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第26話 笑顔

 二人に見送られながら噴水公園を去り、大通りに向かう。次の目的地は食事処だ。


 本当は動物やモンスターの入店は禁じられているのだが、


「それくらいなら構いませんよ」


 と歓迎された。

 ユニはちびっ子なので無害判定。

 サティは人の姿をしているので問題ナシだ。


#


 メシだけは美味いのを食いたい。

 そんな賊の我儘で食料はたくさんあるという。


「なんならアイツら、自分でモンスター狩ってくることもありましたからね。素材ならたくさん残ってますし、なんたってソード様のご来店だ。腕に()りをかけて作りますんで楽しみにしてて下さいッ!!」


 数分後、沢山のメニューが運ばれてきた。

 何故か頼んでいないものもある。


「あの、これは……」

「それはお礼ですよ。なんたってソード様はハルメッタの英雄ですからねえ」


 満面の笑みで言われると嬉しい。

 嬉しいのだけど、やっぱりちょっと申し訳ない。

 

「ソード様、もうお覚悟をなさったほうがよろしいかと」

「え? 覚悟?」

「ええ。ソード様はハルメッタの英雄にございます。今後この街を歩こうものならどこに行こうともこのような特別な扱いを受けます。その度に遠慮していては精神を摩耗してしまうかと」


 要するに。

 諦めて親切を受け取れということだ。


「まぁ、そうだね。逆の立場なら俺もお礼せずにはいられないだろうし」


 俺はオーナーに感謝を述べた。

 テーブルの上には色とりどりの野菜や、オーク肉のステーキなどが並んでいた。


「絶対美味いヤツだこれ……」


 見てるだけでヨダレが溢れてくる。

 特に空腹というわけでもないのにお腹が鳴りそうだ。


「いただきますっ!!」


 さっそくオーク肉のステーキを一齧り。

 咀嚼すると、柔らかな食感と共にじんわりと油が広がった。


 う、うまいっ!

 あまりにも美味い!

 なんだこの舌触りは!?

 筋張った感じもないし、噛めば噛むほど味が染み出してくる。なんか舌がトロけそうだ。


 あまりの美味しさに泣きそうになるよ。

 思えば肉なんていつぶりだろうか。


 俺は人目も憚らず、無我夢中で食事にありついた。

 サティは時々は野菜を口に運んでいたが、やはり味を感じないらしい。


 いつか【味覚】を出し入れできるようになったなら。

 その時はサティに【味覚】を与えてやろうと思う。


 そして最初に高級肉を食べさせるのだ。

 きっと感動のあまり咽び泣くに違いない。


#


 次の日は食べ歩きだ!

 見たい場所はまだあるが、美味いモノも食べたい欲が勝った。


 宿を出て、大通りを歩く。

 すると左手側に『ドラゴン肉』の看板が見えた。


「おお~! ドラゴン肉かぁ。めっちゃ気になるけど朝から肉ってのは重たいよな。またお昼過ぎに来るとしようか」

「ソード様はどのようなものが好物なのですか?」

「愚門だね」


 俺はニヤリと笑った。

 食べ物で何が好きか?

 そんなの答えは決まっている。


「そんなの肉に決まってるだろう? 思うに、この世で一番おいしい食べ物は肉だよ」

「肉にございますか……」


 少し寂しそうなサティ。

 俺が美味しそうに食事するのを見て、コンプレックスを感じてしまったのかもしれない。


「安心しろって」


 俺は励ますように笑った。

 なんたって俺の魔法属性は凄い属性。

 それを教えてくれたのはサティだ。


「いつか俺の魔法で味が分かるようにしてやるから」

「な、なんと! この私に味覚を授けて頂けるとッ!?」

「サティには色々とお世話になってるからね」


 雑談を交えていると、街人が語り掛けてきた。


「おはようございます、ソード様! 今日もよい天気ですね!」

「やあ、おはよう。ちょっと暑いくらいだけどね」


 賑やかな街並みを見てると。

 なんとなく元気が湧いてくる。

 そして同時に、人助けをしたいという気持ちがますます強まった。


 これから先の旅。

 きっと出会うことがあるだろう。

 多種多様な悩みを抱えた人に。

 

 そういう人を見かけたら、決して見捨てずに助けてあげたい。見返りは……そりゃあちょっとは欲しいけど、一番嬉しいのはやっぱり笑顔だな。


 五歳のあの日。

 属性【無し】と鑑定されたあの日。

 あれから十年間、俺に笑顔はなかった。

 だからその分、一つでもいいから世界に笑顔を増やそう。


 俺にどこまでできるかは分からない。 

 でもまあ、やれるとこまではやってみるさ。


#


 野菜にフルーツにジュース。

 パンにポリッジにパスタ。

 さらには薬草ドリンク(これは苦かった)。

 いろいろな店でいろいろなモノを食べ歩いた俺は、ハルメッタの鐘の音を合図に、大通りを引き返した。


「いよいよメイン! 『ドラゴン肉』だ!」




 店に到着すると。

 それはもう、すごい行列ができていた。


「もう少し早く戻って来るんだったな」

「ここは私にお任せください。邪魔者の全てを――」

「やめれ~。そんな横暴な態度を取ったら賊と変わらないぞ?」


 はっ! とした表情のサティ。

 数秒後にはやはり跪き、流石はソード様とか言ってくる。


「席が空くまでは時間がかかるだろうし、ユニの様子でも見てこようか」

「承知いたしました!」


 行き先変更。

 目指すは馬車小屋だ。


 ユニはフサフサしてるし体温も暖かい。

 しかも子犬みたいに可愛いから、ずっと抱きしめていたくなるんだよな~。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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