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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
36/55

偉大なる発見

 亮たちが目を覚ますと、再び別世界に来ていた。

 たった一日、元の世界へ戻っただけなのに、日付は一気に六月三日まで進んでいた。

 リエラの十八の誕生日まで、残りーー 一ヶ月と四日。


 

 ユーリたちがいない間に、セレニティスの国王命令により、リエラはジュレイテ城で、全ての時間を過ごすこととなっていた。


 朝食を食べ終えたリエラはさっそく図書室へ、呪いの本を探しに向かおうとしたが、たくさんの召使いたちになぜか止められた。


 そして今、彼女は呪いの解き方を調べることとはほど遠いことをしている。


(えっと……)


 鏡の前に映る自分の姿に、リエラは目をパチパチ。


(何で……)


 彼女は両腕を水平に上げる。


(……サイズ計られてるのかな?)


 自分を囲んでいるたくさんの召使いを見渡し、


(困ったなぁ。

 呪いの解き方、見つけないといけないんだよね)


 リエラは朝、召使いに言われたことをふと思い出した。


(これが終わったら、ダンスの練習するって言ったね。

 そのあとは……何かの打ち合わせするんだよね?

 何で、こんなに忙しくなってるんだろう?)


 ボケ少女、記憶力が崩壊している上に、恋愛に鈍感なため、何が起きているのか全くわからなかった。


 

 別室にいるユーリは、たくさんの贈り物を眺めながら、最高潮に不機嫌な顔。


(祝いの品がこんなに届いてる……。

 他の国にも言ったんだな、結婚式のこと。

 ってことは……正式に発表したんだな、俺たちがいない間に)


 スミレ色の瞳は、急に淋しい色になって、盛大にため息をついた。


「はぁ〜……」

(俺、何で阻止してから、あっちの世界に戻らなかったんだろう)


 後悔先に立たず。今朝、従者に言われた今日一日のスケジュールを思い浮かべ、


(式で着るタキシードの採寸。

 ダンスの練習。

 当日の細かい打ち合わせ)


 ユーリはもう一度ため息をつく。


(俺、本当に結婚する……みたいだな)


 結婚式まで、秒読み段階に入っていた。



 それぞれ別行動で結婚式の準備に追われていたため、リエラとユーリは夕方近くまで顔を合わせることはなかった。


 やっと会うことが出来たふたりは、アイシスに連れられ、城のとある一室に来ていた。


「ここが、ふたりの寝室ね」

(現実味を帯びてきたわね)


 ふたりの結婚を望んでいた、アイシスはウキウキで、ユーリとリエラに話しかけた。妹は戸惑い気味に部屋を見渡し、


「……あぁ……うん」

(ドレスの採寸って、結婚式のやつだったんだね。

 知らなかったよ。

 本当に結婚するんだね、ユーリと……)


 アイシスは窓際に寄り、カーテンを手に取って、


「これ、新しいのに変えた方がいいわね」


 ぼんやり宙を見つめているユーリに、義姉は振り返って、


「やっぱり、明るい色がいいかしら?」

(取り消すって言うかしら?)


 不機嫌王子はため息だけを返してきた。


「…………」

(結婚式の準備のせいで、仕事まともに出来ないんだ。

 面倒くさいな)


 全然乗り気でないリエラとユーリの間で、アイシスはあごに人さし指を当て、小首を傾げ、


(このまま結婚しても、うまくいかないと思うのよ。

 どうしたらいいのかしら?

 ふたりをその気にさせることを、考えなきゃいけないわね)


 姉は決心して、召使いたちと一緒に部屋の調度品を吟味し始めた。リエラは張り切っているアイシスの後ろ姿を見ながら、ユーリに、


「結婚って、こういうものなのかな?」

(自分の気持ちは、関係ないのかな?)


 世界征服を狙っている国王代理は、姫に視線を合わせずに、当然というように、


「王族同士の結婚っていったら、こんなもんだろう」

(政略結婚とか当たり前だからな)


 リエラはユーリの顔をまじまじと見つめて、


「そう……なんだ」

(何だか、ユーリは落ち着いてるね)


 姫の視線を頬で感じながら、ユーリは不機嫌な顔で、


「別に、ただ同じ城に住むだけだろう?」

(今さら、気にする必要ないだろう。

 お前、いつも勝手に来て、俺の隣りの部屋に平気で泊まってくだろう。

 今までと変わらないだろう?)


 恋愛鈍感少女、リエラは本当に不思議そうに、


「え、それだけなの?」

(それじゃ、結婚する必要ないよね?

 今も一緒に住んでるみたいな感じだし)


 ユーリは初めて彼女に視点を合わせて、


「それだけって、他に何があるんだよ?」

(お前がまともに話してるなんて、珍しーー!!)


 大人の情事がユーリの脳裏を横切り、突然息をつまらせた。


「っ!!」

(他に……確かにある)


 ユーリは顔を赤くして、リエラから視線をそらし、床の絨毯を見つめた。


(け、結婚っていったら……それはするよな?

 え、こいつと?)


 めくるめく、夫婦の営みを想像し始めた、十七歳の少年は、恋愛鈍感少女を上から下まで、品定めするように見た。


(…………。

 …………。

 …………)


 自分を遠慮なしに、観察しているユーリの顔を、リエラはのぞき込み、


「どうしたの?」

(何だか、顔が赤いみたいだけど……。

 何か考えごと?)


 ユーリは我に返って、恨めしげに一言文句。


「……そ、それはわざとか?」

(お前が変なこと聞くから、今色々想像しただろう。

 お前、俺に何てことさせるんだよ)


 勝手に妄想したのは自分なのに、姫のせいにして。どこまでも俺様なユーリ。


「え……?」

(わさび?)


 リエラが思いっきり大暴投した時、ひとりの従者が慌ただしく部屋へ入って来た。


「ユ、ユーリ様!! た、大変でございます!」

「どうした?」


 さっきまでとは違い、高校生とは思えないほどの落ち着いた態度で、ユーリは従者に聞き返した。


「こ、国王陛下が……」


 従者はずいぶん急いできたようで、息が切れていた。ユーリは堂々たる態度で、静かに次の言葉を待ち、


「…………」

(兄さんがどうした?)


「……き、輝水山で雪崩が発生しまして、陛下が中へ閉じ込められました!」


 なんとか息を整えて、従者は一気に報告した。リエラはびっくりして、飛び上がり、


「えぇっっ!?」

(カ、カータさんが!?

 た、大変だ!!)


 まわりにいた召使いたちも、驚きの表情で、口に両手を当てた。


「……!?」

(国王陛下が、また雪崩に!?)


 愛する夫が大ピンチ。驚愕するはずのアイシスは、平気な顔で、軽く目を閉じ、


(そう……雪崩が起きて、閉じ込められたのね。

 ……動揺しても仕方ないわ)


 目をぱっと開き、アイシスはユーリたちが結婚後使うはずの部屋を見渡した。美少年ゲッター、アイシス活動開始。


(これは、ある意味チャンスよ。

 こうするわよ)


 アイシスは口に手を当て、力なく床に崩れ落ちた。


「ま、まさか……」


 リエラは姉の方へ慌てて駆け寄り、


「お、お姉ちゃん!?」

(だ、大丈夫!?)


 ユーリはぼんやりと輝水山を眺めて、


(ふーん)


 報告しに来た従者に視線だけを動かし、


(そうだな……)


 次に、おろおろしている召使いたちを見渡して、


(あれがこうで……)


 リエラに付き添われて、床に座り込んでいるアイシスをスミレ色の瞳に映し、


(それがこうだから……?)


 そして、最後になぜかリエラに、ユーリは顔を向けた。


(なるほどな)


 誰にもわからない思考回路で、決断を下し、堂々たる態度で、従者に命令。


「至急、全員を集めろ。兄上を救出する」

「はい、かしこまりました」


 従者は慌てて部屋を出ていった。



 それから、ジュレイテの従者総出で、カータ国王の救出活動が始まった。

 しかし、なかなか作業は思うように進まず、カータが輝水山に閉じ込められてから一週間が過ぎようとしていた。


 その間、ユーリは救出活動には一切参加せず、執務室で部下の報告をじっと待っていた。意志の強い瞳に、一週間ずっと降り続いている雪を映していた。


(俺は捜しには行かない。

 万が一、兄さんが死んだ時には……俺が国王になるんだ。

 俺が救出作業に加わって、そこでまた雪崩が起きたら……。

 ジュレイテはまた、国王が不在になる。

 そしたら、街のみんなが困るころになるんだ。

 みんなのために、俺は輝水山には行かない。

 だから、ここで待つしかないんだ)


 先走りリエラを思い浮かべて、ユーリは盛大にため息をついた。


(あいつ、止めるの大変だったな。

 あのあとすぐ、自分も助けに行くって言い出して。

 みんなが止めても、なかなか聞かなくて。

 俺が王族の立場説明したら、やっと納得したみたいだけど……。

 今も監視付き。

 いつ、勝手に出かけるかわからないからな。

 本当に先走りだな)


 リエラは別室に軟禁状態。ユーリは視線を窓から部屋へ移し、足を組み変え、


(だから、簡単に引っかかるんだ。

 義姉さんのーー)


 その時ちょうど、ドアがノックされた。ユーリは我に返って、


「入れ」


 それに応えて、先走りのリエラが部屋へ入って来た。ユーリは彼女に、


「義姉さんは?」

(あれから、一週間。

 部屋から出て来なくて……)


 リエラは珍しく元気のない声で、


「あぁ、うん。ほとんど何も食べてないみたいなんだよ」

(今もお昼置いてきたけど、輝水山の方ぼんやり見つめてて……。

 声かけても、上の空だった)


 ユーリは彼女を見て、なぜかあきれた顔。


「そうか」

(さすが、義姉さんだな。

 こいつの性格、よくわかってる)


 十七年間、常に一緒の姉妹。アイシスはリエラとは違い、機転がきく。先走りーー前を常に向いているリエラは、水面下で行われている策があるとは気づかず、輝水山に真剣な眼差しを向けて、


「カータさんと会えなくなって、お姉ちゃん、何だか心が欠けちゃったみたい」

(お姉ちゃんがあんなに元気なくすなんて、思わなかったよ。

 カータさんのことが、とても大切なんだね)


 ユーリは頬杖をついて、超適当に、


「そうだな」

(お前、バカだな。

 義姉さんの演技に決まってるだろう)


 不機嫌王子はなぜ、アイシスの策略に気づいたのかを、珍しく心の中で説明。


(愛理さんは櫻井さんのこと、ずっと前にこう言ってた。

 『地質学のことになると人が変わっちゃうの』

 俺もそれは目の当たりにした。

 朝から雪が降ってるのに、それに全然気づいてないことが何度もあった。

 従者が声をかけないと、兄さん、日が暮れても研究をやめないって話も聞いた。

 ってことは、行方不明になんて何度もなってる確率が高いんだ。

 それを義姉さんは知ってる確率も高い。

 向こうの世界では婚約してるんだ、それぐらいは知ってる。

 それに義姉さんは、リエラよりも落ち着いてるーーというか、肝が据わっているところがある。

 だから、床に崩れ落ちる確率は低い。

 つまり、義姉さんは、わざとやっている)


 ユーリは床に崩れ落ちたアイシスを見ただけで、そこまで判断していた。リエラはそんなこととは知らず、独り言をつぶやき、


「結婚するってこういうことなのかな?」

(側にいたいから……結婚するのかな?)


 自分の結婚相手ーー銀髪少年を見つめた。


(ユーリがいなくなったら……自分はどう思うんだろう?)


 国王代理は姫の視線に構わずに、雪だるまの置物をぼんやり眼に映しながら、頭の中で情報を整理。


(兄さんは、生きている可能性の方が高い。

 従者はこう言ってた。

 『輝水山で雪崩が発生しまして、陛下が中へ閉じ込められました!』

 雪崩に巻き込まれたとは言っていなかった。

 兄さんは輝水山の洞窟内にいる確率が高い。

 輝水山の構造は、上部に穴が空いてる。

 酸素がなくなる、というのは考えられない。

 それから、兄さんは、よく食事もしないで発掘に出かけていた。

 ということは、一週間ぐらい何も食べなくても死なないだろう。

 義姉さんは、それもわかってるんだろう)


 リエラは自分の手元に視線を落として、


(誰かがいなくなる……。

 会えなくなる……。

 何だか、あの夢に似てる気がする、この気持ち。

 どうして、こんな気持ちになるんだろう?)


 恋愛鈍感少女、『れ』の字に手をかけ始めた。ユーリは再び、足を組み変え、


(俺、普段、頭がぼうっとしてることが多いんだ。

 だけど、重要な場面になると、急に頭が冴えてくるんだ。

 覚えてなかったこと、思い出したりすることもよくある。

 どうしてだか、自分でも理由はわからないけど……)


 ユーリの思考回路は、理論で考える時と、勘で判断する時がある。しかも、ルーと一緒で、無意識下。そのため、非常に予測しずらい。


 不機嫌王子はピンボケした瞳で、リエラを眺め、


(……だから、今回の義姉さんの行動の理由はーー

 お前があまりにも恋愛に鈍感だから、気づかせるためにやってるんだろう。

 お前の将来、義姉さん心配してるんだろう。

 愛なんだろうな、今回の策略って)


 ユーリはそこで、急に不機嫌な顔に。


(でも……その相手を俺にすることないだろう。

 他にいくらでも相手はいるだろう。

 面倒くさいな、こんなやつと結婚するなんて。

 どうにかして、結婚しない方法考えないとな。

 そうだな……あれがこうで……それがーー)


 ドアが再びノックされた。ユーリは我に返って、


「入れ」


 年老いた従者が入ってきた。ユーリはぼんやりとしたスミレ色の瞳に映して、


(ん? いつもと違う従者だな)


 従者は落ち着いた様子で、ユーリに報告。


「ユーリ様、中への道が開通いたしました」


 ユーリは顔色ひとつ変えずに、


「そうか」

(この従者、先代の国王の側近だったやつだよな。

 どうして、こいつが報告しにわざわざ来たんだ?

 変だな?)


 従者はさらに言葉を続ける。


「通路部分を捜したのですが、陛下はどちらにもいらっしゃいませんでした」


 通常なら、報告終了。だが、部屋から出ていこうとしない従者に、ユーリは先を促した。


「それで?」

(お前がわざわざ来た理由と、俺が必要な理由は何だ?)


 従者は真剣な眼差しで、


「おそらく最奥部にいらっしゃるのではと存じます」


 ユーリは輝水山をちらっと視線をやり、


「…………」

(だろうな。

 最奥部で発掘してたような痕跡があるって、兄さん前に説明してたからな)


「そちらへは、ユーリ様でないと入ることが出来ません」

(こちらの事実を知っている者は、ほとんどおりません)


 従者のその言葉を聞いた時、ユーリにある記憶ーーカーバンクルへ行った時のことが急に鮮明になった。


(ふーん、あそこと同じなんだな。

 だから、あの時、輝水山の名前が浮かんだんだな。

 なるほどな)


 国王代理はさっと立ち上がって、


「わかった」

(ジュレイテ王族の俺が行かないと、入れないんだろう)


 ユーリはリエラを放置したまま、従者と部屋から出ていった。珍しく、大暴投もせず、きちんと報告を聞いていたリエラは、慌てて彼らのあとから部屋を出て、


(お姉ちゃんに、急いで教えてあげないと)


 廊下を全力で駆け抜け、リエラはアイシスの部屋へ入った。外をぼんやり見つめている姉の背中に、


「お姉ちゃん、道が開いたって」

(捜しに行けるようになったよ)


 アイシスはすっくと立ち上がった。


「やっと、この時が来たわね」

(あなたのことはここまでよ。

 次は、カータさんね)


 さっきまで弱々しかった姉が、力強く仁王立ちしているので、リエラはびっくりした。


「えっ!」

(お、お姉ちゃん!?

 きゅ、急に立ち上がって平気なの?)


 アイシスは妹の手をぱっとつかんで、強引に引っ張り出し、


「さぁ、行くわよ!」

(今回は短かったわね)


 リエラは引きずられながら、目をパチパチ。


「え、え……!?」

(だ、大丈夫なの? お姉ちゃん。

 一週間、ほとんど何も食べてなかったのに)


 アイシスは勢いよくドアをバーンと開け放ち、


「大丈夫よ!」

(あなたが恋愛に無頓着でなくなるなら、これくらい大したことじゃないわ。

 それに、あなたが見てないところで、お菓子を少しだけ食べたから)


 姉はきちんと食事を取っていた。リエラは前を歩いていくアイシスの背中をじっと見つめて、


(お姉ちゃんにとって、カータさんはすごく大切な人なんだね。

 一週間、何も食べなくても動けるくらい。

 自分もユーリに対して……こんな風になるのかな?)


 姉の策略には気づいていないが、リエラの心が揺らぎ始めた。アイシスは廊下をずんずん進んでいく。


(前にもあったのよ。

 山で遭難して、一ヶ月行方不明。

 あの時はすごく心配したのよ、初めてだったから。

 でもね……そのあと何度もそんなことが続いたの。

 よく行方不明になるのよ、カータさん。

 困ったわね、本当に。

 私は慣れてるからいいけど、お城の人たちに迷惑かけるのはよくないわね。

 そのことだけは、きちんと言い聞かせなきゃ)


 ユーリの読み通り、カータの行方不明事件は数知れず。アイシスは今、愛する夫の癖を直すために動いていた。



 輝水山に到着したユーリは、部下に案内されながら洞窟の最奥部へと歩いている。


(ふーん。

 このライト、電気がなくても点灯するんだな。

 すごい技術だな)


 それは、電池でも陽の光をエネルギーに変えるわけではない。別の原動力。

 時折、洞窟内をゴウッという轟音ごうおんを立てて、風が吹き抜けていく。


(空気もあるみたいだな。

 余程のことがない限り、兄さんが死んでることはないな)


 しばらくいくと、頑丈な岩で出来た大きな扉の前へ到着した。それは数十メートルもある。その中央に、白い線で紋章のようなものが刻み込まれていた。


 ユーリはその前に立ち、セリルの姿を思い浮かべ、


(少し違うけど、こうするんだろうな)


 銀髪少年は両手を前へすっと上げて、扉にかざした。すると、バーンという音と共に、白い獅子の紋章が光り帯びた状態で浮かび上がり、扉が左右にゴーッという音を立てて、ゆっくりと開き始める。ユーリは開いてゆく扉をぼんやり眼に映しながら、


(ふーん。

 王族の血で封印されてるのか。

 そうか……セリルの部屋に忍び込む時は、そこを何とかして突破する必要があるな。

 そうだな……あれがそうで、それがこうーー)


 カーバンクル侵略計画を模索し始めた、国王代理に、従者の控えめな声が、


「あ、あのぅ……ユーリ様?」

(中に入ってもよろしいでしょうか?

 それとも、何かお考えがおありなのでしょうか?)


 命令もなく、国王代理が中に入るわけでもない。当然、部下は動けなかった。ユーリは我に返って、中へ足を踏み入れ、


「……あ、あぁ」

(とりあえず、兄さんを捜さないとな)


 国王救助を優先させた。ユーリの行動を合図に従者たちは、ぞろぞろと中へ入り、あちらこちら捜し始めた。


 ユーリは目の前に広がる光景を、まじまじと観察。


(すごいな。こういう風になってたんだな)


 そこは、ドーム状のような広い空間となっており、中央には薄紫に光る泉があった。水底から、光が真っ直ぐ上へと伸びている。舞い散る雪が、光の中で儚げに踊る、非常に幻想的な空間。


 ユーリは光を辿って頭上を見上げ、


(ふーん。空が見えるんだな)


 視線の先には、丸い曇り空が見えた。再び視線を下ろして、光る泉を凝視。


(どうなってるんだろうな?

 光はどこから来てるんだ?

 何か意味があるのかも知れないな)


 どこかとつながっている。ここは、意味がある場所。その時、


「カータさんっ!!」


 あとから来たリエラとアイシスの大きな声が響いた。ユーリは彼女たちと一緒に来た従者に鋭い視線を送りつけ、


「…………」

(ちゃんと仕事しろよ。

 入口で阻止しろ。

 中まで入れるって、どういうことだよ?)


 従者はユーリに訴えかけるような目で、


「…………」

(申し訳ございません。

 何度もお止めしたのですが、『国王命令』だと言われまして………)


 ユーリはあきれた顔。


(また、義姉さん勝手に勅命出して。

 従わなくていいんだ、義姉さんは国王じゃないんだから。

 それに……)


 ジュレイテ王子はセレニティス姫、リエラに一言文句。


「お前、どういうつもりだよ?」

(俺の話、全然理解してないだろう。

 セレニティスの姫がジュレイテで事故に遭ったら、外交関係が悪くなるかも知れないだろう。

 まったく……)


 姫の立場にい未だに慣れていないリエラは、やる気満々で、


「一緒に捜すよ!」

(みんなで捜した方が、見つかるの早いよ。

 よし、捜すぞ。おぉっ!!)


 必要以上に張り切り出したボケ姫を前にして、ユーリは盛大にため息をついた。


「…………」

(お前、もう放置。

 雪に埋もれても、自分ではい出てこいよ。

 俺は助けないからな)


 外交問題より、放置優先。


「さぁ、捜すわよ!!」

(絶対、見つけるわよ。

 慣れてても、やっぱり一週間も側にいないのは落ち着かないわね)


 妹と同じように張り切り出したアイシスを見て、ユーリは淋しそうな瞳で、


(俺……この先どうなるんだろう?

 リエラと結婚して、こんなめちゃくちゃな姉妹と家族になるのか。

 何とかして、阻止しないとーー)


「ーーユーリ様!」


 従者の叫ぶ声が辺りに響いた。


「ん?」


 ユーリが呼ばれた方へ歩いて行くと、見慣れた皮袋が置いてあった。


(兄さんの荷物……)


 しかし、カータの姿はどこにも見当たらない。リエラは落ち着きなく、キョロキョロ。


(どこにいるのかな? カータさん)


 アイシスはあごに人さし指を当てて、首を傾げる。


(たぶん、気づいてないと思うの。

 だから、私たちがきちんと見つけないといけないのよ)


 研究に没頭している可能性が高いカータ。


「陛下!」


 従者が声をかけても、国王自らは出てこない。ユーリは捜している従者たちをぼんやりと眺めて、


(そうだな……あれがこうで、それがあーー)


 結論に辿り着かないうちに、右斜めへ向かって歩き出した。


(ん?)


 ユーリは何かに気づいて、さっき開いた扉ーー入口へ振り返り、


(外は雪が降ってるのに……ずいぶん暖かい感じがする)


 肌の感覚を頼りに進み始めて、


(こっちの方がもっと暖かいな……)


 ユーリの進んでいる方向は、彼がさっき無意識の内に進み始めた方向と一致していた。壁際へ近づくと、ユーリは少し入り組んだ場所を発見。


(この中にいる感じがする……)


 そう思いながら、中へ足を踏み入れた。一瞬、目の前が真っ白に。


「っ……!」

(眩しい……)


 ユーリは目を凝らしながら、カータの姿を捜し始めた。


(いるはずなんだよな……。

 それにしても、ここ……暑いな)


 その時、ちょうど、カータの背中が視界に入った。ユーリに気づいていないようで、彼は一生懸命壁を調べているようだった。コートは足元にグシャグシャに置かれ、ブラウスの袖は捲り上げられている。


(やっぱり……ここにいた。

 でも……俺じゃ無理だろうな)


 一週間、研究に没頭したままであろう兄の姿を前にして、ユーリは的確にある人の名前を大声で叫んだ。


「義姉さん、見つかりました!」

(俺が声かけても、たぶん聞こえないんで、義姉さんお願いします)


 それに反応して、アイシスとリエラは従者たちを引き連れて、ユーリのところへ走ってきた。アイシスはカータの後ろ姿を確認して、ほっと胸をなで下ろし、


(無事で……よかったわ)


 そして、王妃は自分の使命を果たすために、大声で、


「カータさんっ!」

(研究するのは、いったん中止よ)


 ユーリの読み通り、カータは手を止めて、後ろへ振り返った。そして、のんびりと、


「おや? ここまでいらっしゃたのですか?」

(アイシスさんは、いつ見ても素敵です)


 リエラはカータを確認して、少し涙ぐんだ。


「……カータさん」

(無事でよかったです)


 カータは彼女らとたくさんの部下を見回して、不思議そうな顔で、


「リエラちゃんにユーリも……。みなさん、どうしたんですか?」

(なぜ、こんなにいらっしゃるのでしょう?)


 救出されているのに、のんきな質問をしている夫に、妻はため息まじりで、


「『どうしたんですか?』じゃ、ないわよ」

(やっぱり、そうなのね)


 カータはさらに不思議そうな顔で、


「アイシスさん?」

(様子が少しおかしいようですが……)


 王妃は国王の近くにより、しっかりと言い聞かせ始めた。


「みんな、心配してたのよ」

(お城のみんなで、一週間ずっと捜してたんだから)


「……心配……? ……ですか?」

(みなさんがですか?)


 カータは思ってもみなかった言葉が出てきたので、首を傾げた。リエラはカータの言動を前にして、あることを思い出し、


(そういえば……お姉ちゃん、前言ってたね)


 そして、リエラは側にいるユーリに、小声で、


「もしかして……気づいてないのかな?」

(そんな気がする……)


「…………」

(お前、珍しく鋭い)


 ユーリはため息だけ返した。カータは他の人たちの服装を見て、さらに、のんきなことを、


「みなさん、暑くないですか?」

(ずいぶん厚着のようですが)


 カータはブラウスの袖をまくっているが、ここジュレイテは、一年中冬。他の人たちは完全防寒。アイシスは脱線しそうになっている話を元に戻した。


「一週間も閉じ込められてたのよ」

(服装の話よりも、こっちの話の方が今は重要よ)


 カータは愛する人を不思議そうに見つめて、


「一週間……閉じ込められてた……。どなたがですか?」


 平然と聞き返した国王に、まわりにいた従者はコケそうになった。


(こ、国王陛下……。

 ここまでボケていらっしゃるとは存じませんでした) 


 アイシスはため息をついて、まわりを見渡す。


「…………」

(みんな、あきれちゃってるわね。

 困ったものね。

 言い聞かせるとかのレベルじゃないわ、これじゃ。

 これからは、私がしっかり管理しないとダメみたいだわね)


 何も言わない妻を、カータはじっと見つめて、


「どうしたんですか? アイシスさん」

(言っていただかないと、わかりません)


 アイシスはあごに人さし指を当てて、首を傾げた。


「…………」

(そうね……お城の人たちには、ちょうどいい機会かも知れないわね。

 カータさんのこと知ってもらうために、このまま放っておきましょう)


 妻が夫を放置。いつまでも返事が返って来ないので、カータはアイシスから視線をはずし、他の人たちに問いかけた。


「どなたがですか?」

(教えていただけませんか?)


 あまりにも研究魂に火がついている、ジュレイテ国王を前にして、リエラが言葉少なに、


「カータさんが」

(一週間、閉じ込められてたんです)


 それを聞いて、カータは珍しく驚いた。


「私……ですか!?」


 本当に遭難しそうな国王に、ユーリが状況説明。


「洞窟の入口が、雪崩でふさがったんです」

(兄さんが国王の仕事したら、一瞬にしてジュレイテ崩壊します。

 一点に集中しすぎです)


 いくつもの仕事を同時にこなし、戦争ともなれば心理的な駆け引きも要求される国王の職務。研究に没頭してしまうカータにはかなり無理。


 カータは天井を見上げて、記憶を辿った。


「あぁ……そういえば、少し前に揺れましたね」

(あれは、雪崩が原因だったんですね)


 大きくうなずいている国王に、部下たちは複雑な表情に。


(時間の感覚がここまでずれていらっしゃるとは、存じませんでした。

 一週間前は、少し前ではございません。

 かなり前でございます。

 国王陛下の新たな一面を発見いたしました)


 アイシスは従者たちの反応を見て、にっこり微笑んだ。


(これで理解したわね、みんな。

 今度、遭難したても、それほど心配しなくなるはずだわ)


 カータは全員に、丁寧に頭を下げ、


「それは、ご心配をおかけしました。すみません」

(一週間、捜してくださってたんですね)


 腰の低い国王を目の前にして、従者は非常に戸惑った。


「……ご、ご無事で何よりでございました」

(国王陛下が頭を下げられる必要はないと存じますが……。

 これが、私どもの仕事でございますから)


 一段落したところで、カータは別の話題へ。


「ユーリ、こちらを見てください」


 自分がさっき調べていた壁を指さした。ユーリはそれを見ようと近づき、何かに気づいて、


(ん? これが原因……?)


 カータは弟の小さな変化を見て取り、嬉しそうな顔で、


「気づきましたか?」


「熱……を発してる?」

(だから、異様に暑いのか)


 察しのいいユーリの言葉を聞いて、カータは大きくうなずいた。


「えぇ。ここは他よりも異様に暑いですよね? どうやら、この物質がその原因のようなんです」

(つい先ほど、見つけたんです)


 リエラは壁に頬が触れるかどうかまで、顔を近づけて、


「本当だ」

(熱いね)


 アイシスは壁に、細く女性らしい手をかざした。


「そうね。何かのエネルギーが出てるってことかしら?」

(そうなるわよね)


「えぇ、おそらくそうでしょう」


 カータは相づちを打った。このあと、ここにいる全員が驚愕に染まる言葉が、国王から発せられる!


「実は、お腹が空いたので、少し削り取って食べてみました」

(とても優しくて、心地よい味がするんです)


「えぇぇっっっ!?!?!?!?」

(食べた!? それが無事だった原因ですか!?)


 みんなの大声が、洞窟中に響き渡った。カータはその反応に不思議そうな顔で、 「おや? どうしたんですか?」


(驚いているように見えますが……)


 洞窟の、しかも未知のものを口にするなどと荒技に、従者たちは無言で、国王に訴えかけた。


「…………」

(なぜ、このようなものを口にされたのでしょうか?)


 みんなが何を言わんとしているのかを読み取って、カータは小さくうなずき、


「昔から宝石などは、薬として服用されていましたから、大丈夫です」

(よくしていますよ、発掘現場では)


 研究者魂もここまでくると、全員お手上げだ。従者たちは曖昧に、


「は、はぁ……」

(こちらは、宝石ではないように存じますが……)


 他の人たちに構わず、カータは先に話を進める。


「それで、これが何であるのか気になるのですが、初めて見る物質なので、見当がつきません」

(この世界にしか、存在しないものなのかも知れません)


「何だろうね?」


 リエラは手で壁に触れた。そして、違和感を抱いて、


(あれ? 思ったより熱くないんだね。

 本当に不思議だね)


 カータは困った顔で、


「調べたいんですよね……」

(地質学者としての探求心がうずくんです)


 アイシスはあごに人さし指を当て、首を傾げ、


「そうね……?」

(どうしたらいいのかしら?)


 カータは愛する妻に同意を求めるよう、


「この国では無理ですよね?」

(あちらの世界へ持ち帰ることが出来たら、一番よいのですが……)


 一生懸命頭を悩ませている三人を、ユーリは背後から眺めていた。


(兄さんは無事。

 新しい物質の発見。

 そうだな……あれがこうなって……それがああーー)


 そこで、国王代理の思考は急転。


(昨日……。困ってるみたいだったからな。

 少し、表に出した方がいいんだろうな。

 そんな感じがする)


 金髪天使のことが脳裏に浮かんでいた。この一瞬で、そして今、ユーリは気づいた。昨日、ルーが何のために自分たちのところへ、お弁当も持たずに、しかも、あんな呪文みたいな話をしてきたのかも。


 誠矢がルーに確認していた、『みんな』にわかるように、ユーリは思考を少しだけ、わかりやすくした。


(そうなると……この事件ってこっちの話なんだろうな。

 これでわかるだろう)


 人じゃない領域へ、デカデカとした態度で言い放った。そして、ぼんやり王子はまた指示語ばかりの思考へ戻った。


(それがこうなって……あれがああ……だから、そうなるんだろう)


 ユーリは導き出した答えをカータに告げる。


「カーバンクルへ持ち込みましょう」

(これが差別をなくすのに、大きなチャンスになる。

 そんな感じがする)


 部下はユーリの言葉にびっくり仰天!


「……!?!?」 

(カ、カーバンクルでございますか!?

 差別されているはずでございましたが)


 カータは弟の提案に大いに賛成。


「あぁ、それはいいですね。みなさん、いますしね」

(これで研究が進みそうです)


 差別はされているが、皇室はしていない。しかも、誠矢と美鈴がいるのだ安心だ。


「俺にいい考えがあります」

(これで、解決だろう。

 ……そんな感じがする。

 俺と兄さんでカーバンクルに行く)


 ユーリはわざと『みんな』にわかるように、心の中で確認した。弟の心の内を知らず、国王、カータはにっこり微笑んで、


「そうですか」

(みなさんのために、役立つものだといいですね)


 リエラはユーリの横顔をじっと見つめて、誰も気づいていない違和感を抱いた。


(何だか……様子が違う気がする。

 気のせいかな……?)


 確かに、ユーリの様子はおかしい。だが、とてもじゃないけど、たどり着けないところまで、不機嫌王子は行ってしまっていた。

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