Chapter30-ep 白の献身(2)
地球への帰還後は、想定していたよりもすんなり問題が片づいていった。
まず、カナミラ王国について。
といっても、オレたちが直接何かしたわけではない。事前の取り決め通り、主導するのはバルヴァロ公爵で、フォラナーダはあくまで補佐だった。
逸魔を一掃したことで依頼も完了したため、カナミラ王国からもすぐに撤退した。派遣した諜報員以外は、定期報告を待つだけである。
バルヴァロ公爵の気合の入りようを見た感じ、おそらく心配はいらないだろう。
カナミラ王国といえば、もう一つ。第三王女ノリーンに関してだ。
憧れのニナに『迷惑』だと切って捨てられた彼女。引きこもるだろうと予想していたんだが、それは大外れした。ノリーン王女は真逆の道を進んだんだ。
つまり、出奔したのである。
これには、オレたちフォラナーダのみならず、カナミラ王国の面々も大困惑していた。あまりにも突拍子もない行動だったためだ。
無論、だいたいの予想はできる。二度とニナに迷惑をかけないよう武者修行の旅に出た。そんなところだと思う。
逸魔に特攻を仕掛けようとしたことから分かる通り、思慮が欠け、行動力がずば抜けた人物だったみたいだし、十二分にあり得る話だ。
時期も悪かった。騎士団長が辞任して団内が混乱している最中だったから、警備に穴があったようだった。
一応、捜索を手伝おうかと提案はしたが、丁重に断られた。遠回しに『これ以上の借りは作りたくない』と言われたよ。
今さらな気もするけど、内政改革に関してはカナミラ王やバルヴァロ公爵、最初に陥落した財務部しか知らない。仕方のない反応だった。
強引に手伝うほど、ノリーン王女と仲が良かったわけでもない。オレたちは大人しく引き下がった。もちろん、見かけることがあれば確保くらいしてあげるけども。
次に、築島の変質した山について。
こちらは、オレたちが聖王国の帰還後、制圧に繰り出した。
担当したのは当然オレ。
件の山は、ヒトの手が入っていなかったので、掘削を並行して行う必要がある。しかし、生命力と魔力が溢れている関係で、魔法での作業はオレを除いて行えない。
ゆえに、オレが直接乗り出したわけだ。
一方で、少数ながら山外に出ていた逸魔の討伐は、部下たちに任せた。
オレの解析を元に開発した技術のお陰で、火力が足りなかった部下たちでも逸魔を倒せるようになったんだ。さすがに、高レベルの騎士でないと対応は難しいが。
山中からは、カナミラ王国と同じ希少金属が多く採れた。溜池も地下深くに存在し、未知の金属が採掘できた。
ただ、緋緋色金ではない。そこにあったのは、ダイヤモンドと琥珀の性質を兼ね備えた、摩訶不思議な代物だった。
不言剛琥珀と、一応命名している。
その一番の特徴は、異様に高い耐久力。十倍の【身体強化】で、ようやくヒビを入れられるほどの硬さだ。
これが見つかったのが聖王国内で、本当に良かったと思う。これほどまでに硬いもの、フォラナーダ以外で採れるわけがない。
ちなみに、今回の騒動で発見した未知の金属は三種。
緋緋色金と不言剛琥珀、さらに蒼浄天瑠璃だ。
蒼浄天瑠璃は、蒼穹の如き澄み渡った色を有する瑠璃である。
調査した結果、効果付与の効率が高いと判明していた。魔道具などの部品に使用するのが、今のところのベストだろう。
聖王国内で採れるのは不言剛琥珀のみだが、カナミラ王国との契約によって残り二種も少量ながら確保できる。
今後は、それら金属の研究でも忙しくなりそうだ。どんな結果が出るか、実に楽しみである。
以上の事後処理を滞りなく終えた某日。オレは神座に訪れていた。
そう簡単に足を運べるのかと驚くかもしれないが、オレは特殊な事例である。
一度訪れて座標を把握しており、【超越】という反則技を会得していたがゆえに、こうして再訪が叶ったんだ。
まぁ、言うほど簡単でもなかったけど。
枝から幹への移動は何らかの制限が掛かっているようで、前回の帰還時よりも膨大なエネルギーを消費した。このオレでさえ、即座に往復ができないほどの消耗である。
そも、【超越】も使いこなせていないんだ。危機管理の面でも、あまり頻繁に訪れて良い場所ではないな。
オレはそっと溜息を吐きつつ、周囲へ視線を巡らせる。藍色の宙に純白の立方体とA4サイズの透明な板が浮かぶ、どこか寒々とした光景が広がっていた。
神座は今日も変わらず、か。変わられても困るが。
立方体の一つに足を下ろしたオレは、腕を組んで待機する。
“神”がいるだろう中枢には向かわない。そちらに用はないし、向かわない方が良いと感じているから。
何せ、視線がしつこい。前回もそうだったけど、めちゃくちゃ見られている。嫌な気配はないので放っておくけど、直接相対するのはダメな気がした。
若干の居心地の悪さを覚えつつも待つことしばらく。ようやく、待ち人が現れた。
「こんなところまで何の用だよ。今の俺、結構忙しいんだけど」
呆れ交じりのセリフを漏らしながら目の前に降り立ったのは、白髪黒目の美人。現在、派遣で神の使徒を努めているアカツキだった。
久しぶりの再会だが、これといって変わった様子はない。アカツキは相変わらずアカツキのようだった。
「そう邪険にするなよ。お前に少し用があっただけさ」
「用? こんな場所に足を運ぶほどの? ……面倒ごとじゃないだろうなぁ」
「ただの質問だよ」
心底嫌そうな顔をする彼に、オレは苦笑を溢す。
とはいえ、手短に済ませた方が良いのは確かか。冗談交じりのやり取りだが、アカツキが多忙なのは本当のようだし。残している仕事が気掛かりなのか、度々意識が別の方向に逸れている。
だから、オレは端的に問うた。
「オレたちの世界の地球に、翻訳の白魔法を掛けたのは何者だ?」
メタルヴァ星人との接触を経て、オレはとある事実に気がついた。
オレやカロンたちの住んでいる星全体に、翻訳魔法およびそれに違和感を覚えない認知操作の魔法が施されていること。
でなければ、あり得ないんだ。意思疎通方法が根本的に異なるウリゥが、普通にオレと会話するなんて。 不自然な部分は他にもある。
たとえば、リンデやエコル、サザンカといった他大陸出身の人物たち。
かつての統一大陸が分裂したのは、今から一万年も前の話だ。それほどの年月が経っていれば、言語に変化が起こっていてもおかしくない。
にもかかわらず、オレたちは何不自由なく意思疎通が取れていた。
たとえば、この世界に日本語が採用されていること。
転生直後は『元がゲームの世界だからなぁ』と流していたが、今はその理由では説明がつかないと理解している。
この世界は数多の分岐世界の一つであり、決してゲームの中ではない。日本語が使われているなんて、ほぼあり得ないんだ。
――で、だ。そういった当然の疑問に、つい最近まで気づけなかったのが、後者の魔法である。
翻訳魔法の影響下にあると認識できない、疑問にも思えない。そんな認知操作が、オレたちの住む星には働いているんだろう。
たぶんウリゥも、自分の状態をまったく異常だと感じていなかったと思う。
それは聖女セイラたち転生者や、友里恵たち転移者にも当てはまるか。
オレと同じように、彼らは言語が多様だと知っている。だのに、それを全然不思議に感じていない。
星上にいることごとくの言語と認識に介入する魔法。一種の洗脳魔法とも言えるそれは、あまりにも強大だ。
かつて見えた、精神魔法を極めた平行世界のオレでも、そこまでの術は発動し得ない。『発動時点で星上にいる人類』と限定するならともかく、効果を永続させることは難しかった。
だからこそ、知っておきたかった。ここまで大規模な精神魔法を扱う強者を。その先駆者を目標とするために。
……いや、違うな。この際、ハッキリ言ってしまおう。
オレは怖いんだ。世界最強を自負するオレにさえ、認識させずに魔法を掛けてしまえる人物が。
久方振りに出会った自分よりも強いかもしれない存在に、恐怖を覚えているんだ。その何者かは、おそらく敵ではないだろうと察していても。
どんなに強くなっても、オレの性根は小市民なんだろうな。
そう心のうちで自嘲しつつ、アカツキの反応を窺う。
次回の投稿は5月1日12:00頃の予定です。




