表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
51/55

最期の時

 ジュレイテに到着したユーリは、まず医者に解毒剤を飲ませ、次に国王と王妃に。それから、主要な部下たちに飲ませて、輝水山に中和剤を急いでまいた。


 しばらくすると、飲ませた順に全員回復していった。


 動ける部下が出てきたところで、国王代理は彼らに命令を下す。


「あとは頼む」

(俺は指揮を取るから、あとはお前らに任せる)


 国王代理は残りの解毒剤を手渡し、執務室へすぐに入った。しばらく、報告を聞いたり、指示を出したりで、慌ただしい時間が過ぎていった。


 気がづくと、手元の時計は、十一時半を回っていた。


(もう……こんな時間か。

 今日は一日、長かったなぁ。はぁーー)


 一息つこうとすると、部下が報告にやって来た。 


「ユーリ様、街の者全てに薬が行き届きました」


 ユーリは椅子にもたれかかったまま、


「そうか……」

(ずいぶん、行動するの早くなったな。

 ちゃんと学んでるみたいだな)


 国王代理は少しだけ微笑んで、部下に優しく、


「さがっていい」

(今日は疲れてるだろう。

 ゆっくり休め)


 部下はユーリに一礼して、部屋から出ていった。一人きりになった部屋で、ユーリは窓の外に目を向け、ほっと一息つく。指示語だらけの思考回路でたどり着いた、She mayのふたつ。そのひとつ終え、


(俺のやるべきことのひとつは、とりあえず一段落だな。

 もうひとつーー)


 スミレ色の瞳が机へ落とされると、そこに古びた一冊の本が。さっきまでなかったし、見たこともない、怪しげな本に、ユーリは平然と手を伸ばして、


(ふーん)


 ぼんやりした瞳で、ページをめくる。


(『最期の書』……?

 誰の最期だ?)


 次のページを開いて、


『雪の王子と恋に落ちた人魚の娘は 十八の誕生日に 白き丘にて 息絶える』


 その文字が目に飛び込むと、ユーリの内側に優しく凛とした声が初めて響いた。


『なんてことでしょう。……とは、私は許せません。彼の者にかけられた呪いは、永遠に成就せぬ愛と、十八までの命。あなたに、この呪いを解く意思があるのなら、その機会と方法を与えましょう。今から五千年後に……うでしょう。……十八の誕生日までに……』


 不機嫌王子は別に驚きもせず、本をパタンと閉じた。ひじ掛けにもたれかかり、降り出した雪をぼんやり眺めながら、


(ふーん。そうだな……あれがそうで、これがああ……?

 だから、もういいんだな)


 この本がここにあり、呪いの解き方の声が今聞こえたということは、ある結論が出てくる。ユーリは指示語だらけの思考回路で到着。


 その時、部屋のドアがノックされた。ぼんやり眼のまま、ユーリは、


「はい」

(兄さんと義姉さんだろうな)


 呪いの解き方の声が聞こえて来たということは、関係している人にも何か変化があっても不思議ではない。しかも、期限は今日。呪いは解けていないのは明らか。解けていたら、解き方の声が今頃、聞こえてくるはずがない。


 ドアが開くと、ユーリが予想した通りカータとアイシスが入って来た。


 少し曇りがちな表情をしているふたりを見て、ユーリは国王夫妻が何をしに来たのか判断。


(そうだよな。

 俺の夢が、鮮明になったんだ。

 だから、兄さんたちの夢もーー)


 不機嫌王子、珍しく自分から口を開いた。


「どんな夢だったんですか?」

(兄さんと義姉さんが見てたものは)


 自分たちが話そうとしたことを先に言われたので、カータとアイシスは顔を見合わせた。


(やはり、ユーリは気づいていたようですね)

(さすが美少年は違うわ)


 美少年ゲッター、違う理由で納得。カータがゆっくりと、


「君が死んだリエラちゃんを見つめて、泣いているものでした」

(昨日まではぼんやりしていましたが……先ほど鮮明になったんです)


 アイシスが夫の言葉の後を引き継ぐ。


「それを私たちは後ろから見ていたの」

(だから、もうあまり時間がないんじゃないかと思ったのよ。

 リエラが死ぬまでに……)


 カータとアイシスは、亮の十七歳の朝に、同じ夢を見ていた。セリルとミリアも見ていたが、また違う場面。


 ユーリは視点の合わない瞳で、ぼんやりと相づち。


「そうですか……」

(特定の人間にしか夢を見せていないのも、作戦なんだろうな。

 そんな感じがする。

 ということは……)


 不機嫌王子が判断した通り、これは優しい声の人の作戦でもあり、Enemyの要求でもある。多くの人が関わればいいというわけではない。自分たちが早く解決すれば、ゲームに勝利できるというわけではない。微調整されている、世界は。


 そのため、世界の移動にともなう、記憶の喪失が発生している。移動する日時まで、全部計算済みなのだ、誰かによって。


 ユーリは半ば答えを予測しながら、カータとアイシスに質問。


「呪いの解き方は聞きませんでしたか?」

(俺とリエラにしか伝えてきていない。

 そんな感じがする)


 呪いについては、メインの王子と人魚姫しか関係ない。他の人に聞かせる必要もないし、聞かせたところで、呪いの解き方からは、逆に遠ざかってしまう。余計なことはしない、優しい声の持ち主は。


 もちろん、カータはアイシスに顔を向けて、


(聞きましたか?)


 アイシスは残念そうに、首を横に振った。


(聞いてないわ)


 カータは愛する人から視線を弟へと移し、


「いいえ、聞いてません」

(私たちは知りません)


 ユーリはため息まじりに、


「そうですか……」


 未だにマジボケしている雪の王子。窓の外へ、スミレ色の瞳をやって、


(セリルのやつ、このふたりにも教えてないんだな。

 これだけが、未だにわからないんだよな。

 さっき聞こえてきた声も教えてこないし……。

 どういう解き方なんだ……?

 そうだな……あれがこうで……それーー)


 親友が教えてこない理由を、スルーしまくっている国王代理の執務室のドアが、ノックされた。


「何だ?」


 返事に応え、慌てた様子の従者が入ってきて、


「ユ、ユーリ様!! た、大変でございます!」


「どうした?」

(お前、いつも同じ反応するな)


 ユーリは落ち着いた様子で、視線だけ向けた。従者は息を整えながら、


「リ、リエラ様が、城にいらっしゃらないそうでございます!」

(朝から行方不明になっておられるそうでございます)


 カータとアイシスはそれぞれの反応を見せた。


「そうですか……」

(一体、どちらに出かけたのでしょうか?)


「そう……」

(また、前向きに解釈して、一人で出かけたのね)


 ユーリは足を組み変えて、興味なさそうに、


「ふーん」

(それは知ってる)


 今日、結婚式があるはずだった姫が行方不明という状況下で、驚きもしない王族三人を前にして、オーバーリアクションの従者はあぜんとした。


「あ、あのぅ……?」

(なぜ、みなさまはこれほどまでに落ち着いていらっしゃるのでしょうか?)


 ユーリはため息をついて、窓の外に再び顔を向けた。


(呪いの解き方、探しに出かけたんだろう。

 それぐらい予測つく)


 机の上に置いてある、四角いものに手をかけようとして、


(携帯……は、持っていってないだろうな。

 俺たちの敵に落とされた感じがとてもする。

 だから、連絡はつかない。

 城も一人で抜け出せるようになってたんだろう。

 でも、それが俺の作戦だったんだ。

 こうならなかったら、俺かリエラのどっちかが、もっと前に殺されてたかも知れないんだ)


 呪いを解くことが最終目標のひとつ。解き方の手順は三つ。ひとつ目をユーリとリエラはクリアしてしまっている。非常に危険な状態。殺されていても何の不思議もない。またもや、ユーリの作戦に敵は引っかかってしまった。


 ユーリはところどころに指示語を挿入して思考回路を展開。


(敵の望みは、あれだろう?

 敵に攻撃されないためには、そういう振りをした方がいいと思ったんだ。

 だから、リエラに『さよなら』って言ったんだ。

 あいつ、馬鹿みたいに前向きだから、きっと本当のことだと思ってない。

 それに、昨日、ちゃんとプロポーズした。

 だから、おかしいとリエラは思ってる。

 そんな感じがする)


 ユーリは軽く目を閉じ、ミラクル天使を思い浮かべ、


(昨日のことは、ルーの作戦だったんだろう。

 ……サンキュ)


 目をさっと開けて、美しい紫の光を放っている輝水山を眺める。


(それに、もっと相手を油断させるため、毒もわざと飲んだ。

 さっき、呪いの解き方を教える声が聞こえてきたってことは……あれがそうで、それがこうだから……。

 ーー敵は直接手を出さなくなっている。

 そういうことになっている)


 世界の危機は去ったと判断した、雪の王子は。


 ユーリは『最期の書』を見つめて、あきれ顔。


(本当に甘いよな、悪って。

 これじゃ、相手にヒント与えてるのと変わらないだろう。

 あれがこうで、それがああだから……?

 『白き丘』がどこだかわからなくて、俺が慌てると思ったんだな。

 それを見て、敵は楽しもうとしたんだろう。

 欲望を満たそうとすると、隙が出来るんだ)


 静かに舞い落ちる雪を、ユーリは見上げて、


(まだ思い浮かべてないことが、ひとつあったんだ。

 俺……思い出したんだ。

 あの白い花が咲いてるところで、鐘を見上げた時ーー)


 この世界に来るようになってから何度も見る夢が、ユーリの脳裏に浮かんでいた。


(それで気づいた。

 ここが、夢に見てる場所だって。

 だから、『白き丘』はあの場所。

 それに、ああでこうなんだから、他にも重要な意味があると思った。

 あれがこうで、それがああ……?

 だから、今リエラがどこにいるのかもわかる。

 あれがそうで、それがああなるんだから……あいつが今いる場所は……)


 敵のユーリに対する作戦は、全部失敗に終わった。残るは、人魚姫の呪いだけだ。


 カータがずっと考え込んでいる弟に、優しく、


「ユーリはリエラちゃんの居場所を知ってるんですね?」

(全て、君の計画の範囲内だったんですね、今回のことは)


 弟は我に返って、相づち。


「……はい」

(『白き丘』にいる。そうなる。

 だから、必ずそこにいる。

 そんな感じがする。

 だけど……)


 未だに、呪いの解き方の手順、二番目と三番目をボケ倒しているユーリの横顔に、アイシスが、


「そばにいった方がいいんじゃない?」

(ここにいても、呪いの解き方は見つからないわよ、きっと。

 そんな気がするわよ)


 ユーリの中で、セリルの言葉をふと蘇った。


『今日中に……会いに行けよ』


 十八の誕生日ーー七月七日は、あと一時間もない。ユーリはぼんやりしたまま、


(とにかく、会わないと、解けないんだろうな。

 白き丘に行ってから、考えた方がいいな)


 不機嫌王子はすっと立ち上がって、国王夫妻に、


「俺、行ってきます」

(あいつの呪いを解きに。

 もう、二度と失いたくない。

 そのために、俺は生まれ変わったんだから)


 愛する人を再び失くさないために、ユーリはドアへ向かい、


「いってらっしゃい」

(間に合うと信じてますよ)


 カータとアイシスは揃って、温かい笑顔で送り出した。


 ユーリは携帯を片手に、執務室を飛び出し、


(十一時四十五分……。

 あと十五分。

 白き丘まで、ギリギリだな)


 雪の王子の中で、リエラにかけられた呪いのひとつが、焦燥感へと招き入れるように、ぐるぐるとめぐる。


『永遠に成就せぬ愛』


(呪いの解き方がわからないうちに……リエラが……)


 無意識化で、ユーリの思考は急転。意思の強い眼差しを玄関へと向けて、


(いや……間に合う感じがする。

 どうしてだか、わからないけど……)


 雪の王子はエアバイクに素早く乗って、白き丘へ走り出した。



 雪のように真っ白な地面。

 リエラのドレスは、春風に揺れていて。


 呪いかけられし姫は、目の前にどこまでも広がる、星空を見上げ、


(今、何時なんだろう?

 困ったなぁ。でも……)


 降り注ぐ青白い光りに、何か安心するような、自分に似ているようなものを感じて、少しだけ微笑んだ。


「綺麗な満月だなぁ」


 そこで、リエラの脳裏にあの夢が鮮やかに蘇った。


 胸に激痛が走り、苦しみながら死んでいく夢ーー

 大切なことを伝えたくて、伝えられなくて……。


 ぼやけていて見えなかった相手の顔が、今はっきりと輪郭を持った。


 澄んだスミレ色の瞳をした銀髪の少年。


 リエラは足下の白い花に視線を落として、その人の名をつぶやく。


「ユーリ……」

(だったんだね……。

 伝えたかったことも、今ならわかるーー)


「ーーリエラっ!」


 自分の背後から、不意に聞こえた不機嫌な声に、呪いかけられし姫はびっくりして、


「え……?」

(誰?)


 慌てて振り返ると、ユーリが自分に向かって走ってくるところだった。合理主義者で、面倒臭がりの不機嫌王子が走ってくるなんて、珍しい。銀髪少年は右手に持っていた携帯を見て、


(あと、二分ないのか……)


 息を切らしているユーリの横顔を、リエラは不思議そうに、


「どうして、ここに?」

(何でわかったの?)


 あまり運動神経がある方ではない、銀髪少年は何も言わず、両膝に手を置き、ぜえぜえと息をして、心の中で盛大に文句。


「…………」

(話しかけるなよ、走ってきたんだから。

 それに、全部、説明するの面倒くさい。

 放置してやる、ありがたく思え)


 人が死ぬかもしれないという時に、態度デカデカで放置とは。どこまでも俺様なユーリ。


 リエラは目をパチパチ。


(だ、大丈夫かな?

 ずいぶん疲れてるみたいだけど……)


 ボケ姫もボケ姫で、自分があと少しで死ぬというのに、不思議がっている場合ではないだろう。


 雪のように咲き誇る芝桜を視界に映したまま、ユーリは息を整える。


「…………」

(最後にここで走るなんて、思ってなかった。

 ちょっと間違ったみたいだな。

 ここ、バイクで乗り入れられないんだ。

 どうしてだかわからないけど……)


 鐘の意味は理解したのに、ここが神聖な場所だとは、ユーリは気づかなかった。白き丘は特別な場所で、カーバンクルの科学技術では入ることが許されていない。


 何とか息を整えたユーリは、上体をすっと起し、リエラの両肩に手を置いて、


「呪いの解き方わかったか?」

(ここまで来ても、やっぱりわからないんだ。

 お前、わかったか?)


 呪いかけられし姫は残念そうに、首をゆっくりと横に振った。


「ううん」

(ここに来ればわかると思ったけど、わからなかったよ。

 それから……)


 リエラは戸惑い気味に言葉を続けようとして、


「私……」

(もう少しで、死んじゃうんだよね)


 ユーリは人魚姫が全てを言い終える前に、両腕で優しく抱きしめた。リエラの髪をなでながら、耳元で、


「知ってる」

(あの夢と同じようになりたくないんだ。

 お前をもう二度と、なくしたくないんだ。

 このままそばに……一緒に生きていきたいんだ。

 だけど……呪いの解き方がわからないんだ)


 呪いの解き方に未だたどり着けないユーリとリエラ。期限はどんどん迫ってくる。呪いかけられし姫は、呪いを解いてくれる王子の鼓動を聞きながら、小さく、


「……うん」

(どうすればいいんだろう?

 そばにいたいのに……また離れちゃうね、このままじゃ)


 ユーリはリエラの肩越しに、ぼんやりと景色を眺めて、


(俺……前に聞いたことがあるんだ。呪いの解き方。

 だけど、思い出せないんだ。

 そうだな……あれがそうで、それがこーー)


 指示語だらけの思考回路が結論に到達する前に、右手に持っている物を見つめていることに気づいた。ユーリは無意識化でした、自分の行動に首を傾げて、


(ん? 俺、何でこんなことしてるんだろう?

 ……まぁ、いいか)

 不機嫌王子の視線の先の携帯はーー七月七日(金)PM11:59。

(残り一分……ない)


 ユーリは足下に広がる真っ白な芝桜を、ピンボケしたまま見渡して、


(そうだな……?

 これが最期になるかも知れないんだよな。

 もう、会えないかも知れない……。

 数十秒で出来ること……)


 リエラを強く抱きしめて、ユーリは呪いかけられし姫のぬくもりを感じながら、ここで、ちょいエロモードへ。


(あれは出来ないから、せめてそれだけでも……)


 王子は人魚姫を自分から少しだけ離し、真っ直ぐ自分の願望を告げる。


「キスがしたいんだ」

(お前と)


 いきなりの言葉に、リエラはきょとんとした。


「え……?」

(キス……?)


 ユーリは優しい瞳で人魚姫を見つめ、リエラの頬を手で触れ、


「お前のこと愛してる」

(今までもこれからも、ずっと。

 もう一度、お前に伝える。

 あの時ーー五千年前と同じように)


 リエラは自分の頬に触れている、ユーリの手をつかんで、


「うん、私も愛してる」

(今までもこれからも、ずっと。

 これがずっとーー五千年間、伝えたかったことだよ)


「だから……」

(最期にしたいんだ)


 ユーリは少しかがんで、目をそっと閉じた。リエラも目を閉じ、王子の唇に近づき、


「……うん」

(私も……)


 そして、ふたりは青白い月影に照らされながら、キスをそっとした。

 

 さよなら、愛しい人。

 また、会える時まで……。


 優しい風がふたりの髪を揺らし、何かの終わりを告げるように鐘が鳴り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ