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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
52/55

浄化されし魂

 鐘の音が消えた。

 髪を揺らす風も止んだ。

 そして、どこまでも続く、静寂が訪れた。


 リエラは真っ暗な視界で、肩をがっくりと落として、


(もう、ユーリに会えないんだね。

 天国に来ちゃったんだね。

 死んじゃったんだ)


 目をそっと開け、ある光景を超至近距離で見て、


(!!)


 慌てて後ろへ下がり、そらら中に響き渡る、これ以上ないくらいの大声を上げた。


「え、えぇぇぇっっっっ!?」

(な、何!?

 どどどど、どうなって……??)


 ボケ姫の叫び声を至近距離で聞いた人が、ものすごく不機嫌な顔になって、


「…………」

(うるさいな。

 騒ぐところじゃないだろう)


 リエラは、銀の髪をした人にドキドキしながら、


「……し、死んでないのかな?」

(ど、どうして……ユーリが近くにいるのかな?

 ……な、何だか、お、落ち着かないね。

 ど、どうしちゃったのかな? 自分は)


 ボケ姫、驚きすぎて、記憶が飛んでいた。

 スミレ色の瞳はすっと開けられ、ぼんやりとあたりを眺め始めた。


「ん……?」

(リエラ。

 夜空。

 満月。

 白い地面。

 花の香り。

 土の匂い。

 手の感覚。

 …………)


 リエラはユーリと向き合う位置で、満月を見上げて、


(たぶん……十二時過ぎてると思うんだよね。

 ってことは……自分は死んでるよね?

 でも、どうして……!!)


 そこで、リエラは恐ろしい結論へたどり着き、自分の前でぼんやりしている愛しの王子を指差して、


「あっ!? ユーリも死んじゃった!?」

(そうだよね。

 一緒にいるもんね)


 先走り姫の安易な結論に、ユーリはリエラから手を話し、一気にあきれ顔。


「勝手に殺すなよ」

(さっきと何も変わってない。

 すぐに決めつけるなよ、先走り)


 リエラはここで、一気に宇宙の果てへ大暴投!


「え……?」

(チーズ?)


 ここは、『勝手に』を『カッテージ』へと投げた。ユーリは盛大にため息をつき、


「生きてるんだ」

(俺は突っ込まないからな、ありがたく思え)


「生きてる……?」

(死んでないってこと?)


 放置されたリエラは、自分で話をきちんと戻して、手をグーパーとリピート。


(本当だ。

 ちゃんと手の感覚がある)


 ボケ姫の正面で、ユーリは形のいい眉をピクつかせながら、一言文句。


「お前さ……壊すなよ」

(俺のファーストキスの夢を)


 リエラは自分の手から、なぜか地面へ視線を落とした。


「えっ?」

(地震?

 いつの間に? 気づかなかったよ)


 『壊れた』から、『地震』へ無理やり連想、大暴投! 放置のユーリはさらに文句。


「さっきまで、何してたか忘れるなよ」

(これじゃ、ムードも何もあったもんじゃない)


 リエラは顔を上げて、婚約者をまじまじと見つめて、非常に乏しい記憶力を辿る。


「え……?」

(さっきまで、何をしてたっーー!!)


 きちんと覚えていたボケ姫。ユーリの言っている意味を理解して、


「あっ!?」


 リエラは慌てて自分の唇に手を当てた。


(そ、そうだったよ。

 キ、キスしてたんだった)


 顔を赤くして、モジモジし始める。


(は、恥ずかしいね……。

 さっき、ドキドキしてたのは、このせいだったんだね。

 え、え〜っと……)


 ユーリは気にせず、婚約者に右手を差し出して、


「ほら、帰るぞ」

(とにかく、呪いは解けたみたいだし。

 兄さんたちにつれて帰るって、約束してきたからな。

 だから、これ以上ここにいる必要なし)


 リエラは心臓バックバクで、ユーリの手をつかんだ。


「……う、うん」

(す、すごい、ドキドキするよ〜)


 そのまま、無事に城へ帰ろうと、ふたりがした時、優しく凛とした声が、突如あたりに響いた。


『ふたりとも、こちらへ来なさい』


 リエラとユーリはただならぬ気配を感じて、振り返った。


「っ!?」


 するとそこには、空からスポットライトのように一筋の光が差していた。リエラは有り得ない光景を前にして、目をパチパチ。


「え……?」

(こ、これって……)


『さあ、早く』


 また、同じ声が聞こえてきた。自分たちのすぐ近くに、まるで天国から差しているような光を、ユーリはぼんやり眼に映しながら、


「ん……?」

(あれがこれで、それがああで……?)


 指示語だらけの思考回路を展開中の、婚約者の横顔に、リエラは戸惑い気味に、


「……死んだら、よく出てくるやつだよね?」

(映画とかアニメで見たことあるよ)


 考え中のユーリは適当に返した。


「……あぁ」

(そうだな……本物だろうな、これ。

 でも、何で今……? それに……)


 呪いは解けているはずなのに、天国へと導かれそうになっている状況。おかしなことが起きている。リエラはユーリの顔をのぞき込んで、


「『来なさい』ってことは、成仏しろってことかな?」

(そういうことになるよね?)


 ユーリは我に返って、珍しく驚いた。


「……ど、どうだろうな」

(何で、呪いかけられてない俺までが、成仏しないといけないんだ)


 『ふたりとも』と呼びかけられているので、ユーリまで天国に行くことになってしまう。また、勝手に死亡フラグを立てられている不機嫌王子。


 その隣で、リエラは死を前にして、またガッカリした。


「やっぱり……呪い解けてないのかな?」

(間に合わなかったんだ、やっぱり……。

 残念だね)


 珍しく落ち込んでいる超前向き姫を、ユーリはぼんやり見つめて、


(そうだな……あれがそうで、これがああだから……?)


『早くしなさい』


 成仏したくないふたりに、優しい凛とした声が催促した。


 ユーリは理論で決断を下し、愛しの姫にピントを合わせ、


(……こうしてやる。

 ありがたく思え)


 俺様王子は、無残にもこんな言葉を、ボケ姫に浴びせた。


「お前、先に行け」

(俺はジュレイテの発展のために、まだ死ねないんだ。

 だから、お前が成仏したら、俺は行かない。

 しらなかったら、俺も行く)


 実験台にされそうになっているリエラは、びっくりして飛び上がり、


「えぇっ!?」

(な、何で譲ってるの!?

 何だか、おかしいよ。

 譲られたことなんて、今まで一度もないのに……)


 俺様が譲ってくるなんて、ありえない光景を目の当たりにして、リエラはユーリをまじまじと見つめた。


 ユーリはその視線を無視して、もっともらしく、


「おかしくない」

(今、鋭くなくていいんだ。

 まともに返してこなくていいんだ)


「え、でも……」

(やっぱり、おかしいーー)


 ユーリとリエラなりのコミニケーションを繰り広げていると、しびれを切らした、優しく凛とした声の持ち主が、有無を言わせないようにぴしゃり!


『いいから、来なさい!』


 ふたりはびっくりして飛び上がった。


「わっ!!」


 ユーリは母親に叱られた子供のような顔で、ドキマギしながら、


「な……なんか、逆らえない感じだな」

(や、やっぱり、厳しい人なんだな。

 そうだよな。

 あんな風に物事進める人物だからな)


 理論と勘を使って、その上、指示語だらけの思考回路で、自分たちを呼んでいる人が誰だが、ユーリは前からわかっていた。 


 ただ、なぜ、今呼ばれているのかの意味を、ユーリはマジボケして、スルーしている。呼ばれるのは、当たり前なのだ、この運命に立たされた人は。

 他の人は関係ない。ここは、ユーリとリエラだけ。


 リエラは差してきている光を、空までたどって、


「う、うん」

(呼ばれてるから、早く行かないとね)


 ふたり一緒に呼ばれた、ユーリはリエラに短く、


「手」

(もう離れたくないから)


「うんっ!」

(一緒だね)


 手をしっかり、つないだふたりが光りの輪の中へ入ると、彼らは眩しい光に包まれ、意識が途切れたーーーーーー


 

 ーーーーーー眩しさから解放されたふたりは、目をゆっくり開けた。


 どこまでも広がる真っ青な空。

 足下にはどこまでも続く真っ白なーー


(く、雲!?)


 不思議なことに、時が止まっているような、進んでいるような、おかしな風景が広がっていた。動きがなく、それでも不気味ではなく、逆にどこまでも澄み切っている感じで、まわりには何もなく、同じ景色が果てしなく続いている。


 リエラは信じられない顔で、足下を凝視。


「……天国……だよね?」

(これ、雲だよね? 雪じゃないよね?)


 ユーリは別に驚いた様子もなく、


「そうだろうな」

(俺たちを呼んだ人物のいるところっていったら、ここしかないだろうな。

 どこに行けばいいんだ?)


 雲と空だけの景色を、スミレ色の瞳にぼんやりと映している隣で。


 先走り姫、早々と結論を出して、ガックリと肩落とした。


「あぁ……うん」

(仕方ないね、死んじゃったんだから。

 でも……)


 前向き少女は、ちゃちゃっと現実を受け入れ、顔を上げた。


「何にもないんだね」

(雲と空だけ……!!)


 はるか彼方に、黒い影を見つけて、


「あっ!? あそこに何か見えるよ」

(木みたいだけど……)


 ユーリはリエラの指さしている方へ、面倒くさそうに視線だけちらっとやり、


「ん?」


 はるか遠くに見えるいくつかの柱のような物を見つけて、不機嫌王子、態度デカデカで、呼び出した人に盛大に文句。


(どうして、こんな遠くに呼び出したんだ。

 あそこまで、歩いていくの面倒くさいーー!!)


 この世界の法則を勘で気づいたユーリ。それと同時に、リエラは走り出そうとして、


「よし、行ってみよう!」

(何かな? 気になるね)


 ユーリは素早くリエラの手を捕まえて、


「先走り」

(阻止してやった、ありがたく思え。

 あそこまで行かなくても、辿り着けるんだ。

 そんな感じがする)


「えっ?」

(な、何?)


 リエラがユーリへ振り向くと、先走り姫の背後に突如何かが現れた。ユーリのスミレ色の瞳には、縦の線が何本も映っていて、


(やっぱり。

 向こうから近づいてきた)


 ぼんやり眼に映っているものを見つけて、リエラは振り返った。ありえない光景を前にして、びっくりして、オーバーリアクション姫は大声を上げた。


「えぇっっっ!?」

(あ、あれ!?

 さっきまで、こんなの立ってたっけ?)


 記憶力崩壊姫の前には、さっきまで何もなかったところに、古代神殿のような、綺麗な彫刻が施された、石柱が規則正しく二列に、何かへと導くよう建っていた。


 遠近法で、どんどん小さくなってゆく柱一本一本を、リエラはブルーの瞳に、珍しそうに映して、


「ギリシャのパルテノン神殿みたいだね」

(教科書で見たのと似てるね)


 ユーリは整然と並んでいる柱の奥を、焦点の合わない瞳で見つめて、


「ん……?」

(俺……何だか、ここ、前にーー)


 遠い昔の記憶が戻りそうになったところで、若い女の声が突如割って入った。


「確認します」

「!?」


 いつの間に現れたのか、パルテルピンクの、少しふんわりした髪をした綺麗な女が、ユーリとリエラの正面に立っていた。


 リエラは不思議そうな顔で、目をパチパチ。


「え……?」

(何の確認だろう?

 それに、さっきからいたかな? この人。 ん?)


 首を傾げているボケ姫に構わず、女は抱えていた何かの資料を見ながら、まずは雪の王子へ、


「ユーリ ソフィアンスキー 、白石 祐」


「……はい」

(んー……?)


 ユーリは何か考えごとをしながら、ぼんやりと返事をした。しっかりとした声の、女は次にボケ姫に顔を向けて、


「リエラ カリアント、神月 亮」

「は、はいっ!」


 リエラは慌てて返事を返した。パルテルピンクの髪の女は、ふたりに再度確認。


「間違いありませんね?」

「はい、間違いありません」


 ふたりが同時に答えると、女は少しだけ微笑み、


「お待ちです」


 背中をさっと見せて、整然と並ぶ柱と柱の間を歩き出した。


 滑るように歩いていく女の背中じっと見つめて、リエラは目をパチパチ。


「え……」

(呼んだ人じゃなかったんだ。

 じゃあ、誰が呼んだんだろう?)


 声色が違うことに、リエラは気づいていなかった。ルーの言っていた『みんな』は、シリーズ1では、四人いる。そのうちの一人が、今の女。


 ユーリはぼんやり考え事をしたまま、素直に女のあとに続いた。


(そうだな……あれがこうで、それが……?)


 リエラは置いていかれそうになり、雪の王子の背中を追いかけて、


「ねぇ、どうして、両方の名前知ってるのかな?」

(どうなってるんだろう?)


 面倒くさがり屋ユーリは、平然と嘘をついた。


「知らない」

(知ってるけど、説明するの面倒だから、放置してやる。

 ありがたく思え)


「あぁ、うん」

(とりあえず、それは考えないでおこう。

 それにしても……)


 放置されたリエラは、あたりをキョロキョロ。


(どこなのかな? ここ。

 不思議だね)


 見渡す限りの青空と雲。

 規則正しく並んでいる柱。


 壁も天井もないのに、どうなっているのか、壺に絵画、花瓶などが宙に浮いていた状態で、飾ってあった。


 相変わらず、ぼんやりしたまま、ユーリは歩いていた。


(ふーん。 そうだな……あれがこうで……?)


 通りすぎていく、いくつもの立派な扉を、リエラは目で追いながら、


「誰かの家なのかな?」

(部屋があるみたいだね。

 それに、花瓶とか飾ってあるみたいだし……。

 でも、誰のーー)


「ーーこちらです」


 前を歩いていた女がふと立ち止まった。


 ふたりが顔を正面へ向けると、ガラスのような素材でできているが、向こう側はうかがい見ることはできない、ひときわ綺麗な扉の前へ来ていた。それを開け、女は少し微笑んで、


「さぁ、中へ」


 雪の王子とボケ姫は言われるままに、中へと足を踏み入れた。


 そこは、部屋の外とは違って、壁も天井も床も存在している、パルテルカラーを基調にした謁見の間だった。ただ立っているだけで、全てを包みこむような優しさを感じ、ふたりはとても穏やかな気持ちになった。


「こちらへ」


 女はそう言って、部屋の奥へと続いているレースでできているような、美しい絨毯の上を歩き始めた。奥まで歩いてゆくと、一段高くなったところに立派な椅子がひとつ鎮座していた。


 パルテルピンクの髪の女が、その正面の絨毯を指し示して、


「こちらで」


 言われるままそこへ立ったふたりを確認し、女は誰かを待つように、立派な椅子の左側へ立ったまま、静かに控えた。


 静寂の広がった謁見の間を、リエラは遠慮もなしに眺め、


(えっと……。

 これから、何が起こるのかな?)


 ユーリは相変わらずぼんやり思考回路を展開。


(俺、ここに来たことがある、ずっと前に。

 そういえば、あの時、他にーー)


 その時、右奥の扉が不意に開いた。


 ふたりがそっちを見ると、気品漂う美しい女が部屋から出てくるところだった。

 190cm近くのすらっとした背丈に、輝く金色の髪。

 その上に、王冠を戴いて。

 深い海を思わせる瞳は、全てを暖かく包む込むようでいて、どこかしっかりと芯の通っている雰囲気をかもし出していた。

 新緑を思わせる、落ち着きあるドレスを身にまとっていた。


 立派な椅子に腰掛け、ユーリたちに優しい笑みを向けて、


「来ましたね」


 ここで、リエラはやっと気づいて、びっくりして飛び上がった。


「あっ!!」

(呪いの解き方を、教えようとしてくれた声と同じだ!)


 新緑のドレスの女は、にっこりと微笑み、こんな言葉をボケ姫にかけた。


「えぇ、そうです。あなたに語りかけていたのは、私ですよ」


「えっ?」

(何も言ってないのに、どうして……)


 固まったリエラとは正反対に、女は落ち着いた様子で、


「言葉にしなくても、心に思ったことはきちんと聞こえています。神ですから」

(思い浮かべた時点で、その者の考えは、私たちには筒抜けなのです。

 そのことに、ユーリ ソフィアンスキーは気づいたのです。

 ですから、思い浮かべることを、白き丘へ行った時に止めたのです。

 そのために……)


 金髪の女は、自分の右隣に控えているパステルピンクの髪の女に、優しい眼差しを向け、


(私の部下ーーせいさんは、少し大変だったようですが。

 今回のことは、彼女にとってよい経験となったでしょう)


 先走り姫、リエラは急にソワソワし始めた。


(か、神様なんだ……。

 ってことは、や、やっぱり……)


 また、勝手に死亡フラグを立てそうになっているボケ姫に、神と名乗った女は静かに、


「スメーラ神といいます」

(リエラ カリアントは早とちりをする傾向がありますね)


 新緑のドレスを着たスメーラを、ユーリはぼんやりした瞳に映して、


(俺、この人に前会ったことがある。

 最初に……いや違う。

 最初、別の場所に、別の人物に呼び出されたんだ。

 その時……ん?

 六人いたよな? 王子が……)


 美しい絵画が描かれた天井に視線を移して、勝手に結論へたどり着き、ユーリは、


(ふーん。

 やっぱり……あれであってたんだな)


 だが、思い出してはいけないこと、王子なのに姫の存在に手をかけてしまい、


「っ!」

(怖っ! お、俺、もう……)


 アブノーマルな世界へ、見えない人によって、無理やり引き込まれてしまいみたいな心配をしている、雪の王子に、スメーラが、


「なっていませんよ」

(あの者にも困ったものです)


 ユーリはBL世界へと到達していないことを知り、ほっと胸をなでおろした。そしてまた、指示語だらけの思考回路を展開。


(よ、よかった。

 で、それがああだから、そうなって……?

 だから、関係してたのか)


 登場人物がなぜ全員、関係しているかへ、ユーリ早々と到達。スメーラは雪の王子に優しい笑みを向けた。


(ユーリ ソフィアンスキー は相変わらずですね。

 考えごとが多いようです)


 未だに早とちりで死亡フラグを立てている、リエラはガックリと肩を落としていた。


(や、やっぱり……死んじゃったんだね。

 神様がいるってことは、天国だもんね。

 せっかく教えてもらったのに、解くこと出来なかったんだ。

 申し訳ないなぁ)


 スメーラは先走り姫の勘違いを、しっかりと訂正。


「呪いは解けましたよ」

(解けていないとは言っていませんよ)


 リエラはなぜか、あたりをキョロキョロし始めた。


「え……?」

(アイスですか?)


 大暴投を始めたが、スメーラは動じることなく、しっかりツッコミ。


「その『溶ける』ではありません」

(今は呪いの話をしていますよ)


「えっと……?」

(とける……??

 ど、どの字だろう?)


 漢字変換をボケ倒しているリエラを前にして、スメーラは少しだけ微笑み、


(仕方がありませんね、こうしましょうか)


 ボケ姫が大暴投しないように、


「死んではいませんよ」

(今は、魂だけを抜き取って話をしています。

 ですから、肉体は滅んでいません)


 神の思惑通り、リエラはきちんと聞き取って、ほっと胸をなで下ろした。


「……あぁ、はい」

(よ、よかった。 

 間に合ったんだぁ。

 自分のやるべきことが、ちゃんと出来てよかったなぁ。

 ふふ〜ん♪)


 ウキウキになったリエラの隣りで、お金第一主義のユーリはとんでも無いことに考えが及んでいた。


(そうだな……さっきここに来るまであった花瓶とか絵画。

 あれ、持っていくか。

 そうすれば、高値が付くこと間違いなし。

 それを、ジュレイテの国費に足して……)


 神の持ち物を勝手に売りさばこうとしている、ジュレイテ国王代理に、スメーラが素早くツッコミ。


「持っていけませんよ」

(この世界にある物を地上へ持っていっても、物質化しません。

 あなたのような志があれば、地上の財源だけでも十分、人を救うことが出来ます。

 それに、誰かの幸せを願い、それを叶えるために行動し続けている者には、私は力を貸しますよ)


 ユーリはスメーラの忠告に、思考を急停止。


(持っていけないのか。

 じゃあ、別の手を考えないとな。

 でも……とりあえず、今は話を聞くことが先だな)


 ボケもなくなり、指示語だらけの思考回路も止まったところで、スメーラが当初の目的を告げた。


「これから、あなたたちをラピスラズリへ戻します」

「ラピスラズリ?」


 同時に聞き返したふたりに、スメーラはにっこり微笑んで、


「そうでしたね。ふたりとも知りませんでしたね。ラピスラズリとは、ジュレイテ、セレニティス、カーバンクルなどが存在する惑星の名です」

(あの者が支配する宇宙に属する惑星です)


 リエラはバカみたいに何度もうなづき、


(へぇ、知らなかったなぁ。

 今、初めて聞いたよ)


 ユーリはあきれたように、盛大にため息をついた。


(ダメだな、ジュレイテ。

 その手の資料もないなんて。

 金入ったら、揃えないとな)


 スメーラはさらに説明するが、思いっきり神的な視点の話で、


「まずは、そちらで一生を終えます。その後、地球へ戻り、そちらでも一生を終えます。よろしいですね?」

(通常とは違います。理解出来ましたね?)


 もちろん、リエラは目が点になった。


「え……?」

(何だか、すごく長生きするような……。

 あれ?

 それとも、また行き来をするのかな?)


 スメーラの話はやはりボケ姫には通じていなかった。一生を終えてから、戻ると言っているのに。ここで、ユーリが初めて言葉を口にした。


「地球へ戻ったら、死んでるんじゃないんですか?」

(あのめちゃくちゃな時間の流れでも……。

 さすがに、一生終えるまでこっちにいたら、地球に戻った時には、既に死んでるか、死ぬ間際だよな?

 それじゃ戻る意味がない)


 スメーラは神なのだ。いくらでも世界を自分の思うように変えられる。さらりとこんなことを言ってのけた。


「あなたたちがラピスラズリで生きている間、地球の時間は止めておきます。ですから、心配はいりませんよ」

(それぐらいは容易いですよ)


 リエラはあることに気づいて、急に胸が苦しくなって、


「あの……地球で死んだあとは?」

(また、ユーリと離れ離れになるのかな?

 やっと会えたのに、それは淋しいね)


 愛する人の質問に、ユーリも切なくなった。


(また、一人になるのか。

 やっと会えたのに、淋しいな)


 全てを優しく包み込むような笑みを持って、スメーラはゆっくりと首を横に振り、


「いいえ、離れる必要はありませんよ」

(愛する者を引き裂く必要など何もないのです。

 ですが……)


 リエラとユーリはほっとして、顔を見合わせた。


(よかったね)

(そうだな)


 スメーラは真剣な眼差しで、言葉を続ける。


「さらに深い愛を追求するという、向上心を忘れてはいけませんよ。その後は、転生して、再び巡り合うことになるでしょう。それを、永遠に繰り返します。そう、これが……」


 ここで一旦言葉を切って、スメーラはいきなり肘掛にもたれ、うっとりとした瞳に瞬時に変わって、


「永遠に続く愛の……呪縛じゅ・ば・く


 妙な間を置き、そばで控えていたせいは少しだけ微笑み、ユーリは吹き出した。


「ぷっ……!」

(真面目にふざけてる。

 カイザーと一緒だ)


 リエラはぽかんとした顔を神に向け、


「え……?」

(笑うところだった?)


 スメーラは一通り笑いを取ったところで、


「ですから、離れることはもう二度とありません」

(わざわざ辛い想いや哀しい想いをしなくても、人は誰かを深く愛することが出来るのです。


 ですから、愛する者同士を引き裂く必要などないのです)


「はい」


 リエラとユーリはそれにしっかりとうなずいた。


「他に質問はありますか?」


 スメーラの問いかけに、恋愛鈍感少女、ボケボケを大披露。


「あの、呪いの解き方って何だったんですか?」

(聞こえなかったので、教えてください)


 ユーリは盛大にため息をつき、冷たく言い放った。


「お前、バカだろう」

(どうして、お前に『永遠に成就せぬ愛』なんて呪いかけたんだろうな。

 必要ないだろう、こんな恋愛に鈍感なやつに。

 呪いかけたやつ、本当に頭悪いな)


 呪いの解き方の三つの手順を、順番通りきちんと踏んでいたが、あまりにも自然にここまできたため、リエラは未だにわかっていなかった。


 大暴投クイーン、なぜか納得した。


「あぁ、そうなんだ」

(バカなのが呪いの解き方だったんだね。

 あれ? 何だか変だね)


 首を傾げた愛しの人を前にして、ユーリは幸せそうな顔になった。


(ぷぷぷっ。

 自分でバカだって認めてる)


 スメーラはボケ姫に優しく微笑んで、


「あとで、ユーリ ソフィアンスキーに教えてもらいなさい」

(これが、ふたりのコミュニケーションの取り方なのです)


 他の人から見たら、ユーリがリエラをコケ落としているように見えるかもしれないないが、ふたりとも立場は対等で、愛し合っているからこそ、この表現方法なのだ。神は熟知していた。


 リエラはユーリを見て、素直にうなずく。


「あぁ、はい」

(ユーリはわかったんだね、すごいね)


 スメーラは急にきりっとした顔に変わり、


「それでは、ここまでです」

(まだ、全ては終わっていないのですから)


 右手をすっと上げ、視線をユーリたちの右斜め後方へ向け、


「そちらの扉を出れば、白き丘へ戻ります」

「……??」


 スメーラの視線を辿ってゆくと、入口から玉座へと続く絨毯の右脇に、白い扉が壁のないとことに立っていた。


 スメーラは右手を下ろし、優しい眼差しで、守護するユーリとリエラに、


「ふたりで力を合わせて、生きていくのですよ」

(私は、ここからいつでも見守っていますよ)


「はい」


 ふたりが同時に返事を返すと、スメーラはふたりが無事にドアへ入るのを見届け始めた。


 ユーリはリエラの横顔をそっとうかがい、なぜか奇妙な気持ちにとらわれ、


(そういう……ことなんだな。

 だから……みんな関係してるのか。

 何だか、変な気分だな。

 でも……それでいいんだ。

 みんなが幸せなら、それで)


 セリルとミリアが、眠っているユーリのそばで話していた、複雑な気分だが、みんなが幸せならいいという話と同じところへたどり着き、ユーリはセリルと同じ想いを抱いた。


 リエラはスメーラの感想を素直に、


「すごくしっかりした神様だったね」

(格好良かったね)


 ユーリは両腕を上へ伸ばして、


「そうだな」

(お前とは正反対だな)


 リエラは落ち着きなく、あたりをキョロキョロ。


(本当に不思議だね。

 ドアの中に入ると、壁とか天井がちゃんとあるんだ。

 どうなってるんーー)


 いつまでも帰る気のないふたりの背中を、スメーラは黙ったまま、


(あとがつかえます。

 急いでください)


 それが、ユーリの心に届いたのか、


「ほら、行くぞ」

(考えるな、時間の無駄。

 それに、早く行かないと……)


「……あぁ、うん」

(そうだね、帰らないとね)


 リエラが我に返ると、愛しの人を放置したまま、ユーリは扉の前に立っていた。別に気にした様子もなく、ボケ姫は不機嫌王子のそばへ寄り、ふたりはしっかり手を握って、ユーリはドアノブに手をかけた。


 そして、扉が向こう側へ開かれると、ふたりは来た時と同じように眩しい光に包まれた。


 主役ふたりがいなくなった謁見の間で、スメーラの深い海色の瞳は、急にぼんやりし始め、肘掛にだるそうに、もたれかかったまま、こんな言葉を口にした。


「あれがこうで、それがああだから……こうなります」


 雪の王子の思考回路を真似し始めた。


「だから、白き丘で心を隠したほうがいいと思ったんです。それから、こうでああなのだから、そうなって……、七月七日は、自分たちが狙われなくてはいけないと思ったんです。ですから、これがああなって、それがそうだからーー」


 スメーラはここで、いきなり不機嫌顔になって、


「といういうか、もういいでしょう! いちいち説明するの、面倒くさいんです。譲ります、ありがたく思ってください!」 


 そばで控えていた、せいは資料を持った手を口に当てて、くすくす笑い出した。


 スメーラは元のしっかりした瞳に戻って、少しだけ微笑み、


「では、次を待ちましょうか……」


 まだ、仕事の途中という雰囲気を思いっきり出したまま、元いた右隣の部屋へ戻っていった。お笑いが十分通じる神だった、スメーラは。



 ーー風の音と、土や緑の匂い。

 それらを感じ、ふたりはそっと目を開けた。


 リエラは目の前に広がる景色に、びっくりして、大声を上げた。


「本当だっ!?」

(すごい!! ちゃんと戻って来てるよ)


 ユーリはポケットから携帯を取り出して、


「ん……?」

(七月八日(土)0:03。

 時間止まってたみたいだな。

 さすが神様だな)


 珍しく感心した不機嫌王子の耳に、リエラの大声が突如響いた。


「うわっ!」


 ユーリがそっちに顔を向けると、リエラがなぜか地面に尻餅をついていた。面倒くさがり屋の少年は不機嫌な顔で、


「転ぶなよ」

(突っ込んでやる、ありがたく思え)


 満月の光が髪に、キラキラと反射しているユーリを、リエラは見上げて、


「こ、転んだわけじゃないと思うんだよね……」

(な、何だか足が変なんだよね)


 先走り姫の足はガクガクと震えていた。ユーリはささっと直感と理論で、答えたを導き出して、あきれ顔。


「…………」

(お前、カーバンクルからここまで走って来ただろう。

 すごい健脚……っていうかバカだな、本当に)


 だが、すぐに優しい瞳に変わって、愛する人へ手を差し伸べた。


「手、貸してやる」

(ありがたく思え)


 リエラは笑顔で、婚約者の手をつかんで、


「あ、ありがとう」

(ユーリは優しいーー!!)


 ユーリはリエラを引き上げようとしたが、


(お前、重っーー!!)

「っ!!」


 引き上げられず、ユーリも一緒に倒れ込んだ。婚約者に押し倒されるように仰向けに倒れたリエラは、びっくりして大声を上げた。


「えぇっ!?」

(な、何が起きたの!?)


 芝桜の香りを近くで感じながら、ユーリはため息をついた。


「…………」

(忘れてた……。

 俺も疲れたんだ。

 高熱のせいで、朝から何も食べてなかったんだ。

 お前が重いんじゃなくて、俺のエネルギーが切れてたんだな)


 自分の胸から、リエラの苦しそうな声が聞こえてきて、


「ユ、ユーリ〜……」

(重いよ〜)


 銀髪少年は芝桜に両手をついて、起き上がろうとするが、


(俺、今日働きすぎだな。

 本当だったら、結婚式するだけだったのに……。

 それに、それが終わったら……)


 式のあとにする、夫婦の営みへいきなり、思考が行ってしまったユーリ。リエラを押し倒しているという状況を前にして、銀髪少年はもぞもぞと熱を帯びてきそうな、体の一部分を感じ取って、ドキッとした。


「っ……!」

(お、俺……何だかちょっと……)


 急に動きを止めたユーリを、恋愛鈍感少女は不思議そうに見つめて、


(ん? どうしたのかな? 起き上がらないで。

 何だか、いつもとユーリの様子が違うみたいだけど……。

 えっと……)


 ユーリは銀の長い髪を風に揺らめかせながら、自問自答。


(いいんだよな……しても。

 そうだよな。

 お前、昨日、いいって言ったよな。

 だけど……)


 つかんだまま倒れ込んでしまい、今も触れているリエラの右手。

 芝桜のガザガザとした感触。

 頬を優しくなでる春風。

 降り注ぐ青白い満月の月影。


 それらを感じながら、ユーリは打開策を練る。


(ここ、外だから……。

 そうだな……どうやってするーー)


 野外プレイになりそうなユーリの真下で、リエラの純粋なブルーの瞳に満月の光が注がれて、


「そ、そうだ!!」

(た、大変だぁ!!)


 立ったままとか、座ったままとか色々と妄想中だった、ユーリは盛大にため息をついた。


「…………」

(俺、今、想像中だったのに、邪魔するなよ)


 リエラは足をジタバタさせて、婚約者の両腕から逃げ出そうとし、


「お城、勝手に出てきちゃったから、みんな心配してるよ。急いで帰らないと」

(また、東の森の時みたいに、なってるかも知れないよ)


 ユーリは愛しの姫の耳元に素早く頬を寄せて、幼なじみでもなく、婚約者でもなく、一人の男として、今までと違った感じで、


「帰らなくていいんだ」

(俺が連れて帰るって、連絡いってるから。

 それに、今日はこのまま離れたくないんだ)


 一線越えようとしている、不機嫌王子の男の香りを嗅いで、リエラはドキっとした。


「えっ、でも……」

(本当に、どうしたのかな? ユーリ)


 銀髪少年は、恋愛鈍感少女を押し倒したまま、夜風と月光りを感じながら、戸惑い気味に、


「……お、俺の……部屋に来いよ」

(ここじゃ、いつ、誰が来るかわからないからないし……。

 落ち着いて、したいし……)


 シーツの海へと、愛しの姫をいざなった。


 さっきからずっと、大人の階段を踏み外しているリエラは、目が点になって、


「えっ?」

(同じ部屋は、ダメだったんじゃないの?)


 ユーリはリエラの髪を、なまめかしくなで、


「いいんだ、もう。結婚するんだから」

(同じ部屋で過ごしても。

 だから、すごくしたいんだ)


 思いっきり下心ありありの、ユーリに気づくことなく、リエラは大きくうなずいた。


「やっぱり、そうだったんだね」

(『さよなら』には、別の意味があったんだね)


 細かい説明をいちいちしなくても、自分のことを理解していたリエラ。やっぱり、自分の愛した人だと、この人しかいないと、ユーリは思い、幸せな気持ちで、


「そうだ」

(お前、俺のことよくわかってる。

 あとで、セレニティスにもお前にも、ちゃんと理由を説明しないといけないな。

 だけど、今はこっちが先。

 だから……)


 国交問題よりも、自分の色欲を満たす方が先でいいと、国王代理、ユーリはさくっと判断。リエラの瞳を真っ直ぐ見つめて、真剣な顔で、こんな言い方をした。


「お前が欲しいんだ」

(本当は今頃、そうだったんだ。

 あれがそうじゃなかったら……今頃、してたかも知れないんだ)


 元老院に毒が巻かれていなければ、滞りなく結婚式も終わって、深夜のこの時間帯だったら、とっくに初夜を無事に終えていただろう。恋愛鈍感少女、思いっきり聞き返して、


「えっと……どういう意味?」

(欲しい?)


 ユーリはここで、やっと、昨日のプロポーズの話が、全然亮に通じていなかったことを知り、盛大にため息をついた。


「…………」

(やっぱり……。おかしいと思ってたんだ。

 恋愛に鈍感なお前が、学習してるわけがない)


「あ、あの……」

(ため息をつくって意味なのかな?)


 純情なユーリは顔を赤くして、ぼそっと、


「……キスの先」

(そういう言い方でいいだろう)


「キスの先……?」


 リエラはなぜか、自分の上に覆いかぶさっているユーリの、後ろに広がる星空を見上げた。物理的な意味にとってしまった。キスをしたユーリの先に広がる景色へを純粋な瞳いっぱいに映して、


(空と星と月がキスの先?

 あれ? 欲しいって言ってなかったっけ? ん?)


 大人の情事をボケ続けている、婚約者を押し倒したまま、ユーリはため息をついた。


「…………」

(俺、結婚相手、間違ったかも知れない……)


「え……?」

(ため息をつくことが、キスの先?)


 きょとんとしたリエラに、ユーリは珍しく微笑んだ。


(……ていうのは、冗談。

 有り得ないほどボケてる、お前のことが好きなんだ。

 愛してるんだ。だから……)


 ここでやって、主役としての役割を果たし始めた。ユーリはリエラを優しく見つめて、静かに、


「教えてやる」

(俺がお前に。

 そうじゃないと、俺が困るから)


 リエラは屈託のない笑顔でうなずいた。


「うんっ!」

(ありがとう、ユーリは優しいね)


 銀髪少年は地面から手を離して、さっと立ち上がった。


「帰るぞ」

(城までとにかく、我慢だな)


 リエラは起き上がって、不思議そうな顔で、


「え、今じゃないの?」

(ここで教えて欲しいんだけど……。

 お城まで答えがわからないのは、気になるんだけどなぁ)


 ユーリは別に気にした様子もなく、婚約者を起こすため手を出し、


「部屋でゆっくりしたいんだ」

(ここじゃ、いつ人が来るかわからないだろう。

 俺、人に見せる趣味ないからな)


 リエラは花婿の手を取って、すっと立ち上がった。


「あぁ、そうなんだ」

(ユーリ、疲れてるんだね。

 だから、部屋でゆっくり休みたいんだ)


 会話がかみ合わないまま、ふたりは白き丘を歩き始めた。


 ユーリはつないだ手から、愛する人の温もりを強く感じて、


「兄さんたちが心配してる」

(もう、みんな家族なんだ)


「うんっ!」

(もう、みんな家族なんだね)


 リエラも愛する人の言葉に、元気にうなずいた。向こうの世界では、家族ではない四人。それなのに、新しい家族となった幸せが、この先もどんどん広がってゆく。


 同じ空気に包まれたふたりに、満月の青白い光が優しく降り注いでいた。


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