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わたしの創った千年王国【書籍&コミカライズ発売中】  作者: クレハ
3章

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53話 もう一人の寮生


 翌朝の食堂で、レティシアは睨まれ、怒鳴られる覚悟でラシャの前に立った。

 ラシャは三角の耳を隠すように帽子を被っており、耳を隠してしまえばただの人間とあまり変わらない。

 その姿が余計に見た目で判断することの愚かさをレティシアに教えているかのようで、これまたぐさぐさと心に突き刺さってくるものがある。



 これまで毎日顔を合わせていなかったのに、二日連続でラシャに会えたのは、ラグナルが間に立ってくれたからだ。

 レティシアが昨日の件を謝罪したいと。


 けれど、謝罪を一方的に押し付けたいわけではなかったので、もしラシャがレティシアの話を少しでも聞いてもいいと思ったら、という言葉を付け加えてもらった。

 レティシアも、自分が楽になるための謝罪をしたいわけではなかったので、ラシャが受けてくれるかは半々だなと思っていたのに、ラシャは一つ返事で受け入れてくれたという。


 やはり、自分は少し獣人というだけで価値観が凝り固まりすぎているようだと、さらに反省と謝罪の念が湧いてくる。

 これでは、他種族は劣っていると決めつけるアカシトロビアの獣人達と同じではないか。



「昨日はごめんなさい!」



 レティシアは言いわけもなにもせず、ただ謝った。

 理由などなんの意味もないのだと、レティシアは分かっていた。

 どんな自分の不幸話を語ろうと、それがラシャになんの関係があるだろうか。

 ラシャにとったら急に攻撃された。ただそれだけなのだから。


 深く頭を下げながら、怒鳴られるか、なじられるか、それとも仕返しをされるか。

 一発や二発は甘んじて受けようという覚悟のもと、謝罪するレティシアに、人の顔色をうかがうような気弱さと優しさが混同した声が降ってくる。



「別にいいよ。怒ってないから」


「え……?」



 あまりにも落ち着いた言葉に、レティシアはびっくりして頭を上げる。



「それより、君は大丈夫? ナルちゃんから聞いた。俺と同じ獣人がごめんね」


「ど、うして、あなたが謝るの? あなたは関係ないのに……」



 突然攻撃されて怒るどころかレティシアの心配をするラシャに、レティシアの声はわずかに裏返り震えた。



「そうだけど、同じ獣人がしたことだから」



 そっと悲しげに目を伏せるラシャの様子に、きっと彼も獣人ということで様々な差別があったのだろうと、その一瞬で察してしまったレティシアは、本当に自分はなんてことをしてしまったのかと落ち込む。



「そんなの――」


「おい!」



 関係ないと言おうとする言葉に被せるように、やや甲高い男の子の声が食堂に響いた。

 声の方を見ると、ラシャの後ろに仁王立ちしている男の子がいた。


 ラシャがあまりに身長が高く、体格もいいので完全にレティシアの視界に入っておらず、声が聞こえて初めて存在に気がついた。

 びっくりして目を丸くするレティシアに、人差し指をびしっと突きつけるのは、目つきの悪いボブカットの黒髪に、金色に赤が混じった不思議な瞳をした男の子だ。


 ちなみにラシャは灰色の髪に、黄みの強い緑色の瞳をしている。



「ラシャは許しても俺は許さねえからな!」



 まるで威嚇する猫のようにレティシアに怒鳴る男の子を、レティシアは困惑顔で見る。

 説明を求めるように、ラグナルに目を向けた。

 ラグナルはやれやれという様子でいるものの排除しなかったので、危険人物ではないらしい。



「この子は昨日話したラシャと一緒に拾ったルーよ。ラシャもルーもレティ達の一つ先輩になるわ」


「そういえばそんなこと言ってたかも」



 レティシアはラシャにどう謝るかで頭がいっぱいだったので、ラグナルが匂わせえていたもう一人の寮生をすっかり忘れていた。



「ラシャ! もっと怒ったらどうなんだ! 一つ間違えてたら大怪我してたかもしれないんだぞ!」


「でも、ナルちゃんのおかげで俺は無事だし」


「怪我がなければいいって問題じゃないだろうが! それにナルが吹っ飛ばされるぐらいの威力を他人に向けるとか常識どうなってんだって言ってやれよ!」


「彼女にも事情があったみたいだし」


「知るかそんなの! 事情があったら魔法ぶっ放していい理由になると思ってんのか!?」



 ごもっとも。

 オロオロしながらラシャがルーを止めようと必死になっているが、逆に火に油を注いでいる気がする。

 我が事のように怒るルーの言葉はもっともで、否定のしようもない。


 ただ、甲高い上に声が大きいのでかなりうるさかった。

 いや、謝罪する立場で不満を言ってはいけないのだが、犬がキャンキャンそばで吠えているかのような、耳に負担をかけてくる怒鳴り声である。

 これは五感に優れた獣人にはキツイのではないだろうかと、ラシャが心配になってきた。


 レティシアはこっそり、自分とデュークの耳に保護魔法をかけて鼓膜を守る。

 エアリスは魔力で生み出した聖獣なので、そもそも鼓膜など存在しない。

 まあ、うるさいことに変りはないだろうが、さっさと離れた場所にいるラグナルのところに避難したので問題ないだろう。



「ごめんなさい。ナルちゃんから私の事情は聴いたみたいだけど、そちらの子の言う通り、獣人に恨みがあろうと理由にはなってないわ」


「へん! 口だけならいくらでも謝罪できんだろうが、ラシャは許しても俺は絶対に許さねえぞ! 獣人ってだけでこれまでラシャがどれだけ傷つけられてきたか」



 腕を組みながらレティシアの謝罪をゴミのように意味のないものとするルーに、ラシャは困った顔でお手上げ状態。

 ルーはラシャとは真反対の小柄な体型のわりに、性格はかなり強いようだ。

 体格はいいのに気弱そうなラシャと性格が反対なのではと、少し思う。

 いや、これはこれでバランスが取れているのかもしれない。


 突然保護者のように飛びだしてきた、明らかにラシャより年下のルーの宣告に、レティシアもどうしたらいいか悩む。



「えーと、私は彼に謝っているのであって、あなたに謝ってるわけじゃないんだけど……」



 じっくりとラシャに謝罪を伝えたいのに、勝手に壁を作られたら話もできない。



「俺はラシャの兄貴分だからいいんだよ! ラシャと話したきゃ俺を通しな」


「兄貴分……?」

 


 レティシアはルーの頭から足までをじっくりと観察した後、隣に立つラシャと比較した。

 どう見ても年上なのはラシャであろう。



「お前、今なにを考えてた?」



 ただでさえ目つきが悪いというのにさらに目つきを鋭くしてレティシアを睨むルーに、思わずレティシアは本音が漏れる。



「え? あなたの方が小さいし若そうだから、兄貴は彼の方じゃないの?」



 なにげなく発した言葉だが、それはルーの禁句だった。



「俺はチビじゃねえ! 発展途上なだけだ! 大体お前だってチビだろう!」


「いや、チビとは言ってないし! てか、そもそも誰がチビだー!」



 小さいはレティシアにとっても禁句だった。

 そこからはどっちが小さいかの醜い応酬が行われ、慌ててラシャがルーを、デュークとジゼットがレティシアを引き剥がした。


※※※


 それを離れたところから見ていたエアリスとラグナル。

 その表情は深刻そうだが、決してレティシアとルーの喧嘩を見ての感情ではない。



「レティが元気そうに振舞ってるから完全に油断してたわ。まさかあそこまで獣人に過剰反応するなんてねん」


「それは俺様も同感だ。思っていた以上に心に深い傷を負ってるみたいだ」



 過去、獣人に対して思うところはあれど、理性を捨てるような行動を取ったことはない。



「まさか反射的に攻撃するほど獣人に拒否反応見せるのは俺様にも予想外だ。お前がかばってなかったら、あの獣人ヤバかったな」


「ほんとよぉ~。さすがレティよねぇ。媒体が弱くて制御がままならない状態なのにあの威力って、ほんと才能が爆発してるわねん」



 お前は個性が爆発してるがな、という言葉をエアリスは呑み込んだ。



「けど、お前だったから吹っ飛ばされる程度で済んだんだぞ。他の奴だったら木っ端みじんだったかもしれないんだ」


「怖いこと言わないでちょうだいな。でも、私だってレティの力が全盛期に戻っていたら、あの脆弱な媒体でも無事では済まなかったわよん?」



 冗談めかした物言いだが、その表情が真剣なのは間違っていないからだ。



「これでもしアカシトロビアの奴が目の前に出てきたら、どうなるか対処を考えていた方がよさそうだな」


「頭が痛いわね~ん」



 まあ、その時はラディオに面倒ごとを押し付けるかと、エアリスもラグナルも口に出さぬまま同じ対処法を思い浮かべていた。






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