表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/20

隣の席の転校生2 立花夫妻と晴2

起動から三日後。

研究所から送られてきた報告書を見ながら英士は首を傾げていた。

「おかしい。」

凛も端末を見る。

そこには緑色の文字が並んでいる。

記憶回路 正常

視覚回路 正常

運動回路 正常

基本学習プログラム 正常

どこにも異常はない。

だが。

言語学習プログラム

インストール失敗

「またか。」

英士がため息を吐く。

起動後も何度も試した。

しかし結果は同じだった。

言語プログラムだけが入らない。

「どうする?」

英士が聞く。

凛はしばらく考えた。

そして。

「教える。」

「は?」

「人間みたいに。」

英士は数秒黙った。

そして吹き出した。

「お前らしいな。」


翌朝。

自宅兼研究室。

窓から柔らかな光が差し込んでいる。

椅子に座る少女型ヒューマノイド。

まだ名前はない。

ただ。

確かにそこにいた。

凛は笑顔で言った。

「おはよう。」

少女は凛を見る。

数秒。

「おはよう。」

少したどたどしい。

でも。

返事をした。

凛は嬉しくなった。

「よか天気やね。」

少女は首を傾げる。

「よか……天気。」

「そう。」

凛は窓を指差した。

「空が青かろ?」

少女は窓を見る。

「青い。」

「うん。」

「青かね。」

それが最初だった。


翌日。

「ありがとう。」

「ありがとう。」

「ごめんね。」

「ごめんね。」

「いただきます。」

「いただきます。」

少しずつ。

本当に少しずつ。

言葉を覚えていく。

英士は苦笑した。

「AI教育というより。」

「子育てだな。」

凛も笑った。

「そうやね。」


ある日のことだった。

凛は机の上に一冊のノートを見つける。

開く。

そこには。

おはよう

ありがとう

青い

丁寧な文字。

「晴?」

まだ名前もないのに。

凛はそう呼びそうになった。

少女が近付いてくる。

「どうして書いたの?」

少女は少し考える。

「忘れる。」

「忘れそうだった?」

「わからない。」

「じゃあなんで書いたの?」

少女は首を傾げた。

「わからない。」

凛は笑う。

「そっか。」


それからだった。

ノートの内容が変わり始めたのは。


赤い

りんご

果物


そんな単語ばかりだったページに。


きれい

楽しい


が増えていく。


英士がページをめくる。

「これ。」

「学習データじゃないよな。」

凛も頷いた。

説明できない。

でも。

何かが違う。


ある日。

凛は聞いた。

「晴。」

少女が振り向く。

いつの間にかそう呼んでいた。

「楽しいって何かわかる?」

晴は少し考える。

「わからない。」

「でも。」

「凛と話している時。」

「そうなる。」

凛は息を呑んだ。


その夜。

英士と二人で研究室に残った。

机の上にはノート。

英士が静かに言う。

「心かもしれない。」

凛はノートを撫でた。

そこには拙い言葉が、丁寧な文字で書かれていた。


また

あした


凛は小さく笑う。

そして。

少しだけ泣いた。

「そうやね。」

「この子。」

「心があるかもしれん。」


窓の外では春の雨が降っていた。

研究所はまだ知らない。

このノートのことを。

この子が。

ただ学習しているのではなく。

生き始めていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ