閑話休題⑩ 届かない伝令鳥
「一番街西地区にて、複数名の乱闘事件発生。至急、応援求む」
「三番街西地区にて、貴族と庶民の衝突発生。至急、至急、応援求む!」
レオンハルトに全権を委任されてから、三日が経った。それからと言うもの、一日に何度も、複数箇所で小競り合いが絶えない。
副長官のケビンはその都度廷臣法官達へ指示を出すが、一件が片付くとまた別のどこかで事件が起きる。机の上に積まれた報告書の山。十年近くこの職に就いているが、こんなに頻発した事は一度もない。
「ケビン副長官!」
「リンガル君じゃないですか。そんなに慌ててどうしましたか」
「門衛に止められている男から、長と連絡が取れないと聞きました。長は今どこにいますか」
「ひとまず話を聞きましょう。その男性を、こちらへ連れてきて下さい」
残業をしている時、レオンハルトから情報網を手に入れたと聞いていた。その新聞記者の内の誰かだろうか。
ケビンが長官室で待っていると、風の魔法師がコナー・リンガルに連れられてくる。恭しく挨拶をし、名前をアエラスと名乗った。
「アンネ様は、どこにいらっしゃいますか!?」
「どういう事でしょう? リンガル君からはレオンハルト殿下と連絡がつかないと聞きましたが」
「昨日、アンネ様を狙う不届き者を発見しまいた」
「どういう事ですか」
「新聞社へ戻る途中、怪しい笑みを浮かべながら城へ侵入した人物がいます」
「それはおかしいですね。こちらには何も連絡が来ていません」
「怪しい人物を追跡していたんですが……路地裏に入った後、忽然と姿を消したんです」
「どこかの建物に入ったのでは?」
「違います! あなたも風の魔法師なら、わかりますよね? 空気中に漂う匂いで、ある程度は動きを探れると」
「その怪しい人物は、姿を消しただけでそこにいたと?」
「そうです。ですが、ぼくだけ兵士に止められてしまって……」
アエラスは息を荒げ、拳を強く握りしめている。目が血走っているのは、ただの興奮ではないように見えた。
しかし、それを事実として考えると、その怪しい人物は姿を消せる魔道具を持っているという事になる。
「その人物は、確かにアンネさんを狙っていたのですね?」
「星渡人、と確かに発言していました。それにその後、ここへ来るまでにアンネ様を魔女だと喧伝する人達もいたんです。だから危険が及ぶと思ってすぐに伝令鳥を飛ばしたんですけど……」
「アンネさんの傍にはレオンハルト殿下がいるはずです。なので、アンネさんに危険は及んでいないと思いますが……」
アエラスと話をしていると、天秤宮内に警報が鳴り響いた。
「至急! 至急! 五番街西地区に鍬や平鎌を持った農民が多数集結中! 至k……」
「五番街で何かが起きているようですね」
ケビンは長官室にある二十体の小鳥の彫像を触り、全てを活性化させる。そして、その奥にある大きな鳥の彫像に向けて指示を出す。
「五番街西地区にて、暴動有り! 手の空いている者は至急、応援に向かってください!」
王都全体へ指示を出した後、彫像の活性化を解いて振り返る。
「リンガル君。アエラス君を安全な場所まで送り届けた後、君も向かって下さい」
「わかりました」
リンガルがアエラスを連れて、長官室を出て行く。その姿を見つつ、頭を抱える。
全権を委任されているとはいえ、暴動の鎮圧は荷が重い。
「大気を舞う風のマナよ、風属性魔法師ケビンが命じる。レオンハルト殿下へ報告、及び確認のため伝令鳥、を!?」
これまで何度もやってきた、レオンハルトへの伝令鳥を使った報告。それなのに今日は、伝令鳥を作り出す前に魔法が弾けてしまった。
「まさか、レオンハルト殿下が……!?」
魔法師が存在していれば確実に伝えられる連絡方法。それが使えないという事は、その報告を受ける相手――レオンハルトが生死を彷徨うような状態か、もしくは一介の魔法師には突破できない何かに阻まれているかのどちらかだ。
「いえ、いけませんね。レオンハルト殿下のもとにはアンネさんが行っているはず……」
状況を分析するための情報がほしいと思っていると、天秤宮に見覚えのある近衛がやってきた。
火の魔法師と水の魔法師の姉弟だ。
「どうかしましたか」
「アンネ様は戻られましたか?」
「いいえ、まだです。何か?」
「アンネ様は護衛を必要ないと宣言されました。大公様も納得していたようなのですが……」
青ざめた顔をする火の魔法師スーザンは、手で包み込んでいたコウモリを見せる。一つ目のそれは、小刻みに震えているように見えた。
「それは?」
「アンネ様が魔法で生成した、通信機です。私と大公様とアンネ様が持っています。託されてから常時元気な様子だったのですが、ここ二日ほどこのような状態に。アンネ様に何かあったのかもしれません。アンネ様が向かわれた、北の辺境に人を派遣する事はできないでしょうか」
「北に?」
「はい。本来であれば私が駆けつけたいのですが、私は近衛。アンネ様は王族ではないし、護衛も解除されていますので向かえません」
「レオンハルト殿下も連絡がつかない状況で……!?」
また、天秤宮内に警報が鳴り響く。
「五番街西地区、門を突破さr……」
「四番街西地区にて、突然暴動有り! 至k……」
「三番街より報告! 星渡門から複数n……」
どれも最後まで報告が上がらない。その背後では、「星渡人が国を滅ぼす」「魔女に術をかけられている!」「正気を失った王族の代わりn……」などと暴動の参加者達の声が聞こえている。
「レオンハルト殿下やアンネさんがいない今、暴動の沈静化が先です。あなたはその職務を全うしてください」
「かしこまりました。失礼します」
頭を下げたスーザンは、弟と共に長官室を出て行った。
長官の権限を与えられている今、ケビンはこの場でそれぞれの報告を待つべきだろう。それが歯がゆい。
「レオンハルト殿下、アンネさん……。どうか、ご無事で」
連絡の取れない二人がいると思われる、北の方を見ながらその安否を願った。
設定の段階で、50万字超の計画を立てていた本作。
本文制作中、プライベートで色々とあったり、タイトルを変えたり、ジャンルを変えたり、エタらないために気分転換もしました。
ですが、設定した文字数になるための作業となってしまい……。この物語を続ける意欲がなくなってしまいました。
ここまで「オノマ機密」にお付き合いしてくださった方々、本当にありがとうございました。
これにて、完結とさせていただきます。
また次作、もしくはどこかでお会いできれば幸いです。




