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わたしの創った千年王国【書籍&コミカライズ発売中】  作者: クレハ
3章

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49話 クロノの覚悟


 セラシオン魔導師学校での騒動は、多くの人の目の前で起こったことから、隠すことは叶わず大きな騒ぎとなった。


 一番の問題は、首謀者がダークエルフということだ。


 ダークエルフは比較的最近できた種族である。

 といっても、二百年ほど前ではある。

 邪竜が討伐されたのち、闇の女神に闇の力を分け与えられた一部のエルフをダークエルフと呼ぶようになった。

 もともと神々への信仰が篤いエルフという種族は、神の力を新たに分け与えられたことを誉れだと喜んだ。


 ただ、神々に対して信仰心どころか憎い対象として見ている守護者達は違った。

 不仲ではないが、決して良好とも言えない間柄である。


 しかし、エルフ側は最高神の愛子である大魔導師に敬意を持っており、その意志を継ぐ千年王国に対してどちらかというと友好的だ。

 千年王国側も、ラディオ達の感情は抜きにして、エルフとの関係は良好に保っていたかった。



 そんな中でダークエルフが千年王国で問題を起こした。

 しかも、邪竜の遺骸を盗み、実験をしたというのだ。


 まあ、結局のところ首謀者であるカリヴォスが盗んだのは、欠片でもなんでもなく、絞りかすの絞りかす程度の力しか持ち合わせていないものだった。

 それでも、邪竜を利用しようとしたことに変わりはない。

 もし盗んだものが本当の邪竜の欠片だったら、どんな事態を生んでいたか分からないのだから。



 カリヴォスの起こした事件を知ったダークエルフ側は事態を重く見て、ダークエルフの族長自らが謝罪に訪れていた。


 玉座の間で深々と頭を下げるダークエルフの族長を前に、ラディオは眉をひそめ、フローレンスはただ静かに微笑んでいた。

 笑っているが、かなり怒っている時の微笑みであると察していた大臣や側近達は戦々恐々である。


 そんな会談の中にはクロノの姿もあった。


 事件の現場にいたので、誰よりも状況を理解しているからと呼ばれたわけだが、正直クロノはエルフでありながらエルフともダークエルフともあまり関係はよくなかった。

 そのせいもあってか、クロノは事件に深く関わっていながら、族長を始めとしてダークエルフ達に目を合わせることはなく、避けるように前だけを向いていた。


 ラディオやフローレンスは、クロノとエルフの確執を知っていたので、特にクロノに話を振ることもない。


 そうして会談はあっさりと終わった。



 そもそもカリヴォスがダークエルフだからといって、ダークエルフ側になにかしら責任を追及したかったわけではない。

 そんなことをすれば、カリヴォスの上司であるクロノの管理不行き届きの責任を問わねばならないのだから。


 必要なのはダークエルフとの関係を壊さぬように、カリヴォスの今後の措置を話し合う必要があった。

 謝罪を受けたのはそのついでに過ぎず、ただの形式である。


 ダークエルフ側もそれは分かってのことだ。

 カリヴォスはこのままダークエルフに引き取られることになり、エルフの長い一生を不自由な監視の中で暮らすことになった。


 それでも彼が行ったことに対する罰には甘いように見える。

 けれど、それで許されたのには理由があった。


 あの事件以降、拘束され牢に入れられていたのだが、カリヴォスから魔力の一切が消えていたのだ。

 当然のように闇の力もなくなっており、驚く周囲以上に本人の衝撃は激しく、一時は錯乱状態に陥っていた。

 信仰心が篤いダークエルフにとって、闇の女神から与えられた力は祝福であり、己の存在そのものであった。つまり、それを否定されたのだ。



 ラディオ達がなにか罰を下さずとも、すでに神による神罰が下された。

 人の世に滅多に手を出さない神が手を下したことに一番驚いたのは、神々の自分勝手さを知るラディオ達守護者達だろう。


 けれど、邪竜はもともと闇の女神の加護を持つ者だった。

 その邪竜を、死したる後の欠片であろうと悪用しようとしたために闇の女神が動くのは、さほど驚くことではないかという結論に至った。



「なんか言いたそうだな、クロノ。別に今からシメに行ってもいいんだぜ?」



 なんなら自分も協力してやると言わんばかりの不適な笑みに、クロノは深いため息をつく。



「必要ない。ちゃんと責任を持って監視するというならもういい。力もなくなったことだしな」



 クロノのそんなあっさりとした反応にラディオは目を瞬かせる。 



「どうした? なんかあったか?」


「なにがだ」


「いや、なんていうか、急に丸くなったような気が?」



 大魔導師がいなくなって以降のクロノは、常にピリピリとした空気をまとっていた。

 それは仲のいいラグナルと一緒の時でも変わらず、 いつもなにかに焦っているような、自分で自分を追い込んでいるような余裕のなさがあった。

 それが今は和らいでおり、肩の力が抜けたように感じたためラディオは不思議がっている。



「なんか心境の変化でもあったか? まさか、好きなやつができたんじゃ……!?」


「違う!」



 即座に否定したクロノに「だよなぁ」と、ヘラヘラ笑うラディオ。

 はなからあり得ないと断じられているようで、それはそれで気に食わないクロノであった。



「それはそうと、少し前にアカシトロビアから逃げてきたっぽい子供が、お前の学校に入ったみたいだな」


「……ああ」



 思わず返事が遅れてしまったクロノだが、ラディオがほんの些細な反応の変化に気づく様子はない。



「どんなやつだ? ほんとにピンク色の髪をしてたか?」


「ああ」


「なんか闇持ちも一緒みたいじゃないか。アカシトロビアの使者は別件のように話を持ってきてたが、関係はあるのか? なにかその後問題は起きてないだろうな?」


「問題ない。お前の手を煩わせるまでもない些事だ」



 淡々と返すクロノに、ラディオも「ふーん」と頬杖をついて興味をなくしていく。


 大魔導師と同じピンクの髪であるために印象に残っていたようだが、それ以上でもそれ以下でもない。

 ラディオにとっては、アカシトロビアに対する嫌がらせができればそれでいい。ただそれだけの話題でしかないのだ。


 なので話はすぐに移り変わる。



「研究の方はどうなってる? お前が邪竜の欠片を持って行って大分経ってるだろ。少しぐらい成果は出たのか?」



 その質問の後途端、機嫌を悪くして眉間にしわを寄せるクロノの表情を見れば聞くまでもなかったが、クロノは悔しそうに答えた。



「まだ見つかっていない……」


「危険な真似はするなよ?」


「そんなことお前に言われるまでもない」



 不快だと言わんばかりのクロノだが、ラディオが案じるのも理解していた。


 邪竜の欠片――。

 大魔導師が倒した後、この地に残された邪竜の骸。

 それは歪んだ闇の力を死してなお、力を持ったまま眠っている。


 大魔導師が命と引き換えに張った結界のおかけで力が外に漏れ出ることはない。

 しかし、もし結界が壊れたら、途端にこの地は二百年前と同じように穢れ、誰も暮らせない土地に変貌してしまうだろう。


 もしそうなった時、闇の力を抑えられることができるのは、同じく神の加護を持った大魔導師だけ。

 それではまた同じ歴史を繰り返してしまう。


 すべての責任をまた一人の少女に押しつけるなど、どうしてできようか。


 また守られるだけなど許されないと、クロノは危険を承知の上で、慎重に慎重を重ねて邪竜の骸からわずかな欠片を採取した。

 クロノでもどうにか管理できるほどの欠片だったが、それでもなお欠片が持つ力は強大で、かなりのリスクはあった。


 それでも、クロノの強い意志をラディオ達守護者は反対するどころか支持をした。

 想いは同じ。


 大魔導師が戻ってきたとしても、彼女一人に背負わさないために。


 彼女がいなくとも、邪竜を倒す方法を見つけるために。


 もう二度と目の前で彼女を失い後悔したくはない。

 そのためにこの二百年、セラシオン魔導師学校を運営しつつ、研究に明け暮れた。


 けれどまだ、糸口は見えておらず、いかに大魔導師の力が偉大だったかを教えられる毎日だ。

 けれど、あまり時間をかけてはいられない。



 クロノは懐かしいピンク色の髪の少女の隣に我が物顔で立つ少年の顔を思い出し、焦燥感を覚えた。

 デュークというあの少年がまた邪竜に変貌してしまったら、また悲劇を繰り返すことになるかもしれないのだから。



「まあ、あんまり焦るなよ。協力できることがあるなら言ってくれ」 


「……ああ」



 なにも知らないラディオは呑気なものだ。

 まさかすでに彼女が手の届くそばにいることも、その隣に邪竜の転生体がいることも知らずに。


 けれどまだ教えてはやらない。

 ラディオとフローレンスがどれほどレティシアの帰りを待ち望んでいるか知っているが、彼女が少しでも長く平穏でいられるために、正直ラディオは邪魔である。


 まあ、後がうるさそうだが、その時はその時だ。

 クロノとて会いに行きたいのをぐっとこらえているなだから。

 今はまだ遠くから見守ることが、クロノにできることである。


 そして万が一、デュークという危険因子が邪竜になりそうになったなら、その前に手を下す覚悟をしておかなければならない。






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