50「逆ハーレムって大変なんですよ」
「――んん」
目が覚めると、私は自室のベッドから天井を見上げていた。
アイボリーの天井を、乳白色のガラスシェードが淡く照らしている。
そうだ、酔っぱらって大絶唱をした挙句、意識を飛ばしたんだった。
「あたま……いたあ……」
窓の外はすっかり暗くなっている。ダミアンやシュヴァリエが運んでくれたのだろうか。
ずきずきと痛む頭を上げると、ベッド脇で三人の男性が談笑していた。
「起きたか、織歌」
私が起きたことに気づくと、ダミアンがベッドにそっと腰掛ける。
ふわりと深い香水の匂いが漂い、ダミアンの男らしい芳香が鼻腔に広がる。
もうろうとする頭でもわかる。男女が夜にベッドの上、やることはひとつ――
「ついに来たか……よし! こい! 全員受け入れて見せる!」
がばっと手を広げてダミアンとシュヴァリエと父に抱き着こうとしたが、父にベッドから叩き落された。
べちゃっとベッド脇に落っこちて、痛む鼻をこすってみんなを見上げる。
「なにするんですか!」
「”だめ” ”だめ”」
父が拙い英語で何か言っている。その隣で、ダミアンとシュヴァリエが呆れたように笑っていた。
「まずは酒を抜け」
「酔いがあるうちは、手を出してもつまらないだろう?」
こいつら、紳士すぎる……!
獣のような自分が恥ずかしいが、愛しい人を前にして我慢などできるはずもない。
ぐるぐると喉がなって、欲望のままに二人を抱きしめようとした時、再び父に腕をとられる。
「いたた! 離してください!」
「”だめ!” ”ばか!”」
「なんでですか!?」
おかしい。恋愛を推奨しているのは父なのに。
拗ねたように父に話しかけると、彼はダミアンとシュヴァリエを見ながらこっそりと日本語でつぶやいた。
『九十九人を落とせと言っただろ。誰かに抜け駆けされると、強制的にそいつの”るぅと”に行っちまうぞ』
『抜け駆けというのは? キスは?』
『物語が固定されるってことだ! 床入りはダメ、口づけは別に大丈夫だ』
『その境界線はなんなんですか……!』
こそこそと日本語で話す内容を、ダミアンとシュヴァリエは理解できないようだ。
呆れたように笑うと、ふたりで再び酒を飲みあう。
どことなく打ち解けた雰囲気の二人が愛おしくて、その間に挟まりたい。だけど――
『それは……つまり……』
『床入りは九十九人揃うまでお預けだ』
『嘘だあああああ――!!!』
できない!
私は泣き崩れながら床を這った。
「ほら、ふたりっきりの話はもうそこまでだ」
「私たちとも話をしよう、織歌」
酒が残っているせいか、理性がきかない。べそべそと泣いているとダミアンとシュヴァリエが声をかけてくれる。
ハグは大丈夫だったはずだ。私は二人をぎゅうと抱きしめて、寂しい気持ちを補った。
「キス、したい」
二人の体温が火照った体を余計に熱くする。ダミアンの厚い唇と、シュヴァリエの薄い唇が近くにある。
今すぐ触れたくてたまらない。思わずそうつぶやくと、ふたりは笑ってくれた。
「どっちが先だ?」
しかし私は思い知ることになる。三人との恋愛の難しさを――
「……シュヴァリエ、俺より先にやるってのか」
「毒見が必要では? マフィアの手下はボスの前を歩くものです」
「ボスの女をとるもんじゃねえだろ」
「私の女でもある」
私の唇は一つしかなかった!
順番で二人がもめだしてしまい、ぴりりとあたりに緊張が走る。
いつもならシュヴァリエが引いてくれているが、情熱的な彼は恋愛では一歩も引く気は無いようだ。
もちろんダミアンも引く気は無い。ふたりが私の愛を取り合っている、それがたまらなく嬉しいが、冷汗も止まらない。
「け、喧嘩するな! 平等に父から先にしよう!」
「まあ、勝なら……」
「わかった。サーに譲ろう」
「”やらない” ”よ?”」
しかも父は役に立たない!
せっかく二人が顔を立ててくれたのに、ぎりぎりと力を込めて私の体を引きはがそうとする。
酔っぱらった体ではとても力では勝てず、私はまたベッドから転がり落ちた。
「じゃあ、どっちが先かさっさと決めろ!」
「うぐう~! 究極の問題じゃないか! 答えなんて出せるか!」
「選ばないなら、私から……」
「あ、抜け駆けすんじゃねえ!」
そうこうしていると再びダミアンとシュヴァリエが争いを始めてしまう。
決着が突かない問いに、結局この日はキスを諦めて、再び酒をあおって寝た。禁酒法など、クソ食らえだ。
床入りも口づけもまともにできない、三股生活。”逆ハーレムるぅと”なるものの難易度の高さを思い知ったのだった。
★★★
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