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わたしの創った千年王国【書籍&コミカライズ発売中】  作者: クレハ
3章

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56話 侮る者は他にもたくさん


 そんな風に朝から賑やかすぎる食事を終えると、おのおの学校へ。


 ルーとラシャは一つ上の先輩である。

 そして、戦闘スタイルはデュークやエオンと同じ前衛だ。


 特にラシャは獣人の身体能力を魔法で生かし、肉弾戦に持ち込むのを得意としていた。


 ルーの方はその小柄な体格を生かして、敵のかく乱をするのが得意なようだ。


 どうしてそんなことをレティシアが知っているかというと、ルー本人が自己申告してきたからである。

 まるで挑戦状を叩きつけてくるかのようにレティシアに訴えてくるので、喧嘩を売られているのかと勘違いしそうになったが、どちらかというと警戒されているという方が正しいように思う。


 まあ、ラグナルを不意打ちとは言えあっさりと無力化したのだから、そんな反応も仕方ない。


 それに加え、ラグナルが自分達以上にレティシアを気にかけているのが気に食わないとも顔に書いてあった。

 レティシアとラグナルの関係性を知らぬ者からしたら、ラグナルのレティシアへの態度はかなり異質に映るかもしれない。


 けれど、レティシアにすべての重荷を負わせて死なせてしまったと後悔し続けるラグナルが、レティシアを優先してしまうのはある意味当然の流れだ。

 それは誰が一番だとか二番だとか関係なく、ただラグナルの気持ちの問題であって、ルーやラシャより大事というわけではない。


 きっと、ラグナルはまだ二百年前のあの時の続きを生きている。

 彼の中ではまだ終わっていないのだ。


 もうレティシアは大魔導師ではないのだから気にしなくていいというのに。


 それに死ぬと分かっていて大規模な結界を張る決断をしたのはレティシア自身だ。

 誰かに背負わせたかったわけではない。


 レティシアが願い、望んだのは仲間達の笑顔と幸福なその後の生活であり、悔やませたかったわけではない。

 陽気なラグナルですらこんな状況なのだから、他の仲間達は大丈夫だろうかと心配なってきた。

 けれど、他の者達の現状を知らないのでなんとも言えない。



 今はとりあえずこの学校で頑張るのが先だと切り替え、ここぞとばかりにルーが得意げにここ最近の自分達の行動を教えてくれる内容に耳を傾けた。

 ルーとラシャは基本的に学年が違うので授業で一緒になることはないが、特別授業なので一緒になることがまったくないわけではないらしい。

 特に、寮対抗の授業などでは必ず顔を合わせることになるだろう。



 そんなラシャとルーとこれまで会うことがなかったのは、二年生以上になると、生活費を自分で工面しなければならないからだったようだ。

 研究する者もいれば、魔法を使った商売をしたり、ギルドに素材を下ろして換金したりする者と、その方法は様々とのこと。


 ルーとラシャはずっと黎明の森で生きていたので、自分の庭のように詳しかった。

 そのため、二人は頻繁に許可をもらっては黎明の森で魔獣を狩り、ギルドに持っていってお金を作っていたとか。

 そのせいで寮に帰ってくるのが遅くなるのだそうだ。


 レティシア達一年生はまだ学校の補助を受けていられるが、来年にはルー達のように自分達で稼ぐ方法を見つけねばならない。

 まあ、この国に来るまで森で魔獣などを狩りながらたどり着き、その後はギルドで買い取りしてもらいお金を工面したことを考えると、ルー達のようなやり方が一番合っているかもしれない。

 デュークの魔法の制御訓練にもなって一石二鳥である。

 


 ふんふんと集中して聞いているレティシアに気をよくしたからか、ルーの口も饒舌だ。

 その一方で、ラシャはほとんど話していない。

 ルーに遠慮しているかと思ったがそうではないようで――。



「俺は口下手だから、ルーがたくさん話してくれるのは助かってるよ」



 と、ニコニコ嬉しそうに笑うので、二人はこれでバランスがとれているのだろう。

 一見するとラシャの方が体格的にも強そうだが、よくよく二人と話をしていると、ルーの方がラシャの前に立って庇うように守っているように見えた。

 ラグナルに拾われるまで黎明の森で二人きりで生き抜いていたようだし、ラシャがなにか主張せずともルーは心得ているという雰囲気を感じた。

 言葉は必要ないほどの時間を一緒に過ごしてきたのだろう。



「おい」


「ん?」



 ただ一言の声は、どうやらレティシアに投げかけられたらしく、レティシアは首をかしげる。



「お前なんで補欠合格になんてなってんだよ」



 ラグナルを圧倒する力がありながらどうしてと、疑問が表情に表れていた。

 平凡を望むレティシアとしては、目立った力を示したくないが、レティシアを侮ることでまたルーが攻撃されないか心配だ。


 ラグナルはちゃんと手加減していたが、デュークとエアリスが危険である。

 なので、レティシアは指にはまる指輪の媒体を見せるように手を上げた。



「この国に来てから買った媒体だから、まだ馴染んでなくて力の制御が不安定なの。そのせいで受験では制御に集中するあまり弱くなりすぎちゃって」



 事実ではないが嘘でもない。

 逆にデュークはやり過ぎて主席である。

 レティシアが力を抑えたのは目立ちたくないと思ってのことだが、デュークが目立ってしまったので、正直あんまり意味はなかったかもしれない。



「その媒体はどれぐらい使ってるんだ?」


「どれぐらいだっけかな? 受験の数日前ぐらい?」



 正確な時間など、受験とそれ以降の巡るましいほどの時間の流れで忘れてしまった。

 ロドニーという衝撃的な再会も相まって余計にだ。



「はあ!?」



 思わずというようにルーが声を大にした。



「それ本当ですか?」



 ジゼットも驚いており、いかに非常識だったかを教えられる。



「普通じゃなかった?」


「当たり前だろ! 普通はしっかり自分の魔力に馴染んで使い慣れた媒体を使うもんだ! 受験なめてんじゃねぇぞ、おら!」


「ルー、怒ってばっかりはよくないよ」



 激高とまではいかないが、かなりご立腹の様子のルーを、ラシャがまあまあと落ち着かせている。

 ラシャの方が体格は大きいのに、声は断然ルーが大きい。

 きっと争いごとが嫌いなのだろう。


 そんなラシャを見習えと叱りたくなるほど乱暴は言葉使いをするルーに殺気を込めて睨んでいるデューク。

 忠実なる番犬を鎮めるべく頭を撫でると、機嫌はコロリと変わり意識がルーから外れる。

 飼い主に尻尾を振る番犬のようなデュークの様子に、ルーは複雑そうな顔をしている。


 どうもルーはデュークを警戒しているようだ。

 黎明の森という魔獣も多くいる緊張の中で暮らしてきたからか、デュークの異質性を本能的に感じているのかもしれない。


 それに、元暗殺者だけあって気配を消すのが得意というおまけつき。

 いつどこから牙を立てられるか分からない恐怖心があるのかもしれない。


 ただ、光持ちのジゼットと同じ闇持ちのエオンは、デュークが気配を消していても濃密なデュークの闇の力でその時の機嫌すらなんとなく分かるそうな。

 ジゼットはこれまでエオンの顔色をうかがって暮らしてきたので余計に敏感なのだろう。 


 ラグナルにいたってはそもそもの経験値と、野生の勘だけでレティシアを大魔導師の生まれ変わりと察知したほどの勘の良さである。

 いまのところ、あの寮でデュークの状態を察せられないのはルーとラシャだけであった。

 まあ、他の寮生はまだ会っていないので分からないのだが……。



「じゃあ、私達こっちだから」



 二年のルーとラシャと別れ、レティシア達四人は教室へ向かう。

 基本的に実技は前衛コースと後衛コースに分かれているが、座学は混合で行われている。

 教室に入るやいなや、突き刺さる好奇の視線。

 それはすべてレティシアに向けられていた。



「まだ辞めてなかったのか」


「補欠のくせに」


「それも全部座学の点がよかっただけらしいじゃん」


「魔導師に必要なのは座学より実技だろ」



 ヒソヒソとしているつもりだろうが、しっかり聞こえている。



「あんだ、こら」



 ぎろりと下から見上げるように睨むエアリスの頭を指で撫でる。



「殺っていい?」


「よし、小僧。とっとと行ってこい」



 普段はエアリスの言う通りに動くことも不快そうにするというのに、怒るどことか従うデュークに、レティシアは頭痛を覚えた。



「駄目に決まってるでしょう! どうしてあなた達ってこういう時だけ意見を一致させるの」



 チッとそろって舌打ちした。



「あはは……」


「僕いつかここが血の沼にならないか心配だよ」



 ジゼットとエオンも呆れている。

 入学して少し経っているので、おのおの定位置がなんとなく決まっている。

 レティシア達も例外ではなく、四人そろって横に並んで席に着いた。

 しかし、どことなく席の周囲が空いているのは気のせいではないだろう。

 ここまであからさまだと清々しさすら覚える。



「ジゼットとエオンは私から離れて座った方がいいんじゃない? 仲間はずれにされちゃうし?」



 やっかみを受けるレティシアといることでいらぬ火の粉が飛んでくるかもしれない。

 寮が同じだからといって、一緒にいる必要はないのだから。

 レティシアなりの気遣いではあったが、ジゼットが必死で拒否する。



「気にしてないので、レティが嫌じゃなければ一緒にいさせてください!」



 普段ほんわりと控えめなジゼットの強めの自己主張に、レティシアだけでなくエオンも驚いて目を丸くしている。

 ジゼットもはっと我に返って自分の行動に恥ずかしくなったのか頬を染める。



「あ、あの、どちらにしろ私とエオンは避けられると思うので……」



 あたふたと慌てたように言い訳をするジゼット。

 確かに闇持ちのエオンが一緒にいると周囲はあまり関わりたくないと感じるだろう。


 二百年が経ち、邪竜の恐怖は今となってはおとぎの世界の話のように現実味を持っていない者が多い。

 その後、闇の力を持つ者が現れたおかげで、なおさら闇の力を脅威だと思わなくなっていっているようだ。


 それでも、闇持ちが光持ちへ対する執着心は異質に映るようで、脅威ではないが積極的に関わりたいとは思わない面倒くさい存在として認知されている。



「駄目ですか?」



 おずおずと、躊躇いがちに目で訴えかけてくる。

 そのすがるような眼差しは、なんとも庇護欲をそそられる。

 これがジゼット以外ならなんて計算高いなのだろうかと思うが、ジゼットは天然で行っているので嫌みがない。



「駄目じゃないよ」



 ニコリとレティシアが微笑むと、ジゼットはほっとした様子だ。

 過去にエオンによって異性どころか友人までも排除されてきたために、人との交流に飢えているのかもしれない。

 レティシアならばエオンを逆に押さえ込む力を持っている上、エオンと同じ闇持ちのデュークという相方を持っている。

 ほぼ完全にデュークを制御できている様子を普段から見ているので、その点でもレティシアの存在は心強いのだろう。



「もしなんか周りから嫌がらせさせられたら言ってね」


「いえ、そんな……」



 ジゼットが遠慮するのは想定内なので、レティシアはエオンに無言で視線だけを向けると、承知したというように頷いた。

 これでジゼットになにかあっても、ジゼットが第一優先のエオンが告げ口をしてくれるだろう。





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