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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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それぞれの想い

 セリルは夕暮れに染まりかけた空から、手元の時計に視線を落とした。


(……六時か)


 未だに自分のベッドで眠っているユーリの寝息に耳を傾け、隣にいる人に、 「なぁ、マジで大丈夫なのかよ?」


(明日まで、起きねぇんじゃねぇよな?

 オレらの勘が外れてるってことも、あっからな)


 胸元の大きく開いたドレスで、腕組みをしているミリアが、悪戯っぽく、


「あら、あたしのこと信用してないのかしら? お兄さまは」

(あんた、本当心配性だよね。

 もう少ししたら、目覚めるよ)


 セリルは気まずそうに、珍しくぼそぼそと、


「そういうわけじゃねぇけどよ……」

(心配になっちまうんだから、仕方ねぇだろ。

 ユーリにも、リエラにも死んで欲しくねぇからな。

 ……オレにとって大事なやつだかんな、ふたりとも)


 ユーリの顔をのぞき込んで、


「それにしちゃ、ずいぶん寝てねぇか?」

(こいつがここに来たのが、昼前だろ?

 倒れたあと、すぐにミリア呼んで、解毒剤作って戻って来たのが、一時過ぎ。

 今は六時……。

 もう五時間以上、眠ったままじゃねぇか。

 オレじゃなくたって、普通心配すんだろ)


 ミリアは意味あり気に、兄を見た。


「彼の作戦かも知れないよ」


 セリルは素早くツッコミ。


「いやいや、それはねぇだろ」

(こいつ、気ぃ失ってんだろ。

 だったら、そこまで計算できねぇだろ)


 ミリアが軽い感じで聞き返した。


「そう?」

(計算してないつもりが、計算してた。

 なーんてことが、ユーリにはよくあるでしょ?)


 無意識化で策を張ってくる、ユーリに視線を落として、セリルはあきれたようにため息。


「……はぁ〜」

(すげぇ複雑だな、お前の思考回路って。

 敵が放置したくなんのも、何となくわかんな。

 複雑すぎて、ついていけねぇんだろうな)


 ここまで、順調に進んできたことの要因のひとつ。放置されていたから、世界は狙われなかったのだ、今まで。世界の仕組みがわかれば、狙ってこない理由がわかる。敵も忙しいのだ、何かと。


「……ラ」


 眠っていたユーリが、何かをつぶやいた。セリルは意識を取り戻したのかを思い、身を乗り出し、


「おっ、目ぇ覚めたか?」

「……エラ……リエラ」


 ユーリの寝言をはっきりと聞き取ったセリルは、口の端を少しゆがめ、こんな言葉を口にした。


「……お前も……か」

(マジでおかしなことになってんな)


 ミリアは意味ありげに少しだけ微笑で、


「あんたも複雑だね」

(相手の作戦、なんだろうね。

 あんたに手助けさせるようにしたのは)


 敵の作戦は失敗したようだ。Enemyと彼らは、レベルがあまりにも違いすぎて、関係している人たちの言動が全く理解できなかった。だが、力の差はありすぎる。開かない扉を開け、人魚姫に十八までの命という呪いをかけてしまうのだから。


 ユーリにはふたつのShe mayが課せられている。まだ、どちらも解決していない。リエラにもひとつShe mayが課せられている。それも解決していない。このまま行くと、七月八日を迎えられない。


 ルーから世界の仕組みを聞かされた、セリルは、少し照れたように、


「……別に、複雑じゃねぇだろ」

(みんなが幸せなら、それでいいんだよ)


 妹は暮れかけている空を見上げて、静かに相づちを打った。


「まぁ……そうだね」

(あたしもそう思うよ。

 みんなが幸せなら、こういうこともありでしょ)


 セリルは窓の外に目を向けて、ぽつりと、


「どんな感じなんだろうな……」

(……想像つかねぇな)


 ミリアはオレンジ色に染まった兄の横顔に、


「落ち着きないだろうね」

(簡単に想像つくでしょ)


 天才少女から、シリーズ2の予告が出てきた。セリルはにやりと笑って、妹へ振り返って、


「お前は、どうなんだよ?」

(好きなやつ、いんのかよ?) 


「あたし……?」

(何、興味があんの?)


 地球では親友同士だ。こんな話出てきても不思議ではない。聞き返してきたミリアに、セリルは軽快に相づち。


「おう」

(兄としては、お前のこと心配だぞ)


 ミリアは考える振りをして、


「そうだね……?」

(気になる人……か。

 いないでもないけどね……)


 セリルは誰だか直感して、椅子から立ち上がった。


「あいつか!?」

(優雅な微笑み浮かべながら、平然と罠仕掛けてくるやつか!?)


 赤髪青年の脳裏に、瑠璃色の髪を持つ、八神の姿が浮かんでいた。

 大げさに驚いた兄に、ミリアは妙に感心。


「あんた、取りこぼさないよね」

(あたしの前振り、必ず拾うよね)


 セリルは再び椅子に腰掛けて、頭の後ろに両腕を回した。


「おう」

(お前も、いい前振りするじゃねぇか)


 カーバンクル兄妹はお互いを見つめて、笑い合った。


(オレには恋愛よりも、笑いだな)

(あたしも、まだ研究の方が楽しいね)


 星が瞬き始めた、カーバンクルの夕空を、兄妹は見上げていた。


 

 ミリアが部屋を出ていったあとすぐに、ユーリは目を覚ました。


「やっと、覚めたな」

(マジで心配したぞ)


 セリルの声を聞いて、ユーリは目をゆっくり開けた。自分をのぞき込んでいる人と、見慣れない天井を見つけて、


「……ん?」

(誠矢? ……どこだ、ここ?)


 記憶が飛んでしまっているユーリに、セリルはさっそくツッコミ。


「いやいや、セリルだって」

(起きて早々、いいボケしてくるじゃねぇか。

 倒れる前に、思いっきり笑い取っただろ、忘れんなって)


 ユーリは意識がはっきりしてきて、小さな声で、


「……あぁ、そうか」

(お前の前振りに付き合ったんだった)


 カーバンクル皇子は、ジュレイテ国王代理の前に小さな箱を差し出し、


「持ってくんだろ?」

(ジュレイテ全員分の解毒剤と中和剤、全部入ってんぞ。

 伸縮自在だかんな)


「……あぁ、サンキュ」

(寝てる間に作ってくれたんだな)


 ユーリはのろのろと起き上がり、それを受け取った。そして、窓の外の薄闇を見つけて、


「今、何時だ?」

(日が暮れてる……)


 セリルはスポーツウォッチをちらっと見て、


「七時過ぎだ」

(あと、五時間弱だ。

 ーーリエラが死ぬまで)


 ユーリは盛大にため息をついた。


「……そんなに寝てたのか」

(計算狂ったかも知れないな)


 セリルは親友の心を感じ取って、びっくりし、


「あっ!?」

(間に合わねぇみてぇなこと、言うなって)


 オーバーリアクションの親友を前にして、ユーリはあきれ顔。


(……お前って、大変なんだな。

 言ってないことまで感じ取って、心配したり、大騒ぎして。

 面倒くさい生き方だな。

 教えてやる、ありがたく思え)


 セリルは軽い感じで、


「おう、サンキュウな」

(お前にしては珍しいな)


 面倒くさがり屋なユーリが、教えてくれるという、あり得ない光景。セリルは期待しながら、親友の言葉を待った。すると、銀髪少年は得意げな顔で、こんなことが返してきた。


「あれがそうで、これがああなんだから、そうなるだろう」

(これでわかるだろう)


 指示語だらけの思考回路を口にされても、理解不可能。セリルはガックリと肩を落とし、珍しく盛大にため息をついた。


「だから、それじゃ言う意味がねぇだろ」

(お前、わざとやってんな。

 いい前振りするじゃねぇか。まぁ……)


 直感型セリルは口の端でにやりとし、ユーリに目で合図。


(……お前が本当に言いたいことは、わかったぞ。

 それで……あってんだな)


 敵の目がこっちに向かってきている以上、できるだけ攻撃されないように防がなといけない。だから、ユーリは指示語だらけで、セリルに伝えたのだ。


 ユーリが起き上がると、サラサラの銀の髪が、下へすとんと落ちた。


「ジュレイテの人たちは?」

(まだ、間に合うのか?)


 セリルは得意げな顔で、


「大丈夫だって。すぐ死ぬような毒じゃねぇから、一週間も放置しなければ死人は出ねぇぞ」

(悪の美学は守ってたらしいぞ、元老院のやつら)


 ブーツを履き始めたユーリの横顔に、カーバンクル皇子は、


「あと、愛姉は人魚だから、症状の出方が違うらしいぞ」

(心配する必要ねぇって、ミリアが言ってたぞ。

 お前の予想した通りだったな)


 ユーリは外の大きな建物を見て、あきれた顔。


「そうか」

(本当に、無駄の多いやつらだな。

 一週間も敵に時間与えたら、必ず反撃されるだろう。

 そうなったら、たくさんの人がもっと傷つくんだ。

 どういう心理だよ、まったく)


 荷物をまとめ出したユーリに、セリルは真剣な眼差しで、


「今日中に……会いに行けよ」

(お前が悲しむのも……リエラのやつが死んじまうのも……オレは嫌だかんな)


「ん?」


 ユーリは手をふと止めて、顔を上げた。自分を見つめている、わかりやすい親友を前にして、


「…………」

(お前……リエラに何の呪いがかけられてるのか、知ってるんだな。

 それに、解き方も知ってる。

 そんな感じがする。

 でも……何で言ってこないんだ?)


 セリルは視線をはずして、ため息をついた。


「…………」

(だから、言ったら解けなくなるかも知んねぇんだって。

 解き方、結構複雑なんだよ、ある意味な)


 誰かが言ってしまったり、本人たちが気づいてしまうと、呪いは解けない仕組みになっている。


 ユーリは目を細めて、なぜか親友から書斎机へ、スミレ色の意志の強い瞳を落とした。


(言いたくないなら、聞かない。

 それ……サンキュな)


 いきなりお礼を言ってきた親友の心を感じ取って、セリルは慌ててユーリへ顔を向け、


「あぁ?」

(お前、何に感謝してんだよ?)


 ユーリは隠し扉に手をかけて、珍しく満足げな顔で、


「前振り終了」

(お前、小さい頃から一緒だよな)


 親友の唐突すぎる言葉に、セリルは不思議そうに、


「あぁ? だから、何だよ?」

(何が、ガキの頃から一緒なんだよ?

 何の前振りだって?)


 ユーリはスルーして、短く別れを告げた。


「じゃあ」

(笑い取らせてやる、ありがたく思え)


 セリルは頭の後ろに両腕を回して、軽い感じで、


「おう、気をつけろよ」

(おう、サンキュウ……な。

 思いっきり笑い取んぞ)


 隠し扉が閉まったと同時に、前振りをされたセリルは大声を上げた。


「あっ!? あいつ、どっから入って来たんだよ?」

(ここは城だって。侵入すんの不可能だろ)


 ユーリが当たり前のように出て行った隠し扉を指さして、


「ここか!?」

(今、思いっきり普通に出ていったじゃねぇか)


 不可能な出来事が起きていることに気づいて、カーバンクル皇子、素早くツッコミ。


「いやいや、ここは無理だろ」

(オレらカーバンクルの皇族の血で封印されてんだって。

 ジュレイテ王族のお前には開けられねぇだろ。

 お笑いじゃなくて、ただの謎解きになりそうになってんーー!!)


 そこで、セリルの背筋が凍りついた。大声を上げて、飛び上がり、


「あぁ!?」

(また、すげぇ強力なやつ来た!!)


 直感したーー王子なのに姫のことを口にする。


「ここ開けたの、あのユーリにいつもついてたやつだな」

(輝水山はオレらの敵が開けたけど、ここは違う気ぃすんぞ。

 そうだろ?

 ここ開けちまったら、ユーリとリエラを手助けすることになっちまうんだからな。

 あの目に見えねぇやつ、敵じゃねぇからな。

 オレらとは条件違うみてぇけどな)


 敵も動いているのだ、味方も動かないと、負けてしまう。悪寒をなんとか振り払って、お笑い青年はさらに、


(まぁ……まだまだ突っ込むとこは、いっぱいあるかんな)


 セリルはまた、ツッコミモードに突入。


(つうか、何で開いてるってわかってたんだよ? ユーリのやつ)


 その頃、カーバンクル城から離れていくユーリが、珍しく微笑んでいた。


(いくら考えても、突破するいい方法が浮かばなかったんだ。

 だけど、ジュレイテ城を出る時、開いてるような感じが急にしたんだ。

 どうしてだかわからないけど……そんな感じがした)


 セリルは親友の心の内を予測して、口の橋をにやり。


(で、来たら、マジで開いてたんだろ。

 お前の勘は相変わらず、すげぇな)


 カーバンクル城の警備はそんなたやすいものではないことに気づいて、セリルは巣に戻った。


「あぁ?」

(おいおい、突破するとこ、他にもいっぱいあんだろ。

 『そんな感じがした』っていう勘だけじゃ、全部は突破出来ねぇだろ。

 どうやってーー!!)


 セリルはそこで、ユーリの勘と理論のすごさをを思い知らされる。


「あっ!?」

(あの最初に、ここに来た時ーー

 ユーリのやつ、納得ばっかしてんなって思ってたけど……。

 あれ全部、潜入するための下調べだったのか!?

 防音壁も、伸縮可能なハシゴも。

 ハシゴ、購入していきやがったな、カーバンクルで。

 あいつに偽名の入国許可証渡したの、失敗だったかも知んねぇな。

 マジで、潜入するために利用すんなって)


 セリルは机の上にさっきまでなかった、一枚の赤い獅子の紋章の入ったケードを見つけて、


(帰り際の、礼ってこれのことか!?)


 見事なまでに、ジュレイテ国王代理の作戦にはまってしまった、カーバンクル皇子はガックリと肩を落とした。


「あいつ……。あん時、『あとで持ち帰るか」って言ったのって……」


 カードを手に取り、盛大にため息をつき、


「オレのカードキーだったのか……」

(どうりで、あの日からどこにもねぇと思ってたんだよ。

 いつ、どうやって盗ったんだって)


 初めてカーバンクルへ来た時、エレベータを乗る前に、ユーリがセリルの着ている革ジャンに視線がいっていたのは、カードキーがエレベータを作動させるのに必要だと直感したからだった。


 城の隠し扉だ。そんなたやすい方法ではない。セリルは何かに気づいて、ふと動きを止めた。


「……つうか、待てよ。ここのエレベータ使うには、暗証番号いんだろーー!!」


 ここで、ユーリの前振りーーさっきの言葉が鮮やかに蘇った。


『お前、小さい頃から一緒だよな』


 意味がわかって、セリルは大声を上げ、


「あぁ!? オレの暗証番号知ってんのか、あいつ」

(確かに、ガキの頃から一緒だけどよ。

 何で、知ってんだよ!? あぁ?

 待てよ、それでも、エレベータ使えねぇだろ。

 音声認識、必要ーー!!)


 『セリル グェンリード』という名前を、セリル自身が言わないと、エレベータは操作できない。それなのに、セリルの部屋へ入ってきたということは、赤髪青年、直感した。うっかりユーリに渡してしまったあるものを思い出し、またため息。


(……携帯まで利用されちまってんぞ。

 あれ渡した日、何度もオレの名前聞いてくっから、妙だと思ったんだよ。

 録音してたんだな。

 それ使って、音声認識突破……か。

 マジで油断も隙もねぇな)


 セリルは口の端でにやりとした。


(すげぇ長い前振りだったな。

 全部突っ込んでやったぞ)


 セリルは夕闇に染まり始めた大きな建物へと、真剣な眼差しを向けて、


(ここまでだな……笑い取んのはな。

 こっからは真面目にやらねぇと……な。

 人を平気で傷つけるやつは、許せねぇかんな)


 重要なポジションにいる、セリルは自分のもうひとつのShe mayを果たすことに全力を尽くし始めた。

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