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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
22/55

おかしな時の流れ

「何で?」


 人魚姫の問いかけを、不機嫌な王子がばっさり切り捨てた。


「知らない」


 スミレ色の瞳を持つ彼の心中は、複雑だった。


(次の日の朝ーー)


 隣りにいる人魚姫をちらっとうかがい見て、


(起きたら、一緒に寝てたんだ)


 やはり一緒に朝を迎えしまったらしい。王子は短くため息をつき、


(俺、一晩一緒に過ごしたみたいなんだ。

 そこへ、義姉さんたちがやってきて……。

 城のやつらはみんな、変な誤解してて……)


 淋しそうに細めた目を、天井へ向けた。


(昨日は一日中、『おめでとうございます』って、みんなから言われ続けて。

 その上……取り消す方法考えてるうちに、寝たらしくて……。

 目が覚めたら……)


 彼は鋭い視線を、近くに垂れ下がっている暗幕に送りつけた。


(こっちに戻ってきてたんだ)


 王子服を着ている祐は、隣りにいる亮をまた見やり、


(朝、学校に来て、こいつに確認したらーー

 セレニティス国王に、『でがしたぞ! で、式はいつにするのだ?』

 って、聞かれたって……)


 彼は盛大にため息をついた。


(はぁ〜。

 セレニティス国王の策略だったんだ。

 それに、ジュレイテのやつらも加担してたんだな。

 そうだよな、おかしいよな。

 セレニティス姫の誕生日パーティが、ジュレイテであるなんて。

 俺とリエラを結婚させるためだったんだ……。

 それに……)


 天井にある、いくつものライトを見上げていた亮が、ぽつりぽつりと、


「この間は、二ヶ月も過ぎてたのに……。今回は、一週間しか過ぎてないんだね。三週間もあっちにいたのに……」


 幼なじみの言葉を聞き、祐はまた不機嫌に。


「…………」

(あぁ、もう。誰だよ?

 面倒くさいところばっかりやらせるなよ、俺に。

 どうして、文化祭ーー)


 そこへ、軽い調子の声が飛んできた。


「おう、何かあったのかよ?」

(よりによって、当日に戻ってくるなんてな)


「……?」


 亮と祐が振り返ると、誠矢、美鈴、ルーが近づいてくるところだった。


 誠矢の言う、当日とはーーそう、何を隠そう、今日は、文化祭当日ーー十一月三日なのだ。あと数分で劇が開演という時刻。亮と祐は衣装に着替え、舞台袖で待機中。


 美鈴が何気ない顔で、大発言をする。


「ふたりで朝でも迎えた?」

(あんたたち、ずいぶん距離縮まったよね?)


 大人の話を急に振られたので、祐はびっくりして、息をつまらせた。


「っ!」

(ど、どこでその情報、手に入れたんだよ?)


 親友の驚きざまを見て、誠矢もびっくり。


(あっ、マジか!? そりゃ、すげぇことになってんな)


 純粋な男子高校生ふたりに、ふんわり天使が舞い降りた。


「仲良しさん、ふふふっ」


 ある意味かなりの大胆発言をした、無邪気なルーに、祐はあきれ顔。


「仲良しさん……」

(ルーは、ちゃんと意味わかって言ってるのか?

 それとも、亮と一緒でわかってないのか?)


 当然ながら、幼なじみと一緒に朝を迎えても、セレニティス姫は、まったく意味がわかっていなかった。ユーリ一人だけが、恥ずかしがっていたのだ。


 誠矢はゲラゲラ笑いながら、ルーに突っ込み。


「いやいや、お前、何でもひとくくりにすんなって」

(何でも、『仲良しさん』って呼ぶなって)


「ありがとう」

(誠矢クンも、仲良しさん)


 可愛く小首を傾げたルーは、誠矢に右手を差し出し、


「はい。だから、手つなぐさん」


 誠矢は真顔で、


「別のやつにしとけって」

(高校生だって、オレら。

 オレと手つないだら、話のジャンル、BLになっちまうだろ)


 ルーは素直に、別の人へ笑顔を向けて、


「美鈴ちゃん、ボクと仲良しさんっ♪」

(誠矢クンは、恥ずかしがり屋さんなの)


「はいよ」


 美鈴は快く応え、ルーの手をつかんだ。まるで、幼稚園生が仲良く遠足ーーという、天才少女と金髪天使を前にして、誠矢は再びゲラゲラ笑い出した。


 クラスメイトのやり取りが、ジュレイテ城での朝のやり取りと重なり、祐は急にぼんやりし始めた。全ての音が遠ざかり、リエラと一晩過ごした、翌朝のことへ意識が飛んだ。



 ーーーー昨夜、自分たちが飲んでいた茶器類は綺麗に片づけられ、一緒に眠っていたユーリとリエラには、毛布がかぶせられていた。誰かがこの部屋に入ってこない限り、今の状態になっていないことを知り、ユーリは盛大にため息をついた。


「…………」

(もう……城中に広まってる……)


 細々《こまごま》とした仕事をするはずのない、王妃と王ーーアイシスとカータは近くへやって来るが、彼らの様子は少しおかしかった。リエラとユーリの結婚を望んでいる国王夫婦にとっては、この状況は願ってもない好機。


 それなのに、心配そうな面持ちで、姉が妹に、


「昨日、何かあった?」

「え……?」


 挨拶もなしに聞かれたリエラは、ぽかんとし、隣りの銀髪の人へ顔を向けた。


「ユーリ、知ってる?」

(ぐっすり眠ってたから、何も覚えてないんだよね)


 いきなり矛先を向けられ、純粋な十七歳の少年はびっくり仰天!


「……っ!!」

(何かって……まさか! そ、それはないだろう。俺……初めてなのに……)


 知らないうちにバージン捧げちゃいましたみたいな心配事をしているーー珍しい弟の態度に、カータが真剣な眼差しで、


「何かあったんですか?」


 顔を赤くして、ユーリは恨めしげな瞳を兄へ向ける。


「…………」

(な、何を言わせる気ですか?)


 無言の義弟の心中を察したアイシスは、首を横に振った。


「違うわよ。その話じゃなくて……」


 ただならぬ空気を感じた、ユーリとリエラは顔を見合わせ、


「ん……?」

「え……?」


 カータが静かに口を開いた。


「実はですねーー」


 

 リエラとユーリが結婚することを望んでいる、国王夫妻は、昨夜ーー。

 ふたりきりで話をさせようと、それぞれの部屋を訪れた。しかし、どちらの部屋ももぬけの殻。

 どこへ行ったのかと思い、探しているとーー 一人の召使いが大慌てでやってきた。ユーリにお茶のお代わりを持っていったのだが、部屋の中からは返事もなく、何の物音もしない。異様な静けさに、胸騒ぎを覚えた召使いは、国王夫妻に知らせに来たのだ。


 カータとアイシスも慌てて、ピアノのあるーーこの部屋へやって来たが……。何度、ノックしても、呼びかけても、音沙汰なし。何かあったのでは? と心配しーー



「ーードアを開けたら……」


 アイシスのあとを、カータが続ける。


「ふたりとも、そちらのソファーで倒れるように眠っていたんです」


 自分たちの眠っていた場所を指さされて、ユーリは違和感を覚えた。


「…………?」

(記憶が途切れる前、俺、そっちで……)


 眠る前に座っていた一人掛けのソファーにピントを合わせ、


(話してたよな。どうなってるんだ? 知らないうちに……移動したのか?)


 寝ぼけていて、ユーリが覚えていないだけかと思いきや、アイシスがさらに、おかしな点を挙げる。


「風邪引いたら大変だと思って、運ぼうとしたのよ。でも……」


 そこまで言い、彼女は愛する人に顔を向けた。その視線を受け、カータが続ける。


「岩のように重く、まったく動かせなかったんです」

(大人四人がかりで運ぼうとしたのですが、出来ませんでした)


 ユーリとリエラはそれぞれ、不思議そうに、


「…………?」

(どういうことだ?)


「え……?」

(岩魚?)


 別々の意味で、固まっているふたりの背後にある暖炉に目を向けながら、アイシスが、


「仕方ないから、ここで寝かせることにしたんだけど……。それでも、心配じゃない? 暖炉は誰かが見ておないと……。だから……」


 彼女はまた、カータへ向き、


「何度か様子を見に来たんですが、寝返りをまったく打っていないようだったんです」

(何度見にきても、同じ格好のままだったんです)


 有り得ない話に、ユーリは言葉をなくし、


「…………」


 リエラはぽかんとした。


「え……?」

(根っこ?)


 大暴投している妹には構わず、アイシスはあごに人さし指を当て、小首を傾げる。


「何だか、魔法でもかけられたみたいだったわよ、ねぇ?」


 妻に同意を求められたカータは、にっこり、


「そうですね」



 ーーーー現実に意識が戻ってきた祐は、美鈴と嬉しそうに手をつなぐルーの笑顔を、瞳に映して、


「……魔法……?」


 口の中だけで言い、さらにぼんやりしようとすると、


「ーーはいはい、ちゃんと自分の持ち場に戻って!」


 やる気満々の前原に散らされて、誠矢、美鈴、ルーは舞台袖から離れていった。暗幕の隙間から、前原は観客席をのぞき込み、


「いよいよ、本番ね」

(やっぱり、白石君の影響力はすごいわね。満席よ)


 人魚役になり切っている亮と、考えごとが途中だった王子の祐ーーふたりへ振り返り、前原は安心したように、


「今日は大丈夫みたいね。ここ数日、ふたりともぼうっとしててーー」


 その言葉に、祐が珍しく、素早い反応を見せた。


「ぼうっとしてた?」

(前原、お前、移動してないのか?)


「そう。心ここにあらずって感じだったわよ、ふたりとも」

(お陰で、白石君は扱いやすかったわね)


 祐は身を乗り出し、


(これでいない間のことが、わかるかも知れない。

 前原、俺が利用してやる。

 ありがたく思え)


 さっそく、聞き出そうとすると。ブーッと開演ブザーが鳴り響いた。前原は笑顔で、主役ふたりーー亮と祐の肩を叩き、見送る。


「さっ、本番よ。今日までの練習の成果を出し切ってね」



 舞台に上がった亮は、高校生とは思えない迫真の演技を披露していた。

 一方ーー演技があまり得意ではない祐は、セリフを忘れることはなくても、棒読みに近い状態が何度もあった。


 それでも、何とか滞りなく劇は進み。

 そして、とうとう最大の見せ場ーーダンスシーンがやって来た。王子が姫を誘うセリフを言い終えると、ライトが一斉に消えた。真っ暗になった舞台上で、さっきまで平気だった亮は、急にドキドキし始めた。


(だ、大丈夫かな? 一度も踊ってないのに……)


 側で彼女の緊張を感じ取った祐が、そっと耳打ちする。


「大丈夫だ」

(あっちで過ごした三週間分の記憶は、残ってるんだ。

 だから、それを思い出せば出来るんだ)


 ステップを確認しようとすると、亮は手が震え始め、


「……う、うん……」

(な、何だかよくわからなくなってきたよ……。えっと……?)


 彼女の手をしっかり握り、祐はぼんやりする。


「…………」

(そうだな……あれがこうで、それがああだから……?)


 出した答えを、王子は姫にささやいた。


「お前は、俺に恋してる人魚姫だから、ちゃんと踊れるんだ」


 亮ははっとし、雰囲気ががらりと変わった。


「…………」

(そうね。このダンスが愛しい王子様との、唯一の思い出になるのよ。

 ひとつひとつ、大切に踊らなくてはいけないわね)


 急に話さなくなった亮を見て、祐は、


「…………」

(もう、役になり切ってる……。だから、何も話さないのか。お前、本当に女優向きだ)


 彼があきれたため息をつくと、軽快なワルツが流れてきた。スポットライトがふたりを照らす。祐は滑るように踊り出し、


(やっぱり、演技より踊ってた方がいいな)


 三週間しっかりレッスンをし、人魚姫になり切っている亮は王子に合わせ、可憐なステップを踏み始める。


「…………」

(こんな素敵な時間が、永遠に続いてくれたら……。どんなにいいかしら……)


 目をウルウルさせながら自分を見つめ返してくる亮を、祐はじっと見つめて、


(不思議だよな、お前が恋する役、演じられるなんて。

 これも、世界の七不思議のひとつかも知れないな)


 王子姿の祐に、亮は切ない瞳を向け、


「…………」

(この想い、伝えることが出来たら……)


 ターンを軽々とこなし、祐はさらに考えを巡らす。


(お前がもし、この劇に出てくる人魚姫と同じ境遇になったらーー

 声が出なくても、ジェスチャーで何とか伝えようとするんだろうな)


 一生懸命、身振り手振りするリエラを思い浮かべ、彼は思わず噴き出しそうになった。


(ぷぷぷっ、バカだな。字、書けばいいだろう。先走りだ、ぷぷぷっ)


 数々のターンをクリアーしたふたりは、音楽が鳴り止んだと同時に、決めのポーズを取った。開場中に張り詰めた空気が一瞬広まり、ついでたくさんの拍手が巻き起こった。


 観客席の感動を肌で感じ取った亮と祐は、互いを見つめ、


(よかったね)

(そうだな)


 他の誰にも気づかれないよう、微笑み合った。次の演技へ移ろうとする祐に、ある考えが浮かぶ。


(なるほどな。

 だから、あの時、間に合うって思ったのか。

 一週間しかなくても、亮に音楽センスがなくても。

 ジュレイテで三週間過ごして、戻ってくるから大丈夫だったんだ)



 その後、ふたりは演技もセリフも問題なくクリアーし、幕は下りた。会場は、文化祭とは思えないほどの大喝采かっさいの渦に包まれた。


 舞台袖に戻ってきた亮と祐を、前原が出迎える。しかも、ボロボロと涙を流し、号泣しながら。


「よかった、よかったわ。うぅ……っ! 努力した甲斐があった……わね。うぅぅ…っ! 白石君の演技と神月さんのダンスには、ずいぶん泣かされたけど……」


 そして、感無量という面持ちで、


「もう、悔いはない……」


 前原はいきなり、亮と祐にがばっと抱きついた。役を終えて、いつも通りのーー宇宙一の天然ボケ少女に戻っていた亮は、目を大きく見開き、大声を上げた!


「えぇっっっ!?」

(ワ、ワラ人形!? くいを打つって言ったよね、今……)


 祐の形のよい眉は、不機嫌にぴくついた。


「…………」

(前原、どさくさ紛れで抱きつくなよ。

 お前、劇の練習中も散々、俺に抱きつこうとーー)


 そこへ、役目を終えた誠矢と美鈴が現れた。前原に抱きつかれている親友を見つけ、誠矢はにやにやしながら、


「おう、ダンスすごかった、すげぇ感動した」

(祐、ちゃんと突っ込んでこいよ)


 不機嫌な王子は、射殺しそうな視線を親友に送り付けた。


「…………」

(お前、言うこと他にあるだろう。前原、どうにかしろよ)


 頭の後ろへ両腕を回し、誠矢は素知らぬ振りで、


「…………」

(春日に調べてぇことがあっからって、協力頼まれてんだよ。

 だから、今は助けられねぇな)


 誠矢たちは何か模索しているらしい。亮と祐に抱きついて、ワーワー泣いている前原を、美鈴は静かに眺めていた。


「…………」

(前原さんは、関係してないんだよ。

 この間、戻ってきた時、彼女、くじ引きのことちゃんと覚えてたからね)


 そのまま、天才少女は別の人へ視線を向けようとして、


(あたしの予想が当たってればーー)


「ーー前原さん?」


 少し離れたところから、優雅な声が突如響いた。


「……ん?」


 全員がそちらを見ると、反対側の舞台袖に、優雅な笑みを向けている八神と、その隣りで、天使のように微笑んでいるルーがいた。前原は亮と祐からぱっと離れ、


「は〜い♡」

(憧れの八神先生に呼ばれちゃった〜♡)


 ウッウキで、八神へ近づいていった。解放された祐は、ほっと胸をなで下ろし、担任教師に視線だけでお礼をする。


「…………」

(先生、ありがとうございます。また、助けていただいて……)


 それに対して、優雅な策略家は、なぜかこんな返事を返して来た。


「…………」

(感謝するのは、まだ早いかも知れませんよ)


 その忠告通り、祐にピンチがやってくる。


「亮!」


 きゃぴきゃぴ声が不意に響き、そっちを見た亮は、びっくりした。


「お、お姉ちゃん!?」


 婚約者と一緒に現れた正貴が、亮と祐ににっこり微笑み、


「とても素敵でしたよ」

(あちらで努力した甲斐がありましたね)


 誉められた祐は、親しげな感じで、


「あぁ、櫻井さん。ありがとうございます」

(兄さんが発掘作業してる間に、俺、ちゃんとダンスの練習してましたから)


 得たりとばかりに、誠矢は口の端をゆがめた。


「…………」

(だから、祐、お前失敗してんぞ。

 自分から情報簡単に渡すなんて、お前らしくねぇな)


 軽く息を吐き、赤髪少年は意味あり気に、


「祐、櫻井のこと知ってんだな」

(なんで、お前が愛姉あいねえの婚約者と仲良いんだよ。おかしいだろ。

 櫻井も関係してるって言ってんのと、おんなじだぞ。それによ……)


 優雅に微笑んでいる、瑠璃色の髪の担任教師をちらっと見て、


「…………」

(なんで、八神の罠に気づかねぇんだよ。前原、呼び出したのおかしいだろ)


 親友の視線を追い、祐は八神に抗議の眼差しを送った。


「…………」

(先生、俺をまた罠にはめてたんですか?)


 あごに手を当て、至福の時というように、八神は微笑み返した。


「…………」

(おや? 今頃、気づいたんですか?

 しかし、私だけが罠を仕掛けている……とは限りませんよ)


 どんどん複雑化していく中で、祐は誠矢へ顔を戻し、


「…………」

(お前らと先生、共犯か?)


 鋭い視線を向けられた誠矢は、必死に否定する。


「…………」

ちげぇって。オレも今初めて知ったって、八神が関係してるって)


 無言のまま、祐はさらに、


「…………」 

(何で、言ってこないんだよ?)


 誠矢はなぜか、視線をそらし、珍しくさみしげな目をした。


「…………」

(オレの勘が外れてれば……いいんだけど……よ)


 親友ふたりの視線だけのやり取りを見守っていた、正貴は、


(誠矢君は、やはり何かを知っているんですね。

 簡単に話すことの出来ない、重要な何かを)


 あごに人差し指を当て、愛理は首を傾げていた。


(誠矢、亮から何か聞いてるんじゃないかしら? そんな気がするわね)



 様子をうかがっていた策略家ーー八神は冷静な瞳を細め、


「…………」

(みなさん、お困りみたいですね。そうですね……こうしましょうか)


 策略家は一石を投じるため、隣りにいる天使の名を口にした。


「スチュワート君?」

(あなたに行っていただきましょうか)


「は〜い」


 ルーは右手を高々と上げて、ふんわりくるっと回った。



 途切れてしまった会話を、正貴が何気ない感じで再開。


「白石君はロック界の王子様ですから、一度お会いしてみたかったんです。そのために、愛理さんにお願いして、亮ちゃんから紹介していただいたんですよ」

(愛理さんも亮ちゃんも会っていますよ、あちらで)


 祐の衣装を指さし、誠矢はふざけた感じで、


「確かに、王子だな」


 だが、勘の鋭い彼は、正貴の言わんとしていることをしっかりと受け取った。


(愛姉も一緒ってことか。サンキュウな、櫻井)


 そして、誠矢は美鈴へちらっと視線をくれ、


「…………」


 彼女はそれに小さくうなずき返した。


「…………」

(はいよ。ふたりのSNAも、収集しとくよ)


 美鈴は愛理、正貴ーーふたりの情報も集め始めた。一段落したところへ、意味不明な言葉がふんわりと降ってきた。


「白菜、カッシュカシュさんだったね」


 それを聞いた誠矢はニヤリとし、


(よし、来た! 突っ込みポイント!!)


 素早く、従姉妹が大暴投しやすいように突っ込んだ!


「いやいや、鍋するには早ぇだろ」

(それは、拍手喝采だろ。わざわざ、難しい日本語使うなって)


 ルーは小首を傾げて、無邪気な笑顔で、


「ふふふっ。誠矢クンは優しいの」


 誠矢の思惑通りに、亮の大暴投がやってくる。


「あぁ、天ぷらだね」


 『しめた!』とばかりに、誠矢は素早く突っ込み!


「いやいや、鍋の話してただろ!」


(『ナス』に聞き間違えて、勝手に天ぷらに飛ばすなって!)


 ルーがミラクル変化球を放つ。


「ボクは、ナシさんが好きなの」


 誠矢はゲラゲラ笑い出した。


「だから、『な』のつく、食いモンの話じゃねぇって」

(お前、見事に話、撹乱かくらんさせたじゃねぇか、八神の思惑通りに)


 親友の言動に、祐はため息をついた。


「…………」

(誠矢も先生と一緒で、豆だよな。

 亮とルーに構ってたら、面倒くさいだけだろう。

 俺はどっちも放置)


 そして、銀髪の少年は、反対側の舞台袖へと視線を移した。瑠璃色の髪の優雅な人をぼんやり眺める。


(先生も移動してるんだな。でも……おかしいんだ。

 あっちの世界で、先生は誰とも会ってないのに……。

 どうして、先生は知ってるんだ?)


 他の生徒と話している八神に、誠矢は意味あり気な視線を送る。


(八神〜! 何で、オレらにわかるように、わざと罠仕掛けてくんだよ?

 いつにも増して、怪しいじゃねぇか。お前、何知ってんだよ?)


 IQ二百の天才少女ーー美鈴は軽く息を吐いた。


(優雅な彼もやっぱり関係してた……か。そうだろうね)


 あるものを思い浮かべ、彼女ははるか遠くへ想いを馳せる。


(あの写真……似てるもんね)

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