表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海神別奏:大正乙女緊急指令「九十九人ノ婚約者ヲ攻略セヨ」  作者: 百合川八千花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/55

46「ウールワースビル展望台」

「じゃん! ウールワースビル展望台だ!」


 私のデートプランは、ウールワースビル展望台が舞台だった。

 通称、【大聖堂のような摩天楼】と呼ばれるウールワースビルは世界一の高さを誇る60階建ての建物だ。

 展望台は一般に開放されており、上るとハドソン川や自由の女神を高みから覗くことができる。

 まるで雲の上のような、ニューヨークの観光地の一つだった。


「あばばばばばば」

 

 エレベーターで展望台まで登りあがる感覚はまさに昇天。変な声も出てしまうというもの。


「レディ、足元がおぼつかないですが」

「はは……なに、すぐに慣れるさ」


 初めての体感に足をぐらつかせながらも、どうにか格好をつける。

 エレベーターを上り切った先には、ニューヨークの眺めが広がっていた。

 

「”高い”」

「なんだよ勝。ビビってんじゃねえだろうな」

「”こわい”」

「素直な野郎だな……」


 父は慣れない角度からの景色に怖気づいたのか、窓から目を逸らして外を見ないようにしている。

 面子を重んじる極道者にはあるまじき腑抜けた態度だが、父は威勢を保つ元気もないらしい。

 ダミアンの手を握って高さに耐える様を、ドレスを着た女性がくすくすと笑って通り過ぎる。


(これだ。これが私の求めていたもの……)


 普段と違う環境に身を置いて、新たな気持ちになってほしい。それが私の計画したウールワースビル展望台デェトの作戦だった。

 地面の上では根を張ったように頑なな心も、空に浮かべば羽が生えたように自由になるかもしれない。

 実際、堅物な父は子犬のように震えている。

 

「どうだ? シュヴァリエ」


 素晴らしい作戦だ。心の中で自画自賛をしながらシュヴァリエを眺めると――


「はい。素敵ですね」


 シュヴァリエは普段と変わらない表情をしていた。 

 いや、普段よりも少し心を閉ざしている気すらする。眉根に少しだけしわが寄り、視線を動かさない。些細な変化だが、シュヴァリエを見続けてきた私にはわかる。

 

(え、もう失敗したのか……)


 嫌な予感がした。シュヴァリエの機嫌があまりよくない。

 場所の選択を間違えたのか?

 しかしウールワースビル展望台は社交界のサロンもあるほど格式高く、デェトの王道スポット。ここに向かうと言ったとき、ダミアンは「定番だな」と言ってくれたし、大きく外してはいないはずだ。


「……高いとこ、苦手だったか?」

「いえ。……昔はよく来ました。ここは、社交界の入り口でもありましたから」


 恐る恐る尋ねると、シュヴァリエは私を安心させるように笑ってくれる。初めて会った時も表情が豊かになっている、そう思えた。

 

「社交界。えっとたしか、|四百人《The Four Hundred》っていう、特別な人たちがいるんだったか」

「ええ。我が家もそう呼ばれていましたね」

 

 シュヴァリエはうっすらと笑った。だがそれは、自嘲に近いものだった。


「知り合いに会いそうな気がしてしまいまして。お気を使わせてすみません」

「会いたくない人がいるのか?」

「きっとあなたも、会いたいとは思わないですよ」


 どういうことだろう。その答えは、すぐに分かった。


「このサロンはまだ奴隷を使っているのか?」


 聞き慣れた嫌味な声が聞こえる。

 嫌な予感がして振り返ると、そこには礼服姿の壮年の白人男性がいた。


「俺のことかい? 閣下」

「おや、英語が話せるのか。利口なインディアンだな」

「ド田舎出身のアンタよりは、流暢に喋れてると思うがね」

 

 ベインブリッジ少将だ。ダミアンと父の姿を見て、忌々しそうに嫌味をつぶやいている。

 ダミアンもその嫌味を聞き逃さず、冷静に言い返している。

 一触即発の空気が流れて、あたりがぴりついた。


「閣下! 奇遇ですね!!」


 慌ててダミアンとベインブリッジ少将の間に割り込む。

 トラブルの気配がしたのか、社交界の紳士淑女が遠巻きに野次馬としてやってくる。

 「インディアンは掃除でもしていろよ」と、誰かがぽつりとつぶやいた。


「おい、そこの白人! 私のダミアンに無礼な口をきくな! 今すぐ殴りに行くからそこにいろ!」

「織歌。デート中にトラブル起こすなよ」


 ダミアンとベインブリッジ少将の喧嘩を抑えに来たはずなのに、誰かがダミアンに無礼な口をきくともう許せなかった。

 悪口を言った白人につかみかかろうとする私を、ダミアンは呆れながら制する。


「躾がなっていないようだな。どいつもこいつも」

「お言葉ですが閣下! 挑発をしたのはあなたが先です!」

「日本の軍人は上官にたてつくのか?」

「日本の軍人は誇り高いのですよ」

 

 びりっ、と再び緊張が走る。

 互いに一歩も引かない中、軽やかな鈴のような声が私たちの間を遮った。


「ミシェル様!」


 それは、ドレスを着た令嬢だった。

 金の長い髪は絹のように手入れされ、淡いピンク色のドレスは流行りのフラッパースタイルではなくクラシックなライン。

 絵にかいたようなご令嬢がシュヴァリエの胸元に飛びつき、美しい涙をこぼしていた。


「マルガリータ、よしなさい。レディがはしたない」

「ですがお父様。やっとお会いできたのです」


 ベインブリッジ少将が少女をたしなめる声は優しい。台詞からして、ベインブリッジ少将の娘のようだ。

 少女はリンゴのように頬を赤らめながらも、シュヴァリエの裾をつかんで離さない。

 

「わたくしの婚約者に」

★★★

読んでくださりありがとうございます!

アルファポリスさんでは「海神別奏」最新話を先行公開しております!

https://www.alphapolis.co.jp/novel/43656324/266018700


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ