ー重罪ー鎖巫子の罪
非話は淡々と言ってるが、辛さを隠してる。鎖巫子は黙って聴き続けた。
「その後はクズどもからいじめの対象にされ、散々な目にあった。お終い」
非話は話が終えると鎖巫子に問いかけた。
「君も僕が間違ってると言いたいかい? 頭のおかしい人間だと思ってる?」
「……普通、やられたらやり返すのが基本だ。他の奴まで考えてまで行動するのは、異常だなお前」
ニヤリと笑いながら答える鎖巫子。良い意味での言い方だ。非話は嬉しくて思わず笑ってしまった。
「嬉しいね。初めて言われたよ」
「お前が悪いと言った先生は、クラスの無視について何もしなかったのか?」
「何も……知っていて問題にしなかったんだ。僕は完全に悪者扱いだ」
「そいつの名を教えろ。クビにしてやる」
「君にそんな力あるのかい? それに彼は結構な歳だったから、僕が調べた時にはすでに亡くなっていた。仕返しもできずに人生を終わらせやがったんだ」
非話は歯を食いしばり、握りしめた手が震えていた。その時の事を思い出して悔やんでいるんだ。
「ならお前は誰に復讐する? いじめをしてきた人達なら数えきれないだろう。そうするとお前は大量殺人犯、それ以上の犯罪者になるぞ」
「まさか。僕だってそんなことするつもりはないよ。でもね……これでいい訳ないんだよ。クズどもは僕を忘れていい思い出の記憶になる。そんなの許せないね」
理想はあるが、その方法がない。非話は方法さえあればやりかねないだろう。鎖巫子がやる事を教えたら非話は協力するかもしれない。
いつまでも疑う訳にはいかない。その前に鎖巫子は問題を出すことにした。
「いじめられっ子は弁当をどこで食うべきか……お前にわかるか?」
「……え?」
非話はいきなりの質問に驚いた。鎖巫子は何も言わずに待っていると、非話は頭を悩ませた。
「うーん……人気のない場所、もしくは自分の席で座って食べるか……どっちかはいじめるクズがどうするかで僕は決める」
「いい答えだ。まあ正解はないんだが……私はこれを利用した時があったな」
「へえ……聴きたいな」
「高校生の頃だ。私は優秀かつ美人で成績はトップレベルだ」
「自分で言うんだ」
「そしてよく恨まれた。それは小学校の頃からだが、アレがなければ体を鍛えようなんて思わなかったかもな。高校で私をいじめにくい場所で飯を食ってた。暇な時間は職員室の前に飾ってある物でも見てたさ」
「それいいね。僕もやっておけばよかった」
「だがいじめは私だけではなく、他にもされてる子がいてな。ある時トイレから笑いながら女が何人か出てきてな。その後にびしょ濡れで出てきた女の子がいたんだ」
「ああ……もう察したよ」
「その子は辛い思いをしたが、一人で抱え込んでいた。その子にこう話したんだ」
鎖巫子はその時を記憶に残るほどに覚えている。何故ならーー
「ねえ、明日もそこでご飯食べるの?」
「……え?」
びしょ濡れの女の子に鎖巫子はハンカチを渡しながら聞いてみた。いきなりすぎて何も言えない女の子に、鎖巫子は顔を拭いてあげた。
「ねえ……復讐したいなら私が手を貸してやろうか?」
「……な、なんで? そんな事…あなたには関係ないじゃないですか」
拭いてあげる鎖巫子の手を、女の子は自分の手で払った。束ねた髪のゴムを取って乾かそうとしている。
「関係ないな。強いて言うなら私の憂さ晴らしだ。君は何も知らない。何も言わずにいればいい。明日は楽しみにしてな」
次の日の昼。鎖巫子はトイレの鏡の前で手を洗っていた。髪を束ねて鏡を見るとそこには自分と女の子が映る。
「きたと言う事は復讐したいんだね」
「わ、私は別に……ただあなたが来いって言ったから」
「強制はしたつもりはないな。それより、早く君は個室トイレで弁当を食べ始めないと。君に悪さする奴等が来ちゃうよ」
「そ、そんな……もう嫌なのに……」
「だから…私の言う通りにしておいて」
鎖巫子は女の子の耳元で囁く。女の子は簡単すぎる命令に驚いた。
「そ、それだけで、大丈夫なの?」
「ああそうだよ」
女の子の背中を優しく押して、個室トイレに入っていった。鎖巫子もトイレに入る。鍵を閉めた。
少しするとクスクスと笑い声が聞こえる。蛇口を捻り、水をバケツに入れる音が静かに響く。再び蛇口を捻る音が聞こえ、水の音はチャポン、チャポンと聞こえる。かすかに聞こえる足音。それが止まった瞬間だった。
鎖巫子は鍵を開けてドアを蹴り、そのまま前にいたバケツを持った女を蹴り飛ばした。バケツはひっくり返り、蹴られた女に丁度良くかかった。
「いってえ何よもう最悪!!」
「何すんだて……めぇ」
顔が青ざめる。まさかバケツよ水をかけようとした所から、鎖巫子が出てきた事に女共はびっくりしていた。鎖巫子はニヤリと笑い謝った。
「ああごめんごめん。まさかバケツ持ってる人がいるなんて、思わなかったから」
「て、めえ! 何するんだ!?」
「それはこっちのセリフだなぁ。バケツを持って、お前達は何するつもりだったんだ?」
「ああいや! そ、掃除をね、し、しようかと…」
一人は鎖巫子を知っているのか、妙に怯えていた。何故怯えているかも知らない女はまだ強気でいた。
「ふざけんな! てめえにもびしょ濡れになってもらうぞ!」
「なあこの髪型似合うかな? ちょっとイメチェンしたんだけど?」
「聞いてんのかおい!?」
完全に喧嘩モードに入ってる女だが、周りにはヒソヒソと声を出す。
「ね、ねえもしかして……あの子と間違えた?」
「最悪だよ。何でよりによって…」
気付いてくれて鎖巫子は喜んだ。間違えたと思わせるように、わざわざ髪型を変えてやったんだ。女の一人が掃除する為と言ったが、女共の手には何もない。
「……掃除道具、誰も持ってないね。仕方ない……私が掃除してやろう。お前らを」
鎖巫子の笑みは、そこにいる女達を恐怖のどん底まで落とす始まりの合図だった。鎖巫子は強気な女の顔に蹴りをかます。女は壁に後頭部をぶつけて、痛みに苦しみながらそのまま床に座り込んだ。
左右から襲ってくる女二人。まず右手の方にいた女の胸ぐらを掴んで、もう一人の女に投げつけた。びしょ濡れの女が殴りかかって来たから、鎖巫子はその手を掴んで、指の骨を優しく折ってあげた。
「ぎゃあああ!」
出来るだけ優しく折ってあげたつもりだが、痛かっただろう。びしょ濡れの女は泣き叫ぶ。
「泣くなよ。まだこれから痛みを味わって貰うんだから」
女達は逃げていった。鎖巫子は隣の個室トイレにノックすると、隠れていた女の子が出てきた。
「あの……何があったんですか?」
「聞かない方がいい。彼女達は怖くてもうやらないだろう。じゃあ私はご飯食べよう」
女の子はただ鍵を閉めないで、ノックするまで、何も言わず静かに待っていた。本当に何があったかわからないままだ。
「……君、僕に他人のどうのこうのと言って異常とか言ったけど、君も同じ事してるよ」
非話に苦笑しながら言われた鎖巫子は鼻で笑い答えた。
「……ふふっ、そうだな」
「それが君の正しいと思うことかあ。それを人々に理解できるかなあ?」
「全員が正しいと思うことなんてないんだ。だが私達は信念を貫き、世を変えようとしている。世の中を豊かにしていく代わりに、苦しむ者が後を絶たない。それを私達がするんだ」
力強い鎖巫子の言葉に、非話は額から汗を流す。
「君が……いや、君達がやろうとしている事を、聞いてもいいかな?」
「聞いたらもう命の保証はないと思え。それでもいいか?」
「僕はあの時、復讐を誓ったあの時から、この世界に消される運命だろうと自分で理解した。命を捨てる覚悟ぐらいある」
「よかろう。ならば来るがいい。私達の正しき、大人を育てる教育を」
鎖巫子は笑う。天使のように。




