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Legend of kiss1 〜雪の王子編〜  作者: 明智 倫礼
14/55

一夜明けて

 そして、翌日ーー


 ジュレイテ城で、目を覚ましたリエラは、食堂へと案内されていた。


 廊下を行き交う人々が、セレニティス姫へ意味あり気な笑みを向け、通り過ぎてゆく。その様子に違和感を感じながら、リエラは歩いていた。


(何だか、みんな嬉しそうだね。どうしたのかな?)



 リエラが食堂へ入ると。先に来ていたアイシスの、いつも以上にきゃぴきゃぴした声が響いた。


「おはようっ!」

「おはよう」


 姉の隣りに座っている、もう一人にも、リエラは挨拶。


「カータさん、おはようございます」


 カータはいつも以上ににっこりして、


「おはようございます」


 リエラはふたりを交互に見ながら、自分の席へ座った。


「……?」

(ふたりとも嬉しそうだね。何かいいことでも、あったのかな?)


 その時ちょうど、ユーリが食堂に現れた。朝から、超・不機嫌な声で、


「……おはようございます」


 カータとアイシスは、ユーリに向かって嬉しそうに微笑み返した。


「おはようございます」

「おはようっ」


 ふたりの笑顔の真意を知ったユーリは、


(あぁ〜、もうっ!)


 盛大にため息をつきながら、どさっと椅子に腰掛けた。


「…………」

(誰のせいだよ?)


 ユーリからの鋭い視線に気づいたリエラは、不思議そうに首を傾げ、

「……?」

(ユーリ、よく眠れなかったのかな?)


 嬉しそうなアイシスとカータ。

 何も気づいていないリエラ。

 そして、最高に不機嫌なユーリの四人で朝食が始まった。



 しばらく、昨日のパーティの話などをし、何事もなく時は過ぎていった。

 マイペースで食べ物を口へ運んでいるカータが視界に入り、リエラはあることが急に気になり出した。


(そういえば……)


 椅子から少し体をずらし、アイシスに小声で、


「お姉ちゃん?」

「何?」

(恋の相談?)


 淡い期待を抱きつつ、姉は妹の近くへ寄った。リエラはアイシスの隣りに座る人をちらっと見て、


「櫻井さんと結婚してることになってるけど、いいの?」


 それを聞いた姉はがっかりした。


「…………」

(あなたのことじゃないのね……)


 気を取り直し、妹に聞き返す。


「いいって、何を?」


 パンを手に持ったまま、リエラは戸惑い気味に、


「……突然……結婚してることになってるから……」

(向こうじゃ、まだ結婚してないのに……)


 アイシスはフォークをそっと置き、急に大人びた顔に変わった。


「そんなこと関係ないわよ。私が正貴さんを、彼が私を愛しているということには変わらないでしょ?」


 リエラは少しぼんやりする。


「そう……なんだ……?」

(やっぱり、よくわからないなぁ。どうしたら、結婚したいって思うのかな?)


 頭を悩ませている妹を、アイシスはちらっと見て、


(私のことはいいのよ、卒業したら結婚するつもりだったんだから。でも、知らなかったわ)


 姉は意味あり気に微笑み、


(そんなことになってたなんて。恋愛にまったく興味のなかったあなたが……ねぇ)


 黙々と食べているユーリへ視線を移し、アイシスは急にハイテンションに。


(きゃあ♡ それも、相手がこんな美青年だなんて!)


 そして、目をハートマークにさせ、妹の方へさっと身を乗り出した。


「それより、あなたの方こそーー」


 その語り口に、ユーリがぴくっと反応した。


「……!」

(予想通りの展開だ)


 アイシスの言葉の続きが、


「言ってくれればいいのに、水臭いわね。ふたりが付き合ってるなんて、知らなかったわ」


 食べる手を止め、ユーリは盛大にため息。


「…………」

(俺、何もしてないのに……)


 リエラは目の前にある料理を、なぜか凝視した。


「え……?」

(月見団子? どこにあるんだろう?)


 思いっきり聞き間違えている妹を置いて、アイシスは愛する人へ同意を求めた。


「夜中に、個人的に部屋を訪ねるなんて、ねぇ?」

「そうですね、とても微笑ましいです」


 にっこりと相づちを打ったカータに、リエラは目をぱちぱち。


「えっと……?」

(微笑み草を炊いた? ん、初めて聞く名前だね……?)


 唯一、彼女が大暴投しまくっていると知っているユーリは、冷たい声で、


「違う、昨日の話」

(夜中に押しかけてくるなよ、俺の部屋に)


 リエラは幼なじみに顔を向け、また目をぱちぱち。


「え……?」

(寒さが関係するの?)


 彼女は珍しく、昨夜の話を覚えていたが、ユーリは、


「…………」

(昨日の話から説明するの、面倒くさい)


 そう思い、ぼそっと、


「お前、放置」

(ありがたく思え)


 そうして、彼は再び黙々と食べ始めた。

 ふたりのやり取りを前にして、アイシスは一気にテンションが下がった。


「…………」

(やっぱり、リエラが恋愛に興味持つなんて……有り得ないわね。でも、だからって、美青年をゲットするチャンスは逃さないわよ)


 己を奮い立たせ、姉はさっそく美青年獲得作戦に出た!


「あら? てっきりそうなのかと思ったわ、恋人同士だって」

(ユーリをゲットするために、リエラに恋愛に興味持ってもらうわよ)


 リエラはなぜか、大きくうなずく。


「あぁ、そうなんだぁ」


 ユーリはびっくりし、ナイフを落としそうになった。


「っ!!」

(何で、そこで納得するんだよ?)


 アイシスはしっかりと妹の間違いを訂正。


「違うわよ。『い』が抜けてるわよ」

(『小人同士』じゃないわよ。寝てる間に、誰も小さくなんかなってないわよ)


 リエラはすっと真顔になり、


「え……?」

(『い』が抜けてる?)


 一生懸命考え出した。アイシスは、もう一度ゆっくり告げる。


「恋人同士」


 リエラは姉の言葉をただ繰り返す。


「こいびとどうし……?」

(こいびとどうし? 恋人同士……!?)


 自分の知っている漢字に変換され、びっくりして飛び上がった!


「えぇっっっ!?」

(な、何でそんなことになって……)


 ユーリは幼なじみを一瞥し、不機嫌そうにため息。


「…………」

(お前って、恋愛にすごく鈍感なんだな。ーーっていか、どういう人生送ってきたら、そうなるんだ?)


 リエラの反応に、カータは意外そうな顔をする。


「おや、違うのですか?」


 驚きすぎて、リエラは言葉が出てこなかった。


「…………あ、あ……あぁ……」


 口をパカパカさせている妹に、アイシスは呼びかける。


「リエラ。朝起きたら、お城の人たちが何て言ってたか、知ってる?」


 ゆっくりとした姉の言葉に、妹は少し落ち着きを取り戻し、

「え……?」

(お城の人たち? 朝、起きたら? 何を言って? 知ってる?何だか、難しいなぞなぞだね)


 がしかし、やはり意味はきちんと通じていなかった。アイシスは構わず、話を先へ進める。


「ユーリ様とリエラ様は一目惚れして、結婚式も間近らしいって」

(きちんと考えて行動しないと、いけないわよ)


 リエラはびっくりして、また飛び上がった!


「えぇっっっ!?」

(ひとめぼれ!? けっこん!?)


 ………。

 …………。

 ……………。


 次々と予想していなかった言葉が出てきたので、リエラの思考回路はとうとうストップした。石のように固まった幼なじみに、ユーリはぼそっと、


「俺の身にもなれ」

(勝手に部屋に押し掛けられて……。不可抗力だ、濡れ衣だ)


 斜め前に座っている少年の発言を聞き、アイシスはカータに素早く同意を求めた。


「祐君が本当の義弟になったら、嬉しいわよね?」

(カータさん、強行突破するわよ)


「そうですね、私もふたりが結婚するのはいいと思いますよ」

(アイシスさん、とても張り切っていますね。素敵です)


 のんきに相づちを打った兄を見て、ユーリはため息をついた。


「…………」

(弁解するだけ、時間の無駄)


 再び食べ始めようとすると、意識の戻ってきたリエラが、


「ユーリ、知ってたの?」

「普通、わかるだろう」

(どういう十七歳だよ?)


 一言文句を言って、黙々と食べ物を口へ運び始めたユーリの横顔を見つめ、リエラは目を輝かせた。


(すごいね、ユーリって。予知能力があるんだね)


 全然かみ合っていないふたりに、カータが、


「まぁ、いいじゃないですか。仲が良いのは本当なんですから」


 よく理解していない兄をちらっと見やり、ユーリはスープをガブガブ飲む。


(兄さんまで、ぼけないで下さい。ぼけてる人間は、一人で十分です)


 リエラはサラダにフォークをさして、ぼんやり。


「仲は良いですけど……」

(恋人と幼なじみって、何が違うんだろう?)


 てんでバラバラなふたりに、アイシスが提案。 


「今日の街への観光は、ふたりで行ってきなさいよ」


 妹は我に返り、顔を上げた。


「え……?」

(どうして、急にユーリと行くことになったのかな?)


 カータが優しく言葉を添える。


「ふたりで素敵な時間を過ごして下さいね」


 さすがに黙っていることが出来なくなったユーリは、きっぱりと。


「行かない」

(勝手に決めないで下さい)


 アイシスは意味あり気な視線を義弟へ送り、


「あら? お客さんを放っておくなんて」


 ユーリは義姉あねの視線を、一言でばっさり切り捨てた。


「やだ」

(これ以上、一緒にいたら、何を言われるか)


 かたくなに拒む弟を前にして、カータは決心した。


(これはいけませんね。みなさんのために、一肌脱がなくては……)


 彼は咳払いし、少し低いーー本人だけが威厳のあると思っている声で。


「これは、次期国王命令です」


 それを聞いたユーリとリエラは、同時に聞き返し、


「え……?」


 それぞれ全然違うことを心の中で思い浮かべた。


(第一王子なんだから、次に国王になるのは当たり前です。わざわざ言わなくても、わかってます)

(あれ、王子様じゃなかったかな? カータさん)


 カータはにっこり微笑み、次なる言葉を。


勅命ちょくめいみたいなものですね」


 ユーリとリエラはまた同時に、


「勅命!?」


 そしてまた、それぞれ違うことを。


(言葉、間違ってます。普通、王子にそんな権限ないです)

(『ちょくめい』って、何?)


 カータはのんびりと、びっくりするようなことを口にする。


「今、この国には国王がいないそうで、来週、戴冠式があるそうです」

(ですから、来週になれば勅命になります。少し、先取りです)


 ユーリとリエラはまじまじと、カータの顔を見つめた。


「え……?」


 またまた、別のことを考える、ふたり。


(国王がいない? ……どういうことだ?)

(短歌式……? みんなで短歌を詠むのかな?)


 ユーリとリエラがそれぞれの理由で驚いている隙に、


「まぁ、そういうことですから。ユーリ、案内は頼みましたよ」


 カータが勝手に話をまとめ、ユーリとリエラは一緒に出かけることとなってしまった。

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