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12話 超個性的な4人パーティになったわね

 あれから大して時間が経っていない。


 あれだ。

 退屈で単調な仕事をさせられて、苦痛で苦痛でもう1時間くらい経っただろうと思って時計を見ると5分しか経っていないヤツだわ。


 意識が朦朧となり頭の中に白いモヤが掛かった状態のままだ。


 目の前でファルが楽しそうに口を動かしている。


 よく動く口だなー。


 だんだん彼女が口の動く人形に見えてきた。


 そう言えば子供の頃にこんな感じの人形を持っていたかも。

 青い髪に青いドレスを着た人形で、横に寝かすと目をつむるの。


 つむった目を指で無理やり開けて、寝ちゃだめよって起こしたっけ。

 あれの罰が今当たっているのかも……。




 やばい……、私今一体何考えて……。




 溜まりに溜まった疲労と睡眠不足により、昼過ぎに意識を保てなくなった。





 うーん。


 ここは何処かしら。

 いつもの路地裏じゃないわ。

 何処かの家の中ね。


 あ、今は浮浪者じゃないのか。

 確かプレシオとルートリアと冒険者ギルドの依頼を受けて……。


 そうだ! ファルの話を聞いてて寝ちゃったんだ。

 ベッドから起きると椅子に座っていたファルが飛び付いてきた。


「ごめんねレイナ! 元気になった? 大丈夫?」

「うん、ちょっと眠たかっただけだから平気よ」

「よかったぁ」


 ほっと胸を撫で下ろした様子のファルは笑顔になった。


「人間ってすぐ死んじゃうから心配したよ」


 すぐ死んじゃうって……。

 悪魔なりの心配の仕方なのね。


「悪魔は寝ないから、人間が寝ないと倒れちゃうのを忘れていたの」


 悪気が無いのは伝わってくるけど、何だか普通じゃあり得ない理由よね。


 窓の外を見るとすっかり暗くなっている。


「2人はどうしたのかしら?」


 部屋の扉を開けるとプレシオとルートリアが勢いよく雪崩れ込んできた。


「ごめん。いつまで経っても出てこないからさ、心配して様子を気にしてたんだ」

「中の様子を探っていた。申し訳ない」


 扉に張り付いて中の様子を伺うなんてかなりのマナー違反だという事は、もちろん2人も承知しているようだ。


 でも今回は事態が事態だから許そう。


 悪魔と2人きりで何時間も部屋に閉じ籠っているんだもん、普通なら心配するよね。


「安心してね。よく寝たから元気になったわ。寝てる間はファルが守ってくれたのよね?」

「も、もちろんじゃない。私たちは、と、友達なんだから……友達で……よかったのよね?」

「ええ、大事な女友達よ」

「女友達……!」


 不安げな表情だったファルは、私の返事を聞いて花が咲いたように明るい笑顔になった。


「空腹だろう。ジエムスが昨日とは違う鬼ツムリ料理を作ってくれている」

「いやあ、俺たちもあの美味しさにハマっちゃってさあ、今日の夕食もジエムスに鬼ツムリ料理をお願いしたんだよ」


 最初はあんなに嫌がっていたのに、お貴族様も美食には敵わないようね。


 ファルと一緒にダイニングへ移動すると、全員分の夕食の下準備がされていた。


「もしかして夕食を食べずに待っていてくれたの?」

「ああ、レイナが頑張っているのに俺たちだけ先に食べる訳にはいかない」

「ジエムスにも待ってもらっているからさ、さっそく食べようよ」


 食事をしないで待っていてくれる人なんて、前世のお母さん以外にいた事が無かった。


「ありがとうね。優しいんだね……」


 2人の私を思いやる気持ちに感激して目が潤んでしまった。


 その後の言葉が出なくて目に涙を溜めたまま2人をじっと見つめた。


 プレシオもルートリアも急に泣き出した私に驚いたのか、少し困っているみたい。


 早く泣き止まなきゃ。


「き、急に泣いてごめんね。困らせちゃったね」


 無理やり笑顔を作ってみたら、涙が頬を伝った。

 気を張ってみても優しくされるとダメだな。

 

 もう、私にとって2人を大事な仲間のように感じている。




 まずいよ……。

 彼らのために神器を使い、無事役割を果たして契約が終了したらまた1人きりになってしまうのに。




 無理に笑顔を作りながら涙を流す私って、完全に情緒不安定な女ね……。

 こんな訳の分からないメンヘラ女、男の人は絶対嫌だろうな。


 2人が私に好意を寄せているってファルは言ってくれて、疑いながらもワンチャンスあるのかも? って微かに思ったけど、もうこれで万に一つのチャンスも無くなったよ。


 あーあ、どうして私ってこうなんだろう。


 感動したり落ち込んだりで忙しい私に、ルートリアがハンカチを差し出してくれた。


「これからも一緒に食事ができる。明日も明後日も」

「……ありがとう」

 1人で食事するのが当たり前だった私には、とても嬉しい一言だった。


「さあ、早く座って食べよう」

 プレシオが私とファルの椅子を引いてくれた。

 相変わらずプレシオも優しい。


「じゃあ料理を運ぶでな、ちょっと待ってておくれよ」

 タイミングを見計らってジエムスが厨房から声を掛けてくれたのを聞いて、ルートリアとプレシオが厨房に歩き出す。


 お貴族様に給仕をさせる訳にはいかないよ。


「わ、私も!」

 席を立とうとしたが、ファルに止められた。

「男の人の好意を無駄にしてはダメよ」

 そうだね、今日くらいは甘えてもいいか。


 大人しく座っていると、厨房からプレシオとルートリアの会話が聞こえてくる。


「俺はもう彼女の件でさ、君に遠慮するのはやめたよ、アルト」

「む、そうか。でも急にどうしてだ?」

「あんな可愛い表情されたらさ、諦める方が無理だよ」


 アルトって誰だろう?

 返事をしていたのはルートリアだから、ルートリアの愛称だろうか。


 それにしても可愛い表情って、確かにファルは女の私から見てもとても可愛いわよね。

 おまけに悪魔少女なんて属性が強すぎて反則だわ。


 ずるいなあと思ってファルの事を睨んでみた。


 すると私の視線に気づいたファルが残念な子を見るような顔をした。


「レイナってあんな必殺技まで使えたのね。とんでもない攻撃力だったわよ。それなのに、何でそんなに残念なのかしら」

「必殺技? 何の話をしているの? 私は体術なんてからっきしなのよ? 大体、人の事を残念って失礼じゃないの!」


「ほらほら喧嘩しなさんな。おじさんが今日も美味しい鬼ツムリ料理を作ったで、機嫌を直しておくれ」

 

 ジエムスが目の前にグラタン皿を並べてくれる。


 中には鬼ツムリとキノコが入っていて、それをニンニクの様な香りのソースで絡めてオーブンで焼き上げた料理だ。


 食欲をそそる香りに胃が刺激される。


 一緒に運んでくれた焼きたてのパンに合うこと間違い無しね。


 続けてプレシオが運んでくれたのは、平皿に火を通して薄く切った鬼ツムリと、トマトの様な野菜の薄切りが交互に重ねてある料理で、植物の種油と柑橘系果物の絞り汁にお酢を混ぜたドレッシングを掛けてある。

 鬼ツムリの白と赤い野菜のコントラストが綺麗だ。


 やばいよ。お腹が鳴る前に早く食べたい。


「嬢ちゃんは食事じゃなくて飲み物って聞いたで、果物ジュースだ」

「お気遣いありがとう♪」


 自分にも気遣いされたからか、ファルも機嫌がいい。


「そして、昨日のステーキも作ってもらった」

 ルートリアがダメ押しに鬼ツムリのステーキを運んできた。


「そんなに食べれるかなあ」

 少し量が多くて心配になる。

「レイナはこれが今日の一食目だ。倒れたら困るから頑張って食べて欲しい」

「まあさ、食べ切れなければ俺が食べてあげるから」

「もちろん俺も食べる」


 えらく鬼ツムリ料理を気に入ったものだ。

 昨日は自分たちの分まで私に食べさせようとしていたのに。


「いただきます!」


 これ以上目の前の誘惑に耐える事などできるはずもなく、急いで料理を口に運ぶ。


「うん! 凄く美味しいよ! ジエムスさんありがとう!」

「おかわりもたーんとあるでよ」

 うーん頼りになるお母さんみたいなおじさんだ。


 あれ? さっきまで楽しそうにジュースを飲んでいたファルが静かだ。


「ファル? どうしたの?」

「いや、レイナといるの楽しいなと思って……」


「私も楽しいわよ。でもどうして元気ないの?」

「……私とレイナは女友達よね?」

「そうね、ファルと私は女友達よ」


 下を向いたファルは寂しそうだ。


「明日はどうするの?」

「私たちは『自由の剣』っていう冒険者パーティなんだけど、魔物調査の仕事を受けているから明日の朝にはこの村を出るのよ」

「女友達でもレイナと一緒にいられないの?」

「うーん、仕事だからねぇ。また会えるのは仕事が終わってからかなあ」


 さっきは私が泣いていたけど、今度はファルが泣きそうな顔をしている。


「そうすると、明日お別れなのよね?」

「し、仕事が終わればまた会えるから! ずっと友達のままだから」

 どうやらやっとできた女友達と少しでも一緒にいたいみたい。


「ねえ、レイナはどうして彼らと魔物調査をするの?」

「それは同じ冒険者パーティだからだけど……」

 最初は契約で行動を共にすることになったから、大元の理由は契約なのかなあ。


 私自身も彼らとの関係が契約なんだと思うと複雑な気持ちになる。

 契約について思案しているとファルが突拍子もない事を言いだした。


「わ、私もそのパーティに入ったらレイナと一緒に魔物調査に行けるの? それならパーティに入りたいな……」


 こ、この子ったら何を言い出しているの?


 ファルが冒険者パーティに入りたい理由は、冒険者として仕事をするためじゃなくて私と一緒に行動するためのようだ。


 それって問題無いのかしら?


 あれ? 私が冒険者パーティに入ったのは、プレシオとルートリアの実力を見るのにオーガ退治の依頼を受注しようとして人数が必要だったからだわ。

 それって、プレシオとルートリアと私が一緒にいるためでもある訳よね。


 じゃあ、ファルが私と一緒にいるためにパーティに入りたいのは別に問題無いのかな?


「パーティの一員になると、私だけじゃなくてプレシオやルートリアとも協力していくんだけどそれは大丈夫?」

「昨日の戦いで強い男たちって分かったから、協力する気持ちはあるわよ。……でも2人は悪魔の私を受け入れてくれるの?」


 私が彼らの方を見るとルートリアは黙って頷いてくれたが、プレシオには含みのある言い方をされた。


「レイナがさ、いいと思うなら協力するから」

 プレシオは悪魔が仲間になる事に違和感はあるようだけど、それでもOKしてくれた。


「じゃあ、今日からファルは冒険者パーティ『自由の剣』の仲間だわ。どうぞよろしくね」

「やったあ! これでレイナと一緒にいられるのね!」


 悪魔のファルファレルロがパーティメンバーになった!


 これで冒険者パーティ『自由の剣』は、お金持ちのお貴族様2人と元浮浪者に、悪魔少女が加わってさらに超個性的な4人パーティになったわね。


 とはいっても、ファルは悪魔なので冒険者登録はできないのだけれど。


 あれ? ルビカンテってどうなのかしら?


 ルビカンテがパーティメンバーに加わって一緒に冒険している様子を想像してみる。


 ……。


 うーん、ルビカンテはパーティメンバーとは別枠かなあ。


※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。

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