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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
33/55

いくつもの予感

 暖かい春風が吹き抜けていく、カーバンクル城の玄関。

 豊かな緑に囲まれ、のどかに蝶々が舞い、柔らかな日差しが差し込む。

 ふたりの従者を従えて帰ろうとしているユーリとリエラに、ミリアが声を、


「これ、持ってきなよ」

(すぐに会えるような立場じゃないからさ。

 せめて、これぐらいは連絡手段あった方がいいと思うんだよ)


 リエラは手渡された物を見て、目を大きく見開いた。


「携帯っ!?」

(こっちの世界で見るなんて思わなかったよ)


 ろうそくに暖炉の生活では、無縁のものだっただろう。そこで、ボケ少女珍しく何かに気づき、親友に顔を上げ、


「水の中は?」

(海の中には持っていけないよね?

 ジュレイテに置いといてもらわないとダメかな?)


 ミリアは色っぽく微笑む。


「特殊加工してあるから、平気だよ。自分で持ってなかったら携帯の意味ないでしょ」

(計算済みだよ、そんなこと)


 カーバンクルの技術の高さに驚くところだが、ボケ少女はスルー。リエラは屈託のない笑顔で、


「ありがとう」

(あとで、お城に帰ったら貝がら集めて、デコしよう)


「ふーん」


 ユーリはぼんやり眼で、気のない返事。


(これは、攻め落とす時には使えそうにないな)


 不機嫌王子はもう、完全に世界征服の野望の中。セリルは小さなふたつのケースをユーリに差し出して、


「あと、これも持ってけよ」

(こっちは使えっかも知れねぇぞ。

 ーーって、オレが侵略の手伝いしてどうすんだって!)


 ひとりボケツッコミをしているセリルの手のひらを見て、リエラは首を傾げ、


「何、これ?」

(はしごのやつと似てるね)


 まともに返してきた従姉妹の隣で、セリルは口の端でにやり。


「そこで、ちゃんと見とけよ」


 そのうちのひとつを手に取って、ボタンを押し、軽く空中に放り投げた。すると、そこにバイクのような物が。ハンドルにもたれたセリルは、得意げに、


「エアバイクだ」

(これあっと、移動すんの楽だぞ。

 犬ゾリも川下りも、もう必要ねぇって)


 スミレ色の瞳に、白い鉄の塊を映して、ユーリは、


「飛ぶのか?」

(タイヤ、ついてないな)


 セリルは軽快に、


「おう」

(街で見かけたろ。

 車も何もかも、乗りもんは飛ぶんだって、この国のはな)


 リエラは目をきらきら輝かせる。


「すごいね!」

(本当に何でも小さく出来るんだね)


 ユーリは長年の付き合いのセリルに、短く、


「で?」

(動かし方は?)


 セリルはハンドルをクルクルと左右に回転にさせながら、


「おう。スクーターと一緒でアクセルとブレーキだけだ」

(ギアチェンジはねぇぞ)


「サンキュー」


 ユーリは珍しく嬉しそうな顔し、


(これで、ずいぶん国費浮いたな。

 移動する時間も短縮される。

 無駄な時間が減って、その分、重要なことに時間費やせるな。

 あれがこうで、それがああだから……?)


 ぼんやりし始めたユーリの隣で、リエラは携帯を従者に渡し、


「それじゃ、また来るね」


 カーバンクル兄弟に元気よく手を振った。思考中だったユーリは我に返って、ぼそっと、


「じゃあ」


 セリルとミリアは笑顔で、


「おう、また来いよ」

「はいよ、またね」


 リエラとユーリはふたりの従者と共に、カーバンクル城から街へと歩き出した。自分たちからどんどん離れてゆくリエラとユーリの背中を見つめながら、セリルは珍しくため息をつく。


(結局、お前ら何も言ってこなかったな。

 オレらの知らねぇこと、知ってる気がすんなぁ。

 ただの勘だけどな……)


 お互いの言ってこない理由は、情報交換されなかった。不安が残るセリルに向かって、


【守護する者】


 不意に自分の内側に響いた声に、大きく目を見開いた。


(あの見えねぇやつ……オレに語りかけてきやがった。

 『守護する』……それって、オレがユーリを守護しろって意味だろ?)


 正体不明の人物に問いかけ、吹き抜けていく春風の中、勘の鋭いセリルは神経を研ぎませ、


(…………。

 …………)


 そして、セリルは自分の問いかけの答えを直感した。


(……あってるってことか。

 何も返してこねぇってことは。

 それがオレの夢見てる……理由……だろ)


 セリルは真剣な顔で、ユーリたちを見つめたまま、静かに、


「なぁ、ミリア?」

「ん?」


 彼女もふたりを見つめたまま、聞き返した。セリルは自分と同じ夢を見ている妹に、


「ユーリ……だよな?」

(亮の誕生日から見てる夢に出てくるやつ)


 腕組みをしたまま、ミリアは相づちを打った。


「そうだろうね」

(視界がぼやけてて、判断するのは難しいけど……。 

 銀の長い髪、意思の強い瞳。

 この世界で会ってみて、確信したよ。

 亮の誕生日の朝、白石を見て何か引っかかったけど……こういうことだったんだね)


 セリルは去年の七月七日を思い出して、やり場のない気持ちで、またため息をついて、


「…………」

(亮が八神に注意された時、祐が目に入って……ピンと来たんだって。

 似てんなって。

 それに、亮がガキの頃から見てる、あの死んだ夢と関係してるんじゃねぇかってな)


 彼らは共通の夢を見ていた。それがユーリたちに言えない理由のひとつ。セリルはユーリたちが去って行った方へ、未だ真剣な眼差しで、


(オレらが見てんのは、銀の長い髪ーーユーリだけしかが出てこねぇんだ。

 全体的にぼやけてて、何の話をしてるのかもわからねぇけど……。

 これだけは、強く感じ取れんだよ。

 そいつーーユーリが大事なもんなくして、すげぇ悲しんでるって)


 そこで、セリルの心で不意に聞き慣れたーー不機嫌な声が響いてきた。


『そうだな……あれがこうで、それがこうだろう……。だから、そうなって、あれがこうで……?』


 赤髪少年は誰の心の声だか気づいて、


(ユーリ……。

 何で、こんだけ離れてんのに、あいつの心感じーー!!)


 そこで、違和感を持って、セリルははっとした。


(……違ぇ。

 感じ取ってんじゃなくて、はっきり聞こえてきてんだって)


 いつもの自分らしくない原因を、セリルは素早く直感。


(あの見えねぇやつ………オレの力増幅しやがって。

 聞けってことか。

 ーーと、その前に……)


 お笑いモードに突入。セリルはにやりと笑い、ユーリにツッコミ。


(にしても……お前の心、相変わらずわかりづれぇな。

 指示語ばっかで、何考えてんのか、全然わからねぇじゃねぇか。

 よし、突っ込んでやったぞ。次だな)


 セリルはすうっと真顔に戻って、リエラの心の声を聞くため、神経を研ぎ澄ます。


『よし、がんばって呪いの本探すぞ!! おぉっ!!』


 それを聞いた、セリルは雷に打たれたような衝撃が体中を駆け巡った。


(呪い!? 全部……オレの予感的中じゃねぇか)


 リエラの心の声の続きが、


『十八の誕生日までにあんまり時間がないから、絶対見つけないとね』


 セリルは大きな杭に打たれたような、胸の苦しみが不意に広がって、


(それって、お前に呪いがかけられてて、十八の誕生日までに解けってことだろ。

 で、それ解かねぇとーー)


 非常に深刻な彼の心に、、リエラの心の声の続きが。


『……そういえば、お腹空いたなぁ。フライドポテトないかな?』


 セリルは深刻さが一気に飛んで、ゲラゲラ笑い出した。


(いやいや、お前さっき、思いっきりクッキーとかタルト食ってたって。

 腹空くの早過ぎだって。

 だから、お前がいると、話深刻にならねぇんだって!

 よし……また真面目に考えんぞ)


 彼は軽く息を吐いて、話を元に戻し、


(で、それ解かねぇと……この先どうなっちまうのか、想像つくだろ。

 亮の夢とオレらの夢足したら……。

 全部、ただの勘だけどな。

 勘っていうのは外れる時があんだよ。

 だから、オレの考え過ぎなのかも知れねぇって、ずっと思ってたんだよ。

 だけどな……)


 勘は外れることがあるが、確定要素がカーバンクル兄妹にはあった。セリルはミリアに、いつもと違って、静かな声で、


「なぁ、お前の調べてるSNAって、どのくらいの確率で当たんだよ?」

(気のせいだなんて、もう言えねぇ……んだよ)


 妹は前を向いたまま、息を少し吐き、


「100%じゃないけど、それにかなり近いよ」

(何度も調べたけど、結果は同じだった)


「そう……か」

(科学的に証明されちまったな)


 セリルは軽く目を閉じて、ため息をついた。魂のDNAといわれるSNAは、輪廻転生の記録がしるされている。どこの宇宙で生まれ、どんな人生を送り、いつ死んだのかが詳細にわかる。


 そこで、ミリアはある法則を見つけた。それが、ユーリたちに言えない本当の理由。天才少女は視線だけ兄に向け、


「また、なんか直感したわけ?」

(あんた、ちょっと様子おかしいみたいだけど……)


 セリルはリエラに神経を傾けたまま、


「リエラの心が聞こえてきてな……十八の誕生日までに呪い解くって、そのために本探す、ってな」

(もう、聞こえなくなっちまったな……)


 ミリアは寂しそうに、目を伏せた。


「……そう」

(十八の誕生日までか……。

 それに、あの星の並びは呪いが原因……だからーー)


 そこで、妹は兄の直感がいつもと違うことに気づいて、、あたりを見渡した。


「もしかして……側にいるの?」

(気配がひとつ多いとか言ってたけど……。

 さすがに、そういうのは、あたしじゃちょっとわからないからね)


 天啓を受けやすいセリルは、首を横に振って、


「いねぇぞ……」

(あいつらについていったって。

 ユーリたちと一緒に遠ざかっていったぞ)


 ミリアは街の方へ視線をあげた。


「何者なんだろうね?」

(どこかで感じたことある気配だった?)


 セリルは両腕を頭の後ろに回して、軽い口調で、


「わからねぇな」

(オレの知ってるやつじゃねぇぞ)


 ミリアは何かの期待がはずれたように、ため息をついた。


「……そう」

(武道家のお兄さんでも、ふんわりした彼でもないのか)


 ルーでも袴姿の男でもない。セリルはくるっと城へ向きを変え、


「悪いやつじゃねぇだろ」

(ユーリが警戒してねぇんだから。

 あいつ、勘時々するでぇからな)


 ミリアも色っぽく、後ろへ振り返った。


(残念だね。研究対象がひとり減ったよ。

 姿が見えないんじゃ、SNAのデータ収集は困難だからね)


 SNAのデータは、言霊ことだまで収集する。だから、本人のそばにいて、話が聞けないといけない。セリルは背中でリエラを強く感じながら、カーバンクル城へ入っていく。


(リエラ……亮、このままいっちまったら、来年の今ごろ……オレらの側にーー!!)


 そこで、何かを直感して、急に立ち止まった。


「八神とルー、知ってんのか!?」

(呪いの解き方も、リエラ……亮がこの先どうなっちまうのかも)


 ミリアは別に驚きもせずに、先へ歩いていく。


「そうだろうね」

(そう判断するのが、自然だね)


 セリルは妹の後について、再び歩き始め、


(どんな解き方だよ?

 言ってこねぇ理由って、何だよ?

 それに……)


 彼は珍しくぼそっと、


「……何で、あいつらだけ知ってんだよ?」

(ユーリもリエラも……みんな知らねぇのに。

 妙だよな?)


 ミリアは春の日差しに目を細めながら、少しため息をついた。


「わからないね」

(SNAをさらに解析するためにも、それは知りたいところだけど……。

 無理だろうね。

 あのふたり、かなり手強いからね)


 天才少女の脳裏には、瑠璃色の髪の策略家と、ミラクル天使が浮かんでいた。セリルはまた立ち止まって、軽く息を吐く。


(それに、何でオレらにも言ってこねぇんだ?

 呪いかけられてんのはリエラだろ?

 それを解くのに、一番関わってそうなのはユーリ。

 あいつらに言わねぇ理由は、何となくわかんだよ。

 言うと、解けなくなっちまうとか、そんなんだろ。

 でもな……それだけなら、ふたりにだけ内緒にしとけばいいだろ。

 何も、オレらや愛姉たちまで内緒にする必要ねぇよな。

 別の理由って、何だ?

 ………?

 ……………?

 …………ダメだな、思いつかねぇ。

 ってことは……)


 策略家と天使が言ってこないのには、それぞれ理由がある。セリルはかすれた声で、


「……これ以上、リエラの呪いのこと、今は追求しねぇ方がいい気がすんぞ」

(思いつかねぇってことは、今は知らねぇ方がいいってことだろ)


 ミリアは景気よく、


「あいよ」

(それは一理あるね。

 今知るべきことじゃないんだろうね。

 だったら……)


 妹は兄の横を通り過ぎながら、


「あたしたちも、リエラたちには教えない方がいいだろうね」

(優雅な彼とふんわりした彼が解き方を知ってるって、言わない方がいいだろうね)


「おう」


 セリルは少しだけ微笑んで、ミリアのあとを追いかけ始めた。


(まぁ……そのうち、八神かルーのどっちかが何か言ってくんだろ。

 そんな気ぃすんぞ。

 だから、リエラの呪いの方は、今は保留だな。

 それよりも……)


 窓から見える大きな建物に視線をやって、


「あっちを、どうすっかだな」

(元老院。何か……嫌な予感すんだよな)


 ミリアも同じものをじっと見据え、


「そうだね」

(お兄さまの昨日の欠席が、どう響くか……だね)


 セリルは頭の後ろに両腕を回して、再び玄関を見て、


(あの目に見えねぇやつ、ずっとユーリたちについてんのか?

 ご苦労なこっーー!!)


 何かを直感して、城中に響くような大声を上げた!


「あぁっっっ!?」

(オレ、あいつに会ったことあんぞ!!

 今、そんな気ぃしたって。

 最近……じゃねぇ。

 もっと、ずっと……ずっと前だ。

 いつ、どこでだ?)


 セリルはそれを考えようとすると、なぜか急に背筋が凍った。


「あぁっ!?」

(すげぇ、強力なのきた!!)


 びっくりして飛び上がった兄を横目で見て、ミリアはあきれたようにため息。


「今度は何?」

(まったく、お兄さまは落ち着きないね。

 リエラとそっくりだよ)


 セリルは青ざめた顔で、慌てて首を横に振った。


「……べっ、別に何でもねぇって」

めっ、止めっ!!

 あいつのこと考えんの止めだ。

 命の危険じゃねぇけど、それに近い何か感じるって)


 ミリアは街の方へ、一度振り向いて、


(リエラたちについていった気配って、一体どんな人物なんだろうね?)


 王子なのに姫。セリルはユーリが感じたものと同じ恐怖を味わっていた。

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