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隣の席の転校生が俺の名前をメモしてる  作者: ひびのひび


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冬空の下の転校生 前編

寒さと寒さの間に、

時折、春が顔をのぞかせる二月。

ここ数日の寒波が過ぎて、

今日は少しだけ暖かかった。

一月から、晴はまた学校へ通い始めた。

久しぶりに登校してきた転校生。

あれから一ヶ月。

騒がしかった教室も、

今は落ち着きを取り戻している。


授業。

いつも通りの風景。

教科書を開く。

黒板を見る。

指名されれば答える。

相変わらず間違えない。

ふと横を見る。

机の上には教科書だけ。

書かなくても全部覚えられる。

便利だよな、と思いつつ、

俺は一生懸命ノートを取った。

チャイムが鳴る。

昼休み。

「腹減ったー!」

蓮が机を引っ張ってくる。

「今日もパン五つか。」

「育ち盛りだからな。」

「もう十分育ってるだろ。」

そんなくだらない話をしながら昼食を食べる。

晴は静かにお弁当を口へ運ぶ。

時々笑う。

以前みたいな笑顔じゃない。

それでも。

この場所で笑顔を見られることが、

嬉しかった。


放課後。

今日は久しぶりに四人で帰る約束だった。

「佐内さん呼んでくるわ。」

蓮が教室を飛び出していく。

図書室まで迎えに行くんだろう。

教室には、

俺と晴だけが残った。

窓から夕日が差し込む。

「日比野くん。」

呼ばれて顔を上げる。

晴はすぐには話さなかった。

窓の外を見つめたまま、

胸へ手を当てる。

「私の中に。」

少しだけ間が空く。

「もう一人の私がいるみたいなの。」

息が止まる。

「ずっと苦しそうなの。」

目を閉じる。

「助けてあげたい。」

「でも。」

「どうすればいいか。」

「分からないの。」

言葉が終わると、

その場にしゃがみ込んだ。

胸を押さえる。

痛みや苦しさじゃない。

胸の奥で、

誰かが泣いているような、

そんな顔だった。

何も言えなかった。

隣にしゃがむ。

そっと肩を抱く。

「大丈夫。」

「ゆっくりでいい。」

「焦らなくていい。」

小さく頷いた。

その時だった。

「おーい!」

廊下から蓮の声が聞こえる。

「帰るぞー!」

佐内さんも一緒だった。

静かに立ち上がる。

「ごめんなさい。」

「気にすんな。」

蓮は何も聞かなかった。

四人で校門を出る。


夕暮れ。

少しだけ日が長くなった帰り道。

立花家まで晴を送る。

「ありがとうございました。」

玄関の前で頭を下げる。

「また明日。」

手を振る。

晴も小さく手を振り返した。

玄関の扉が閉まる。

歩き出す。

少しの沈黙。

「……なあ。」

足を止めた。

「晴を。」

言葉を探す。

「晴を助けてあげたい。」

蓮は迷わなかった。

「当たり前だろ!」

振り返る。

「晴ちゃん。」

「絶対助けるぞ!」

根拠なんてない。

でも。

どうしてだろう。

こいつが言うと妙に安心する。


「公園、寄ってくか。」

蓮が指をさす。

陽が落ちる前の公園。

誰もいない。

自動販売機で缶コーヒーを二本。

佐内さんはいつものミルクティー。

冷えた両手を温めるように包み込んだ。


春を帯び始めた茜空。

三人の影は、

夕暮れの光に揺れながら、

静かに伸びていった。

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