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俺の想像する世界  作者: 六駿


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第2話 正夢だったりして……

「っ……あ……! 」


ガバッと上体を起こす。冷たい汗が背中を伝っていた。


左右を見渡す。黒ずんだ石造りの壁、そして等間隔に灯る魔導ランタンの光。そこは夢の中のボス部屋ではなく、ダンジョン内の安全地帯と呼ばれる場所だった。


昨日から始まった、冒険者学校の遠征実習。


俺はここ「岐阜市営ダンジョン」に潜っていた。パーティを組めないソロの身軽さを活かし、なんとか九階層までクリア。十階層のボス部屋を前にして、この安全地帯で仮眠を取っていたはずだった。


どうやら、思わず熟睡して夢を見ていたらしい。


……いや、「らしい」で済ませていい話じゃない。危ないところだった。


今回はたまたま学校の実習中で、周囲に遅れて到着したらしい同級生たちの気配があったから良かったものの。ソロの分際でダンジョン内で熟睡するなんて、自殺行為に等しい。


これが実習でなければ、目が覚めたら荷物がすべて盗まれているか、最悪の場合、二度と目覚めない身体にされて転がっていただろう。それくらい、今の時代のダンジョン内は治安が悪い。


「……まぁ、実際に襲われたことは一度もないんだけどな」


学校の授業で耳にタコができるほど叩き込まれた脅し文句を思い出しながら、身体を起こして軽く柔軟を始める。一度も遭遇していないとはいえ、ソロの俺なんて周りから見れば格好の「獲物」だ。用心するに越したことはない。


これから十階層のボス部屋に挑戦する。「寝起きで身体が動きませんでした」なんて言い訳は、あの化け物たちには通じない。ベットしているのは自分の命だ。入念に身体を解し、腹を満たしてから挑む必要がある。


「それにしても……オークジェネラル、か」


屈伸をしながら、先ほどの夢を思い出す。


確か「岐阜市営ダンジョン」のデータだと、オークジェネラルは五十階層のボスだったはずだ。夢にしては妙に生々しかった。感覚がまだ残っている。最後までしっかり覚えている夢のことを、『明晰夢』とか言ったっけ。


「……もしかして、正夢だったりして」


ぽつりとした呟きに、自分でニヤけてしまう。


もし、本当に俺があいつをソロで倒しちゃったりしたら、どうなる?


学校内で一躍、時の人だ。いつも俺を鼻で笑うエリートパーティの連中を差し置いて、ニュースにだって載るかもしれない。可愛い女の子たちに「すごーい! 」なんてチヤホヤされて、嫉妬した男連中に睨まれたりして。で、「あ? 文句あんのか? 」って睨み返してやったら、あいつらがビビって目を逸らす――。


「ククッ……いや、楽しすぎるだろそれ。狙ってみちゃうか? 」


妄想で少しテンションが上がったところで、リュックから銀色の謎チューブを取り出した。


キャップを外して、中のゼリー食品を一気に口へ流し込む。


……うん、相変わらずろくに味がしない。


だが、これ一本で一日分の栄養がすべて摂取できるという、ここ数年で世界中に普及した謎の商品だ。商品名もそのまま「謎チューブ」。あれ? 違ったかな? 通称かな?


原料の記載すらなく、ただ機械的に腹が満ちるだけ。まともな食糧が手に入らない今の時代、これを口にできるだけでも有り難いと思うべきなのだろうが、たまには野菜も食いたいものだ。


肉自体は有るんだ。魔物肉という湧き出る資源ともいうべきものが。そして強い魔物の肉ほど美味いらしい。だから俺たちみたいにダンジョンに潜る人間は割と肉を食う機会は多い。


だが野菜や果実、それに魚を食う機会は非常に少なく、肉も香辛料がほとんど手に入らない今、美味いと言っても年配の人にはそう感じられないことも多いらしい。


まあダンジョンが出現して五十年余り。無かった時代を知る人間の思い込みかも知れないが……。


そんなこんなを考えながらも腹を満たした俺は、腰の鉄の剣を抜いて刀身を確認する。


昨晩、寝る前に油を塗って磨いたおかげで、鈍い銀色の刃は問題なさそうだ。


剣を鞘に納め、リュックを背負い直す。


ゆっくりと立ち上がり、十階層のボス部屋の扉へと向かった。


まぁ、オークジェネラルなんて先の先だ。まずは目の前の十階層。


確かここのボスは、ゴブリンリーダーと、お供のゴブリン二匹。


「流石に、倒せるだろ」


自分に言い聞かせるように呟く。


何と言われたって、俺はあのオークをソロで倒した男だ。……まぁ、たまたまそいつが怪我をして彷徨っていて、偶然真後ろから気づかれずに先制攻撃できただけなんだけど。


それでも、勝ちは勝ちだ。そんな俺が、たかがゴブリンリーダーごときに負けるわけがない。


周囲を見渡すと、待機中のプロの冒険者や同級生の姿がチラホラ見える。だが、今はまだ誰も扉を開けようとはしていない。順番待ちもなさそうだ。


「よし、やってやりますか」


ふう、と深く息を吐き出し、俺はボス部屋の重厚な扉に手を掛けた。

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