13話 あーもうっ、どいつもこいつも!
「おはようファル」
「おはようレイナ!」
昨日は食事をした後、ファルと2人で体を拭き合ってから軽い女子トークをした。
例によってファルがもっと話をしたいとせがんだけど「これからずっと一緒だから毎日少しずつ話そう」と提案したら分かってくれたのだ。
ファルの方も、また私が睡眠不足で倒れたら困ると思ったみたいね。
それにしても実に最強の護衛よね。
夜の間、ルビカンテを呼びだして護衛して貰おうって話だったけど、そばに居てもらうならファルの方がいいかな。
ちなみに悪魔少女のファルは寝ないので、夜の間ぼーっと椅子に座っていた。
さすがに私が寝ているときは暇で可哀そう。
「今度、冒険者の稼ぎでロマンス小説を買ってあげるからね」
「何? ロマンス小説って?」
知らないんだ。
女子トークにこれだけ反応するファルだ。
絶対にハマるわよね。
本はお貴族様向けで結構高額だから、冒険者家業を頑張ってファルに本を買ってあげることを当面の私の目標にしよう。
「おはようプレシオ、ルートリア!」
リビングに居た2人に声を掛ける。
「おはよう。今日は元気そうだ」
「おはようレイナ。じゃあさ、準備も出来てそうだし出発しよう」
4人で農家を出たところでプレシオがファルに話し掛けた。
「ところでさ、ファルちゃんはどうやって隣山まで移動する? 空を飛ぶの?」
「ファルでいいわ。1人で空を飛ぶのはつまらないから一緒に歩く事にする」
皆で仲良く目的地の山まで歩くことになった。
特に警戒もせずに村外れまで歩いたところでプレシオが提案する。
「これからは森の中を移動するからさ、魔獣や魔物が出るかもしれない。陣形を組んで歩こう。俺が先頭、後ろがルートリアでさ、真ん中にレイナとファルでどうかな」
「レイナと歩けるなら何でもいいわ」
ファルは随分と私に懐いてくれたようだ。
人って一番求めている物を提供してくれる相手には強い好意を持つものなのよね。
この点は悪魔も一緒みたい。
しばらく黙々と歩いていたんだけど、隣のファルが退屈そうにしている。
少し女子トークを振ってあげるか。
「ねえ、結局ファルが話してくれたのは他の悪魔たちがイケてるとかイケてないの話だったじゃない? あなたの理想のタイプはどうなの?」
「理想のタイプ?」
「例えば種族とか限定されるの?」
「ううん。素敵な恋愛ができれば種族は関係ないかなあ。でも人間を好きになったら後悔するかも」
「どうして?」
「だって寿命ですぐ死んじゃうでしょ? まだエルフとかなら少しは一緒に居られるんだけど……」
やっぱりファルから見たら人間はすぐ死んじゃうんだね。
悪魔にとって、人の一生なんて一瞬なんだろうな。
「じゃあ、今度はレイナの番ね。レイナはどんな男が好みのタイプなの?」
「え? 私? うーんそうねぇ……」
私が答えを考えているとなんだか窮屈な気がした。
前を見るとプレシオの歩くスピードが落ちたようだ。
慎重に進んでいるのかしら?
ふと後ろを見ると、ルートリアの歩くスピードが速まったのか、すぐ後ろまで迫っている。
ちょっと! 近いよ。
ファルはファルでにやにやしているし。
「で? どうなの?」
「うーん、私も昔は好みとかいろいろあったんだけど、昔ね男の人に酷い騙され方をしたのよ。だから、好みがすっかり変わってしまったの。今は一緒に居てくれる優しい人かなあ」
「一緒に居てくれる優しい人……。つまらないわそんなの。それよりも昔の男って元カレ?」
「ち、違うわよ! 昔の男っていうのは……きゃっ!」
プレシオの歩くスピードがゆっくり過ぎてぶつかってしまった。
急に私たちが止まったのでルートリアも続けて私にぶつかる。
「ちょっと! 歩くの遅過ぎ! 気になるの分かるけど、もう少し早く歩いてくれないと危ないわ!」
女子トークが中断されたのでファルが口を尖らせている。
「わ、悪い悪い……。それにしてもさ、少し気になる事があるんだけど」
少し気まずそうに後ろを向いたプレシオが謝った後に相談してきた。
「どうしたの? 何が気になるの?」
「森の中を結構歩いたと思うんだけどさ、魔物の気配が感じられないんだよね」
「魔物と会わないならいいんじゃないの?」
私が不思議そうにすると、ルートリアもプレシオと同じことを考えていたようで頷く。
「ああ、森の中をこれだけ歩いたらそろそろ魔物とエンカウントしている頃だ」
オーガ退治のときは鉱山まで見通しのよい街道を行き来したし、10人で行動したので近くに魔物がいても魔物の方が避けてくれたみたいでエンカウントは無かった。
でも、今は森の中を4人で歩いている。
魔物と遭遇しない方がおかしいというのだ。
「それ、多分私のおかげよ!」
可愛らしくファルが小さな胸を張っているけど、どういうことかしら?
それを聞いたルートリアが納得したようで頷いている。
「なるほど。魔物だって野生の感覚が鋭い訳だから、悪魔という脅威を察知して向こうの方から我々を避けているという事か」
「俺たち2人のときはさ、訓練も兼ねて魔物と戦いたいと思っているんだが、今はレイナがいるからね。余計な戦闘は無い方がいいよな」
プレシオもファルのおかげで魔物との戦闘が起こらない事を歓迎しているようね。
「でも鬼ツムリだって魔物よね? どうしてファルの事を恐れずに一ケ所に誘導できたの?」
「それはねぇ、これを使ったの」
ファルが私に笛を見せてくれる。
「何? この笛で鬼ツムリを呼べるの?」
「魔物呼びの笛よ。音色の違いで呼べる魔物が変わるの」
ハーメルンの笛吹きみたいだ。
ルートリアが目を輝かせて話に加わる。
「つまりこの笛を借りれば魔物を呼び放題という事か!」
「貸すのはいやよ! 間接キスになっちゃうでしょ」
急に顔色を曇らせたプレシオがファルの方を向く。
「もし君がその気になったらさ、町や城へ空を飛んで移動しながら笛を吹きまくって、人間を魔物に襲撃させる事もできるの?」
その言葉を聞いたファルは笑みを浮かべる。
「……ええ、できるわ」
可愛い唇の口角が上がり、見開いた瞳は深い群青色で瞳孔が開いたままだ。
じっと見つめられると、魂が吸い込まれそうな感覚がして背筋がゾクリとする。
可愛い容姿であっても彼女が間違いなく悪魔であると実感できた。
ルビカンテの暴力的な威圧や気味悪い笑みよりも、私にはファルの方が恐ろしく感じて彼女から一歩下がる。
怯える私を見たファルが慌てて顔の前で手を振る。
「し、しないわ、そんな事! そんな事をしても楽しくないし、レイナを困らせたりはしたくないから!」
さっきまで暗い群青色だった瞳は、いつの間にか綺麗な空色に戻っていた。
魔物を呼んで人間を襲撃させる事ができると聞いたプレシオとルートリアが私を前後で挟み込んだ。
「レイナにはさ、人族の命運が掛かっているからね!」
「真剣によろしく頼む!」
ファルとの友達関係がいつの間にか絶対必達のミッションに変化してしまった。
どうして私には普通の仲間ができないんだろう。
彼女とは利害を抜きに仲間になれるかもしれないと思って嬉しかったのに……。
「さあ、出発しましょう!」
落ち込んだ気持ちを皆に悟られないようにカラ元気を出して号令を掛ける。
リーダーが落ち込んだ姿を見せてはパーティの士気が下がってしまうものね。
魔物と遭遇しない理由は分かったので、再びプレシオを先頭に歩き始める。
「この調子で進めればさ、目的の山の麓に昼前には到着できそうだよ」
先頭を歩きながら到着予定を口にしたプレシオに、ファルが言葉を付け加えた。
「それは他に気を取られずサクサク進めばよ。レイナ、影響が出ないようにしばらく女子トークは我慢しましょ」
それを聞いたプレシオとルートリアが視線を逸らした。
2人とも少し目が泳いでいる気がする。
男子は女子トークなんか興味ないと思うんだけど……、興味あるのかしら?
プレシオの言う通り、昼前に目的の山の麓に到着した。
依頼書ではこの山の麓でスケルドラゴンが目撃されたそうで、スケルドラゴンの確認と脅威度や被害状況など把握が任務である。
つまり今回はスケルドラゴンの退治ではなく、調査が依頼内容なのだけど、心配なのが彼ら2人だわ。
さっきから退治する気満々なのよ。
「ねぇ、退治するんじゃなくて脅威度の調査が目的なのよ?」
「ああ、分かっている。でも襲われたら討伐するしかないだろう」
しばらく付き合って分かったわ。
ルートリアは戦闘狂の気があると思う。
それに対してプレシオはというと……。
「そうだね。脅威度の確認はちゃんとしてさ、その上でちょっかいを出す事にしよう」
「どうしてちょっかいを出すと決めているのよ!」
こうなると、もう全然話を聞いてくれない。
私が何と言っても退治しようとするだろう。
まあいいか。
私はちゃんと鬼ツムリ退治を頑張ったんだ。
今回目的だった私の実力アップという課題は果たせたわよね。
あと他に神器で魔物を殴ったら凄い攻撃力だと分かった事も収穫だわ。
悪魔少女のファルも仲間にできたから、今回の冒険は大成功ね。
「じゃあ、2人ともスケルドラゴンの調査を頑張ってね」
「リーダーがそんな事では困る。ちゃんとパーティを引っ張って欲しい」
「調査は結構時間と労力が掛かるからさ、レイナにもファルにも手伝って欲しいな」
この依頼は2人の趣味だからお任せしようと思ったが、パーティとして手伝えと言われてしまった。
「手伝うったって、どうやって調査するのか分からないんだけど……」
「探査魔法や特別な魔道具が無い場合は、付近をしらみつぶしに探索することになる」
ルートリアって変わったお貴族様よね。
こんなに面倒くさい事をやろうとするんだから。
私が知っている貴族は、自分が動かずにどうやって他人を動かすかばかりに知恵を働かせていたわ。
「ちょっと俺にアイデアがあるんだけどさ、ファルにお願いがあるんだ」
「何よ?」
「魔物呼びの笛でさ、スケルドラゴンを呼ぶ事ってできるかな?」
「私ならできるわよ。付近に居ればだけど」
「じゃあ頼むよ!」
はあ? 何言ってんのよ!
「やめてってば! 呼んじゃったら戦いになっちゃうでしょ? これはギルドが退治依頼の条件を決めるための事前調査なんでしょ?」
「そうだ。ちなみに討伐しても今の段階で報酬は出ない。だがそれでいい。我々は報酬が目当てではないからだ!」
格好よく拳を作りルートリアが力説するが、言っている事が冒険者としておかしい。
いや、お金持ちが鍛錬目的で依頼を受けているんだから彼らにとっては正しいのか。
おかしく感じるのはたぶん私が庶民だからだ。
昔、国家間の友好を築くために人族の事務方代表をしていたときも、他の事務方の貴族たちだって庶民が理解に苦しむ考え方をしていた。
でもこの2人よりは少しだけまともだった気がする。
たぶんずっと彼らに慣れる事は無さそうね。
数日後の貴族パーティで、ルートリアのフィアンセ役をやらなきゃいけないと思うと不安ばかりだわ。
いつもの様に、ああでもない、こうでもないと考え込んでいたら……。
ヒュイーヒュイッ
ヒュイーヒュイッ
可愛い笛の音が辺りに響き渡った。
笑顔のファルが小さな笛を吹き鳴らしている。
「……そ、それってもしかして……魔物呼びの笛?」
「そうよ。早く用事を片付けて、部屋でゆっくり女子トークしましょ」
あーもうっ、どいつもこいつも!
「呼んでしまったものは仕方ないわ。プレシオ! ルートリア! スケルドラゴンと言っても1匹だけなら何とかなるんでしょ?」
「あら、スケルドラゴンは1匹だけとは限らないわよ。それにこの笛は種類まで特定できないから、ボーン系の魔物を全部呼んだわ」
それはつまりボーン系のスケルドラゴンを筆頭に、スケルトンやら何やら無差別にここへ呼んだという事ね……。
「どうすんのよ!!」
※誤字脱字などがありましたら、ご連絡いただけますと大変助かります。




