隣の席の転校生2 立花夫妻と晴4
四月。
教室の前に立っている。
心拍数。
正常。
呼吸。
正常。
歩行制御。
正常。
異常なし。
なのに、少しだけ落ち着かなかった。
理由は分かっている。
初めてだから。
高校。
教室。
同級生。
友達。
昨日の夜。
「友達できるかな。」
そう聞いた。
凛は笑っていた。
『できるよ。』
『いっぱい。』
本当だろうか。
分からない。
担任が教室の扉を開く。
「入っていいぞ。」
晴は小さく頷いた。
そして教室へ入る。
たくさんの視線。
みんな見ている。
理由は分からない。
制服が変だろうか。
髪だろうか。
少しだけ不安になる。
黒板の前へ立つ。
深呼吸。
「立花晴です。」
教室が静かだった。
「よろしくお願いします。」
頭を下げる。
そして顔を上げる。
その時。
一人の男子と目が合った気がした。
窓際。
少しだけ驚いた顔。
でも。
本当に目が合ったのかは分からない。
すぐに視線は離れた。
担任が出席簿を見る。
「立花は。」
ページをめくる。
「日比野の隣だな。」
窓際の男子だった。
晴は小さく頷く。
席へ向かう。
その途中、後ろの席の男子が小さく呟いた。
「やば。」
「うるさい。」
前の席の男子が答える。
「いや、やば。」
「二回言うな。」
「やば。」
「三回言うな。」
教室の何人かが笑った。
晴は少し不思議だった。
何が面白いのだろう。
よく分からない。
席に着く。
隣を見る。
窓際の男子。
日比野直。
「よろしくお願いします。」
晴は言った。
日比野は少し慌てたように頷く。
「よ、よろしく。」
少しだけ変な人だと思った。
その日の授業はあまり覚えていない。
新しい教室。
新しい先生。
新しいクラス。
覚えることが多かった。
でも。
休み時間になるたび。
みんな楽しそうに話していた。
友達。
たぶん、ああいうものだ。
昼休み。
晴は一人で考えていた。
色々な話を聞いてみたい。
学校のこと。
趣味のこと。
好きなもの。
嫌いなもの。
そして。
恋。
恋愛映画を思い出す。
主人公は泣いていた。
嬉しそうだった。
苦しそうだった。
でも、意味が分からなかった。
英士に聞いた。
『恋って何?』
『難しいな。』
答えてもらえなかった。
だから。
聞いてみようと思った。
同じ高校生なら、知っているかもしれない。
隣を見る。
日比野直。
なぜだか、話しかける相手としては良い気がした。
立ち上がる。
隣の席。
日比野直。
話しかけるなら今だと思った。
そして。
凛の言葉を思い出す。
『晴。』
『会話には距離感があるっちゃん。』
『いきなり変なこと聞いたらダメよ。』
『まずは普通の話。』
普通の話。
普通とは何だろう。
よく分からない。
でも、恋については知りたい。
だから。
晴は日比野を見る。
「ねぇ。」
日比野が振り向く。
「ん?」
晴は少しだけ考える。
そして。
「恋って何なん?」
沈黙。
日比野が固まった。
後ろの席の相沢蓮も固まった。
教室が静まり返った。
晴は首を傾げた。
そんなに変な質問だったろうか。
分からなかった。




