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成人の罪  作者: AT
11/15

目覚めた真実の罪 前

 誰も言葉が出ない。三科太も一番予想しなくもない事が現実になった。沈黙の中でも亜道は口を開けて話を続ける。


「残念だが、今からお前達を死刑場に連れて行く。全員に手錠を付けろ」


 亜道の合図で、黒スーツの男達が全員に手錠を付けていく。その時、ようやく言葉が出せたのは佐剛だった。


「ま、待ってくれ! そんな、嘘だ……嘘だろ?」


 誰でも思う。三科太も嘘だと思いたい。合格者がいないなんておかしい。一人くらいは合格すると予想していた。特に鎖巫子、あんたはそうなると思っていたはずだ。今のその態度は、どういう意味だ。


「鎖巫子。本当に上がちゃんと判断した結果か? ……鎖巫子!」


 三科太は叫ぶが鎖巫子は何も答えない。死への恐怖で教室中は騒ぎ出す。鎖巫子は歩き出して教卓の前に立つと、教卓を両手で強く叩いた。皆が静かになると、ゆっくりと顔を上げた。


「……もう一度だ。お前達にもう一度チャンスをやろう」


 その言葉に誰もが驚いた。だが一番驚いていたのは亜道だった。亜道は鎖巫子の肩を掴んで、彼女の顔を向けさせると、誰にも聞こえないように話す。


「時間も金も無いぞ。いくらなんでも無理がある」


「そんな無理は承知ですよ。亜道さん」


 喰い下がらずに鎖巫子は、肩に置いた亜道の手を優しく握った。亜道は鎖巫子の苦渋の決断を見て、自分も決心した。この子の決めた道だ。最後まで付いていく。鎖巫子は亜道が理解してくれた事が分かり、手を離した。

 三科太は何の事か分からず、鎖巫子にチャンスの意味を聞いた。


「チャンスって、俺達にもう一度テストでもするのか?」


 三科太の質問に、鎖巫子はまた何も答えなかった。ブツブツと何か呟いている。頭の整理が出来ていないのだろう。

 三科太の考えでは、上が判断したのをいくら鎖巫子でも、もう一度やる権利は無いはずだ。この女は無理にでも合格者を出したいんだ。

 やはり脱獄をやるべきだ。最悪足には手錠されていない。三人も合図をしたら動き出す。チャンスは今しかない。

 何か小さな音が聞こえる。もちろんこれは三科太が出す合図じゃない。謎の音が大きく、いや近づいて来ている。


「まさか……!」


 鎖巫子はこの音の正体に気付いた。それは誰だって聞き覚えがある音だ。パトカーのサイレンが聞こえて来る。


『犯人に告ぐ。罪を認め出てきなさい』


 スピーカーで発せられた男の声が、教室中に響く。鎖巫子や亜道、黒スーツの男達は焦り出し、皆は不思議に思う。


「犯人ってなんだ? 一体どういう意味だ?」


 謎が多くなるばかりに皆は混乱する。三科太は落ち着いて考えてみた。外の警察が本物なら、なぜ鎖巫子達は焦っている。この中に犯人がいるとすれば、焦っている鎖巫子なのか。すると曽手が立ち上がって声を上げた。


「そうだ……そうだよ! 考えてみればこんな法律、国が許す訳がねえ。全部こいつらが作り上げた、嘘だったんだ!」


 鎖巫子は否定はしなかった。三科太もその考えは間違ってないと思う。治代は立ち上がり鎖巫子の方へ向かう。


「てめぇ。よくも酷い目に合わせてくれたな」


 黒スーツの男達が集まり、鎖巫子を守るように囲った。亜道が鎖巫子の手を掴んだ。


「鎖巫子、もう諦めよう……急いで逃げるぞ」


「亜道さんは先に行ってください。私は後から追いつきます」


 亜道は軽く頷き教室を出た。このままなら俺達は助かるはずだ。でもなぜか納得できない。頭の中で何かが引っかかる。今までの事は全て納得できるのに、最後だけ、鎖巫子がチャンスをもう一度やると言った事だ。


「あいつら逃げるつもりだ。警察に早く助けて貰おう!」


「待て、佐剛!」


 三科太の声も聞かずに、佐剛は教室の窓を開けた。窓が開くなんておかしい。佐剛は手を挙げて、警察に助けを求めた。


「ここだー! 助けてくれー!」


 大きな音が聞こえた。佐剛は後ろに倒れていく。三科太は倒れた佐剛の近くに駆け寄ると、佐剛の頭から血が流れ出た。


「……佐剛? おい……佐剛!」


 佐剛は呼んでも返事はしない。頭を撃ち抜かれたんだ。返事なんか帰ってくるわけ無い。彼はもう死んだのだから。


「何故窓が開く? 誰が開けれるようにした!」


 鎖巫子は声が震えながら、黒スーツの男達に怒鳴った。しかし彼らは首を横に振る。彼らが開けれる様にしていない。三科太は佐剛の頭を抱えて涙を流す。


「なんで……なんで佐剛が死ぬんだ! 鎖巫子、お前は何故か分かるはずだ!」


 やはり鎖巫子は何も答えない。黒スーツの男達に命令した。


「全員の手錠を外してやれ。外したらお前達は脱出しろ」


 黒スーツの男達には、苦しい判断だった。全員の手錠を外すと、黒スーツの男達は鎖巫子に頭を下げ、教室から出て行った。


「皆、最後のチャンスだ。私か、佐剛を撃った奴等か、信じる道を選べ」


 鎖巫子は謎の選択を与えた。チャンスというが、何を信用していいのかよく分からない。皆が戸惑うこの状況に、曽手が鎖巫子に指を差して叫んだ。


「こいつなんか信用できない! 佐剛は恐らく……犯人と間違えられたんだ。こんな酷い事をしてるから、犯人は死刑にされるんだ。下手すりゃ俺らも仲間扱いされて殺されちまう! とにかく俺は警察の所に行って、保護してもらう!」


 曽手の提案にほとんどの者が賛成した。だが三科太は、犯人か分からずに撃つ警察を、すぐに信用出来ない。


「待ってくれ皆! 俺は納得出来ない……鎖巫子、あんたはまだ隠している事があるな? 俺はあんたに着いて行く」


 三科太の意見は、教室中を凍る様な発言だ。彼と一緒に、着いて行こうと言う者はいない。今まで疑われていたが、完全に裏切り者と判断された。治代は三科太を睨んで、やっぱりなという顔をした。


「お前はそっち側だったもんな。殺してやりてえが、警察が突入して来たら犯人扱いされちまうな。もしお前が生きて会った時は、必ず殺してやる」


 治代は教室を出て行った。それに乗じて次々と教室を出て行く。三科太は止めはしなかった。彼等の行動も間違いではないかもしれない。世子も出る決心をしたのか、三江島の方に近づいた。だが三江島は、世子が思わない考えをしていた。


「離れてよ……あんた、三科太と仲良かったよね。あんたもあいつらの仲間なんじゃないの?」


 それは疑いの思いだった。世子は当然、首を横に振り否定した。一緒に行こうと、三江島の手を持とうとするが、三江島の手は世子の顔を叩いた。


「近寄るな! あんたといたら、こっちまで殺されてしまう」


 世子は叩かれた勢いで床に倒れた。三科太は心配して、世子の元へ駆け寄った。


「三江島ぁ! 貴様、何をしてる!」


 鎖巫子は怒った。今まで三科太が見た中では、一番怒りをあらわにしている。


「あんたに……文句言われる筋合いはもう無いんだ!」


 三江島は教室を出て行った。教室に残っているのは、空楽と窓辛、そして世子だけになった。


「三科太……万が一の時は、人質になった様にしておけ。悪いけど、俺は向こうに行く。ありがとな。休憩の時に助けてくれて」


 空楽を礼を言った。三科太は何も言わず頷いた。空楽は教室を出た。


「窓辛……」


「ごめん……三科太君……」


 窓辛は謝ると、走って教室を出た。皆の行く道を止める時間も理由もない。三科太のあくまで推測で、確実では無い。世子は立ち上がった。彼女も行く道は決めていた。


「私は三科太君の味方だよ」


 世子は決めていた。三科太と一緒に行く道を選んだ。


「いいのか世子さん。友に裏切り扱いされたからという、一時の感情で動いちゃダメだ」


 世子さんが無理に着いて行く必要はない。でも彼女は首を横に振った。


「三江島さんには、先に言うつもりだった。最初から決めていたよ。友は見捨てない……もう二度と」


 世子が心に決めていた決意だった。残った二人は鎖巫子の顔を見た。そして鎖巫子は振り向く。


「急ぐぞ」




 三科太達と離れた治代は、門の近くにいる大勢の警察を確認すると、向こうから見えない所に隠れていた。下手をしたら佐剛の様に、間違えられて撃たれてしまう。曽手がまず出て説明すると動いた。慎重に、何もしないと、向こうに分かる様に、両手を挙げて前に出た。


「助けてくれ! 俺達は被害者だ!」


「全員、両手を挙げてゆっくりと出てきなさい」


 順々と皆は出て行く。ほとんどが並んで出てきたが、最後の窓辛が出遅れてしまっていた。


「よし……撃て」


 一斉の射撃が行われた。次々と倒れていく。窓辛は恐怖のあまり、目を閉じてしまう。銃声の音は止んだ。窓辛が目を開けると、大量の血が飛び散っていた。


「な、なん……で……」




 鎖巫子に付いてきた部屋は、三科太が脱獄を失敗して連れて来られた部屋だ。その部屋に置かれてたストーブが動かされている。ストーブがあった場所には下に降りる階段があった。

 鎖巫子は先頭に降り、続いて世子も降りていく。三科太は近くの机に置いてあった新聞紙に気付き、それを手に取った。そこにはとんでもない事が書かれていた。急いで鎖巫子の後を追った。薄暗い階段を降りる鎖巫子と世子に、三科太は新聞を見せた。


「これが真実だな」


 新聞の一面に大きく載っていた。

『成人のテロか? 爆弾予告等様々な犯罪』

 世子はこれだけでは、何の事か分からないだろう。だが三科太は、ここまで起こった全ての状況を理解できた。鎖巫子は目を伏せて溜め息を吐く。


「説明するより、お前の推理を聞いてみたい」


 世子はよく分からなかった。三科太は世子にも簡単に推理を話した。


「まず最初。ここに連れて来られた時、まあしばらくしてだが、少ないなとちょっと疑問に思った」


「それって人数が? でもここにいないだけで、他の場所で集められているんじゃないの?」


 世子の言葉に三科太は首を横に振る。


「いや、少ないのは金髪の人だ。三江島は派手な金髪で連れて来られた。だがそんな奴、特に女性はもっといたのに、ここに三江島しかいなかった」


 鎖巫子はその事に気付く三科太を褒めた。


「よく気付いた。確かに女性は少ないな」


「次に世子さんに付いていた、死んだ黒スーツの男。鎖巫子が撃つ前に言おうとしたあの時、本当は鎖巫子が嘘を吐いて俺達を罪人扱いしている」


「あれは予想外の出来事だったからな」


「そしてテスト、町の状況だ。朝の九時に開始したのに、高校生がうろつくか。まして金曜という平日の日に、制服の格好ではな。ちなみに曜日は交番で聞いた。日にちはおにぎりの賞味期限を見たが、あんたが隠蔽している可能性があった。それに学校も見当たらない。俺達がいたこの工事中の場所以外にな」


「お前が行ったルートにはなかっただけと、そうは考えなかったのか」


「これは全員に聞いた。俺じゃなくて佐剛と窓辛、空楽にな。あともう一つ。俺が会った警察の奴は、佐剛に付いてた黒スーツの男だ。口の左下のホクロと、こえでバレバレだ」


「バレていたか……人手不足で動かしたのが、仇になったな」


 階段は螺旋状になって、鎖巫子は内側の手すりを掴んで降りていく。


「金髪の人が一人だけ、黒スーツの男が言おうとしたこと、偽の町を使ったこと。最初のはをたまたまとして、他が当てはまったのは警察が来た時、あんたが犯罪者なら、この三つは辻褄が合う」


 三科太は持っていた新聞を握り締める。


「だがこの新聞に載っていた事件で、俺達が指名手配されている」


「え! それって私達なの? でもそんな事した覚えは無いよ!」


「もちろん俺も、酒で酔っていても無理な事だ。これは政府が勝手に作った物だ。この新聞は水曜日に出ている。だがテストから時間は経って、五日も過ぎてはいない。テスト前の水曜日に出た新聞だ」


 テストに失格して出されたんじゃない。この新聞が教えてくれた事だ。


「さっきの三つはこちらでも当てはまる。偽の町は俺達を守る為にあった。黒スーツはこの真実。成人式の派手な髪、金髪の人は捕まった。あるいは……」


「死んだ」


 鎖巫子は三科太は言うのを躊躇ためらった事をさらっと答えた。


「結論を言うと、殺されるのは鎖巫子、あんたじゃなく俺達罪人だった。今の状況を見たら処刑確定だ。推理ですらない。ただの状況分析だ」


 螺旋階段はまだ続く。だが鎖巫子は足を止めた。


「この成人適正制度は二つの案が出た。一つは無理矢理にでも正しさを教えさせて、良くなった者は生き、それでもダメだったのは死刑。これは私が考えた。もう一つは全て処理する」


 三科太と世子は、その真実に衝撃を受けた。政府はそんな法律を定めようとしたのだ。


「結果後者が選ばれた。理由は金と時間がかかる。クズにそこまでして無駄だとな。そして今回約五百人が引っかかり、三十人を除いて処分された」


「つまり俺達は捕まったんじゃ無かった。殺されなかったんだな」


 鎖巫子は頷き、再び歩き出す。


「死んだ奴らは適当な理由で公表された。だがお前達はまだ生きている」


「それでこの事件か」


「法律は決まったんだ。もうどうしようもない。私の最後の足掻きも無駄になった」


 最後の足掻き。無理矢理に教えて、何人か生かしてもらおうと、上に持ちかけた。だが失敗した。上の者は聞く耳を持たなかった。


「三江島ですら、結果あのザマだ。ここで死なずとも、この先逃げる人生が待っている」


 だから鎖巫子はさっき怒ったんだ。あそこまでして友を簡単に疑い、見捨てた三江島を。三科太はこれからどうするか、テストの前に決めていた。


「あんた、これはまだ世間に知らされてないって言ったな?」


 鎖巫子は足を止めてああそうだと、二つ返事で答えた。


「なら知らされてやろう。俺逹が何をされているのか」


「どうやって?」


「ネットだ。休憩の時に空楽から仕方は聞いた」




 休憩の時間。三科太は座った。非話を探すのは諦めようと決心した。空楽がさっき言った言葉を思い出した。彼に聞いてみよう。


「大丈夫か? 腹が減ってるなら俺のを分けてやる」


「……でもお前は裏切ってるとか言われてんだろう?」


「だから? お前にメリットが有っても俺には無いだろう」


 空楽はすぐになるほどと納得した。


「ところでお前、動画の作り方を知ってるのか?」




「確かにそれなら世界に見られるだろう。だがダメだ。そんなのが世間に知られたらパニックになりかねん」


「常識は世の中が決めるんだろ!だったら包み隠さず言うべきだ!」


 三科太の声は階段中に響いた。鎖巫子は驚いて声が出せなかった。


「……これ、あんたが言ったんだろ」


 たしかに最初、連れて来られて鎖巫子が言った言葉だ。鎖巫子は笑った。一番の笑顔を見せた。


「お前達が、立派な大人になれてよかった」

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