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【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

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Interlude-Nina 魔力性質

 それはカナミラ王国での一件が片づき、数日ほど経った日のこと。フォラナーダ城の地下訓練場にて、アタシ――ニナは座禅を組んで瞑想を行っていた。


 ただの瞑想じゃない。魔力操作の技量を向上させるための修行だった。心を落ち着かせ、体内の魔力をゆっくりと巡らせていく。体の隅々まで行き渡るよう、押し広げていく。


 ……むずかしい。


 アタシは、心のうちで愚痴染みた感想を漏らす。


 魔力とは塊だ。個々人によって色や形、大きさ、質などに差異はあれ、基本的には一塊の状態にある。魔法を使う時は、そこから必要分の魔力をすくい上げるんだ。


 その作業の精度に、魔力操作の基礎力が問われる。まったく鍛錬を行っていない者ならバスタブ、常人ならバケツ、熟練者なら大型シャベルと(たと)えられることが多い。すくう道具が小さいほど細かい調整が効く、という評価だ。


 フォラナーダにおける魔力操作四強で例えると、ゼクスは素手、オルカは箸、シオンは粉茶用スプーン、ミネルヴァは通常のスプーンらしい。すべて自認にすぎないけど、彼らの実力や性格を考えれば、正確な自己評価だと思う。


 ……素手と箸はどっちが上なんだろう?


 ふと、益体(やくたい)もない疑問が脳裏に浮上する。


 だが、すぐに(かぶり)を横に振った。


 上下を決めるのは間違ってるか。二人が今まで使った魔法を振り返れば、何となく察しがつく。ゼクスは自由度が高く、オルカはより細かい。そんな感じだろう。


 ちなみに、アタシは大型シャベルより少し小さいくらい。


 魔法の才能に恵まれず、剣術や体術に重きを置いていたアタシでは、そのくらいが限界だった。魔法の技量を必死に鍛えずとも、今まで何とかなっていたのも大きい。


 でも、そのままでは停滞するだけだと、アタシはきちんと自覚していた。ゼクスがどんどん前へ進んでいる以上、それは後退に他ならない。


 アタシは剣術が得意だ。これに限るならゼクスよりも高みを目指せると自負しているし、彼も認めてくれている。


 ただし、『特技イコール強味』とはならない。


 アタシの持ち味は、手段を選ばないことである。剣術のみならず、魔法を含めたあらゆる手段を用いて戦うのが、アタシの戦い方だった。


 だからこそ、魔法も疎かにしない。


 才能はないけど、それを言いわけにはしない。だって、大好きなゼクスは、同じ条件なのに強くなったから。努力を突き詰めることの価値を、彼が誰よりも証明していたから。


 まぁ、特技を伸ばす方が効率良いのは確かで、どうしても優先しがちになる。そのせいで、魔法修行の進捗(しんちょく)はあまり芳しくないんだけどね。魔力操作の熟練度が、アタシの未熟さを物語っていた。


 しかし、それでも、地道に努力は重ねていた。牛歩より遅い成長かもしれないけど、少しずつ前へ進もうとしていた。


「――ダメ。集中力が切れた」


 やや後ろに手をついて天を仰いだアタシは、細く長く溜息を吐く。


 色々と思考を巡らせていたことから分かる通り、全然集中できていなかった。これじゃ、瞑想とは言えない。もしゼクスが傍にいたら、間違いなく警策(きょうさく)で叩かれていただろう。


 強くなった今でも、あれで打たれるのは痛い。どれほど鍛えようと、心の防御力は上げられなかった。仮に上げてもゼクスは対策するだろし、無意味に終わると思うが。


 座禅を解き、ふぅと息を漏らしながら大の字に寝転がる。


 天井から降る光明を受けて目を細めるのも一瞬。疲弊した精神を回復させるため、しばしの間、ボーッと横になり続けた。


 十分くらい経ったか。とある人物の気配が、こっちに近づいて来ているのを感知する。


 アタシは急いで上半身を起こし、ボサボサになっているだろう髪を確認した。三つ編みは良し。前髪と耳付近ははねてる、直さないと。


 ちょうど髪を整え終えたタイミングで、()は訓練場に現れた。


「お疲れ、ニナ」


 労いの言葉を掛けてくれたのはゼクスだった。朗らかな笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってくる。


 アタシの傍らに立った彼は、眉を僅かに八の字に曲げて口を開いた。


「苦戦してるみたいだな」


 質問と確信の配分が二対八のセリフ。座り込んでいるアタシを見ただけで、状況を理解したらしい。さすがゼクス。


 心のうちで感心しながら、アタシは肩を竦めた。


「うん。魔力を細かく動かすの、むずかしい」


「こればっかりは慣れだからなぁ。瞑想も、魔力操作に慣れるためのものだし」


 オレもかなり苦労したよ、とゼクスは苦笑を漏らす。


 無属性であることや過去の環境を思い返せば、当たり前の話だろう。教本などは与えられていたみたいだが、ほぼ独力で鍛えるしかなかったんだから。


 にもかかわらず、ゼクスは、他属性よりも高度な魔力操作を求められる無属性魔法を確立した。本当にすごい。


「どうすれば、もっと魔力操作が上達する?」


 せっかくの機会なので、アドバイスを求めることにした。


 アタシの質問を受け、ゼクスは腕を組んで小さく唸る。どう助言すべきか、考えてくれているんだろう。


 程なくして、彼は答えた。


「ニナの場合、やっぱり慣れるしかないと思う。魔力を何度も繰り返し動かすこと」


「つまり、瞑想?」


「そうだ……って、不満そうだね」


「画期的な助言を期待してた」


「あけすけだなぁ」


 唇を尖らせるアタシに、ゼクスは苦笑いで返す。


 だって仕方ない。今まで誰にもできなかったことを何度も達成し、驚くような結果を出し続けてきたのがゼクスだ。ならば訓練方法も、と考えてしまうのは当たり前だろう。


 もちろん、理不尽な感想なのは分かっている。だから、アタシはバツが悪くなって、ゼクスから視線を逸らした。


 すると、彼は「うーん」と唸る。そして、何かを思案するように、視線を虚空にさ迷わせた。


 十秒と経たず、ゼクスは再び口を開く。


「捉え方を変えてみたらどうかな。例えば初めて触る剣があったとして、だ。その癖を見極めるために、素振りは当然、あちこち触ったり、観察したりするだろう?」


「別にしないけど?」


「……天才にこの例えは間違ってたな。じゃあ、サッカーだ。ボールを足で蹴るのって、初めてだと難しいだろう? どこに飛ぶのか分からない。力加減や確度の付け方がさっぱり分からない」


「あんまりボール遊びをしたことないけど、確かにそうかも」


「魔力操作も同じだよ。自分の魔力をどういう力加減ですくえばいいのか、この程度の力でどれくらいの量を扱えるのか。力加減だけじゃない。形や質によって、アプローチの確度も変わってくる。だからこそ、とにかく魔力に触れて、動かして、自分の魔力を知らなくちゃいけないんだ」


「自分の魔力を知る……」


 指摘されて、初めて気づく。もし、魔力について訊かれたとしても、アタシは適性の属性や魔力量くらいしか答えられないと。


 たぶん、それは大多数のヒトが同じだろう。でも、これまでの口振りからして、ゼクスは――


「ゼクスの魔力ってどうなの?」


「オレは、色は白。魔力量は……ちょっと数字に表すのは難しいから省略するとして、平時の魔力密度は常人の三十倍くらい。形は、オレの身体と重なるように常時整えてる。感触は結構柔らかくて、新雪に近いかな。そのせいで、最初の頃は魔力を圧縮するのに苦労したよ。魔力操作は、右手の人差し指からが動かしやすい。たぶん、初期の【銃撃(ショット)】の癖が残ってるんだろうね。あと――」


 膨大な説明を吐き出し始める彼。その語りに滞りは一切なく、自身の魔力を隅から隅まで理解していることが分かった。


 これがアタシとゼクスの差、か。


 差があるのは分かっていた。一方で、その差はアタシの理解を越えているものであり、どこか現実味を感じていたなかったのも事実。


 それが今、言語化されたことで明確になった。より実感できる形として表れた。もっと頑張らないと、と強く思えた。


 ゼクスが全部語り終えたタイミングで、アタシは別の問いを投げかける。


「魔力の理解って、他のみんなもできてるの?」


 思い浮かぶのはオルカやミネルヴァ、シオンといった魔力操作が達者な家族たち。


 質問を受けたゼクスは、アゴに手を添え、悩む素振りを見せる。


「んー。たぶんだけど、ミネルヴァは言語化してないと思う。彼女は天才肌だから。同じ理由で、オルカも完全に言語化はしてないんじゃないかなぁ。性格的に、ある程度は理論立ててそうだけど。逆に、シオンはオレと同じレベルで理解を深めてるね。種族的に魔法が得意とはいえ、彼女は努力家だ」


「オルカもなんだ」


 ゼクスを除けば、オルカはもっとも魔力操作が巧みだ。ゼクスの評価は結構意外だった。


「ニナが、剣の特性を瞬時に見抜けるのと同じさ。これにも才能差がある」


「オルカはその手の才能が飛び抜けてるってこと?」


「そういうこと。逆に才能がないのはカロンだな。カロンは自分の魔力性質を理解してるにもかかわらず、あまり魔力操作が得意じゃない」


「えっ、理解してるの?」


「じゃなきゃ、【遍在(あまてらす)】みたいな、広域殲滅魔法なんて作らないさ。自分の魔力が攻性だと直感的に分かってるからこそ、習得魔法が偏るんだよ」


「なるほど」


 確かに、そうかもしれない。どちらかというと、カロンは防御や治癒を極めたいと願っている節がある。


 しかし、彼女は広域系の攻撃魔法も多く覚えている。割と過剰なほどに。


 そういえば、疑似魔法司になる魔法も、赤魔法の方から習得していたな。それも魔力性質を分かっていたから?


 次々と判明する事実に、感心しきりである。アタシが考えていた以上に、魔力の奥は深かったようだ。


 ちなみに、とゼクスは続ける。


「シオンには一歩劣るけど、マリナも魔力性質の理解が深い。逆にスキアは、あまり理解してない。以前、オレが魔力を調整した副作用だと思う。才能はあるから、そのうち完璧に把握できるだろう」


 話題に上がっていなかった妻仲間二人の詳細も判明した。


 参考になったか? と問うてくる彼に、アタシはコクリと頷く。


 魔力性質を把握することの大切さは、ゼクスがペラペラと喋り始めた時点で理解していた。才能次第でその重要性が左右されることも、みんなの現状の理解度で分かった。


 つまり、魔法の才能がないアタシは、ゼクスと同等かそれ以上に、魔力と向かわなくてはいけないわけだ。


 並大抵の努力では辿り着けない境地だろう。成長し切った今から始めるとなると、余計に難しいかもしれない。


 しかし、二の足を踏んではいられない。ただでさえ出遅れているんだ。なら、迷いなく突き進む以外に道はない。


「ありがとう、ゼクス」


「どういたしまして」


 笑い合うアタシたち。


 この穏やかで確かな関係を続けるためにも、アタシは走り続けるんだ。

 

次回の投稿は5月7日12:00頃の予定です。

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