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成人の罪  作者: AT
12/15

目覚めた真実の罪 後

 鎖巫子は再び歩き出す。三科太は正直嬉しかった。この女からそんな言葉を言われるとは、思ってもいなかった。


「よかったね。三科太君」


 世子も笑ってくれた。三科太は笑わなかった。もう一つ残っている。裏切り者は本当にいる。鎖巫子達の仲間に。


「裏切り者がいるんだろう。見当は?」


 その質問に鎖巫子は自信満々に答える。


「もちろんついてない。どの道向こうに逃げたから探すのは無理だろう」


「そうか? 俺が疑っている奴はまだこっちにいると思う。だから教室の窓が開く様にできたんじゃないか?」


「私にもミスはある。テストの紙を確認してないのもな」


 テストの時、窓辛の紙が無かったのは本当にミスだった。三科太はてっきり、裏切った奴が何かの細工をしているのかと思っていたが、関係はなかった。だが他に怪しい点が奴にはある。


「三江島の為に買い出しに行った時、奴は外に出た」


 鎖巫子は足を止めて三科太の顔を見た。三科太の考えを読めたが、鎖巫子は鼻で笑って、再び足を進めた。


「あいつには無理だ。あの時発信機を付けさせた。奴が万が一、向こう側に捕まった場合の為にな。それには怪しい動きはなかった」


「それがそいつが持っていた証拠は? もしも外で他の奴に渡したとしたら」


「……まさか? そんな」


 長い螺旋階段が終わり、長い道がまっすぐ続く。所々にある蛍光灯は、チカチカとランプが点滅して、足元が薄暗くなってる。その道の中、誰かが倒れている。


「……亜道さん」


 三人は駆け寄ると、そこには亜道の姿があった。彼の腹からは、大量に赤い血が流れていた。鎖巫子は亜道を抱えた。


「……すまない……私は……もう…長くな……行け……」


 亜道は自分の言葉を伝える為に、必死で声を出した。鎖巫子は何も言わず、黙って聞いていた。


「………子………い…………」


 亜道の声はかすれて、三科太と世子は聞こえなかったが、鎖巫子にだけは聞こえた。やがて彼は息をしなくなった。


「ありがとう……ございます……」


 鎖巫子は亜道の手を持ち、強く握りしめた。その手に一滴の雫が落ちる。すぐに立ち上がり、亜道を置いて歩いて行った。

 亜道がここにいる理由。鎖巫子は二人に心を許したのか、聞かれる前に答えてくれた。


「亜道さんには……愛する妻がいた。妻は病気で、治すには大金がいる。亜道さんは必死に働き、何とか大金を集めた。それを若い連中に奪われた。昔で言うオヤジ狩りだな。絡まれた時に暴行を受けて、足を折られた」


「酷いな。だから足を引きずっていたのか」


「まだ終わってない。そして目を覚ました時、妻は亡くなっていた。あの人は愛する妻の最期を見れなかった。その復讐をする為に、一緒に行動してきた」


「……一緒にって、あんたと亜道に何の関係があるんだ?」


「亜道とは仮の名。本名は海野、私の父親だ。死んだのは、私の母だ」


「……え?」


 三科太も驚いたが、世子も別の事にも驚いた。彼女はその名に聞き覚えがあった。

 ようやく広い所に出た。段ボールや、木箱やらと、山積みに置かれた倉庫の様だ。奥にはまた道があり、さらに奥に扉がある。道には一人、白衣の男が立っていた。


「鎖巫子ちゃん。やっぱり来たか。亜道さんと一緒にここまで避難したけど、亜道さん君の所に行ったが知らないか?」


 非話は歩いて鎖巫子に近づく。鎖巫子は胸元から拳銃を出して、非話に向けた。


「下手な芝居はいい。非話、貴様だったんだな。窓を開けれる様に細工をしたのも、ここの場所に警察を呼んだのも、亜道さんを殺したのも……」


「おや残念。あの爺さんには止めを刺したつもりだったが、まあいい。バレても支障は無い。他の逃走口は既に抑えている。だが君だけの、知らされてない逃走ルートがあると思っていた」


 他の逃走口は黒スーツの男達を逃す為に作っていた。彼等もすでに捕まっている。だから学校にいた時、警察は突入をしなかった。全員が逃げられないと分かっていたんだ。


「ここは僕がね。最期を迎えに来たんだ。君達のね」


 非話は拳銃を出した。鎖巫子は撃とうとはしない。彼女の手は震えている。


「君には無理だ。所詮女が銃を扱う事は出来ない」


 鎖巫子は引き金を引き、弾は非話の頬に傷を付けた。


「はたしてそうかな?」


 鎖巫子はニヤリと笑う。額から汗は流れてるが、震えている手は治っていた。


「先に行け。ここを抜ければすぐに出れる」


「あんた一人にできるか! 俺も残る。三人なら何とかなる」


「私も残るよ。鎖巫子さんとまだ聞きたい事があるの!」


「人質にされるなら邪魔だ。奴は時間を稼げばいいんだ。警察だって待つのが仕事じゃない。後ろから来て挟まれたら私達は終わりだ」


 鎖巫子の意見は正しい。一人でも捕まったら終わりだ。それに三科太と世子は、戦う武器なんて持っていない。三科太が持ってるのは新聞紙だけだ。悔しいが言う通りに動くしかない。


「今は夜明け前だ。暗いが逃げ切れる。行け」


「分かった……行こう世子さん」


「……うん」


 非話を逃げ切り、出口に向かう方法を三科太は考えた。


「よし、これでいこう」


 持っていた新聞紙を非話に投げつけた。非話は銃を持っていた手ではじき、もう一度狙いを定める。三科太はすぐに近くの段ボールを投げつけ、世子の手を持って出口の方に走り出した。段ボールは投げれる軽さだが、当たると相当痛い重さだ。三科太は向かいながら何度も段ボールを投げる。出口の道の前で世子を先に走り出させ、近くの段ボールを投げた。もう投げる物はこの先に無い。急いで扉の向こうに行かないと、後ろから撃たれる。

 どうやら大丈夫の様だ。三科太は賭けだったが、非話は俺達を撃つ事は出来ない。その時、鎖巫子に背を向けてしまうからだ。世子が扉を開けて待っている。非話は銃を鎖巫子に向けていた。その様子を見ながら、三科太は扉を閉めた。

 二人が出て行ったの確認すると、鎖巫子は非話の顔を見る。非話との記憶が蘇った。


「お前と最初に会ったのは、大学の時だったな」


「覚えているよ。鎖巫子ちゃんとのいろんな思い出が蘇ってくる」


「そんな思い出は無い。お前はこの案に賛成してくれた。なのになぜ裏切る?」


「君と僕の考えが違ったからさ。全てを切り捨てないと、この世界は良くはならない」


「そんなのは諦めた考えだ! 私は……お前を友と思いたかった……」


「友達だってケンカはする。殴ったり、蹴ったり、殺すつもりでね。クズ共にいつも僕は……負けてきた。だから、今日は勝つさ!」


 非話は引き金を引いた。鎖巫子は横に飛んで弾を避けた。受け身をすると、走って銃の引き金を引く。狙いも定めずに撃った弾は非話には当たらない。


「ちゃんと狙いなよ」


 非話は踊るように動く。鎖巫子は階段の形に置かれていた段ボールを登って、上から狙いを定めた。非話の後ろにある山積みの段ボールを撃つと、水が吹き出した。非話は驚き、前に跳んで水を避けた。その一瞬の隙を狙い、段ボールの山の上から降りて、非話の距離を詰めた。非話はすぐに銃を向けたが、鎖巫子はその手を下から蹴り飛ばした。非話の銃は飛んでいき、山積みの段ボールの奥に落ちた。あれを取るにはかなりの苦労だ。


「ここは食料庫でもある。私が知らない訳ないだろう。両手を挙げろ」


 鎖巫子は撃たない。こいつは気絶させて、弾は取っておく。


「参ったな。やっぱり銃じゃ無理だな〜……降参」


 非話を両手挙げた。諦めた様子だ。


「……だが」


 非話は右袖に仕込んでいたナイフを出しし、鎖巫子の首を斬りつけた。


「ナイフは負けないよ。得意分野だ」




 世子は急に足を止めた。一緒に走っていた三科太は、世子が動かない事に気付き、足を止めて世子の様子を伺った。


「思い出した……海野……嘘?」


「どうした? 世子さん」


「カイコちゃん!」


 世子は、走って来た道を引き返した。どうしたのか分からないが、三科太は世子を追った。『カイコ』と言ったが、まさか世子さんが小学生の時、別れた子があの鎖巫子なのか。




 首に掛けていたイルカのペンダントが、ナイフで切れて外れてしまった。


「よく反応したね!」


 鎖巫子の首は擦り傷で済んだ。もう少し深く刺さったら危なかった。


「亜道さんの傷は刺し傷だ。それに撃ったなら、銃声も響いたはずだ。警戒はしていた」


 それでもギリギリだった。非話のナイフ使いを見て、彼が得意分野と言ったのは本当の様だ。鎖巫子は銃の弾を数える。


「残り三発かな? 色々と調べたけど、君は実弾を持っていない。殺しはしない様に考えていたんだろう? さあ、君は僕を殺せるかな?」


 非話は鎖巫子めがけて走りだす。鎖巫子は離れようと動くが、非話はそうはさせないと距離を詰めていく。鎖巫子は弾を撃つが、簡単に避けられてしまう。


「慌ててると簡単に読めるよ。残りは二発、全部避けたら殺してあげる!」


 非話は上からナイフを振り下ろし、鎖巫子の右肩を斬りつけた。しゃがんだ体勢から起き上がる時、次は左足を斬りつけた。その勢いのまま、空中で一回転して右腕を斬りつけた。鎖巫子は全て擦り傷で済んだ。いや済まされた。近くなら当たる。非話が着地した後、突っ込んで来るカウンターを狙う。銃を構えて引き金を引いた。非話は突っ込んで来ず、後ろに下がった。撃ってくると気付かれていた。


「ハズレ〜、あと一発だよ。当たるかな?」


 非話は右手を後ろに隠し、姿勢を低くして走る。素早く鎖巫子の前に来た非話は右手を前に突き出す。鎖巫子はその手を左手で受け止める。だがその手にはナイフを持っていない。非話はナイフを持った左手を、鎖巫子の右肩に深く刺した。鎖巫子はナイフで刺されるのは初めてだ。血が溢れてかなりの痛さだ。叫びたいが鎖巫子は声を殺した。この隙を外さない。今がチャンスだ。非話の左手を自分の左手で掴み、銃を非話の顔に向けた。引き金を引いた時、非話は右手で鎖巫子の腕ごと銃を上に向けた。撃った弾は天井に向かって飛んでいった。


「残念! それじゃあさよなら鎖巫子ちゃん!」


 非話は鎖巫子の右肩に刺さったナイフを引き抜きいた。鎖巫子は左手で肩の血を塞ぎ後ろに下がる。非話の顔は笑顔だった。ナイフを突き立て、鎖巫子の心臓めがけて突っ込んで来る。鎖巫子は銃を構える。弾が入ってないなら脅しにもならない。迷いなく突っ込む非話。鎖巫子は引き金を引くと、一発の銃声が鳴り響いた。


「な、なん……で?」


 非話の胸からは血が流れる。ナイフは手から落ち、床に倒れると天井に当たった弾が見えた。赤い液体がポタポタと流れ落ちている。


「血糊弾か……やられた」


 鎖巫子は非話が落としたナイフを蹴り飛ばした。


「実弾は持っていないが、あれならまだあるさ。持っていてよかった」


 鎖巫子は集中が途切れて、溜め息を吐くと床に座り込んだ。


「カイコちゃん!」


 出口の方から世子の声が聞こえる。見ると世子と三科太が戻ってきた。なぜ戻ってきたのかという疑問は、彼女の言葉で理解した。どうやら自分の正体がバレてしまった。


「……そのあだ名は止めてくれないか? 嫌いなんだ」


 その反応で三科太は本当だと分かった。同時に鎖巫子には怒りが芽生えた。


「なんで……なんで黙ってた! あんたは……世子さんと友達だったんだろ!」


「その子は死んだからさ……自殺しようとしたあの時に、そしてこれから、私も……」


 鎖巫子はふらつきながらも立ち上がり、切れ落ちたイルカのペンダントを拾った。


「このペンダントは細工して開く様にした。弾が入っている」


 鎖巫子は銃に弾を入れると、倒れた非話の元に向かう。非話の頭のこめかみに銃を突き付けると、自分の頭を非話の頭の横にくっつけた。この一発を貫通すれば、二人共死ぬ様に。


「……最後だ。人殺し同士、地獄に行こう」


 鎖巫子は目を閉じ、銃の引き金を引いた。その瞬間、三科太は鎖巫子が銃を持っていた手を掴んで、非話の頭から狙いを外した。弾は壁に当たり、静かに銃声が響く。


「……どうして?」


 鎖巫子は止められた理由が分からなかった。だが三科太は当たり前の様に答えた。


「死ぬ事で償うのは、誰にでも出来ると思う。生きて償う事が出来るのも、人間だ」


 鎖巫子は何も言い返せなかった。自分では気付かなかったが、涙が出てる。三科太は鎖巫子の手から銃を取り、投げ捨てた。非話の白衣を破き、撃たれてる胸に当てて血を止めた。


「なに……してる……」


「悪いがこれくらいしかやれない。すぐに警察でも来ればいいが……とにかく、医者なら生き延びろ。生きて罪を受けろ」


 非話は苦しい痛みの中、笑っていた。また白衣を破き、鎖巫子の右肩に結んだ。


「三科太……頼みがある。父の……墓を作ってくれ……」


「ああ、ちゃんと作ってやるから、会いに来いよ」


 三科太は鎖巫子を両手で担ぎ、出口の扉に向かった。歩いていると、懐かしい太陽の光を浴びる。




 あれから一年の時が過ぎる。


「三科太君! 早く!」


「焦んなくても、ゆっくり行こうよ」


 木が揺れて、冬の風が吹いている道を、二人は一緒に歩いている。世子は花束を大事そうに持っている。


「早いね。あれから一年なんて」


「色々あったからあっという間に感じるよ」


「……あれから三科太君がネットでこの事件を公表して、政府問題が起こった。やっぱり世の中は、こんなの間違いだと決めたんだ」


「だが成人式の酷さは変わらない。結果意味の無い事になった」


「それじゃあ……意味がある様に私達がやらなきゃ」


 世子は明るく話す。世子の強い意志に三科太も答える。


「ああ、俺も今回の事件を無駄にしない。頑張って、いい先生になるよ」


 しばらく歩くと、二人の目には墓地が見えてくる。世子はふと彼女の事を話す。


「カイ……鎖巫子ちゃん。あれから会えないね」


「あいつは人を殺している。しばらくは会えないだろう」


「そうだよ。だから私達が代わりに、鎖巫子ちゃんのお父さんの墓参りに行くんだよ!」


「分かってるよ。何回も言わ……」


 三科太は声が出なかった。二人が着いた目的の場所。海野と書かれた墓。前には一つの花。そして一人の女性が座っている。女性はこちらに気付き、立ち上がった。長い黒髪で、容姿端麗とはまさにこの為にある言葉なのかと思わせる美人だ。


「……嘘だろ?」


 女性はニヤリと笑った。


「残念だが真実だ」

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。

私も急いで書くつもりが、二月になってしまいました。忙しい中でミスがあったかもしれません。感想やらで教えてくれたら嬉しいです!

今後は少し開けて新たなジャンルもやってみたいです。

それでは、TAYA Emiの次の作品にご期待ください!

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