54話 気まずい翌朝
「はーい、皆~。元気いっぱいなのはいいけれどん、朝食のお時間よーん」
ラグナルがパンパンと手を叩くと、掴み合いの喧嘩にまで発展していたレティシアとルーの動きが止まった。
「朝食……」
タイミングよく『ぐうー』とお腹がなったレティシアは、もはやルーの存在を忘れていそいそとラグナルのところへ向かう。
ラグナルのおかげで喧嘩が強制終了し、止めに入っていたジゼットとラシャはほっと息を吐く。
ルーは不完全燃焼気味であったが、強い視線を感じそちらを見ると、デュークが静かにほの暗い眼差しでじっと見ていた。
「なんだよ」
やや語気を強めた強気な口調を前にしても揺れないデュークの瞳に、薄気味悪さを感じるルー。
「言いたいことがあるなら言えよ」
「レティになにかしたら許さないから」
「は? いや、どっちかというとなにかしたのはあっちの方だろ」
「別にレティが望んだんなら俺が排除してもよかった」
噛み合っているようでいて噛み合っていない会話。
けれど、デュークの排除の対象がラシャを指していることには気がついたルーは、警戒心を強めた。
「ラシャになにかしたら、俺が許さないからな」
くしくも同じ言葉を使うルーを、デュークはただ静かに見つめる。
その底知れなさに、冷や汗をかくルー。
そこへ、レティシアの明るい声がかかった。
「デューク、こっち手伝ってー」
「うん」
レティシアに呼ばれてころりと一変して笑顔を見せるデュークは、もう用済みだというように気にする素振りもなくルーから離れていった。
そんなデュークに本能的な危機感を抱いたルーは、ラシャに告げる。
「ラシャ。あいつには関わるなよ」
「あいつって俺を攻撃してきた女の子のこと?」
「違う。そいつと一緒にいた男の方だ。あいつ、なんかヤバイ」
ずっと黎明の森という強い魔物もいる中で生き抜いてきたルーの本能があいつは危険だと訴えかけていた。
「ルーがそんなこと言うなんて珍しいね。確かデュークって呼んでたね。レティシアって子は光持ちで、デュークは闇持ちらしいよ」
「そうか」
ならばこの体を襲う震えは闇持ちに対する危機感なのだろうか。
けれど、ルーはジゼットと一緒にいるエオンにはそのような恐怖とも表現できる感情は抱かなかった。
「ルー、大丈夫?」
「ああ。問題ない。それよりお前はもっと怒っていいんだからな!」
拳をトンとラシャのお腹に当てる。
弱いパンチはラシャを勇気づけているように感じられるもので、ラシャはふにゃりと笑った。
「うん。でも、いつもルーが俺以上に俺のために怒ってくれるから必要ないんだよ」
「俺に任せてばっかすんなよな」
「あはは。そうだね。代わりにルーの時は俺がいっぱい怒るよ」
ニコニコと笑うラシャに、ルーは毒気が一気に抜かれてしまった。
「はあ……。食事にすんぞ」
「そうだね」
二人もラグナルの手伝いをすべく動き出した。




