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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
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本当の気持ち

 その頃、セレニティス城は大騒ぎになっていた。

 作戦Gを決行し、従者が玄関付近でリエラを待ちかまえていたが、いつまでたっても現れないので、不思議に思って城内を探すと、リエラの姿はどこにもなかった。


 そのことに、城中の者が首を傾げた。

 なぜなら、姫が外へ出る前に、従者が玄関に辿り着けないというのは、どう計算してもおかしかいからだ。


 作戦Gが遂行されるまでの時間は、約五十秒。

 リエラの自室から玄関までは、どんなに急いで泳いでも三分はかかる。

 何か不思議な力でもかからない限り、有り得ない現象だった。


 リエラを最後に見た人物ーー彼女と話をした召使いの、『東の森の話をしていた』と言う言葉に、セレニティス国王は顔色を変えた。


 そしてすぐさま、すべての従者を集め、娘の捜索命令を下した。

 海ではなく陸での捜索ということで、夕方前にはジュレイテ城にいるユーリにも連絡がいった。


 

 執務室で仕事をしているユーリの元へ、部下が慌てた様子でやって来た。


「ユ、ユーリ様……」


 スミレ色の瞳に資料を映したまま、短く、


「何だ?」

(今度は何が起きた?)


 部下は乱れた息を整えながら、セレニティスからの伝言を伝えた。


「……リ、リエラ様が……行方不明になられたそうでございます」


 ユーリは別に驚いたりしなかった。それどころか、部下の報告の甘さに、不機嫌な顔で、盛大にため息。


「…………」

(それじゃ、きちんとした報告になってない。

 ちゃんと仕事しろ。

 お前が今の言葉聞く方だったら、判断しづらいだろう。

 どこがどう足りないか、俺は面倒だから教えない。

 お前が自分で学べ)


 国王代理の態度に、部下は困惑。


「…………?」

(な、なぜ……ユーリ様はため息をついておられるのでしょうか?

 驚かれたり、心配されるのなら、わかるのでございますが……)


 ユーリは資料に目を通しながら、従者の視線を無視。


「…………」

(感情に流されたら、冷静な判断が下せなくなるんだ。

 指揮する人間が間違った判断下したら、たくさんの部下が困るだろう。

 それに、リエラが行方不明になる可能性は前からあったんだ。

 だから、驚かないし、心配もしないんだ)


 呪いの解き方を探しているリエラ。性格は先走り。どこかへ行って、行方不明になるのは簡単に予測できた、ユーリには。


 平然と仕事を続けている国王代理の真意を、部下はうかがいつつ、


「あ、あの……ユーリ様?」

(お笑いの前振りでございましょうか?)


 見当違いな方向へいった部下に、ユーリはため息だけ返した。


(違う。真面目なところだろう。

 教えてやる、ありがたく思え)


 意志の強い瞳を、資料からついと上げ、


「どこで?」

(場所が抜けてる)


 部下は自分のミスに気づいて、慌てて、


「……あっ、はい。東の森でございます」

(申し訳ございません)


「ふーん」


 ユーリは再び資料に視線を落として、興味なさそうに相づちを打った。


(東の森か……聞いたことないーー!!)


 覚えていなかったはずの記憶が、鮮やかによみがえった。


(……あの本に書いてあったな。

 『東の森』って)


 ユーリは頬杖をついて、ぼんやり。


(ふーん、なるほどな。

 それであってたんだな。

 そうなると……あれがこうで、それが……?)


 無意識化で判断を下したものが、今、顕在意識へ引き上げられた。ユーリは自分の判断が間違っていなかったと認識した。


 一向に驚く様子のない国王代理に、部下は心配になって、


「ユーリ様、どうなさいますか?」

(ショックが大きすぎて、理解するまでに時間がかかっておられるのでしょうか?)


 ユーリはある意味とても厳しい。多くの人を救うためなら、愛する人でも平気で犠牲にする。そういう人間だ。それほど、自分のことよりも、弱き人たちを優先に考えている。だから、リエラが行方不明になったぐらいでは、心は揺るがない。


 指示語だらけの思考回路から、判断した内容を、ユーリは部下へぼそっと、


「放置」

(捜さなくても、見つかる。

 そんな感じがする。

 それに、自分で勝手に出かけたんだから、自分で帰って来い。

 俺に迷惑かけるなよ)


 俺様ユーリの言う通り、リエラが勝手に出かけて、迷ったのだから。


 部下は国王代理の言葉に、大きく目を見開いた。


「…………!!」

(な、何かのご冗談でございますか!?)


 わかりやすい反応ーーオーバーリアクションをする部下を前に、ユーリは盛大にため息。


(半分本気で、半分冗談だ。

 全部がそうだって、すぐに決めつけるなよ。

 それに表に出し過ぎ。

 それじゃ、すぐ罠にはまるだろう。

 まったく……もっと勉強させないとダメだな)


 銀髪少年の理論と直感の思考回路からすれば、部下の行動はダメダメなのだ。スミレ色の瞳に、灰色の空に舞い散る雪を映して。国王代理として、外交を考え、


(まぁ……セレニティスから連絡が来てる以上、国交に支障を来すからな。

 放置するわけにはいかない)


 東の森で迷子になっているリエラに、ユーリは態度デカデカで、


(面倒だけど、捜してやる。

 ありがたく思え)


 そして、ユーリは上に立つ者らしく、部下に命令。


「すぐに捜索しろ」

「はい、かしこまりました」


 部下は頭を下げて、慌てて部屋を出て行こうとした。


(そうだな……その方がいいかも知れないな)


 ユーリは何かを直感して、部下をなぜか呼び止め、


「あと、見つかったら俺のところへ連れて来い」

(確認したいことがある)


 部下は振り返って、意味あり気に微笑んだ。


「かしこまりました」

(そういうことでございますか。

 照れ隠しだったのでございますね、先程まで平気なふりをされていたのは)


 ユーリは部下の心理に、うんざり顔で、


「…………」

(わかりやす過ぎだ。

 とにかく……ノーコメント)


 だが、不機嫌王子は文句も言わないし、否定もしなかった。隠している心理が関係しているからだ。


 

 部下が出ていったあと、ユーリは仕事を再開しようとして、


(そうだな……あれがこうで、それがああ……?

 そうなると……)


 ユーリは持っていたペンを机に置いて、一気に到達してしまった。


(ーー俺か、リエラのどっちかが狙われることになる。

 その確率が急激に高くなる)


 呪いがどうして生まれたのかの理由と、それを解くということが最終目的ということを考えると、ユーリが出した結論に自然とたどり着く。


 危険を回避するのはできない、残念ながら。それも、ユーリは気づいていた。ため息をつき、再び資料に目を通し始める。


(でも、それでいいんだろうな。

 そんな感じがする。

 まぁ……あいつにちゃんと確認してから、決断した方がいいだろうな)


 ある人の作戦に乗ったのだ、リエラに本を渡したのは。情報を手に入れてから、判断したほうが、危険を回避できる確率は断然上がる。


 パチパチと暖炉の火がはぜる音に耳を傾けながら、先走り姫をユーリは思い浮かべて、


(しかし……あいつ、本当にバカだな。

 予想した通りに動いてる。

 だいたい、カーバンクルに紙の本が一冊だけあったら、おかしいって気づくだろう。

 お前を東の森におびき出すための、罠に決まってるだろう。

 今回のことは、俺たちの側の奴がやったからいいけど……)


 ユーリは誰がやったのかも気づいている。リエラも気づきそうにはなっていたが。不機嫌王子はため息をつきながら、足を組み変え、


(それに、あいつ、自分の立場、全然理解してないだろう。

 学習能力、ゼロだな。

 また、バカみたいに前向きに解釈して、誰にも言わずに城を抜け出したんだろう)


 ユーリの不機嫌な瞳は、なぜか幸せ色に染まり始めて、


(大騒ぎになるに決まってるだろう。

 面倒くさいな。

 俺にも連絡が来るだろう、結婚することになってるんだから)


 ユーリは言っていることと思っていることはてんでバラバラ。

 そろそろ、ユーリの真の心理も明らかに。

 国王代理は足を戻し、中断していた仕事を再開した。


 

 それから約一時間のーー十八時過ぎ。

 ジュレイテの捜索隊が加わってからすぐ、リエラは発見された。ユーリの命令通り、先走り姫は婚約者の執務室へと案内されている。


 リエラは珍しく、とぼとぼと廊下を歩いていた。


(みんなに迷惑かけちゃったね。

 今度から出かける時は、ちゃんと言わないとね。

 東の森から出ると、セレニティスとジュレイテの従者さんたちが、ものすごくいっぱいいたんだよね。

 でも……どうしてーー)


「ユーリ様、お連れしました」


 従者の言葉に我に返ると、ユーリが仕事をしている机の前まで来ていた。銀髪少年の姿を前にして、リエラはなぜか今までと違う気持ちを抱き、


(何だか、ドキドキするような……ほっとするような。

 何でだろう?)


 ユーリはペンを走らせながら、部下に、


「下がっていい」

(ふたりだけで話がしたいんだ)


「それでは、失礼いたします」

(感動の再会でございますね。

 私はお邪魔でございますから……)


 従者はにっこり微笑んで、すぐさま部屋を出ていった。ふたりきりになった執務室に、ユーリが資料をめくる音だけが響く。


(ふーん、なるほどな。

 そうだな……あれがこうで、それがああ……?)


 リエラはどう声をかけようか迷っていた。


(えっと……何だか、ユーリの様子もおかしいーー!!)


 ここで、やっと気づいたリエラは。婚約者があの白い芝桜が咲いているところで、嘘をつくことに決めたことに。身内までも、見事にごまかしたのだ、ユーリは。


 リエラは東の森での、不思議な出来事を言おうとして、


(そうだ!

 おかしいっていえば、あのことユーリに聞いたらわかるかな?

 聞いてみよーー)


 先走り姫よりも先に、ユーリが口を開いた。


「何があった?」

(何か覚えてること、あるだろう)


 逆に質問されたので、ボケ姫はきょとんとして、


「えっ?」

(珍しいね、ユーリが先に聞いてくるなんて)


 合理主義者の、ユーリは不機嫌な顔で、


「いいから、言え」

(通じてるんだから、ちゃんと応えろよ。

 いちいち聞き返すな)


「看板を見つけたよ」

(そういえば、何だかわからないことばっかりだったね)


 ユーリは上目遣いにリエラを見て、


「で?」

(お前がぼけてきてないってことは、重要なことだな)


 意味があって、東の森へ、リエラは行っていた。彼女は体験したことを、そのまま、


「字が書いてあった」

(なぞなぞのヒントだと思うんだけど……)


 なぞなぞといえば、確かに、なぞなぞである、あの看板は。リエラは呪いの解き方を探そうとしていた、当初の目的を忘れていた。


「 何て?」

(書いてあった?)


 リエラはパステルカラーの天井を見上げ、ひとつひとつ思い出していく。


「えっとね……? 『戻れなくなる』と『嘘はもう終わり』、それと『大切なことに気づきますように』だったよ」

(どうしてだかわからないけど、よく覚えてるよ)


「ふーん」


 ユーリは気のない返事を返して、ぼんやりとし始めた。


(そうだな……あれがこうで、それがああ……だから……。

 『戻れなくなる』は、お前のことだろう。

 『嘘はもう終わり』……は、俺のこと……だろうな。

 『大切なことに気づきますように』は、俺とお前のことだろう。

 そんな感じがする)


 ユーリは盛大にため息をついて、結露のできている窓へ視線を移した。


(もう……いいんだな)


 リエラは婚約者の顔をのぞき込み、


「あ、あの……」

(ユーリ、なぞなぞの答えわかった?)


 銀髪少年は窓から顔を戻して、リエラに一言文句。


「先走り」


 だが、ユーリの瞳はすごく優しい色をしていた。


(本当のこと思っても、いいんだ。

 ーー俺、お前のこと好きなんだ)


 白き丘で、リエラの大人びた笑顔を見た時に、ユーリは恋に落ちたのだ。他の誰も彼女の代わりにはなれないと、唯一の愛する人を見つけた。


 リエラはびっくりして飛び上がり、


「えぇっっ!?」

(そ、それがなぞなぞの答え!?)


 大暴投しているボケ姫に構わず、ユーリは大きく伸びをした。


(お前の顔見たら、急に眠くなってきた。

 そうだな……このまま仕事続けるより、寝た方がいいな)


 ユーリは椅子から立ち上がって、わけがわからなくなっているリエラに、


「俺、もう寝るから」

(お前がセレニティスに帰ってから、一週間近く……よく眠れなかったんだ。

 お前が側にいないと、落ち着かないんだ。

 だから、俺、お前と結婚したいんだ)


 結婚取り消しは、作戦だった。そのお陰で、ことは、ある人が決めた計画よりも、スムーズに進んだ。ユーリは大きなあくびをしながら、部屋から出ていく。


 パタンと閉まったドアを、リエラは戸惑い気味に見つめて、


「えっと……」

(あ、あの……まだ夕方だと思うんだけど……。

 それに、聞きたいことがまだあるんだけど……)


 リエラは部屋から出ていく寸前の、ユーリをふと思い浮かべた。


(……ユーリが近くなったような気がする。 

 どうしてだろう?)


 銀髪少年は人魚姫にぞっこんなのだから、距離も近く感じるだろう。あとは、リエラだけだ、自分の心に芽生えたものが何なのかに気づくのは。



 ユーリは幸せそうな顔をして、自室へと寒い廊下を歩いていく。


(もう、嘘つかなくていいんだな。

 リエラに気のない振りもしなくていいんだ)


 非常に複雑な世界観に、不機嫌王子はため息をついた。


「はぁ〜……」

(面倒だった。

 嘘ついたり、演技したりするのが……)


 窓の外に顔を向けて、もうひとつため息を。


(本当に長かったな。

 あの白い花が咲いてる丘で、鐘を見た時からだったからな。

 あの時、俺わかったんだ。

 何で世界を移動してるのか。

 どうして、思い出せないことが多いのか)


 顕在意識では、鐘を見た時。潜在意識では、リエラの大人びた笑顔を見た時。ずれていることに、本人も気づいていない。非常に予測しずらい人物だ、ユーリは。


 そこで、またお得意の、指示語だらけの思考を展開。


(あれがそうなって、これがああ。

 だからーー本当の気持ちを言ったり、思ったりしない方がいいと判断したんだ。

 相手に知られないようーー)


 心を読み取れる人は、大きくふた手に分かれる。いい人ばかりとは限らない。

 ユーリは誰もいない廊下に向かって、急に不機嫌に。


(ーーっていうか、もういいだろうっ!

 いちいち、事細かに説明するの面倒なんだ。

 誰か説明しろよ。

 譲ってやる、ありがたく思え)


 不機嫌王子、シリーズ2以降に説明する人に、態度デカデカで譲った。

 自室へと入ったユーリは、さらに考えをめぐらせる。


(あれがこうで、それが……。

 俺と結婚すること、あいつ、どう思ってるんだろうな?

 あれがこうだから……あの期限に、間に合わないかもしれないな。

 そうだな……あれがこうで、それがああ……?)


 『十八の誕生日までに……』という言葉が、ユーリの脳裏に浮かんでいた。疲れた体で、ベッドに倒れ込み、


(あれがこうなって、それがああ……?

 そうしたほうが……いい……)


【雪に属する者 深き眠り】


 ユーリはまるで魔法にかけられたかのように、深い眠りにすうっと落ちていった。


 夕食時にジュレイテ城へ連れてこられたリエラは、そのまま夕飯をご馳走になることとなった。


 先走り姫はひとつ空いている席を、ぼんやり眺めて、


(ユーリ……起きてこないみたいだけど、大丈夫かな?

 お腹空いてないのかな?)


 リエラの耳に、アイシスの声が突然入ってきた。


「行方不明になったって聞いた時はびっくりしたけど、何もなくてよかったわ」

「そうですね、無事で何よりでした」


 カータがその隣りでにっこり微笑んだ。リエラは申し訳なさそうに、ふたりに頭を下げて、


「……あぁ、ごめんなさい。心配かけちゃって」

(お姉ちゃんたちにも、迷惑かけちゃったね。

 本当に気をつけないといけないね)


 アイシスは食べる手を止めて、意味あり気に、


「ユーリのことが心配?」

(あなた、さっきからそっちばかり見てて、一口も食べてないわよ)


 リエラは戸惑い顔で、テーブルの下にある手元を見つめた。


「……あぁ、うん」

(何だか、ユーリも自分も変わった気がするんだよね。

 だから、気になるんだよね。

 何が原因なんだろう?)


「大切だって気づいた?」

(ユーリは気づいたみたいだけど……。

 あなたも気づいた?)


 全員、ユーリの作戦に騙されている。だが、それは不機嫌王子の策なのだ。アイシスの言葉に、リエラは東の森の看板を思い出して、


(『大切なことに気づきますように』あれ?

 あの看板に書いてあったことって、もしかして自分のことかな?

 あぁ、そうかも知れないね。

 え……? でも、どうしてそんなこと、書いてあったんだろう?

 変だね。そういえば、あのことも変だっーー)


 いつまでも考え込んでいるリエラに、カータは優しい笑みで、


「どうかしましたか?」

(今回の事件は、ユーリとリエラちゃんに好きだと気づかせるために起きたようです。

 そのような気がします)


 カータ王、結構勘が冴えている。ではないと、発掘はできない。未知のものを見つけるのだから。

 リエラは我に返って、カータの顔をじっと見つめて、


(ユーリに聞けなかったから、カータさんに聞いてみよう。

 そしたら、わかるかも知れないね、あの変なことも)


 ボケ少女、さっきまでの話を無視して、突然、全然違う話を始めた。


「あの……今日、急に夜になりませんでしたか?」

(ずっと気になってたんです)


 突拍子もない言葉にカータは驚きもせず、


「いいえ」

(東の森で何かあったのでしょうか?)


「そうですか……」


 リエラは期待がはずれたように返事を返し、また考え始めた。


(気のせいだったのかな? でも……)


 テーブルの上にある、サラダやスープを眺めて、リエラは首を傾げ、


(夕飯だよね? これ。

 どうして、東の森の中は朝だったのに、外に出たら夕方になってたんだろう?

 一晩、眠った気がするんだよね。

 えっと……どうなってるのかな? んー……?)


 森に入った時の隔離された感覚と、視界が歪んだ意味を、リエラは理解できず、


(わからないね。

 考えても仕方ないから、考えないことにしよう)


 超前向き少女は楽観的な決断をぱぱっと下して、元気に食べ始めた。


(うん、おいしいね。

 朝ご飯しか食べてなかったから、すごくお腹空いちゃった。

 ふふ〜ん♪)


 嬉しそうに食べているリエラから、カータはアイシスに視線を移して、


(気づいたのでしょうか?)


 妻は残念そうに、首を横に振った。


(気づいてないわよ。

 困ったわね、本当に。

 もう一度離れてみたら、気づくのかしら?)


 そこで、アイシスとカータの脳裏に、何かの記憶がザザッとなだれ込んだ。大切な人が大切な人を失い、自分たちも大切な人を失ったという、積み重なる悲痛の追憶。

 国王夫妻は不安げに、お互いを見つめ合った。


 その後、ユーリが目を覚ますことはなかったため、リエラが彼から気持ちを打ち明けられることも、自分の気持ちに気づくことも出来ないまま、夜は更けていった。

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