梅雨明けの転校生 〜日比野直〜
梅雨が明けたらしい。
窓の外には夏の空が広がっていた。
白い雲。
強い日差し。
青く澄んだ空。
だけど、今日の空はただの青じゃない。
光が溶け込んだような。
氷が少しずつ解けていくような。
そんな色だった。
「今日の空は何色?」
隣から声がする。
立花さんのいつもの質問。
俺は窓の外を見る。
改めて色を探す。
「淡い青かな。」
そう答える。
立花さんは空を見る。
そして小さく頷いた。
少しだけ嬉しそうだった。
その顔を見ると。
ちゃんと伝わった気がする。
「淡い青?」
後ろから蓮の声。
「どう見ても黄色だろ。」
「黄色?」
「太陽出てるじゃん。」
そう言って蓮は笑う。
「だから黄色?」
「そりゃ夏は黄色だろ!」
脳筋キャラめいた事になってるのは暑さのせいか。
「そういや。」
蓮が椅子を回した。
嫌な予感がする。
だいたいこういう時はろくなことを言わない。
「あと三日で夏休みだぜ。」
「そうだな。」
「何する?」
「別に。」
「海だろ。」
「なんでだよ。」
「夏だから。」
「理由になってない。」
蓮は笑う。
そして勝手に続ける。
「海行こうぜ。」
「嫌だよ。」
「なんで。」
「なんでお前と海なんだよ。」
本音だった。
すると。
隣から声がする。
「水着選ばんといけんね。」
立花さんだった。
俺はそちらを見る。
海に行く気らしい。
少し意外だった。
でも。
悪くないと思った。
「じゃあいつ行く?」
気付けばそう聞いていた。
蓮が変な顔をする。
「お前行かないって言ってなかったっけ。」
「言ってねー。」
「言った。」
「言ってねー。」
「晴ちゃん目当てだな。」
ドキッ
「ちがう。」
ちょっと強い口調になってしまった。
「絶対そーだね。」
「ちがう。」
「うちが行くといけん?」
立花さんが首を傾げる。
そういう意味じゃない。
むしろ立花さんがいないと行く意味なんてない。
だから答える。
「立花さんが来なきゃ行かない。」
数秒。
教室が静かになった。
蓮が立ち上がる。
拍手。
腹が立つ。
本当に腹が立つ。
「ここまであからさまだと逆に清々しいわ。」
「うるさい。」
顔が熱い。
でも。
嘘は言っていない。
ちらっと立花さんを見る。
少しだけ目を丸くしていた。
それから。
ほんの少しだけ顔を伏せる。
よく分からない。
でも嫌そうではなかった。
そのことに少し安心した。
「そういうお前はどうなんだよ。」
俺は話を変える。
「図書委員。」
蓮が固まる。
面白い。
「海だぞ。」
「だからなんだよ。」
「誘うチャンスだろ。」
「無理だって。」
「ダメ元で聞けよ。」
立花さんが不思議そうに見ている。
蓮は頭を抱えた。
しばらく悩んで。
「……わかったよ。」
とため息をつく。
「誘う。」
その時だった。
立花さんが少し笑った。
楽しそうに。
嬉しそうに。
その顔を見て。
俺も少し笑った。
窓の外を見る。
淡い青色の空。
今年も夏休みが来る。
あと三日。
今年は少し楽しみかもしれない。




