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【四章完結】オノマトペ魔法師と堅物廷臣法官長の王宮事件録~わたしの魔法は、国家機密⁉~  作者: いとう縁凛
第五章 「四季の魔女」暗殺未遂事件

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043件目 情報網の蜘蛛


 スーザンが持ってきた三つの新聞に目を通す。

【星渡人、連続爆破事件の黒幕か!? 五番街北地区の惨劇、廷臣法官自らが仕組んだ可能性】

【星渡人の影に潜む魔女の呪い 建物屋上に見えた、見慣れぬ魔法の正体は!?】

【平民を巻き込む星渡人の暴走 一番街東地区の被害は甚大】


「アーミィ社、エール社、オーヴァ社か……。この三社は、貴族にも市民にも人気のある新聞社だ。世論の操作をされてしまったな」

「廷臣法官のみなさんまで疑われるなんて……事実無根です! この三社を訴えましょう!」

「そういう訳にもいかない。こうして発行されてしまっている以上、すでに大勢の目に触れている。訴えた所で、一度流れてしまった噂は消せない」

「そんなっ……やられ損じゃないですか!!」

「しかし……どうにも気になる。内容を読めば読むほど、まるで見てきたかのようにかかれている」

「えっ……それって、どういう事ですか」


 まるで事前に出す内容を決めていたかのような時機タイミング。そう言うレオンハルトさんの目が、見開かれる。

 何の記事を読んでいるのかと思ったら、エール社が出している新聞だった。見出しの後に、見慣れぬ魔法についての推測が書かれている。


「……グラディア卿。アンネ殿と二人で話がしたい。部屋の外で待機してもらえるか」

「かしこまりました」


 レオンハルトさんに礼をして部屋から出て行ったスーザン。扉の前にいるみたいだけど、ぴったりと閉められている。


「あの、話というのは……」

「アンネ殿。以前、私と約束したな? 四季に関する魔法は使わないと」

「はい、そうです……ね? あ。す、すみません!! 氷を出しました!」

「どうやらエール社には、教会関係者と繋がりがあるらしい」


 そう言い渡されたのは、エール社の新聞。見慣れぬ魔法としているのに、氷と言及しているみたい。そしてその氷は、かつてヴァランタンに存在した四季の一つ、冬に見られるものだと。

 前に、レオンハルトさんが言っていた。モルルモア大戦争の前の事を知っているのは、王族と教会関係者だと。

 他の二社の記事と比べて推測混じりの言葉が多いのは、エール社だけは臨時で作ったのかもしれない。


「迫りくる炎から身を守るために出してしまいました。あの時は事前に水と炎の衝突で水蒸気を出してしまっていて……視界を奪われないようにと思って、やってしまいました」

「過ぎた事を後悔しても遅い。多くの人の目に触れてしまった。今はまだ、人々の不安が表面化していない事が幸いだ。今のうちに、できる対策を取っておかないといけない」

「本当に、すみませんでした……」


 しばらくは安全確保のため王宮からは出ないように。状況的に仕事もできないだろうから休みで良いと指示を受け、自分がしてしまった所業に納得して受け入れる。去って行くレオンハルトさんの背中を見送り、ベッドに仰向けになった。


「はぁ……。失敗した」


 守られるわけにはいかないと豪語して、結局守られてしまったり。四季に関する魔法を使わないと約束したのに、使ってしまったり。今だって、わたしの命が狙われているって事で多くの人が交代で警護についてくれている。

 わたしは、一体どれだけの人に迷惑をかけるんだろう。


 三社に報道された事により、星渡人の事が広く伝わるよね。そして、わたしの魔法が他とは違うって事も。

 違うは、わからない。わからないは、怖い。怖いは排除。

 そんな連鎖的な考えが広がってしまう可能性がある。それならばいっそ、星渡人の力はこんな感じですよって公開しちゃう方が良いかもしれない。


「……それも、違うか」


 どんな人でも、自分が理解できる範囲の事なら敵意を示さない。でも理解不能だと判断したら、途端に敵意をむき出しにする。

 今回死にかけたけど、まだわたしは生きているんだ。また襲撃されないようにするためには、黒幕を捕まえるしかない。

 黒幕にとってわたしは邪魔かもしれないけど、わたしだって死にたくないし。


「黒幕……黒幕ねぇ……。どこの誰何だか」


 わたしが攫われた時の事を思い出す。あそこで誘拐犯にお金を渡していた、あの高齢と思われる男性の声。あの声の主さえわかれば、黒幕の正体がわかるかもしれない。

 攫われた時に放置されたのは、大聖堂の前の小屋。そして、今回エール社が教会関係者と繋がりがあるとわかった。それなら、教会に行けば黒幕の正体も掴めるんじゃないかな。


「自由に動けたら、苦労はしないんだよねぇ……」


 現在、わたしは命を狙われている身。星渡人だし、国を挙げての警護をされている。

 そんな中で抜け出すのは無理だし、何より多大なる迷惑をかけてしまう。ただでさえ厄介な状況なのに、今以上に煩わせてしまうのは元日本人としてできない。


 部屋に籠もっていたら、余計な事を考えてしまう。だから部屋の外で待機していたスーザンを連れて、中庭の方へ散歩へ出た。

 厳重警戒態勢のため、一定の距離をあけて何人もの人が警戒にあたってくれている。その事に申し訳ないと思って、散歩を早々に切り上げようとした。


「……?」

「アンネ様? どうされましたか」

「ねぇ、スーザン。何か、感じない?」

「何か、とは?」

「こう、何て言うか……湿り気のある風に包まれているかのような、足下から何かを探られているかのような、そんな不快感があるの」

「いえ……私は、何も感じませんね」

「そっか……」


 まるで見えない何かに監視されているかのような、そんな気持ち悪さがある。でもすぐ隣にいるスーザンが感じないのなら、わたしの気のせいなのかもしれない。

 考えすぎて敏感になりすぎているのかも。そう思って、スーザンと一緒に中庭を出る。


 寝室へと戻る道中、中庭で感じた気配と似たものを感じた。ハッとなって周囲を窺うけど誰もいない。でも、うっすらと色づいた粒子のようなものが漂っているのを発見した。緑と、青と、茶色。三色が並行するようにわたしの周囲に見えた。


「アンネ様!? どちらへ!?」


 突然走りだしたわたしの行動に驚くスーザンの声を聞きながら、三色粒子の元を辿る。

 すると、門前で兵士達と三人の魔法師が争っているのが見えてきた。三人の魔法師はそれぞれ、風、水、地属性。三色の粒子と同じ属性だ。

 門へ近づくにつれ、その三人が同じ顔をしていると気づく。それと同じ頃、三人もわたしが近づいてきた事に気づいたらしい。制止する兵士達をかいくぐって侵入しようとした。


「星渡人の方ですね? お話を聞かせてください!」

「街へ被害を出した事、どうお考えですか!」

「騒動の原因として、どう責任を取るおつもりですか!」


 三人の記者魔法師が話す度、わたしの周囲に三色の粒子が渦巻く。

 もしかしたらこの粒子は、記者達が情報を得るための手段なのかもしれない。大気中に音として発せられた情報を、この粒子を使って得ているのだとしたら。

 スーザンが隣に立ち、この騒動を聞きつけたらしいレオンハルトさんもやって来た。

 仮説を証明するために、レオンハルトさんへ小声で話す。


「この三人が、あのねつ造記事を書いたみたいです」

「ボク達の記事はねつ造じゃない!」

「真実をねじ曲げる。やはり星渡人は魔女だ!」

「国の平和のためにも、星渡人は去れ!」


 三人がいる位置からは到底聞こえない声で話した。にも関わらず、しっかりと反論してくる。仮説通りだ。

 この距離で話の内容を知られてしまうのなら、内緒話魔法も使えない。どう対策しようかと考えた時、相手の魔法を逆手に取る事にした。

 わたしは廷臣法官。前世で言う、警察と裁判官が一緒になったような職業の身。それならば、容疑者の尋問だってできるはず。

 思いついたオノマトペ候補は、二つ。その内の、わたしが制御できそうな方を選択する。


「うっとりするのは三位一体。同じ顔の三人はわたしの言葉を否定しない」


 わたしの周囲にいた三色粒子が、それぞれの魔法師に詠唱を伝えてくれたらしい。やいのやいのと騒いでいた三つ子が急に静かになった。その様子を、近くで対応していた兵士達が驚いたように見ている。


「わたしと話をしましょう。三人は、わたしについて来てください」


 声をかけると、三人はぼうっとした表情のまま動き出す。


「レオンハルトさん。容疑者を確保しました。話はどこですれば良いでしょう?」

「あ、ああ……それなら門の横に兵士達の詰め所がある。そこを使わせてもらおう」

「わかりました。案内をお願いします」


 記者魔法師達の豹変に驚いたのは、兵士達だけじゃない。レオンハルトさんもだ。

 それでもすぐに平静さを取り戻して、わたしを案内してくれる。門の方まで寄っていくと、三人ともふらふらとついて来た。

 詰め所へ入る。拘束をしていなくても逃げる様子はない。

 ただ問題なのは、魔法の効果が「うっとり」だという事。三人から目を離すと、ゼロ距離まで来る。常に三人を見続けないといけない。魔法の効力が強すぎた。後で調整しておこう。

 今はひとまず、黒幕を明かすためだと頭を切りかえた。


「あなた達は、なぜ星渡人に非難が向くような記事を書いたんですか」

「ボク達は、後援者からお金をもらうために動いています」

「後援者とは?」

「保守派の貴族方だと、ぼくらは聞いています」

「具体的には誰?」

「教えてもらっていません。興味もありません。僕達は、三人が長く生きられれば良い」

「あなた達が生きづらいのはなぜ?」

「ボク達は三つ子。忌み子として親に捨てられました」

「ぼくらは三人で一人。三人が一緒にいないといけない」

「ティエラも、アエラスも、長男の僕が守ります」


 一問一答のように話をした。その中で、一人だけ女の子がいるようだった。見た目はそっくりな三つ子だけど、地属性の子は少し身体の線が柔らかい。恐らく、この子がティエラ。

 頬を染め話をする三人は、わたしが聞けば全部答えてくれる。その状態でも黒幕がわからないなら、これ以上の尋問は必要ない。


「レオンハルトさん。魔法を解かなければ、新聞三社の情報を探れると思いますが、どうしましょう?」

「これから必要になってくるかもしれない。アンネ殿の言う通り、三人にはこのまま戻ってもらおう。連絡手段だが……」

「風の魔法師がいますよ。伝令鳥をお願いしましょう」

「そうだな。では、風の魔法師。そなたをアンネ殿からの連絡を待つ係とする」


 レオンハルトさんが指示をしても、風の魔法師は何も反応しない。他の二人と同様に、わたしだけを見ている。


「……えーと、風の魔法師の……」

「アエラスです!」

「アエラスさん。わたしからの連絡を待ってもらえますか」

「そのような大役を任せていただき、ありがとうございます! アンネ様からの指示は即時、妹にも兄にも伝えます!」

「あ、そうそう。アエラスさんに連絡をするのは、同じ風属性を持っているレオンハルトさんからの伝令鳥なので。きちんと聞いてくださいね」


 アエラスさんは、至極嫌そうに顔を歪める。でも魅了魔法が聞いているのか、渋々という様子で頷いてくれる。

 これで、大手新聞三社が持つ蜘蛛の巣のような情報網のネットワークも確保できた。情報戦の対策ができる。







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