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海神別奏:大正乙女緊急指令「九十九人ノ婚約者ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花


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61「あなたのことが大好きって気持ち」

 ちりん。


 「そうだ。写真を撮ろう」


 それはささやかな願い。

 私と、4人の愛しい婚約者の日常を切り取って永遠に残したい。

 私たちが死んで海に還っても、誰かの心に残るように。

 

「――あと、ブロマイドにすれば高く売れて、琅玕隊の知名度と地位向上も狙えるわけでして」

「やっぱりビジネスの話でしたね! 駄目です、駄目!!」


 そんな思いで写真館に足を運んだが、何かを感じ取ったエンゼル神父に問い詰められる。

 みんなとの思い出の写真が欲しいのは本心。だが、あわよくば仕事に利用したいのも本心。

 神父を前に嘘はつけない。私のよこしまな思いはいとも簡単に看破されてしまった。


「ビジネスの利用なら、私は神父としてお断りさせて……」

「私はかまわない」


 エンゼル神父が「ノー」を突き付ける前に、シュヴァリエの静かな声が響いた。

 甘く響くその声は、いつだって私を助けてくれる。

 シュヴァリエは私の肩にそっと手をのせると、天使のように柔らかく微笑む。


「レディが望むなら、なんでもしよう」

「で、ですがブロマイドなんて……」

「神父がブロマイドを売ってはいけない法律はない。お前が嫌がるなら、私だけでも――」

「や、やります! 私も織歌さんの役に立ちたいですから……!」

「ふたりともー!」


 なんだかんだ言って、ふたりはいつだって私のことを考えていてくれる。協力してくれる。

 年上の包容力に甘えながら抱き着くと、ふわりと甘い香りがした。

 シュヴァリエの花の香水と、エンゼル神父の教会に咲くマグノリアの香り。鼻からいっぱいに吸い込むと、幸福感に包まれて蕩けてしまいそうだった。

 

「これで私、父、シュヴァリエ、エンゼル神父の了承は得られましたね」

「”俺も” ”やるの?”」


 父の戯言をいなしながら、ほっと胸をなでおろす。

 ブロマイドを売りたいのは売り上げや地位向上のためだけじゃない。民のために怪異に立ち向かう私たちという存在をより多くの人に受け入れてもらいたい。

 民を守る、その気持ちに人種や性別は関係ないのだと――


「あとはダミアン……」


 しかし、最も大きな壁は意外と近くにある。

 先ほどからずっとどす黒いオーラを流しながらイライラしている愛しい婚約者を恐る恐る振り返ると、彼はまた怒っていた。

 

「……」

「『俺はやらねえぞ、このくそビッチ』だそうです」


 ちりん。


 まるで警戒する兎のようにダンダンと地面を踏みながら、愛しい婚約者は一言もしゃべらない。

 代わりに目の前にいる白人の男がにこやかにダミアンの代弁をしてくれる。

 

「あの……あなたは……」

「私はサー・ヘイダルの専属弁護士、エヴラード・G・バーラムと申します」


 ちりん。


 再び鈴が鳴る。

 エヴラード・G・バーラムという男は、金髪碧眼の絵にかいたような白人で、高そうな衣装に身を包んでいる。

 弁護士という立場からも、この街の勝ち組のオーラを放つ美しい青年だった。

 そして、鈴が鳴るということは――


「……はじめまして、美しいお嬢さん」

「織歌です。はじめまして」


 爽やかな声に胸が弾む。私の意志を介さない勝手な心臓の動き、薔薇のように色づき恥じらう彼の頬。


「”攻略対象”」

「こんなところで出会いますかね!?」


 新たな婚約者候補だ!

 父の台詞に思わず突っ込みを入れたせいで、大きな声を出してしまった。爽やかな弁護士はその声にハッと我に返ったようで、きりりとこちらを見つめなおした。


「サー・ヘイダルは写真撮影をお断りしたいそうです。申し訳ございませんが、ご遠慮いただけますか」

「いや、嫌なら無理強いはしないよ……なんでまた弁護士なんて立てて」

「サー・ヘイダルは織歌嬢とシュヴァリエさんの写真も世に出したくないそうなのです。なので、全員撮影NGです」

「こら! そこまで拒否する権利はあなたにはないぞ!」

「そのために私が来ました」


 なんて隙のない我儘だ。金に物言わせたダミアンの抵抗に閉口してしまう。

 だが、愛しい婚約者といえど、私の行動を縛るようなことはしてほしくない。


「あなたはともかく、私たちの行動は邪魔させないぞ。写真館まで来たんだ、勝手に撮らせてもらう!」

「『素人に売れるブロマイド作成なんてできるのかよ』だそうです」

「だからプロのあなたに協力してほしかったのに!」

「『だれがやるか、ばーか、ばーか』……おっと、罵倒はいけませんよ、サー・ヘイダル」

「最高の写真を撮ってみせる! あなたも思わず売りたくなってしまうほどのな!」


 エヴラード氏を挟んでの喧嘩を交えながら、私もムキになって売り言葉に買い言葉で返してしまう。

 確かに私は素人だが、婚約者たちの魅力は、私が誰よりも知っている。

 あなたのことが大好きだって気持ちは、ダミアンには負けない。

 

「写真は私が撮る! まずお父さんから行きますよ!」

「”仲直り” ”しなよ”」


 父の冷静な言葉を尻目に、私は気合を入れて腹から声を出した。

 

「さあ、撮影開始です!」

★★★

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