔を見たギルドマスターはため息を吐いた。


 何よその「もううんざり」みたいな態度は!


 私に失礼な態度をとったギルドマスターは、もう一度ベクタードレインの方を見る。


「魔族のお前が入国しているのを把握しながら放置するのは立場上出来ない。まだ、戦時下でもなく特別な指示も無いから拘束はしないが、冒険者登録をしてもらい、こちらの管理下に置かせてもらうぞ」

「人族の組織への登録ですか? 私は別に構いませんが……」


「登録には全ての嘘を見破る魔道具を使用する。少し時間が掛かるかもしれないが付き合ってもらうぞ!」

 ベクタードレインは私の顔を見て確認してから頷いた。

「分かりました。よろしくお願いします」







 私たちは冒険者ギルドに併設されている食堂で昼食を食べて彼の登録を待っている。


 冒険者たちの視線が気になるので、本当は外の食事処に行きたかったのだけど、魔族のベクタードレインを置き去りにして彼を不安にさせるのは可哀そうなので、建物内で待つ事にしたのだ。


 騒動の発端となったサラミとスモークも私たちと一緒に昼食を食べた。


「プ、プレシオさん! わ、私をパーティに入れて貰えませんか?」

「え、えと……、うーん」


 いつも歯切れのいいプレシオがサラミのこの問いに返答を濁している。

 プレシオが私とルートリアの顔色を見ているが、ルートリアの表情が渋いのだ。




「ファ、ファルファレルロ様! わ、私をパーティに入れて貰えませんか?」

「え、えと……、うーん」


 サラミの問いの直ぐ後に、スモークがファルへお願いをしているが、ファルがこのお願いに返答を濁している。

 ファルが私とルートリアの顔色を見ているが、ルートリアの表情が渋いのだ。


 ファルとベクタードレインは私の推薦でパーティメンバーに加わったのだけど、そのときはルートリアも賛成してくれた。

 メンバーの追加で私の我儘ばかり通したのでは、他のメンバーに悪い気がする。


「ねぇルートリア。ちょっと外で話せるかな?」


 プレシオとファルの困った顔を遠目で見ながら、ルートリアを冒険者ギルドの裏庭に連れ出す。







「やっぱりパーティメンバーの増員は難しいのかしら?」

 ギルドの裏庭に誰もいないのを確認してからルートリアに立ったまま話し掛ける。


「すまないが、私は冒険者としての活動を異種族闘争の準備として考えている。単なる職業とは考えていない。あまり大人数になる事は、本来の目的から外れて成果が出難くなるだろう」


 ルートリアの本来の目的って、魔族軍の情報を収集しつつこの国の軍の中枢に返り咲いて、異種族闘争に向けた国軍の準備及び指揮をする事よね。


「今の基準からすると、ファルやベクタードレインが加わったのは、冒険者家業としての判断ではなく本来の目的に沿っているからよね?」

「そうだ。ファルの加入は、作戦の要であるレイナに同性の仲間が居た方が活動し易いと思ったからだ。ファル自身も圧倒的な能力があるので頼りになる。それに悪魔が仲間になるという事は、目的を考えると色々な面で非常に有利だろう」


 彼の中では、悪魔は悪魔でもルビカンテはカウント外みたい。話が通じないからね。


 私はなるほどと相槌を打ちながら腕を組んだ。


「じゃあ、ベクタードレインの場合はどうかしら?」

「彼が魔族という点でファルと同じで頼りになると考えている。だが一番期待しているのは、ネクロマンサーとしての我が国への貢献だ」


 やはり、ルートリアとしてはこの国の、そして全人族の事を考えて、魔族との戦争に一番重きを置いている。


 私もサラミとスモークを無理にパーティに加えたいとは思っていない。

 だけど、彼女らは私たちには無い部分を補ってくれるような気がするのよ。


「あ、あのね、貴族が集まるパーティは数日後なのよね? そのときファルやベクタードレインはパーティには連れて行けないわよね?」

「そうだな。その場合、私の賓客として部屋を用意してそこで待っていて貰おうと考えている」


「サラミとスモークはちょっと頼りなく感じるかもだけど、一緒に居て貰えばファルたちが不安にならずに済むし、トラブルも防げると思うの」

「……まあ、仮に私が魔族領の屋敷に単独で待機すると考えれば、そばに魔族の味方が居たら心強いと思うかもしれないが……」


「それに彼女らの組織って人攫いとかじゃなくて探偵会社の様なものと思うの」

「探偵会社とは?」


「あ、やっぱり探偵会社はなし! えーと、諜報機関と言えばいいかな?」

「つまり彼女らには、諜報部隊として情報収集や連絡に動いて貰うのか……」


 顎に手を当てて私の話を聞いていたルートリアは、黙って考え込むと少しして何回か頷いた。







 ファルとプレシオが私とルートリアを見て手を振っている。

「やっと、戻って来たわね。検討の結果はどう?」


「我儘言うつもりはないんだけどさ、頼み込まれると俺、弱いんだよね……」

 プレシオは押しに弱いタイプなんだ。


 皆の待つテーブルの前に移動すると、胸に手の平を当てて検討結果を伝える。

「パーティリーダーは私、レイナよ。サラミ、スモークよろしくね!」


 加入は難しいと思っていたのか、落ち込んでいたサラミとスモークの表情が明るくなった。


「ありがとレイナ! でもメンバーには加えて貰ったけど、私もお年頃なんであっちは遠慮出来ないわよ」

 サラミがプレシオを見た後に私に宣言した。


 サラミはプレシオがお貴族様と知らないのかしら。私ならお貴族様をターゲットにするなんて気後れしちゃうのだけど。


「よろしくレイナ! 俺、ファル様の信徒にして貰ったんだ。ただの信徒なのにパーティメンバーとしてこれからも直接ファル様と話ができるなんて……夢のようだ」


 信徒? 悪魔教徒ってこと?

 ファルの方を見るとお茶目に、てへぺろした。

「ほら信徒にしてと言われたら悪魔は断れないでしょ?」




 プレシオ狙いのサラミと、ファルに盲目なスモーク……、仕事を任せるのが凄く不安だわ。




 彼女らをパーティメンバーに加える判断、早まったかしら……。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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