Interlude-Sazanka 二つ混じる
ワシ――サザンカは今、ゼクス殿とともにフォラナーダ城の地下訓練場にいた。
先程までニナ殿もおったのじゃが、訓練に一段落ついたようで、ワシの到着とほぼ同時に地上へ戻っていった。
「これから何をするんじゃ? 実験じゃとは聞いておったが」
周辺に第三者の気配がないことを確認した上で、ゼクス殿に問う。
詳細は追って伝えると言われたため、何を実験するかは知らんかった。口振り的に秘匿性の高い内容だとは思うが、はたして。
「力の混ぜ合わせについて、ちょっと研究したいんだ」
こちらの質問に対して、ゼクス殿は僅かに笑みを浮かべた。
少し抽象的な答えに、ワシは首を傾げる。
「混ぜ合わせじゃと?」
「魔力、霊力、生命力、進化、星、虚。この世界群に存在するエネルギーを……そうだな。まずは二つずつ混ぜ合わせて、どうなるか調べようと思う」
力の名を告げる度に自身の指を立てていく彼。最後はその両手同士を合わせ、握り締めた。
内容を聞いたワシは、いくらか得心する。
「例の宇宙人の一件がキッカケか?」
高水準の魔力と生命力を操るというメタルヴァ星人。それが起こした他国での事件は、ワシも報告を受けておった。祖国での一件を終え、ワシも正式なフォラナーダの一員――しかも幹部扱いじゃからのぅ。これくらいの情報は普通にいただけるのじゃ。
ゆえに、ゼクス殿が何を試したいのか、おおよその察しがついた。
メタルヴァ星人は、反発が大きいはずの二つを制御……とは少々異なるが、巧みに扱っていたという。ならば他の力も、と考えるのは当然の帰結じゃろう。
彼は頷いた。
「そうだ。メタルヴァ星人の力の使い方を見て、少し試したくなったんだよ。オレは個々の力を鍛え、組み合わせることはあっても、混ぜることは少なかったからね」
「ゼクス殿には、【超越】という手札があるではないか」
進化させた魔力、霊力、生命力を掛け合わせ、神の力を発現させる術。あれがあるのなら、今さら各力を混ぜ合わせる必要はない気がした。
ワシのそんな問いかけを受け、「あー」と苦笑気味の曖昧な表情を浮かべるゼクス殿。
彼は適切な言葉を選ぶように、ゆっくりと語った。
「何度も使ってようやく理解してきたんだけど、【超越】は、正確には四つの力を混ぜたものじゃないんだ」
「そうなのか?」
「オレも勘違いしてたんだけど……何て言えばいいか……再構成? 四つの力を、六つの力の知識を参照して分解および再構成した感じが近いかな」
「……似たようなものでは?」
「全然違うよ。【超越】時に発生する神力もしくは覇力と呼ばれるそれは、虚を除く五つの力の大元だけど、本来は不可逆なんだよ」
「むむ? 【超越】をもって強引に生み出しておる、ということかのぅ?」
「生み出す過程に関しては説明が難しいんだけど、おおむね合ってる」
「ふむ、なるほどのぅ」
曖昧な部分も多かったが、一応の納得はできた。
そも、神力など、一般死鬼であるワシにとって理外の力じゃ。完全に理解するのは不可能に決まっておる。
「話を戻すと、ゼクス殿は『力を混ぜ合わせる』ことに関しては素人じゃと」
「そうなるね。まぁ、仮に【超越】が混ぜ合わせる術だったとしても、今回の実験は行ってたと思うけど」
「何故に?」
「多機能で高性能のマシンを持ってたとしても、使いこなせなきゃ意味がないってことだよ。まずはスケールダウンしたものから慣らさないと」
「よく分からん喩えじゃが、機能を限定した力を使い、段階的に修練を積みたい。そういうことか?」
ワシなりに噛み砕いたところ、ゼクス殿は首肯した。
もっともな意見じゃな。ワシの”視る”力も、段階的に出力を上げていった覚えがある。具体的には、視る範囲を徐々に広げていったのじゃ。視る場所が多いと、どうしても精度が落ちるから。
こちらが得心したのを察したのじゃろう。ゼクス殿は「さて」と声を上げ、空気を切り替えた。
「最初も言ったように、二つの力を混ぜ合わせ、その結果を記録していきたい。サザンカに来てもらったのは、死鬼としての見解が欲しかったからだ」
「今回は、霊力をベースに行うわけじゃな」
「その通り。やっぱり、こういうのは第三者の観測も必要になるし、それが熟練者であればあるほど嬉しい」
「あい分かった。その期待に応えられるよう頑張るとしよう。質問で無駄に時間を取らせて申しわけない」
「構わないさ。こういうのは、きちんと認識をすり合わせた方がいい」
ゼクス殿は鷹揚に答えつつ、ワシから少し距離を取る。早速、実験を始めるつもりらしい。
そして、彼は両手を胸元に掲げながら語る。
「前提知識として、改めて説明しておこう。魔力と生命力を混ぜた場合、新たに生える特性は”熱”と”不定”だ。だからこそ、メタルヴァ星人は液状生命体だった」
「二つの力を高く保持するためには、定まった身体は邪魔じゃったわけか」
「力を行使する際も、その辺りに気を付けなくちゃいけない。魔法を使う要領のままだと、あっという間に弾け飛ぶからな。……では、始める」
前提とやらを話し終えたゼクス殿は、一瞬で雰囲気が変わった。ワシをもってしても背筋を凍らせるほどの莫大な霊力を、一瞬で隆起させる。
前回彼の魄術を見たのは半年前じゃったか。その程度しか経過していないのに、段違いで霊力操作が上手くなっておる。長年研鑽を積んできたワシでも負けるレベルじゃ。これで本業が魔法師なのじゃから、本当に才能とは恐ろしい。
とはいえ、当たり前の結果ではある。彼は才能のなかった魔法一つで、世界最強へと至ったのじゃ。その努力をもってすれば、魄術を鍛えることなど造作もなかろう。
呆れて物も言えないワシを置き去りにして、ゼクス殿は実験を進める。
大量の霊力を掲げた右手のひらの上に収束。一つの球体へと押し込めた。次に、霊力以上の速さで、同量の魔力球を左手のひらの上に生成した。
一つで戦場を引っくり返せそうな二つの球体を、彼はゆっくり重ね合わせる。
もっと低い出力で行えば良いのに、と思わなくもない。
しかし、それでは意味がないのじゃろう。魔力と生命力の混ぜ合わせも、低い出力では反発しないのじゃから。というか、反発したら魔法師は生きていけない。
それに、前述した組み合わせほど、酷いことにはならないと思う。元々、魔力と霊力の相性は良い方じゃからのぅ。
高出力ゆえか、球体同士が接触した瞬間にバチッと火花が散ったものの、それ以降はすんなりと混ぜ合わさった。ゼクス殿の両手の中に、二つの力が荒れ狂う球体が出来上がる。
そうじゃ、荒れ狂っておる。単体では安定していたが、今のそれの内部は嵐の如く渦巻いていた。
――いや、それだけではあるまい。
「加速しておるのか?」
グルグルと暴れ回っておった力は、徐々にではあるが、その速度を上げているような気がした。我が眼をもっても、観測に難儀するほど微量に。
より詳しく探ろうとすべての眼を凝らすワシ。
ところが、看破する時間の猶予はなかった。次の瞬間、ゼクス殿が両手で球体を潰してしまったために。
あんなものを潰しても平気なのか? と一瞬考えてしまったが、彼なら問題ないのじゃろう。たしか、消滅系の魔法を習得していたはずじゃ。
「何かあったのか?」
ワシが尋ねると、ゼクス殿は眉間にシワを寄せて答える。
「安定性を損ないそうだった。あのまま続けてたら爆発したかもしれない」
「ぞっとしないのぅ、それは」
あの質量の球が爆発した場合、町が吹っ飛ぶぞ。
まぁ、結界は張ってあるんじゃろうが、ワシらが無傷で済まない。
ワシが内心で戦慄している間、ゼクス殿は悩ましげに首を傾げていた。
「ミネルヴァが魔法と魄術を組み合わせて使ってたけど、その時はこんな現象は起きてなかったはず。何故だ?」
「方法の違いではないかのぅ。彼女の術は、疑似魂に魔法の鎧を与えるものじゃろう? 混ぜ合わせておるわけではない」
「もしくは出力の差か。とにかく、色々試すしかないな」
「じゃのぅ」
「そっちは何か分かったか?」
「加速しておった気がする」
ゼクス殿に意見を求められたので、ワシは先程の観察結果を告げる。
すると、彼は腕を組んで唸った。
「うーん。やっぱり、力を混ぜると、何かしら新たな特性が発生するのかもしれないな」
「ワシの勘違いの可能性もある」
「……そうだな。それを確かめるためにも、実験を続けよう」
「了解じゃ」
ワシは頷き、その後も実験を繰り返した。
思ったよりも調査は難航し、その日は魔力と霊力の組み合わせしか試せなかったが、一応の収穫はあった。このパターンの場合、”加速”の特性が生まれるのは間違いないらしい。
とはいえ、これが何に活かせるかは、今後の研究次第じゃろう。まだまだ色々と実験をする必要がありそうじゃ。
少々骨が折れるものの、この歳になっても新たな発見ができるのは、なかなか楽しくもある。ゼクス殿の傍におると、本当に飽きないのぅ。
次回の投稿は5月10日12:00頃の予定です。




