表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
32/55

深みにはまるふたり

 ーー翌日。

 それぞれの部屋で朝食を食べ終えた四人は、セリルの部屋に集まっていた。


 クリーム色のカットソーに茶色の革のパンツという、到底王子様とは思えないラフな格好をしているセリルが、急に話題を変え、


「おう、そういや渡すもんがあったんだよ」


 赤髪少年はポケットから何かを取り出した。オレンジのドレスを着たリエラは、不思議にそうに、


「何、これ?」

(カードみたいだけど……)


「入国許可証」

(珍しく、まともに返してきたじゃねぇか)


 セリルは一枚をリエラに、もう一枚をユーリに手渡した。ユーリはそれを受け取って、ぼんやり眼のまま、瞬時にカードの意味を理解して、


(ふーん、なるほどな。

 これで、カーバンクル攻め落としやすくなったな)


 まだ侵略を諦めていないユーリは、ご満悦な顔で、


「サンキューな」


 親友の心を感じ取ったセリルは、慌てて、


「いやいや、間違った使い方すんなって」

(攻めやすくするために、渡したんじゃねぇって)


 戦争が始まりそうな予感が思いっきりするところへ、リエラの戸惑い気味の声が、


「あ、あの……もう、持ってるけど……」

(昨日、使ったから。

 間違ってないと思うよ)


 ミリアは、リエラたちが持っているものと何が違うのかーーユーリが直感した内容を説明。


「それはね、列に並ばなくも、すぐに入れるものなんだよ」

(あんたがまともに話してるなんて、珍しいね)


 リエラが大暴投をしていないということは、重要な意味がある時。自分自身のことさえもめちゃくちゃなボケボケ姫は、気づくことなく、屈託のない笑みで、


「へぇ、そうなんだ」


 そして、彼女は自分たちが入国した時のことを思い出し、とても澄み切った心でしか辿り着けないことを口にした。


「じゃあ、これをみんなに配ればいいね。そうすれば、みんないつでもすぐに入れて便利だね」

(それなら、一生懸命来て、入れないってこともなくなるね)


 向こうの世界では、大人の中で、激しい競争の中で生きてきた、ミリアは真剣な眼差しで、


「それが出来たら、もう少し救いようがあるだろうね」

(自分のことしか考えてない人間には、そういう発想は生まれないんだよ。

 たとえ、それが自分自身を苦しめてる原因になっていても、それに気づくことも出来ない)


 人のことを優先させるの当たり前。とても純粋な心を持っているリエラにはわからなかった、私利私欲で動いている人間が存在しているとは。リエラはミリアの瞳をじっと見つめて、


「え……?」

(配れば、それで解決だよね?)


 ユーリはぼんやりと宙を見つめたまま、


(ジュレイテはカーバンクルから差別を受けてるということは、確定した)


 そして、彼はぼそっと、


「非合理的だな」

(別の許可証作るだけで、国費は減る。

 国境付近で、入れるやつと入れないやつを判断するから、ただチェックするよりも時間がかかる。

 そこに付きっきりになる部下の確保が必要。

 差別なんてしなければ、その分の国費と時間、部下の労力を、みんなの幸せのために使えるのにな)


 銀髪少年の言うとおり。無駄だらけなのだ、他にやることがたくさんあるだろうに。リエラは今度、スミレ色の瞳を見て、


「え、何が?」

(非合理的って言ったよね?)


 リエラの視線を頬に感じながら、ユーリは一言。


「差別」

(誰も幸せにならないことをして、一体何の意味があるんだろうな。

 自分まで面倒くさいことになってるだろう)


「えぇっっっ!?」

(た、大変だ。早く行かないと……)


 リエラは大声を上げて立ち上がり、急いでドアへぴゅーっと走り出した。従姉妹の行動を十分把握しているセリルは、手元をさっと操作し、


「おいおい、どこ行くんだって」

(仕方がねぇな、ドア、ロックしといてやったからな)


 リエラは振り向いて、普段の彼女とは思えないほどしっかりとした態度で、


「差別はダメだからって、言いに行くんだよ」

(間違ってることは、間違ってるって教えてあげないとね。

 同じ心を持ってるのに、差別するのはおかしいよ)


 伝える勇気も、心の清らかさのひとつ。ボケているが、リエラは尊い心を持っていた。ミリアが先走りの親友に、


「誰んとこ、行くの?」

(あんた、まだ話途中だよ)


「差別してる人のところだよ」


 リエラはきっぱりと応えた。セリルは頭の後ろに両腕を回して、少しだけ笑い、


「あーっと、具体的に誰だって?」

(お前、行き先わかってねぇだろ)


「カーバンクルのーー」


 リエラはそこでまで言って、言葉を止めた。


(……あれ、誰だろう?)


 心は澄んでいるが、先走りは彼女の性格。ユーリはリエラに構わず、カーバンクル兄妹に、


「どうなってるんだ?」

(カーバンクルの政治形態は?)


 セリルは窓から見える大きな建物に顔へ向けて、静かに、


「この国には、皇室の他に元老院っていうのがあってな……」

(昨日、そいつらが主催するパーティーがあったから、いつもより入国審査厳しくなってたんだって)


 ミリアが言葉を続ける。


「そこが、皇族に意見出来るくらいの権力を持っててね」

(カーバンクルの情勢は、微妙なんだよ。

 昨日、セリルが欠席したから、さらに微妙になるかも知れないね)


 カーバンクルの情勢はちょっと複雑。元老院は差別しているが、皇族は差別していない。だから、ユーリたちは入国チェックで待たされたが、カーバンクル城内には入れたのだ。


「わかった、元老院さんだね」

(よし、早速行ってこよう)


 リエラは言って、ドアへ素早く振り返り、ぴゅーっと走っていった。セリルは彼女の後ろ姿を眺めながら、心の中でゲラゲラ笑う。


(いやいや、悪者に『さん』付けなくていいんだって。

 敬称つける必要ねぇだろ。

 それに、お前、元老院の意味わかってねぇだろ。

 人の名前じゃねぇぞ)


 どこまでも純粋な心を持つリエラは、いつまで経っても開かない、ロックされた自動ドアの前で、


(あれ? 開かない……)


 ユーリは盛大にため息をついた。


「…………」 

(先走り。

 昨日、国境付近で言わなくて正解だった)


 言っていたら、護衛にリエラが詰め寄り、国交問題に発展してしまったかもしれない。そうなれば、戦争が起きる可能性も。ユーリはリエラを放置しまたま、セリルたちに、


「差別の理由は?」

(それによって、対処の仕方が異なる)


 銀髪少年はある理由があって、お金を欲している。そのためには、差別にも真っ向から挑む。ミリアはあきれたように、


「文化があまりにも違うでしょ? だから、『北の蛮族』がって、そう思ってるみたいよ。」

(まったく隙だらけだよね、この国)


 元老院は地位というものに心を奪われ、本当に大切なものを見逃している。相手を見下したら、自分が負け。ユーリはいつもより、ぼんやりした瞳で、気のないふりで、


「ふーん」

(好都合だな。

 『蛮族』って思ってるってことは、自分たちよりも全て格下だと思ってる可能性が高い。

 そうなると……ジュレイテが攻め込んでくるなんて、まったく思ってない。

 攻め込まれた時の対策は取ってない確率が高い。

 カーバンクルのジュレイテに対する防御率はゼロに限りなく近い。

 この国から攻めた落とした方が、国境なくすには一番合理的だな。

 そうだな……あれがこうで……俺が皇帝になって……他の国も治めて……?)


 世界征服に到達しようとしているユーリを前にしで、セリルは珍しくため息ついた。


(だから、そっちに話持ってくなって。

 お前の天下統一ストーリーになっちまうじゃねぇか。

 タイトル変更しなきゃならなくなっちまうだろ)


 確かに、Legend of kissではなく、World conquest(世界征服)になってしまう。放置されていたリエラは、部屋を見渡していた。


(どうしようかな?

 んー……? あっ!)


 穏やかな日差しの差し込む、四角く透明なものを見つけて、ぴゅっと近寄った。考えごとを続けていたユーリの視界に、窓に近づいているリエラの姿が映っていて、


(で、態勢が整ったら……この国の技術を駆使して、チョコを大量生産ーー)


 ここまでくると、チョコレート狂どころの話ではない。そこで、彼の思考は急変し、全然違うことをカーバンクル兄妹に聞いた。


「あと、差別されてるところは?」

(ジュレイテだけじゃない感じがする)


 セリルは親友の心を感じ取って、口の端でにやり。


(だから、お前は予測出来ねぇんだって。

 チョコから、どうやって戻って来たんだって。

 まぁ……それがお前の直感ってやつだな。

 オレやリエラとは全然違ーー!!)


 リエラの後ろ姿を発見して、セリルは慌てて、ソファーから立ち上がり、大声を上げた。


「あぁ!? お前、何してんだって!!」

(放置しすぎちまったって)


 リエラは窓枠に手をかけたまま、振り返り、


「え……?」

(ドアが開かないから、ここから出れるかと思って……)


 窓から出て行こうとしている従姉妹に、セリルは慌てて近寄り、彼女の手を窓枠から引き離して、


「どうやって、行く気だよ」

(ここ、十階だって。

 危ねぇって、怪我すんぞ)


 先走りリエラは眼下に広がる森を見下ろして、非現実的なことを口にした。


「……えっと………飛ぶ?」

(そこまで、考えてなかったね。

 部屋から出て行くことしか、考えてなかった)


 セリルはリエラを部屋の中ほどへ引っ張っていきながら、


「いやいや、人魚は飛べねぇだろ」

(少しは考えてから行動しろって。

 思いっきり疑問形じゃねぇか)


 リエラは部屋を見渡して、素直に考え始めた。


(そうだね……。

 どこから出ればいいのかな?)


 セリルはリエラをソファーの前に立たせて、彼女の両肩を下へ押し付け、


「いいから、大人しく座っとけって」

(出て行かなくていいんだって。

 これで、大暴投しとけ)


 ソファーに無理やり座らされたリエラは、


「あぁ……うん」

(クシで髪をとかして、時計を見る……だね)


 セリルの思惑通りに、すっかり脱出することを忘れてしまった。ここは、『しく』を『くし』と逆にして、『とけ』に『い』をつけて、『時計』に大暴投。


 ボケ倒している姫を隣にして、ユーリは盛大にため息をつき、さっきの会話を再開。ジュレイテの他に差別されている国がないのかの問いかけを、ミリアに、


「で?」

(あとは?)


 彼女は時計をじっと見つめているリエラに視線を向け、


「セレニティス」

(ジュレイテよりもひどいよ)


 ユーリは顔色ひとつ変えずに、


「理由は?」

(大体、想像つくけど)


 ミリアはやってられないというような顔で、


「わかりやすく言えば、魚のくせに人間と同じ陸に住むなって考え」

(人間だから、優れてる、偉いっていう理屈はどこから来てるんだろうね。

 あたしたち人間が、一番何の特殊能力も持ってないのにね)


 人は飛ぶこともできない、水中にも長くいられない、早く走ることもできない。危険を察知する能力も乏しい。何も特別な能力を持っていない。


 言葉が使えるから、考えられるからという理由で、差別し、上に立ったような気分になるのだ。平等な条件のもとで世界が広がっていたら、動物よりもはるかに劣っていることとも知らずに。


「え……?」


 大暴投中だったリエラは、そこで我に返った。そして、彼女はまたしっかりした瞳に変わり、


(そうか……セレニティスも差別されてるんだね)


 隣りに座っているユーリを見て、昨日の国境付近での話を思い出して、


(ユーリ、気づいてたんだね。

 だから、昨日言わなかったんだ。

 でも、どうして言わなかったのかな?

 何が理由があるのかな?)


 リエラには政治戦略はわからない。政治に長けている、ユーリは自然と阻止したのだ。セリルは珍しく静かに、


「オレたちは、高校生じゃねぇからな」

(幼なじみでも、従姉妹でもねぇんだ、この世界じゃな。

 だから、お前らがジュレイテとセレニティスにいるかも知れねぇってわかっても、会いに行けなかったんだよ)


 皇族と王族。それぞれの国のトップだ。少年少女たちには、たくさんの人の明暗がかかっている。リエラは意味をきちんと理解して、納得の声を上げた。


「あぁ……そうか」

(自分が勝手に動いたら、たくさんの人が困ることになるんだね。

 あっちの世界みたいに、仲良くは出来ないんだね)


 以心伝心のリエラの心を感じ取って、ユーリはため息まじりに、


「そうだ」

(だから、昨日言わなかったんだ。

 あそこで言ったとしても、差別をなくすことは無理だ。

 それどころか、一歩間違えば……戦争になる可能性だってあるんだ)


 侵略計画を立てているユーリは、人が無駄に傷つくことは必ず避ける。それが彼の信念。ミリアはリエラに入国許可証を見るように促して、


「だから、名前ちょっと変えたから」

(今、表立って会うと、元老院がどう動いてくるかわからないからね。

 慎重にやらないとね)


「え……?」


 リエラは自分の手元に視線を落とし、


(あぁ、本当だ。名前が違う……)


 彼女は再びカーバンクル兄妹を見て、複雑な気分に。


(何だか、変だね。

 嘘つかないと、みんなに会えないなんて……)


 確かに変だ。向こうの世界では、従兄弟と親友なのに。隣の国同士、手を組んだ方がいいことずくめ、それなのに出来ない。今は待ちの態勢を前にして、リエラはカードをぎゅっと握りしめ、


(でも、仕方ないよね、それがたくさんの人のためなんだから。

 よし、がんばって見つからないようにするぞ! おぉっ!)


 超前向き少女は急に張り切り出した。そんな彼女に珍しく突っ込まずに、セリルは部屋の片隅に視線を落とし、ボソボソと


「……あ、あと……お前らのこともちょっと……偽装……した」

(一応、言っとかねぇとな)


 あり得ないほど歯切れの悪い従兄弟に、リエラは目をパチパチ。


「偽装?」

(まだ、嘘をつくことがあるってこと?)


 セリルは彼女と目を合わせないようしながら、


「……お、おう」

(嘘っていうか……そうなるかも知れねぇっていうか……。

 ……まぁ、それはお前ら次第なんだけどな)


 ユーリは昨晩、感じたことを思い出して、鋭い眼光をセリルに投げつけた。


「やっぱりな」

(そう言ったんだな)


 セリルはドギマギしながら、素直に、


「おっ……おう、悪かったって」


 そして、ユーリの隣に座っているリエラを指して、


「だけどな、こいつ入れるには、それしか思い浮かばなかったんだって」

(今、セレニティスの姫のこいつ入れたら、面倒なことになんだろ。

 だからって、外に放置するわけにもいかねぇし。

 身分隠すにしても、まさか、一般市民を城に入れるわけにはいかねぇだろ。

 で、どうすっかって必死で考えたんだって。

 昨日、リエラとユーリに突っ込みながらな。

 最初、ピンと来たんだって、それしかねぇって)


 セリルはそこで、ひとつため息をつき、


(けどな……それじゃ色々、お前らがあとで困んだろと思ってな。

 いったん、却下にしたんだって。

 で、もう一回必死で考えて。

 兄妹……夫婦………?

 ……って、無理なんだって!

 王族の情報なんて、筒抜けだろっ。

 ユーリに妹がいねぇことも、結婚してねぇこともバレバレなんだって。

 ひとりボケツッコミしまくった結果……。

 やっぱ、直感を大事にすっかってことでーー)


 自分の思考を、ひとつずつ丁寧に心の中で語っているセリルの顔を、リエラはのぞき込み、


「何て言ったの?」

(みんなのためにも、ちゃんと聞いとかないとね。

 あとでまた、カーバンクルに来る時、セリルが言ったように言わないといけないから)


 ユーリは最高潮に不機嫌な声で、


「……あぁ〜!」

(もう、それは聞きたくない)


 セリルはうつむいて、ものすごく小さな声で、


「……こ……しゃ」


 リエラは首を傾げながら、


「え……?」

(セリル、ちょっと様子が変だけど、どうしたの?)


 赤髪少年は顔をぱっと上げて、大声で叫んだ!


「あぁ、もうっ!! 婚約者だよ!!」

(どうだ、これで聞こえんだろっ!)


 リエラはびっくりして、飛び上がる。


「えぇぇぇっっっ!?」

(こ、婚約者!?)


 ユーリはミリアに鋭い視線を送りつけ、


「共犯か?」

(お前ら、どういうつもりだよ?)


 彼女は少し笑って、首を横に振った。


「あたしは何も言ってないよ。あとで聞かされて、びっくりしたんだから」

(ユーリ ソフィアンスキーとリエラ カリアントが婚約したって、世界中に広まるだろうね、これをきっかけに)


 ユーリが婚約解消できないほど、結婚話が進んでしまった。リエラは半ば放心状態で、


「……また、婚約者になっちゃった……」

(どうして、こうなるのかな?)


 ボケ姫の記憶力のめちゃくちゃさに、ユーリは盛大にため息をついた。


「…………」

(『また』じゃない。

 俺は一度だって、お前と婚約した覚えはないんだ。

 まわりの意見に流されるなよ)


 セリルは顔をぱっと上げて、ユーリとリエラを交互に見ながら、


「あぁ? またって、どういうことだよ?」

(前にもあったみてぇじゃねぇか)


 超感覚少女、リエラは言葉をスパッと抜かして、


「夜、ユーリの部屋に行って……朝起きたら、そういうことになってたんだよ」

(どうしてだか、未だに理由がわからないんだよね)


 ユーリの部屋で大人の出来事があって、翌朝に城中から誤解されましたになっていた。ミリアは目を輝かせて、身をがばっと乗り出し、


「それって、一緒に寝たってこと?」

(途中、抜かしてるのはわざと?)


 リエラは首を横に振って、のんきに、


「ううん。その日は自分の部屋にちゃんと戻ったよ。でも、別の日に、急に眠くなって、一緒に眠っーー」


 ユーリは素早く彼女の口をふさいで、珍しく声を荒立てた。


「おまっ……言わなくていいんだ!」

(何で、まともに答えてるんだよ。

 いつも、おかしな返事返してくるのに)


 セリルはにやりと笑って、妹の方へ顔を向け、


(ミリア、笑い取んぞ)

(あいよ、お兄さま)


 ミリアが兄の視線にうなずくと、カーバンクル兄妹は意味あり気な視線を、純粋な銀髪少年ーーユーリに向けた。


(ふーん。別の日に、一緒に寝たんだ)


 ユーリは息をつまらせ、


「っ!」

(合ってるけど、意味が違っ!)


 セリルはソファーにふんぞり返って、ふざけた感じで、


「最近、仲良いと思ってたけど、そういうことだったんだな」

(九月の頭に戻った日から、お前らの様子変わったもんな。

 だから、何あったんじゃねぇかって思ってたけど……すげぇことになってたんだな)


 ミリアは遠くに視線を移して、しみじみと感心。


「大人の階段だねぇ」

(そういう事件があったんだね。

 あんたたちの様子が、おかしかったのはそれが原因か)


 ユーリは顔を赤くして、しっかりと否定。


「……違う」

(ふたりして、勝手に納得するなよ)


 恥ずかしさのあまり、ユーリは忘れていた。昨日のリエラの大暴投のことを。セリルは頭の後ろに両腕を回して、口の端でにやり。


(何もなかったに決まってんだろ。

 じゃなきゃ、昨日、リエラがオレたちにあんなこと言う訳ねぇだろ)


 大人の情事を知っていたらリエラが、三人一緒に寝ようなどと言うはずがない。ミリアはユーリを見つめて、大人の余裕で、


(あんた、そういうとこ可愛いね。

 何もなかったのぐらいわかってるよ)


 大人な中で育って来たのだ。関係を持ったかどうかは、ミリアには判断がすぐつく。ユーリは自問自答をくり返しながら、どんどん自信をなくしていく。


(何もなかったんだ、本当に……。

 ……絶対……きっと……たぶん………)


 知らないうちにバージンなくしたかもの真相は、未だに闇の中。勘の鋭いセリルは、ユーリたちの後ろをちらっと見て、


(お前が覚えてねぇのは、そこにいるやつに眠らされたからだろ。

 そんな気がすんぞ。

 何をどうしたのかまでは、わからねぇけどな)


 【 】は、見えない存在ーー神とは別が語りかけている言葉。絶妙に運命は導かれている。セリルはユーリに焦点を合わせ、急に真面目な顔で、


(……お前、リエラのこと好き……なんだな。

 嫌な予感……全部当たっちまった……な。

 だから、本当のこと言えねぇんだって)


 セリルとミリアは他の人が予感していることを、確定要素として持っている。その内容があまりにも深刻なため、わざと言ってこないのだ。


 リエラはユーリに口をふさがれたまま、目をぱちぱちさせ、一気に大暴投!


(オットセイの会談?

 何の話をするんだろう?)


 彼女の心を感じ取ったセリルは深刻さが飛んで、ゲラゲラ笑い出した。


(真剣に悩んでるオレが、バカみてぇじゃねぇか。

 遠くへ投げろよ)


 そして、セリルはいつも通りにツッコミ。


「いやいや、ふたつとも聞き間違ってるって」

(大人の階段だって)


 リエラは口をふさがれたまま、大きくうなずく。


「フン、フン!」

(あぁ、そうか。

 オットセイさんがフタを取る話し合いをしてるんだね)


 そこで、彼女は違和感を抱いて、飛び上がった。


「んんっ!?」

(えっ、何のフタ!?)


 もうだめだ。話がめちゃくちゃになってしまっている。そこへ、


「メッセージ」


 コンピュータの音声が不意に響いた。セリルはソファーから立ち上がり、書斎机へ近づいて、インターホンの受話器を取り、


「……おう。……おう、わかった」


 それを置いて、ユーリへ振り返り、


「例のモン、用意出来たぞ」

(持ってけよ)


 ユーリはリエラから手を離して、珍しく目をきらきら輝かせた。


「サンキュー」

(やっぱり、お前、俺のことよくわかってる)


 立ち上がったユーリを、セリルは肘で軽くつつく。


「当たりぇだって、何年付き合ってると思ってんだよ?」

(物心ついた時から、一緒じゃねぇか)


 男ふたりは嬉しそうに、部屋をそそくさと出ていった。閉まったドアを見つめて、ミリアは少しだけ微笑んで、


「あのふたり、本当仲良いよね」

(時々、兄弟か、親子なんじゃないかって思う時あるよ)


「うん。幼稚園の時から、ずっと同じクラスだったからね」

(よく一緒に遊んでたみたいだよ)


 リエラは出された紅茶を一口飲んだ。ミリアの中に、焦燥感が不意に広がり、ぽつりと、


「幼なじみか……」

(ずっと、一緒……か)


 リエラは屈託のない笑顔を親友に向け、


「今はもっと楽しいよ、美鈴やルーにも会えたから」

(みんな一緒だね)


 ミリアは親友から視線をはずして、静かに相づちを打つ。


「そうだね……」

(この先もずっと、こうしていられたらいいね。

 でも……このままいったら、それは叶わない……かも知れないんだよ。

 どうにかして、止めなかったら……未来は変わらない……)


 彼女の心の中で、焦燥感が悲しみに変わり、にじむ視界で、窓の外を静かに眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ