隣の席の転校生2
九月。
結局、夏祭りの後、
何度かメッセージのやり取りはしたものの、
晴と会うことはなかった。
『おはよう。』
『おはよう。』
そんな他愛のないやり取り。
夏祭りの日のことを思い出しては、スマホを見返したりもした。
でも。
それ以上は何もなかった。
蓮の恋愛相談が激しくなってきたのもある。
図書委員の佐内さんをどう誘うか。
どう話しかけるか。
そんな話ばかり聞かされていた。
気付けば夏休みは終わっていた。
太陽はまだ真夏の勢いを残している。
それでも吹き抜ける風は少しだけ違った。
小さい頃から季節には敏感だった。
空を見るのが好きだからかもしれない。
風の匂いが秋を予感させていた。
駅から学校へ向かう坂道。
見上げた空は高い。
八月とは違う青だった。
教室に入る。
窓際。
いつもの席。
そして。
隣の席を見る。
まだ晴はいなかった。
少しだけ安心する。
「うーっす。」
後ろから声。
振り返る。
相沢蓮だった。
「暑っ。」
机に突っ伏す。
「朝から溶けてるな。」
「溶けるだろ。」
「九月だぞ。」
「九月でも暑いもんは暑い。」
蓮は顔を上げた。
「お前こそ元気だな。」
「普通だよ。」
「いや普通じゃねーな。」
ニヤニヤしている。
嫌な予感しかしない。
「なんだよ。」
「立花さんに会えるもんな。」
「うるさい。」
「図星。」
「うるさい。」
「くくくっ。」
「うるさい。」
いつものやり取り。
夏休みが終わっても変わらない。
少しだけ安心した。
その時。
教室の扉が開く。
担任だった。
ホームルームが始まる。
俺は教室を見回した。
晴の姿はまだない。
少しだけ気になる。
担任が出席簿を開く。
そして。
「えー。」
教室が静かになる。
「立花はしばらく休みを取ることになった。」
一瞬だけ教室がざわつく。
「マジ?」
「風邪?」
「夏休み明けから?」
「会いたかったな。」
そんな声。
でも数十秒後には別の話題になっていた。
膨大な宿題。
校外学習。
ゲーム。
教室はすぐにいつもの空気へ戻っていく。
でも。
俺だけは戻れなかった。
隣の空席を朝の日差しが寂しげに照らす。
胸の奥がざわつく。
みんなは知らない。
晴がAIだということを。
AIが風邪を引く?
そんなわけがない。
じゃあ。
何で休む?
何のために?
分からない。
分からないから怖かった。
窓の外を見る。
高い空。
どこまでも青い。
なのに。
その色は少しだけ冷たく見えた。




