表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/17

隣の席の転校生2 夏終わる屋上

昼休みになっても落ち着かなかった。

購買へ向かう人の流れ。

弁当を広げる音。

笑い声。

いつも通りの学校だった。

俺だけが違う世界にいるような気がした。

「直。」

蓮が立ち上がる。

「購買行こうぜ。」

「あ、ああ。」

席を立つ。

教室を出る。

人混みの中を歩く。

頭の中はずっと晴のことだった。

学校に来ていない。

連絡もない。

理由は分からない。

胸の奥がずっと騒いでいた。

「蓮。」

「ん?」

「ちょっといいか。」

蓮が首を傾げる。

俺は階段の上を指差した。

「屋上。」


屋上には誰もいなかった。

九月の風が吹く。

残暑はまだ残っている。

それでも。

吹き抜ける風は少しだけ違った。

夏の終わりを知らせるような風だった。

蓮は不思議そうな顔をしていた。

「何だよ急に。」

俺はフェンスに寄りかかった。

喉が渇く。

言葉が出てこない。

夏祭りで晴を誘う方が簡単だった。

海で二人きりになる方が簡単だった。

「蓮。」

「ん?」

少し迷う。

そして聞いた。

「お前。」

「晴見てどう思う。」

蓮が首を傾げる。

「は?」

「何その質問。」

「いいから。」

蓮は少し考えた。

そして。

「可愛い。」

即答だった。

思わず笑う。

「即答かよ。」

「だって可愛いだろ。」

「それはそうだけど。」

「だろ?」

蓮は笑いながら続ける。

「あと変。」

「変か。」

「変。」

「二回言うな。」

「いや変だろ。」

「急に恋って何なんとか聞くし。」

「ああ。」

「空の色聞いてくるし。」

「ああ。」

「たまに何考えてるか分かんねぇし。」

「ああ。」

「あと意味分からん。」

俺は吹き出した。

「最後雑だな。」

「だって意味分かんねぇもん。」

蓮も笑う。

風が吹いた。

笑い声が消える。

少しだけ沈黙。

俺は空を見上げた。

「だよな。」

蓮が首を傾げる。

「何が。」

「晴、変だよな。」

「だろ?」

言葉を探す。

上手く言えない。

「それでも。」

「晴、なんだよな。」

蓮の表情が少し変わった。

「直。」

「ん?」

「何があった。」

俺はしばらく黙っていた。

フェンスが小さく鳴る。

街並みが遠い。

全部遠かった。

「俺さ。」

声が掠れた。

「怖いんだ。」

蓮は何も言わなかった。

続けた。

「晴は。」

「人間じゃない。」

風が吹いた。

蓮が固まる。

まばたきもしない。

数秒。

沈黙。

「……は?」

俺は少し笑った。

自分でもそう思う。

そういう反応になる。

夏休みの俺も同じだった。

「AIなんだ。」

また沈黙。

俺は少しずつ話した。

研究所のこと。

学習支援AIのこと。

そして。

晴のこと。

全部を話し終わったあと、

しばらく誰も喋らなかった。

蓮は長く息を吐く。

「なるほど。」

「いや。」

「全然なるほどじゃねぇな。」

思わず笑ってしまう。

蓮も笑った。

すぐに真顔へ戻る。

「なぁ。」

「ん?」

蓮はフェンスの向こうを見たまま言った。

「それ。」

「晴ちゃんなんだよな。」

答える必要はなかった。

蓮は小さく頷く。

「だったら。」

「俺にはそれで十分だ。」

風が吹く。

「お前。」

「晴ちゃん見て。」

「人間じゃないって思ったことあるか?」

俺は首を振る。

「ない。」

「だろ。」

蓮は笑った。

いつもの笑顔だった。

「じゃあ晴ちゃんじゃん。」

その言葉に。

少しだけ肩の力が抜けた。

でも、本当に話したかったのはそこじゃない。

「蓮。」

「ん?」

「晴。」

「学校来てないだろ。」

蓮の笑顔が消える。

俺は続けた。

「夏休みに会った時は。」

「変わらなかった。」

「少なくとも俺にはそう見えた。」

風が吹く。

「理由が分からない。」

蓮は黙って聞いていた。

「何かあったのかもしれない。」

「晴に。」

しばらく沈黙が続く。

やがて。

蓮が小さく息を吐いた。

「……そうか。」

短い言葉だった。

それで十分だった。

蓮も気付いたんだと思う。

これはただの欠席じゃない。

「じゃあ。」

蓮が言う。

「調べるか。」

俺は頷く。

一人じゃない。

それだけで少し救われた。

そして。

ふと思い浮かぶ顔があった。

海の日。

波打ち際。

晴を見ていたもう一人。

「佐内さん。」

思わず名前が漏れる。

蓮がこちらを見る。

「ああ。」

その返事は早かった。

「伝えた方がいい。」

俺は少し驚く。

蓮はフェンスにもたれたまま空を見る。

「海の日。」

「晴ちゃんのこと気にしてた。」

俺は佐内さんとそこまで長い付き合いじゃない。

でも。

晴のことを心配してくれる人だということは知っていた。

蓮は少しだけ笑った。

「それに。」

頭を掻く。

「俺。」

「約束したから。」

「約束?」

「秘密。」

そう言って笑う。

その顔はどこか真剣だった。

「たぶん。」

「佐内さんなら放っとかない。」

俺は小さく頷く。

俺もそう思った。


秋をはらんだ風が吹く。

俺たちの夏はまだ終われそうになかった。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ