表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】死ぬ運命にある悪役令嬢の兄に転生したので、妹を育てて未来を変えたいと思います~世界最強はオレだけど、世界最カワは妹に違いない~  作者: 泉里侑希
第三部 After story

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1215/1222

Chapter30-3 過多(4)

「さて、どうしたものかね」


「悩むまでもない。答えは一つ」


「まぁ、そうなるか」


 逸魔(いつま)の群れを討伐し終えたオレは、隣に立つニナとそんな短い言葉を交わす。それから、後ろへ振り返った。


 背後にいたメンバーの様子は、二つに分類されていた。


 一つは、疲労は滲んでいるものの、まだ自力で立ち上がる余裕のあるフォラナーダの面々。


 一つは、地面に四つん這いもしくは仰向けで倒れ、荒い息を吐いているカナミラ騎士団の面々。


 こうなったのは、地面を掘って現れたモグラ型逸魔(いつま)が原因である。隊列中央を破る不意打ちのせいで、彼らも戦わざるを得なくなったわけだ。


 話を戻すと、オレたちが相談し合っていたのは、今後の計画についてだった。


 重傷者は出ていないが、カナミラ側はほとんど満身創痍。事前の予定通りには進められない。


「一度、村まで撤退しよう」


 それが、オレとニナの出した結論だった。


「撤退、だと!?」


 すると、大声を上げる者がいた。カナミラの騎士団長である。


 四つん這いだった彼は片足立ちになり、脂汗を滲ませた顔を上げる。


 目立つ傷こそ負っていないものの、体力が枯渇寸前といった感じだな。


 騎士団長は大声で続ける。


「ふざけるなッ。こんな醜態をさらしたまま帰れるか!」


「醜態をさらしてるから撤退するんだ。態勢を立て直さないと」


「その必要はない。我々は、今すぐにでも立て直せる!」


「体のみならず、武器や防具もボロボロなのに?」


「予備は用意してあるッ」


 こちらのセリフに、なおも食い下がる騎士団長。引き下がってくれる気配はまったく感じられなかった。


 それだけではない。比較的軽傷だった騎士たちも顔を上げており、いずれも騎士団長と同様の表情を浮かべていた。すなわち、『撤退して堪るものか』である。


「はぁ、分かった。正直に言おう。お前たちは――」


 埒が明かないと踏んだオレは、あちらが怒ることを承知の上で、ハッキリと事実を告げようとした。


 しかし、それは最後まで形にはならない。ニナがインターセプトしたんだ。


「あなたたちは足手まとい。邪魔」


 淡々と語る彼女に対し、騎士団の面々は呆けた顔をする。


 おそらく、何を言われたのか理解が及んでいないんだろう。彼ら、プライドが高いし。


 オレは、ニナのセリフを否定するつもりはなかった。同意見だからね。


 元々、彼らが役に立つとは考えていなかった。同行させるだけさせて、満足感を与えれば良いと考えていた。


 ところが、状況が変わった。敵が想定以上の力を備えていると判明した以上、足手まといを連れて行く余裕はない。


 彼らが自滅するだけならまだしも、こちらにも被害が及ぶ可能性がある。安全圏に置いていくのが正しかった。


 程なくして、ニナの言葉の意味を呑み込めた模様。顔を真っ赤に染め、怒鳴り上げようとする騎士団長。


「貴様ァ」


「はいはい。今は揉めてる場合じゃないから」


 だが、今度はそれをオレが遮った。


 ここは未だ坑道。いつ敵が襲ってきても不思議ではないんだ。どちらにせよ、外まで戻る必要があった。


 ただ、探知術が阻害されているのと同じく、転移の類も上手く発動できない。


 ゆえに、オレは次善策を強行した。


「うお、何だ!?」


 騎士団長の吃驚の声を皮切りに、他の騎士たちも悲鳴を上げる。


 彼らは全員、オレの魔法【オペレートハンド】によって持ち上げられていた。


 無属性と精神の合成魔法であるこれは、オレの意思に応じて動かせる魔力の手。一度に大量の人間を運ぶことも容易かった。


「それでは撤退する」


「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」


 部下たちには命令だけで十分。


 騎士団の文句をBGMにして、オレたちは鉱山を後にするのだった。








○●○●○●○●








 村まで撤退したオレたちは、今日のところは一晩休むことにした。


 作戦の練り直しも当然ながら、部下たちも相応に疲労している。回復が必要だった。


 そして、夕食後。天幕にてオレ、ニナ、テリアの三人で作戦会議を行っていたんだが――


「フォラナーダ侯爵!」


 突然、そこにカナミラの騎士団長が乱入してきた。鬼気迫る表情だ。


 撤退直後は疲労困憊といった様子だったけど、動けるまでには回復したらしい。


「ゼノート殿、待ちたまえ!」


 次いで、バルヴァロ公爵も駆け込んでくる。


 日中にも、似たような光景を見たな。要するに、面倒ごとが舞い込んできたのである。


 腕を掴んでくるバルヴァロ公爵を振り払い、騎士団長は大音声(だいおんじょう)を上げた。


「次の作戦では、我々騎士団を置いていくと聞いたぞ! どういう了見だ、約束が違うッ」


 歯を剥き出しにして怒鳴ってくる彼に対して、オレは淡々と返す。


「事情が変わった。敵が複数存在した上、かなり強い。あなたたちを同行させては、こちらにも被害が出てしまう。撤退時にニナも言ったが、足手まといだ」


「ッ!!!!!!」


 俺の直截な物言いに、騎士団長は何と言い返せば良いのか思いつかなかった様子。顔を真っ赤にしたまま、絶句していた。


 だが、それも一瞬のみ。次の瞬間には、彼は再び大声を上げる。


「ふざけるなァァァァァァァァァァ!!!!」


 よほど頭に来たようで、漏れ出た魔力が暴れ回っていた。実体化していないので無害だけども。


 というか、騎士団長はどうして怒りを爆発させられるんだろうか? 坑道前や坑道での戦闘を経れば、彼我の実力差なんて理解して当然なのに。


 それが理解できないほど阿呆なのか。未だに環境のせいなんて他責思考に(おちい)っている愚者なのか。怒りのせいで我を忘れている道化なのか。


 いずれにしても、こちらにとっては迷惑極まりない。カナミラ王国としても、国家の危機を前にして冷静さを保てない戦力など、百害あって一利なしだろう。


 バルヴァロ公爵が騎士団長を押さえ込もうとしているけど、非力な彼では無理がある。


 結局、騎士団長が剣を抜くのを止めることはできなかった。そのまま鈍色(にびいろ)の切っ先をこちらに向け、ついに宣言する。


「決闘だッ。この俺が実力を示し、お前のナメた態度を改めさせてやる!」


「ゼノート殿!」


 宣戦布告染みたセリフを発する騎士団長と、悲鳴交じりの声を上げるバルヴァロ公爵。不謹慎だが、両者の対比が実に面白かった。


 これが本物の道化なら笑って拍手を鳴らすところだけど、残念ながら、彼の職は騎士団長だ。冗談で済まされる発言ではない。相手の出方次第では、国際問題に発展するだろう。


 ゆえに、バルヴァロ公爵は必死だった。顔面を蒼白にし、騎士団長を抑えようとしながらも、オレへ謝罪の言葉を口にする。


「申しわけございません、フォラナーダ侯爵。先刻の戦闘の疲れが尾を引いているのか、騎士団長は冷静さを欠いているようでして。誠に勝手なことを申している自覚はありますが、平にご容赦ください」


「俺は正気だッ。俺のプライド――否、カナミラ王国騎士団のプライドに懸けて、この侮辱を清算しなくてはならないのだ!」


 ところが、騎士団長は止まらなかった。さらなる暴言を重ねてしまう。


 バルヴァロ公爵には悪いが、ここまで来たら、こちらも引くわけにはいかないな。


 仕方なく、重い腰を上げようとしたオレ。


「フォラナーダ侯爵!」


 その最中(さなか)、バルヴァロ公爵が声を張った。


 チラリと彼を窺うと、こちらをジッと見つめている。覚悟を決めた者の眼差しだった。


「なるほど」


 バルヴァロ公爵の意図を察したオレは、すぐさま【念話】を発動した。


『どのようなご用件で?』


『ご配慮感謝いたします、フォラナーダ侯爵。不躾続きで誠に申しわけないのですが、騎士団長の暴走についてご相談させていただきたく』


『伺いましょう』


 今回の一件、貴族的には徹底して潰した方が良い。


 だが、バルヴァロ公爵の優秀さを考慮すると、恩を売った方が最善だと判断できた。後々、良い交渉材料になるはずだ。


 その辺りは、彼も理解した上での提案だろう。だから、覚悟を決めているんだ。


『ありがとうございます。では、こちらの案を提示させていただきます』


 礼を告げてすぐ、バルヴァロ公爵は交渉を開始した。無論、精神魔法でお互いの思考を加速した上で。


 といっても、そう複雑な内容ではない。


 騎士団長を殺さないこと。騎士団員たちの前で戦うこと。できるだけ恐怖心を煽る戦い方してほしいこと。今回の決闘を極力口外しないこと。


 これらの条件を呑む代わり、報酬の上乗せに加えて、バルヴァロ領の鉱山を一つ割譲するというものだ。


 条件に関しては得心がいく。決闘によって、騎士団の心を折るつもりなんだろう。騎士団長を殺さないのは、後腐れを残さないための処置かな?


 報酬の上乗せは予想通りだったが、割譲は思い切ったと感心した。主要産業の一部を譲るなんて、命を切り捨てているのと同義だろうに。


 それだけ、オレの力を恐れている証左なのかもしれないな。下手をすると、国全体が滅ぶとでも考えてそうだ。


 確かに実行できなくはないが、この程度でやるつもりはないぞ。


 美味しい条件だったので、当然、バルヴァロ公爵の提案は受け入れた。口約束にならないよう、【誓約】の魔法を交わしておく。


 これで良し。あとは、騎士団長をボコボコにするだけだ。


「はぁ、分かった。そこまで言うなら受けよう。覚悟はできているんだろう?」


 あえて無気力そうに返し、バルヴァロ公爵とのやり取りを感づかせないようにする。頭に血が上った脳筋には無駄な誤魔化しだと思うが、念のためである。


「愚問だ!」


「では外へ。ここは狭い」


「フン、分かっているッ」


 予想通り、騎士団長はまったく気が付かなかった。怒りをそのままに、ズシズシと天幕の外へ出て行く。去り際に「逃げるなよ」と怒声を残して。


「フォラナーダ侯爵、よろしくお願いします」


 バルヴァロ公爵も、その後に続いた。


 おそらく、騎士団員集めや村人への根回しに向かったんだろう。前者がいないと無意味だし、後者がいるとオレに口止めした意味がなくなる。


 騎士は良いのかって?


 自分たちのボスがボコボコにされたなんて、情けなくて言いふらせるわけがない。仮に広まっても、出所がハッキリしているなら対処できるんだと思う。


「さてと」


「アタシがやろうか?」


 オレも続こうとしたところ、ニナが声を掛けてくる。


「元々、これはアタシへの依頼。連中の問題行動も、アタシが背負うべ――」


「大丈夫だよ、ニナ。ケンカを売られたのはオレだ。これはオレがやる。それに、バルヴァロ公爵と交渉もしたし」


 責任感の強い彼女らしい判断だが、オレはそれを断った。


 ニナの言うように、彼女が対処しても問題はない。実力を見くびられているのは、オレもニナも同じだからね。


 ただ、やはり、ここはオレが出張るべきだろう。侯爵という身分をあずかっている以上、侮辱には制裁で返さなくてはいけない。それが貴族というものだ。


 まぁ、『小国の騎士団長程度、放っておいても勝手に死ぬだろ』と思っているのも事実だけどさ。


「【念話】か」


「そういうこと。だから、気にしなくていいよ」


「分かった」


 ニナの理解も得られたので、オレは天幕の外へと向かう。もちろん、ニナも一緒に。

 

次回の投稿は3月20日12:00頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ