Oh,my Enemy
リエラが目を覚ますと、寝る前と違う天井が広がっていた。
全く予知できない世界間の移動に、亮はため息をつきながら、
「また、戻ってきたんだ。そういえば……今日、何日なんだろう?」
布団をはねのけ、起き上がり、机の上の携帯へ手を伸ばした。手前へ傾けて、バッグライトが点灯し、日付を確認して、大声を上げ、
「えぇっっっ!!」
(うわ!! もう七月三日だ!
誕生日まで、あと四日しかないよ。
ど、どうしよう?
呪いの解き方、早く見つけないと……)
パジャマのまま、落ち着きなく部屋を右往左往。
(東の森にヒントがあると思ったけど……何もなかったね。
あっ、でも……『大切なことに気づく』……ってあったね。
んー……? 大切なこと……って、大切な人?)
ピタッと動きを止めて、携帯を右手に持ったまま、
「もしかして、同じことなのかな?」
亮が気づきそうになった時、一階から愛理のキャピキャピボイスが響いた。
「亮? 遅れるわよ」
「はーいっ!」
妹は携帯を一度、机の上に置いて、元気良く返した。
(金曜日だから、学校だね)
急いで着替えようとして、亮はハンガーから制服を外しそうになった手を止め、
(そういえば、ユーリに確認できなかったなぁ。
何があったんだろう? 本当に。
学校に行ったら、聞いてみよう)
自分の気持ちを隠さなくなった、銀髪少年ーー婚約者を思い浮かべて、嬉しい気持ちになった。
制服に着替え始めたが、ふと違和感を抱いて、
(でも、何か変な気がする……?)
物語は終盤だ。目標があり、期限もある。ということは、何かが動いてくる可能性大。
学校への道すがら、亮は呪いについてぼんやり考えながら、アスファルトの上に伸びる、長い自分の影をブラウンの瞳に映して、
(もう一度、学校の図書室で調べてみよう。
まだ時間あるから、あきらめちゃいけないよ。
よし、がんばって見つけるぞ! おぉっ!!)
また、バカみたいに張り切り出した先走り少女の後ろから、ツッコミが飛んできた。
「いやいや、そっから離れろって」
(呪いの解き方から離れねぇと、呪い解けねぇぞ)
突っ込んだ人の言う通り、呪いを解こうとすると、解けない。非常に難しい解き方。だから、八神もルーも、誰も伝えてこない。呪いの解き方の声が途切れているのもそのせい。順番がふたつある。そのひとつ目を祐はクリアーしたが、亮がクリアーしていない状態。
「え……?」
(何がなくなったの?)
亮は大暴投して、バイクを押している、赤髪の人に視線を止めた。
「……おはよう、誠矢」
ツッコミ少年はにやにやしながら、
「おう、おはよう」
(朝からいいとこ、飛ばすじゃねぇか。
『そっから』の『から』だけとって、空っぽにすんなよ。
おら、次も飛ばせよ。
取ってやっかーー)
軽快なボケツッコミがリピートしそうになった時、いつもと違う声がかかった。
「如月君、神月さん、おはよう」
(少し遅めに家を出てきて、正解だったわね。
捕まえたわよ、如月君)
自分をゲットしそうな人の心を直感して、誠矢は口の端でニヤリ。
「おう、おはよう」
(前原、何で朝っぱらから、オレのことゲットしに来てんだよ。
いつも祐狙いだろ。お前、妙だぞ。
オレたちがいねぇ間に、何かあったのかーー!!)
誠矢はそこで、直感した。なぜ、前原が自分のところへ来たのかを。
亮は振り返って、元気よく、
「あぁ、おはよう、前原さん」
(珍しいね、ここで会うなんて)
朝なのに、悩ましげなため息をついて、前原は、
「彼がいないと華やかさにかけるわね」
(ここ数日、学校全体が沈んでるわね)
策もキャッチボールもない状態。当然、亮はボケ倒し、
「あぁ、運動会だね」
(花屋さんがかけっこするんだね)
誠矢はそれを聞いて、ゲラゲラ笑いながら、
「話、食い違ってんぞ」
(おら、取ってきてやったぞ。
頭二文字しか、あってねぇって。
『華やかさ』の『華』を『花』にして、勝手に運動にすんなって!
飛ばしすぎだって)
複雑怪奇な大暴投、従兄弟はきっちり拾って来た。亮はさらに、真後ろに振りかぶって、大きく投げた!
「あぁ、楽しみだよね」
(お弁当)
誠矢はさっと飛び上がって、華麗にキャッチ。
「食いもんじゃねぇって」
(おら、遠くに投げろよ)
「羊かん?」
(栗?)
ここは、『食いもん』の『食い』を『栗』に聞き間違え、宇宙の果てに大暴投。常人では、修正できないほど話をそらしたボケ少女を前にして、前原はあきれた顔で、
「…………」
(神月さん、相変わらずだわね。
彼がいなくても、神月さんには関係なかったわね)
誠矢は前原の心を感じ取って、すっと真顔になった。
(思いっきり関係あんだろ。
こいつの呪い解けるやつは、あいつしかいねぇんだから)
祐に関しての事件が、いない間に起きていた。
「それじゃ、私先に行くわね」
(次は、優雅な先生よ。
そのあとは、ふんわり天使ね)
ターゲッティングしすぎている前原の背中に、誠矢は軽くツッコミ。
(八神のあと、ルーもゲットする気だろ。
お前、気ぃ多過ぎだって)
呪いが解けないとどうなってしまうのかわかっている、誠矢は軽く息を吐いて、未だに考えている、呪いかけられし姫ーー亮に視線を落とした。
(お前、祐のことどう思ってんだよ?
感じ取れねぇってことは、なんとも思ってねぇんだよな……。
けどよ……)
誠矢は校舎へ顔を向け、
(……もしかすると、もしかすっかも知れなぇな。
祐の方はどうなったんだよ?
気づいたのかよ? 自分の気持ちに。
今日は確認できそうにもねぇな。
マジで間に合うのかよ? あと四日しかねぇのに)
勘の鋭い誠矢も、祐の作戦に騙されていた。焦り出した誠矢と、まだ呪いの解き方に囚われている亮は、正門にさしかかった。未だに考えているボケ少女に、ツッコミ少年は声をかけ、
「じゃあな」
(とにかく、呪いのことじゃなくて、祐のこと考えろよ)
そっちの順番が先、呪いを解くためには。亮は我に返って、
「……あぁ、うん」
目の前に広がる、
白亜の建物。
規則正しく並ぶ教室の窓。
その前にある校庭。
そこをいつの間にか歩いていた亮は、目をパチパチ。
(あれ、いつの間にか学校に着いてる。
前原さんもいなくなってる……。
お弁当、何が好きか聞いてみたかっーー)
まだ、大暴投している亮の背中から、
「おはよう」
昇降口に入ったところで、亮はいつも通り声をかけられた。
「あぁ、おはよう」
(美鈴、久し振りだね)
亮が笑顔を返すと、ふたりは上履きに履き替え始めた。亮は下駄箱を閉めて、違和感を抱いた。下駄箱からの、雪崩事件が発生しないことに。
(あれ? おかしいね。
いつもだったら……)
キョロキョロし出した親友に、美鈴は意味あり気に、
「白石?」
(あんた、本当にわかりやすいね)
亮は天才少女に視線を止めた。
「えっ? あぁ……うん」
(どうしたのかな?
祐だけ、戻って来てないのかな?)
美鈴はため息まじりに言う。
「彼、月曜日にならないと、学校来ないよ」
(あんた、前原さんから聞かなかったの?
白石が欠席だって)
「え……?」
(休み? 何だか……変だね、自分が……)
いつもそばにいた人がいなくなり、亮の胸は急に切なさでいっぱいに。
「MVの撮影で、今ロシアにいるらしいよ」
(離れ離れになってる時に戻って来るなんて、何か意味がありそうだね)
美鈴が思っている通り、わざとこの日に戻って来ている。亮は親友の言葉を、ぼんやりとリピート。
「ロシア……」
(雪……ジュレイテ……)
美鈴は親友の異変に目を細め、
「ふーん」
(恋愛にうといあんたにも、春が来るように……ってことか。
今日、こっちに戻って来たのは。
全て計算されてるみたいだね、どうやら)
全てのことを考慮して、『みんな』で修正した計画の中に全員いる。八神もルーも例外ではない。
自分を見つめている親友を前にして、亮は目をパチパチ。
「え、何?」
(どうしたの?)
美鈴は親友として、一人の人として忠告。
「どうして、そう思うのか、ちゃんと考えなよ」
(あんたとこの先も、友だちでいたいんだからさ)
天才少女の胸の内には、止めどなく喪失感が広がっていった。
「あぁ……うん」
(大切な人かどうか、考えないといけないね。
すごく重要なことのような気がするから)
ここで、やっと呪いの解き方の順番を修正し始めた亮は。その時、朝の予鈴が鳴り出した。
「優雅な彼に叱られるよ」
(考えるのいいけど、彼の罠にはまらないように気をつけなよ)
廊下を歩き出した美鈴の発言に、亮はびっくりして飛び上がった。
「えぇっっっ!!!」
(そ、それは大変だよ。
考えるどころじゃなくなるよ)
慌てて、美鈴のあとを追いかけ始めた、亮の上履きが落ち着きなく、キュキュッと鳴った。
二時間目、数学ーー八神の授業。
優雅な声を遠くで聞きながら、亮は右隣の空席を見つめてーーよそ見していた。
(側にいない……。
会いたいのに、会えない……。
今までも、祐がいない時はよくあったよね?
仕事とかで、学校休むことあったし。
ちょっと違和感はあったけど、今と違うんだよね。
何が変わったのかな?
んー……心がかけたようなーー!! ん?
カータさんがいなくなった時の、お姉ちゃんみたいだね)
ジュレイテ国王、雪崩で輝水山に閉じ込められた事件が、亮の脳裏に浮かんでいた。頬杖をついて、天井を見上げ、
(あれ?
今気がついたけど……東の森でユーリのこと最初に思い出した時も、同じ気持ちだった気がする。
これが、大切な人って……ことなのかな?
でも、どうして大切なんだろう?
んー……?)
上の空になっている生徒を、優雅な策略家が気づいていないはずもなく、
(困りましたね、あなたという人は。
少し叱らなければいけませんね)
教壇から歩き出した八神に気づいて、誠矢は後ろの席の亮に忠告。
(お前、祐のこと好きになったのはいいけど……大変なことになってんぞ。
大声上げて、ぶっ倒れんぞ)
美鈴はノートに書き込みながら、親友を視界の端で捉えて、
(あんた、彼の授業だって忘れたの?
後ろから回り込んできてるってことは、あんたを驚かす気だよ)
八神は絶対、亮の後ろからやってくる。前からは来ない。後ろの方が亮がびっくりするからだ。というか、八神、教師失格である。
ルーは誠矢と美鈴、亮を純粋無垢なサファイアブルーの瞳に映して、春風のように微笑み、
(ボク、いいこと思いついた。
仲良しさんっ♪ ふふふっ)
「神月さん?」
静まり返った教室に、優雅な声が舞った。亮は驚かずに、後ろへ振り返り、
「はい?」
(あぁ……八神先生……)
策略家はいつも通りあごに手を当てて、彼女の瞳をじっと見つめて、
「どうしたんですか?」
(驚きませんね。
気づき始めたみたいです、彼を愛しているということに)
冷静な瑠璃紺色の瞳は、祐の席はちらっと向けられた。それに気づくことなく、亮はぼんやりと、
「あぁ……はい」
(どうしたんだろう? 自分は……)
「はい、いいえの質問ではありませんよ」
(返事だけ返してきてはいけませんよ)
『どうしたんですか?』に、『あぁ……はい』はおかしい。当然、教師は注意する。だが、八神は冷静な瞳を、再び祐の席へ向け、
(彼は初めから、彼女を愛していると心のどこかで気づいていたのかも知れませんね。
不自然な点が多かったですから)
祐の考え方だったら、八神の罠に引っかかるはずがない。それなのに、劇の練習中、チョコレート事件についての策略家の罠に引っかかっていた。おかしいと、策略家は読んでいた。八神の思考回路は、シリーズ3で出てくる。それを駆使すれば、少し接触しただけで、祐たちのことは簡単に予測できる。
担任教師に問いかけられた言葉に、亮は素直に自分の願いを口にした。
「答えを見つけたいんです」
(どうしても、見つけたいんです)
「そうですか」
八神は優雅に相づちを打った。
(もし、困ったことが起きた時には、私のところへ来るようにと思い、罠を仕掛けてきましたがーー
やはり、私の手助けは必要なかったみたいですね)
優雅な策略はみんなのことを思って、わざとわかるように罠を仕掛けて来ていた。もちろん、八神も関係している。ただ、ポジションが違う、誠矢とは。
ルーが八神にだけ打ち明けた理由は他にもある。それも、シリーズ3で出てくる。
自分を見つめ返している生徒を前にして、担任教師は、
(しかし……)
心の中で優雅に降参のポーズを取った。
(困りましたね。
私、個人としては構いませんが、教師の立場としては、今のあなたの行動を見逃すわけにはいきませんからね)
そして、八神は教師らしく亮に注意。
「そちらもよいのですが、授業中に考えごとはいけませんよ」
「……あぁ、はい。すみません」
(そうだ、今はよくないね)
亮は気持ちを入れ替えて、それから授業に集中し始めた。教壇に優雅な足取りで戻りながら、八神は教師としてではなく、一人の人間として、呪いかけられし姫に、
(あなたの呪いが解けることを、心から祈っていますよ)
残念ながら、八神の正体は明らかにならず、シリーズ1は終了。
授業以外の時間を答えを出すために使った亮だったが、結局答えを出すことは出来ず、とうとう放課後になってしまった。
図書室のーー以前、祐と話をした人気のないスペースに、亮は一人で座っている。広げた本をそのままに、本棚をぼんやり眺めて、
(祐、今頃どうしてるかな?
差別をなくすために、一生懸命仕事してるんだろうなぁ。
そういう時の祐って、すごくいい顔してるんだよね。
いつまでも、側で見ていたいなぁ)
近くで何かの物音がして、ボケ少女は我に返った。
(あ、そうだ! 呪い、呪い。
ぼんやりしてる場合じゃなかったよ。
祐もがんばってるから、自分もがんばって探そう)
思いっきり違うところにやる気を出し始めた、超前向き少女は。再び本に視線を落として読み始めるが、亮はすぐに顔を上げ。机に頬杖をついて、ため息をついた。
(……んー、何だか気が散っちゃうね。
どうしてだろう?)
そんな彼女の問いに、本棚の陰からうかがっている人がツッコミ。
(そりゃ、呪いの解き方が、祐とつながってっからだろ。
本調べんじゃなくて、自分の気持ちに早く気づけよ)
誠矢は隣にいる背の高い天才少女に向かって、小声で、
「にしても、マジすげぇな、恋って」
(あの亮がな)
親友をうかがいながら、美鈴が意味あり気に、
「今日のあれでしょう?」
(優雅な彼も驚いたと思うよ)
「おう、八神ーー」
(八神、平気でかわしたかんな。
八神的には、調べるためにわざと罠仕掛けたみてぇだけどな)
担任教師はわざといつも通り、後ろから亮に近づいいた。だが、反応が違ったとなれば、亮に何かが起きていると判断できる。平常を装った罠だったのだ。
誠矢が返そうとした時、ふたりの背後からミラクル天使が降臨。
「見つけたさんっ♪」
(ここにいるって、知ってたの)
知っているのに、見つけたと言ってきたルー。誠矢はぱっと振り返って、もれずにツッコミ。
「いやいや、矛盾してんだろ」
(やっと教えられるようになったんだな、待ってたぞ)
「ふふふっ、ありがとう」
(誠矢クンは、鋭いさん♪)
ルーはなぜか可愛くお礼を言った。
「何? どうかした?」
美鈴がミラクル天使を前にして、急に目頭が熱くなった。
(あんたが……。
あんたが、優雅な彼にだけ教えた理由……何となくわかるよ。
あんたの優しさなんだろうね、それは。
でも、どうして、あんただけ最初から知ってるんだろうね?
他は誰も知らないのに……)
ルーはふたりの気持ちに気づいていないのか、いつもと同じように春風のように微笑んで、
「心配さんはなくなったの」
(祐クンは大丈夫さんなの)
「心配?」
(誰の?)
誠矢と美鈴が同時に聞き返すと、ルーのふんわりした雰囲気は一瞬にして消え去った。純粋無垢なサファイアブルーの瞳は、全ての人をひれ伏せさせる皇帝のような威圧感のあるものに、
「彼は気づいてたんだ、彼女のことを愛していると。これが、キミたちが一番心配していたことじゃないのかい?」
豹変したルーを前にして、誠矢は口の端をゆがめて、
(だから、お前と祐は恐ぇんだよ。
わざとじゃなくて、無意識でやってんだよ。
とりあえず、突っ込んでやんぞ。
思いっきり二重人格になってんだろ)
あきれたようにため息をついて、皇帝のようなルーに、
「何でそんなことしたんだよ?」
(言わねぇのはわかるけどよ、思うぐらいはすんだろ。
何で、そんな徹底的に隠してたんだよ?)
ルーはまた元のふんわり天使に戻って、
「敵さんに、other mousseを贈ったら、仲良しさんっ♪」
(祐クンの作戦さんだったの)
誠矢はすかさずツッコミ。
「いやいや、そうだったら今頃、世の中もっと平和になってんだろ」
(自分の損得ばっか考えて、物贈るやつがいっから、面倒なことになってんだろ。
それに、敵に『さん』付けすんなって。
リエラと突っ込みポイント、かぶってんじゃねぇか)
確かに、敵にプレゼントを送って、仲良しになったら、平和だろう、世の中は。
美鈴が少し微笑みながら、正解を口にした。
「『敵を欺くためには、まずは味方から』でしょ」
(あんた、アレンジし過ぎ)
ルーは可愛く首を傾げて、
「ふふふっ、そうそう、それ」
(美鈴ちゃんは、優しいの)
「オレらに敵なんていたのかよ?」
(そんな話、今まで一度も出てなかっただろ)
誠矢のいぶしげな問いかけに、ルーはまた豹変して、威圧感のある声で、
「セリル グェンリード、キミが気づかないなんて、珍しいね」
(ボクたちの中では、一番勘がいいのに……)
誠矢はあまりの急展開に、言葉をなくして、
「…………」
(お前には色々突っ込みてぇな。
何で、会ってねぇのに、名前知ってんだよ?
『ボクたち』って、誰を指してんだよ?
『みんな』とは違ぇんだろ? そんな気ぃすんぞ。
どんだけ、人出てくんだよ?)
思いっきり間が開いた会話、当然、ミラクル変化球がやって来た。
「Oh,my Enemyさん。She mayさんでしょ?」
(大切さん♪)
可愛く小首を傾げたルーに、ゲームを持っていかれてしまって、誠矢は珍しく真面目な顔で、
「だから、それは使命だろ?」
(何で、同じこと二度も言うんだって)
威圧感のある瞳で、ルーは流暢に母国語を話して来た。
「How many princes are there?」
(王子は何人いるんだい?)
誠矢は記憶を辿って、
「五人だろ?」
(祐とオレと八神とお前と、オレの師匠だろ?)
ルーは首を横に振った。
「No,six」
「はぁ?」
「There are six princes」
(王子は六人だ)
「あ〜っと……?」
(他にいたかよーー!?)
図書室の天井を見上げた、誠矢に天啓が下った。
「あ、王子なのに姫!!」
赤髪少年の言葉を受け取って、ルーがくすりと笑って、
「彼は男性だよ」
王子なのに姫は、男。だが、おかしい。直感があり、全て当ててくる祐が間違えるなんて。何か、別の理由が起こっている。
とてもじゃないが、ルーには勝てないと気づき、誠矢はため息交じりに、
「ルー、会ってんのかよ? そいつと」
(知ってるってことは、そういうことになんだろ?)
こんなミラクル変化球が、威圧感のある声を伴って、
「半分はあたってる」
(キミは忘れてしまっている)
ルーの言葉は意味不明だが、嘘は言っていない。さっきから黙って聞いていた美鈴が、割って入った。
「誰?」
「大きな事件を起こしてるけど、彼は」
(去年の七月七日に)
物語冒頭から、王子なのに姫は登場していた。
「はぁ?」
(七月七日……何かあったかよ?)
誠矢は気づいていないが、その出来事は目にしているはず。ルーは構わず、
「アイシス ソフィアンスキーは直接会ってるよ」
(彼女は受け取る人だからね)
美青年ゲッターは、めちゃくちゃくハイテンションで、王子なのに姫の話していた。天才少女、美鈴は大きな事件を思い出して、
「あぁ、そう。あの人も関係してるのか……」
(こんなに関係している人がいるって、どういうこと?)
彼女の心の内に、ルーは春風のように微笑んで、
「She mayさん♪」
(彼女の呪いを解くことに、気を取られてはいけないんだ。
She mayがあるから、ボクたちが関係するんだ。
もっと、全体を見なくてはいけない)
祐は無意識下で、気づいていた。自分のやるべきことが、ひとつではないと。Legend of kissシリーズは呪いを解けばいい話ではない。それは、氷山の一角。
誠矢と美鈴は、ミラクル天使の独特な雰囲気に気押されながら、
「使命……?」
構うことなく、ルーはまた母国語で、
「Oh,my Enemy. Enemy's initials are capital letters」
(エネミーの頭文字は大文字だ)
誠矢が素早くツッコミ。
「その文章じゃ、普通、enemyだろ」
ルーは真剣な眼差しで、念を押すように、
「Oh,my Enemy」
(まだ、気づかないのかい?)
誠矢は思わず、大声を上げそうになり、
「おーー」
(Oh,my Godか!!
亮に呪いかけたやつ、出て来てねぇじゃねぇか)
「あんた、ここ図書室」
(大声で叫んだら、いくら亮でも気づくでしょ)
直感少年は、同時にもうひとつもわかって、美鈴の手をはぎ取り、
「オレら移動させてるやつも、出て来てねぇじゃねぇか」
(重要人物、ふたりまだ出て来てねぇだろ)
「そう」
(あっちの世界は、Oh,my Enemyなんだ。
これは、ボクたちだけの戦いではない)
ルーは短く肯定した。誠矢は慎重に聞き返し、
「だから、八神に言ったのか?」
(あいつ、ある意味わかりやすいからな)
「光には、光の事情がある」
(全てで、そうなってしまったんだ)
ルーはまた担任教師を呼び捨てにした。誠矢は憂い色の八神の瞳を思い浮かべて、
「そういうことか……」
(あいつが悲しそうな顔すんのは、意味があんだな)
ルーはカーバンクル兄妹を、サファイアブルーの瞳に映して、
「She mayと、計画変更があったんだ」
(だから、言いに来たんだ。
キミたちも狙われやすいからね)
誠矢と美鈴の特徴から、敵に非常に狙われやすい。しかも、期限は迫っている。当然、敵も切羽詰まっている、動いてくる可能性大。
ユーリの指示語だらけの思考回路と、味方までも欺いた嘘で、順調にことは進んで来たが、不機嫌王子が自分の気持ちと思い浮かべたため、敵は狙ってくる。
ここで、突然、ふんわり天使、ミラクル変化球!
「それと、笑顔さん計画もなの♪」
(亮ちゃんと祐クンにとって、大切さんなの)
誠矢は素早くツッコミ。
「いやいや、どっから持ってきたんだよ?」
(急に話、変わってんぞ)
ルーは首を傾げて、摩訶不思議な言葉を口にした。
「んー……それを最初に話すつもりだった……気がする?」
(光先生の授業の時に思いついたの。
でも、どうしてボク、違うこと先に話したのかな?)
誠矢は再びツッコミ。
「いやいや、どういう文章だよ?」
(自分のことなのに、疑問形にすんなって。
めちゃくちゃじゃねぇか)
ルーは春風のように微笑んで、
「ボクにもわからないさん♪ ふふふっ」
誠矢は大声で、ゲラゲラ笑いそうになって、
「いやいやーー」
(それじゃ、誰にもわからねぇじゃねぇか)
美鈴は赤髪少年の口をふさいで、話を先へ。
「話は何?」
(ボケツッコミは、ここまでにしときなよ。
話がふたつ途中でしょ、あんたたち)
「ふふふっ……あのねーー」
ルーはふたりに近寄って、内緒話を始めた。
亮が自分の気持ちに気づかないまま、日付は過ぎていき、七月六日となった。
いつも通り下駄箱のところで祐に会い、恋愛鈍感少女は、自然と笑顔になって、
(やっと会えた。すごく嬉しいなぁ)
ぼんやりしているボケ少女に、祐は不機嫌な顔で、
(学習能力なし。
こうしてやる、ありがたく思え)
心の中で偉そうに言って、自分の下駄箱を開けた。すると、いつもよりも大量のプレゼントと手紙が亮の頭上に降り注いだ。ボケ少女はびっくりして、飛び上がり、
「えぇっっ!?」
(な、何!?)
いつも通りの愛する人を前にして、祐は珍しく微笑んだ。
(ぷぷぷっ。本当にバカだな)
亮を放置したまま、ロック界の王子様は紙袋に落ちたものを入れ始めて、
(どこにいても変わらないお前がいると、安心する。
側にいなくても、いつもよりちゃんと仕事ができたんだ。
本当の自分をわかってくれる人が、自分の存在する世界のどこかにいる。
それだけで、安心するんだ。
だから……ちゃんとしなくちゃな)
カバンの中にあるある物に気を向け、再び紙袋を眺めて、祐はため息をついた。
(でも、今日はダメだろうな。
休み明け、ものすごく囲まれる。
それは間違いない……)
祐が予想した通り、学校に久々に現れた『ロック界の王子様ーー白石 祐』は、熱狂的なファンに朝からずっと囲まれぱなっしだった。
亮は少し離れた場所から、銀髪少年を見ていて、
(す、すごいね、今日は。
祐は人気者だね。
それに、前よりもいい顔になったね。
それが見れただけでも、嬉しいな。
大切な人かどうかわからないけど、側にいるっていいね。
ふふ〜ん♪)
女の子たちに囲まれている祐を見て、亮の中に幸せが広がった。
そして、あっという間に放課後を迎えた。帰り支度をしている亮に、ルーのふんわりボイスが、舞い降りて来た。
「亮ちゃん、お話さんがあるの」
(祐クンにもちゃんと言ったの)
亮は手を止めて、顔を上げた。
「何?」
ルーは可愛く首を傾げて、
「このあと、お暇さん?」
(大切さんなの♪)
「うん、大丈夫だよ」
(ルーはいつでも可愛いね)
「じゃあ、ボクと約束さん」
(キミと彼が困らないように、ボクはこうする。
キミを愛しているボクがいるから)
ルーの中に矛盾した感情が浮かび上がった。ルーは右手の薬指を、呪いかけられし姫に差し出して、亮はそれに自分の指を絡ませ、約束の仕草をした。
「うん、わかったけど……」
ちょっと強引なミラクル天使の手の内に、ボケ少女も違和感を抱き、
「何かあるの?」
(何だか、すごく嬉しそうだね)
ルーは天使のような笑みを向ける。
「Secret! ふふふっ」
(もっと仲良しさんっ♪)
「秘密?」
亮の問いには応えず、ルーは優しく微笑んで、
「正門で待ってるさん」
(内緒さんなの♪
surpriseだから、ふふふっ)
スキップしながら教室から出ていくルーの180cmの背中に、亮は手を振って、
「うん、またあとで……」
(何だろう?
いいことがあるのかな? これから)
「ふふふっ……」
そこで、自分の異変に気づいた。
(あれ? 久し振りに、自然と笑った気がする。
祐が側にいなかった時は、こんなふうに笑ってなかったなぁ。
あぁ、そうか。
これが大切な人ーー好きな人ってことなんだね。
自分は祐のことが好きなんだ。
ちゃんと祐に伝えないといけないね、あっちでは結婚するんだから)
恋愛鈍感少女はようやく長い迷路から抜け出て、ルーの待つ正門まで走り出した。




