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隣の席の転校生が俺の名前をメモしてる  作者: ひびのひび


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29/33

春風に舞う転校生 前編

三月。

冬の冷たさの中へ、

少しだけ春が混ざり始める頃。

教室の窓から風が入る。

少し甘い香り。

沈丁花。

窓の外。

淡い青空。

白い雲がゆっくり流れていた。


「おはよう。」

声がした。

振り向く。

「おはよう、晴。」

「今日も眠そうやね。」

「春だからな。」

「冬も眠そうやったけど?」

その笑顔を見て。

俺も笑った。


授業が始まる。

先生の声。

黒板を走るチョーク。

教科書を開く。

シャープペンを持つ。

隣を見る。

晴もノートを開いていた。

一文字。

また一文字。

静かに書いていく。

書かなくても覚えられるのに。

それでも書いている晴。

思わず。

少しだけ笑った。


休み時間。

窓際へ寄る晴。

風が髪を揺らす。

「直くん。」

振り向く。

「今日の空は何色?」

俺も窓の外を見る。

淡い青。

その名前まで口にしようとして。

少しだけ迷った。

「……淡い青。」

晴は何も言わない。

空を見上げる。

風が吹く。

しばらくして、

小さく呟いた。

「勿忘草……。」

思わず晴を見る。

晴は空を見たままだった。

「たぶん。」

「直くんと同じ色が見えとる。」

少しだけ間が空く。

「直くんも。」

「同じ色が見えとったら。」

「嬉しか。」

耳のあたりが熱くなる。

横を見ると、

蓮がニヤニヤしていた。

目が合う。

何も言わない。

全部伝わっていた。


昼休み。

屋上。

少しだけ暖かい風。

フェンスにもたれて空を見る。

綿雲がゆっくり流れていく。

「悪い。」

「急に呼び出して。」

「構わんと。」

晴が隣へ来る。

しばらく、

二人とも空を見ていた。

風が吹く。

甘い香り。

「今日の空。」

「何色?」

今度は俺が聞く。

晴は少し笑った。

「珍しか。」

目を閉じる。

風を感じるように、

ゆっくり息を吸う。

「白。」

「お月様みたいな白。」

「その中に。」

「少しだけ薄紅。」

「優しい色。」

目を開ける。

視線が重なる。

「うん。」

「同じだ。」

少しだけ笑う。

「晴。」

「俺は。」

「晴に逢えて、よかった。」

晴が一歩近づく。

「直くん。」

「うちも。」

「直くんに逢えて、よかった。」

少しだけ沈黙。

風が通り過ぎる。

ふっと、

晴が笑った。

「覚えとる?」

「うちが最初にかけた言葉。」

忘れるわけがない。

あの日、教室で、

真っすぐ俺を見て言った言葉。

目が合う。

二人同時に口を開く。


「恋って何なん。」


「だからな。」

「やけんね。」


吹き出した。

笑いが止まらない。

ひとしきり笑って、

晴がこちらを見る。

まっすぐな瞳。

「直くん。」

「好いとーと。」

胸の奥が熱くなる。

「晴。」

「大好きだ。」

晴が笑う。

春の風が昼休み終了のチャイムを運んでくる。

「戻ろっか。」

「うん。」


挿絵(By みてみん)


放課後。

図書室。

紙とインクの匂い。

窓から差し込む夕日。

心地よい空間。

蓮は借りた本を佐内さんへ返していた。

「面白かった。」

「ほんと?」

「続きある?」

「あるよ。」

自然と笑い声が広がる。

晴もその輪に入っていた。

不意に佐内さんがこちらを見る。

「そういえば。」

「告白。」

「うまくいったの?」

晴の肩がぴくっと揺れる。

耳まで赤くなった。

小さく。

こくり。

頷く。

蓮が満面の笑みで俺を見る。

何も言わない。

その顔だけで十分だった。

晴が佐内さんを見る。

「そう言う二人は?」

「え?」

「どうなん?」

今度は佐内さんの番だった。

目を泳がせる。

蓮も同じだった。

「いや……。」

「その……。」

二人とも分かりやすすぎる。


帰り道。

春の風。

晴のスカートがふわりと揺れる。

蓮が笑う。

佐内さんが笑う。

晴が笑う。

俺も笑う。

何でもない放課後。

何でもない帰り道。

そのどれもが輝いていた。


立花家の門の前。

「また明日。」

晴が手を振る。

「また明日。」

そう返してふと庭の向こうを見る。

見慣れない車。

玄関先に見知らぬ男性が立っていた。

俺たちを見て静かに一礼する。

口髭が印象的な人だった。

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