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訪れる影
とあるビルの最上階から、街を見下ろしている男がいた。艶かしいジャズが薄暗い空間に流れ、モルトのグラスを傾けている。
立派な椅子の上で足を組み、行き交う車のテールランプの川を眺めながら、
「我が国の発展は素晴らしい」
勝ち誇ったようにつぶやくと、ドアがノックされた。
「入れ」
部下が一人、部屋へすっと入って来た。窓を背景に座っている男の机の前に、さっとひざまづき、
「準備が整いました」
「そうか」
窓の外を見つめたまま、男はうなづいて、
(どういうつもりなのだ? カイザーは。
我々をないがしろにするとは……)
イラついている男の背中に、部下が問いかけた。
「いかがなさいましょうか?」
男は再び、テールランプに焦点を合わせ、
(まぁ、いい。
ジュレイテと手を組んだという情報は、こちらにも入って来ているのだ。
あのような素晴らしい物質は、我らのような者が所有すべきなのだ。
共同開発とは、馬鹿げた話だ。奪えばいいのだ)
男は不吉な笑みを浮かべ、部下に命令を下した。
「すぐに開始しろ」
「かしこまりました」
部下はさっと立ち上がり、足早に部屋を出ていった。
再び一人になった男は、また街を見下ろして、
「ふん、北の蛮族めが……。我らの力、思い知るがいい」
男はモルトのグラスをぐいっと傾け、氷がカランと鳴った。




