Chapter30-3 過多(5)
先日、ニコニコの方でもコミカライズの更新がありました。
よろしくお願いします!
決闘の準備は、すでに整っているようだった。
騎士たち用の天幕を退かしたらしく、ぽっかりと空き地ができている。中心には騎士団長とバルヴァロ公爵が立っており、その周囲を団員たちが囲んでいた。
漏れ出る感情からして、騎士団長の雄姿を見たい、といった感じかな。
フォラナーダの面々は、遠巻きに眺めているだけである。
こちらは心底呆れた様子だった。もしくは、勇者を見る白けた目か。
オレの実力を真に理解しているメンバーなので、この反応も無理はない。
「ゼクスさま、宜しいのですか?」
オレの存在に気付いたテリアが近づき、そんな質問を投じてくる。
「問題ないよ。諸々の交渉は済んでる」
「……承知しました。では、私どもは周囲警戒に努めます」
「頼む」
一瞬で事情を察した彼女は、自分たちの役割をも理解し、行動に移す。
周囲の部下数名に声を掛け、彼女たちは散開した。第三者への漏洩を防ぐため、偵察に走ったんだ。
さすがはテリア、判断が早い。お陰で、余計な気を遣わずに済む。
その後、オレは騎士団長の前まで歩いた。ニナとは、空き地に入る直前で別れた。
「武器を構えろ、フォラナーダ!」
来るや否や、吠える騎士団長。周りの団員たちも姦しい野次を飛ばしてくる。
隣で苦々しい表情を浮かべているバルヴァロ公爵が、実に不憫である。
とはいえ、さっさと終わらせたいので、素直に従った。【位相隠し】から片手剣を取り出し、下段に構える。
それを認めたバルヴァロ公爵は、駆け足でオレと騎士団長の間まで移動した。
「これより、フォラナーダ侯爵とゼノート騎士団長との決闘を始める。立会人は私、セオドア・グルヴェルト・ハセロ・バルヴァロが務める」
つらつらと口上および決闘のルール説明を行う彼。
後者は至ってシンプルだ。どちらかが戦闘不能になるか、立会人の判断で決闘は終了。それだけ。
しかし、一つ――
「決闘を始める前に、一つ言っておく」
バルヴァロ公爵が開始の合図を出す直前、オレは人差し指を一本だけ掲げた。
皆が訝しげにこちらを注視する中、続ける。
「この決闘において、オレは一切魔法を使わない。純粋な剣技のみで戦う。魔法を使った場合でも、オレの敗北で構わない」
【身体強化】、【先読み】、探知術、各種精神魔法。常時発動しているすべてを含む。文字通り、純粋な技量だけで戦うと宣言した。
このセリフの直後、周囲一帯に冷たい空気が駆け抜ける。
殺気だ。侮辱されたと感じ取った騎士団長が、周囲に伝播するほどの殺意を抱いたんだ。
ゆえに、バルヴァロ公爵は顔を真っ青に染め、周囲の団員たちも固唾を呑んだ。
そして次の瞬間、
「殺す!」
立ち合いの合図を待たずして、騎士団長は得物の切っ先を突き出した。
「甘い」
合図なく放たれた突きだったが、オレは自身の得物を使い、最小限の動きで受け流す。
それから、右側へ流れた騎士団長に向かって、刃を振り下ろした。前のめり状態のため、その首筋は実に無防備である。
しかし、この程度で決着がつくほど、彼も弱くない模様。
「なめるなァァァァ」
気合一閃。騎士団長は体を大きく捻り、こちらの攻撃を防いだ。ガチンと金属のこすれ合う耳障りな音が響き、後方へと転がっていく。
いや、気合ではなかったか。先程まで彼がいた地面に、小さな踏み台があった。とっさに土魔法で形成し、それを足場にして姿勢を変えたんだろう。
小国とはいえ、騎士団長の地位をいだたく者。実力は伊達ではないらしい。
「おおおおおお!」
転がって勢いを殺した騎士団長は、立ち上がって突進してくる。
ただ突っ込んでくるだけではない。同時に、火矢や石ツブテといった魔法をいくつも放ってきた。
そこまで数は多くないものの、すべてが急所をしっかり狙っているな。回避か防御をせざるを得ない。【身体強化】を発動していない今なら余計に。
火矢は避け、石ツブテは剣で往なす。いずれも最小限の動きで。
だが、騎士団長の接近は許してしまった。彼が横薙ぎに振るった刃が、右脇腹に迫る。
回避は……重心が戻り切っていないから無理。防御も難しいな、刃を戻すのが間に合わない。
一連の攻撃は、相手の動きを予想した上で放ったようだ。脳筋だと決めつけていたが、意外とテクニカルな戦い方をする。
あちらの戦術に感心しながら、オレは迫り来る刃に対処した。
何てことはない、右肘と右膝で剣の腹を挟んだんだ。攻撃が当たる瞬間の力みに合わせてね。
重心は大きく傾くが、そちらも問題ない。得物を掴んだ以上、あちらも一緒に倒れ込む。むしろ、こちらに引っ張り込んでしまおう。
肘と膝の力のみで刃を引っ張り、騎士団長を前傾姿勢にさせる。
こちらも右後方に倒れるが、構わず軸となっていた左足を蹴り上げた。そのひと蹴りは、前に傾く騎士団長の側頭部へ吸い込まれる。
「【アースウォール】ッ」
間一髪。オレの足と騎士団長の頭の間に、土壁が入り込んだ。
そのせいで蹴りこそ届かなかったけど、足場にはなった。
オレは蹴りの反動を利用して跳び、宙で回転しながら騎士団長との距離を取る。
「ぐはっ」
「っと」
オレが着地するのと騎士団長が倒れ伏すのは同時だった。
得物を手放さなかったのは立派だが、結果として受け身が取れていない。隙だらけである。
すかさず駆け出し、彼の脇腹に向かって蹴りを繰り出した。
またもや土壁が形成されるけど、想定内。
土壁を蹴るのではなく、踏み台にして軽く跳躍。反対側に着地したオレは、そのまま剣を騎士団長の首筋に当てた。
静まり返る周囲一帯。
実は、決闘が始まってから騎士団員たちが酷く騒いでいたんだが、それもまったく聞こえなくなっていた。痛いくらいの静寂が場を支配している。
オレはチラリとバルヴァロ公爵を見た。
戦いの空気に呑まれた彼は呆然としていたが、すぐにオレの視線に気づいたらしい。ハッと我に返り、ようやく宣誓した。
「し、勝者、フォラナーダ侯爵!」
歓声は上がらない。フォラナーダの者たちが拍手を鳴らすのみだった。
さすがはオレの部下。オレが、こういう時に囃し立てられるのが苦手だと、ちゃんと理解している。
内心で満足しつつ、首筋に立てていた剣を【位相隠し】にしまう。そして、この場の全員に聞こえるよう告げた。
「約束通り、今後の調査はフォラナーダのみで行わせてもらう。決闘した以上、拒否権はない」
反論はなかった。周囲は、未だ騎士団長の敗北に呆然としたままだった。
オレの言葉をきちんと聞いていたか怪しいけど……良いだろう。前述した通り、決闘をした以上は文句など受け付けない。
とはいえ、今日はもう遅い。オレたちによる調査は明朝となるが――
「ゼクス」
肩の力を抜いていたところ、周囲警戒を任せていたニナから声が掛かった。
その声音から、何か問題が起こったのだと察する。
「どうした?」
即座に問うと、彼女は短く答えた。
「坑道の入口に近づこうとしてる者がいる」
「何?」
決闘中に切っていた探知術を発動し直す。
すると、確かに何者かの反応が引っかかった。しかも二人。
……これ、どこかで見覚えのある魔力だな。
記憶をざっと探り、心当たりを見つける。
「ノリーン王女とお付きの騎士か?」
顔を合わせたのは一度だけだが、間違いない。あの二人だ。
どうして、王女たちが坑道に向かっている?
オレは疑問符を浮かべたものの、すぐに頭を振った。
今は考えている場合ではない。止めないと。あの二人の実力で坑道に入るのは自殺行為である。
「ニナ、行くぞ。他のメンバーは待機。テリア、この場は任せる」
何が起こるか分からないため、同行させるのは実力者のニナのみだ。
テリアも十分強いが、彼女には混乱するだろうここを任せたい。
「分かった」
「承知いたしました」
二人の返事を認めた後、オレは【位相連結】を開き、再び坑道の入口まで転移するのだった。
次回の投稿は3月23日12:00頃の予定です。




