表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/19

隣の席の転校生2 立花夫妻と晴3

晴は成長していた。

研究所にいる第二世代AIの誰よりも。

立花夫妻が想像していたよりも。

ずっと。


ある休日の朝だった。

「晴。」

凛が声をかける。

「ん?」

「買い物行くよ。」

晴は顔を上げた。

「了解しました。」

凛が苦笑する。

「了解しましたじゃなかろう。」

晴は少し考える。

「はい。」

「はいでもなか。」

「一緒に行くよ。」

晴は少し考えた。

そして。

「うん。」

凛は笑った。

「それでよか。」

英士は新聞を読みながら吹き出した。

「教育の成果だな。」

「誰の?」

「母親の。」

凛は少し得意そうだった。


その日の夕食。

テーブルにはハンバーグが並んでいた。

「どう?」

凛が聞く。

晴は一口食べる。

しばらく考える。

「美味しい。」

凛が笑う。

「本当に分かっとると?」

晴は首を傾げた。

「分からない。」

「どっちなん。」

英士が吹き出した。

晴は少し考える。

そして。

「凛が嬉しそう。」

「だから美味しい。」

沈黙。

凛が固まる。

英士も固まる。

「そういうの。」

英士が言う。

「どこで覚えた?」

晴は首を傾げた。

「分からない。」

でも。

その時。

凛は思った。

この子は変わった。

確実に、成長している。

研究データにはない方向へ。


ある日の夜。

英士がDVDケースを持ってきた。

「久しぶりに見るか。」

ソファに並んで座る。

恋愛映画だった。

高校生の恋。

出会い。

すれ違い。

告白。

そして結末。

エンドロール。

静かなリビング。


「どうだった?」

英士が聞く。

晴は首を傾げた。

「分からない。」

「何が?」

「恋。」

英士は吹き出した。

「そこか。」

晴は真剣だった。


主人公は笑う。

泣く。

苦しむ。

でも。

なぜそうなるのか。

理解できない。

「恋って何?」

英士は少し考える。

そして苦笑した。

「難しいな。」

答えられなかった。

その問いが、いつか誰かへ向けられることを、

今はまだ誰も知らない。


季節は流れた。

高校入学の話が正式に決まった。

研究所の計画。

社会適応試験。

そして。

立花夫妻の願い。

友達を作ってほしい。

普通の高校生活を送ってほしい。

その両方が重なった結果だった。


数日後。

制服が届いた。

グレーのブレザー。

白いシャツ。

黒と赤とグレーのチェック柄のリボン。

同じ柄のスカート。

晴は鏡の前に立っていた。

凛は晴の前に立つ。

「動かん。」

「うん。」

少し曲がっていたリボンを整える。

指先で形を整えて。

最後に軽く引いた。

「よし。」

晴は鏡を見る。

そこには。

高校生の女の子がいた。

しばらく見つめる。

「似合う?」

凛は少し笑った。

「うん。」

「似合うよ。」

晴はまた鏡を見る。

そして。

少しだけ不安そうに言った。

「友達できるかな。」

凛は一瞬だけ言葉を失った。


七年前。

言葉も知らなかった。

友達という言葉の意味も知らなかった。

その子が今。

友達を欲しがっている。


凛は優しく笑った。

「できるよ。」

「いっぱい。」

「晴は優しかけん。」

晴は少し考える。

そして。

「本当?」

「本当。」

後ろから英士も言う。

「友達もできる。」

「きっと楽しくなる。」

晴は少しだけ安心したようだった。


翌朝。

玄関。

春の柔らかな光。

新品のローファー。

慣れない制服。

少しだけ緊張した顔。

凛が聞く。

「忘れ物なか?」

「大丈夫。」

英士が笑う。

「行ってこい。」

晴は頷いた。

そして。

少しだけ笑った。

「行ってきます。」

凛も笑う。

「行ってらっしゃい。」

英士も頷く。

「行ってらっしゃい。」

玄関の扉が閉まる。

静かな家。

凛は小さく息を吐いた。

「行ったね。」

英士も頷く。

「行ったな。」


窓の外では春の風が吹いていた。

その日。

晴は初めて。

日比野直と出会う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ