梅雨明けの転校生 〜立花晴〜
7月。
梅雨が明けたらしい。
窓の外には青空が広がっていた。
白に近い青。
眩しくて。
溶け始めた氷みたいな色。
私は窓の外を見上げる。
六月の終わり。
放課後の教室で見た空を思い出した。
あの日は夕焼けだった。
久しぶりに雨が降らなかった日。
綺麗な空だったはずなのに暗いオレンジに見えた。
不思議だった。
同じ空なのに、見るたびに色が違う。
その理由を私は知っている。
直くんが教えてくれたから。
私は隣を見る。
日比野直は机に突っ伏していた。
眠そうだった。
「今日の空は何色?」
私が聞く。
いつもの質問。
直は少しだけ顔を上げた。
窓の外を見る。
数秒。
そして答える。
「淡い青。」
私は瞬きをする。
やっぱり。
今日も直くんは私と同じ色だった。
「淡い青?」
後ろから声がする。
相沢蓮だった。
「どう見ても眩しい黄色だろ。」
「黄色?」
「太陽出てるじゃん。」
そう言って蓮は笑う。
「だから黄色?」
「そりゃ夏は黄色だろ!」
意味はよく分からなかった。
でも相沢くんらしいと思った。
私はもう一度空を見る。
淡い青。
やっぱり同じ色だった。
どうしてだろう。
私が見ている色と直くんが見ている色は、
よく似ている。
それが少し嬉しい。
昼休み。
「そういや。」
相沢くんが机に肘をつく。
「あと三日で夏休みだぜ。」
「へー。」
直くんは興味なさそうな返事。
「海行こうぜ。」
「なんでお前と海なんだよ、やだよ。」
海。
見たことはある。
でも友達と行くのは初めて。
直くんと行くなら何色の水着にしよう。
「水着選ばんといけんね。」
二人が同時に私を見た。
「いつ行く?」
「お前行かないって言ってなかったっけ。」
「言ってねー。」
「言った。」
「言ってねー。」
「晴ちゃん目当てだな。」
「ちがう。」
「絶対そーだね。」
「ちがう。」
私は二人のやり取りを見ていた。
二人だけで行きたいのかな。
「うちが行くといけん?」
私が聞く。
直は一瞬も迷わなかった。
「立花さんが来なきゃ行かない。」
蓮は立ち上がった。
そして拍手した。
「ここまであからさまだと逆に清々しいわ。」
私は少し考える。
そういうものなのだろうか。
「うるさい。」
直が顔を赤くする。
私はようやく意味を理解した。
少しだけ、頬が熱い気がした。
「そういうお前はどうなんだよ。」
「図書委員。」
「海だぞ。」
「だからなんだよ。」
「誘うチャンスだろ。」
「無理だって。」
「ダメ元で聞けよ。」
図書委員って佐内ひまりさんのことかな。
私はあまり話したことない。
「……わかったよ。」
「誘う。」
私は窓の外を見た。
淡い青色の空。
恋、という言葉を思い出す。
ヒトは恋をすると、
相手のことが気になる。
相手の言葉が気になる。
一緒にいたくなるらしい。
私はもう一度直くんを見る。
直くんはまだ相沢くんと話していた。
楽しそうだった。
恋。
そういうことなのだろうか。
まだ分からない。
でも。
知りたいと思った。
空の色みたいに。
少しずつ。




