ー重罪ー非話の罪
この大学は様々な職業に行ける事で有名だ。なので頭のいい者から馬鹿まで幅広くここに通える。
彼女は食堂で食事をしている。一人だ。食事の時間だけじゃなくいつも一人だ。彼女は誰とも仲良くしない。する必要もないと彼女は思っている。近くで馬鹿みたいに騒いでいる連中がいるだけで、彼女は溜め息を吐いて呟く。
「……馬鹿はどこまでも気楽だな」
「馬鹿でも頭のいい連中もいる」
背後から声をかけられて彼女は振り向いた。彼女は気配も気付かなかった。彼女は慌てず、騒がずに後ろを振り返る。その男は机に少しだけ体重をかけて立っていた。
「……私の言う馬鹿とはルールも守れないダメ人間の事を指す。頭が良いから何してもいいなんて事はない」
「……まさか迷いなく反論するとはね。君は思った通り賢い」
「……お前とは話した覚えがないが…どちら様だ?」
「ああ失礼、僕は非話。医療学科の方で勉強している。君のことは知ってるよ。鎖巫子ちゃん」
言い方からしてストーカーかと思われるが、鎖巫子は自分の周囲は注意している。非話の存在に気付かないなんてありえない。
「かなりの尾行が上手いのか。それともハッタリ好きのナンパ男か。どちらにせよ興味ない」
「そうかな? 僕は興味あるね。毎週人気のないところで高級車に乗っていく女子大生なんて、珍しいからね」
「……本当のストーカーか?」
鎖巫子は警戒した。
「失礼だなぁ。僕は興味あるだけだよ」
「だったら今すぐ止めろ。それとも警察に送ってやろうか?」
「警察に送っても大丈夫なのかな?」
「……チッ、面倒くさい男だな」
「僕は勇気ある男だよ。普段の僕は知らない人に話しかける度胸なんてない。でも君が珍しく独り言を言ったからつい声をかけたんだ」
「……そんな男がわざわざ私に何の用……いや、何が目的だ?」
「言っただろう? 興味がある」
「………図書室に来い。後で来る」
鎖巫子は食器を持って片付けにいった。言われた通り、非話は先に図書室に向かっていった。鎖巫子は出て行ったのを確認して、奴をどうするか考えた。計画に支障があるなら殺すか引き込むか、シラを切るのどれかだが、手口からして殺されない様に手を打ってある筈だ。シラを切るのも難しそうだ。やはり引き込むしか方法はない。あの計画の失敗は許されない。
図書室とは静かな空間の筈だが、ここにもうるさい馬鹿共が集っている。非話が鎖巫子に気付くと、声はかけずに鎖巫子の合図を待った。鎖巫子は周りを警戒しながら非話に近寄る。
「こっちだ……付いて来い」
非話とすれ違う時、鎖巫子は小さな声で話した。鎖巫子の行く先は誰も来ない、古すぎる本ばかりがあるところだ。端にある椅子に鎖巫子は座る。
「お前はそっちの本を探すフリでもしてろ。このまま話すぞ」
「へえ。僕に仲間がいないか確認できやすいね。信用できないかもしれないけど、僕に仲間なんていないよ」
「お前が何するかはわからんからな。それで、何を言えばいいのかな非話君?」
「ざっと調べたけど僕が思うに、君は政治に関わっている。そしてある計画を立てている。空想的結論だけどね」
的を得ている。やはり知りすぎているが、簡単に引き込むとこちらが火傷を負う。
「その計画ってのはわかったのかい?」
「いいや全然」
「はあ……話にならないな。空想話だがなかなか面白い奴だ。覚えておこう」
「でも君が昔何かあったと考えれば、その計画はとても危険だとわかる」
「……貴様、私をどこまで知ってる?」
非話は一冊の本を取り出してパラパラとページをめくる。
「……かつていじめを受けていた女の子」
「それだけか?」
「それだけで十分わかるよ。僕と同じ痛みがあるんだと」
「………」
非話は口では笑っていたが、目は違っていた。鎖巫子はあれを何度も見た事あるし、自分も同じ目をした事がある。復讐、憎しみの目だ。
「……どうやら、お前も過去に深い傷を受けた様だな」
「……小さい頃にね。聞くかい?」
「……暇つぶしに聞いてやる」
鎖巫子が了承すると、非話は嬉しかったのか、少し笑みを浮かべた。
始まりは小学生の頃だった。いつからははっきりと覚えてない。だがやられた事、やった事を非話は忘れらない。漢字ドリルの後ろにはシールが付いている。ちゃんと書けたら貼る合格シールだ。それを何人かは椅子に貼ったり、酷いのは人のお尻に貼ったりして笑っていた。他人から見ればくだらない事だろうが、非話は許せなかった。使い方が間違ってる。笑い者にされる気分もわからない馬鹿共に、非話は何か仕返しができないかと考えた。
だが自分がされた時、怒りが抑えきれず、笑った奴を殴った。怒鳴り散らし、殴り慣れずに痛む手を握りしめる。馬鹿共は非話を押さえつけて殴り返す。この後の非話はサンドバッグと同じだ。誰も止めない。だが非話が暴れてもがいていると、誰かの声が非話に響いた。
「止めなよ非話くん」
意味のわからなかった。非話は自分が悪いのか。先に暴力を振るった方が一方的に間違ってるのか。
違う。間違っている。彼等は力のある方に加担したんだ。彼等も馬鹿の仲間だ。先生がやってきて、それは喧嘩として収まった。彼等はもうやらないと言われた。しかし非話も怒られた。殴っては駄目だと。
「違います! 僕は間違ってない! こいつらは言ったって止めない!」
だが先生は首を横に振って否定した。
「違う。どんなに辛くても、殴っては駄目だ」
理解なんかできない。痛みに耐え続けなければいけないという、そんな事を言う先生。
だが後に非話は理解できる方法がわかった。この先生は間違っている。この時にわかっていれば良かった。しばらくしてまた違う馬鹿げた事が起きた。勿論同じ馬鹿の奴がやっている。そして非話にもその被害に遭った。同じ過ちを犯すあの馬鹿に、非話は止める方法を考えた。
奴が一人の時に俺は声をかけて、止める様に言った。答えはわかっていた。
「嫌だ」
先生。やっぱり止められないじゃないか。非話は手に持っていた筆箱の中から鉛筆を取り出し、その馬鹿を押し倒して、鉛筆の先端を目に刺してやった。馬鹿が痛みに響いた。目を閉じていたので皮膚で止まったが、人の痛みをようやく感じた様だ。すぐに先生がやってきて、非話を腕を掴んで馬鹿から離される。止めるにはまだ早い。早いんだ。
その後、非話には酷い仕打ちがあった。先生にはめちゃくちゃ怒られた。馬鹿に謝った。そしてクラスから無視された。皆の為にやったのに、怖くて話す人がいなくなった。親も見放された。誰も正しかったとは言ってくれなかった。




