1-8 朝会
広い会議室に入ると、
既に魔族たちの声が飛び交っていた。
石造りの長机。
壁一面に貼られた古い地図。
中央には魔石が浮かび、淡い光で情報らしき文字が揺れている。
しかし会議は、始まる前から混乱していた。
「北側の魔獣群、活動が活発になっているぞ!」
「活発というより、行動圏が広がっている。人類側に誘導された可能性は?」
「いや、あれは仲間だ。黒狼族の伝令が来ていただろう?」
「その伝令が本物かどうかが分からん!」
(なるほど……
魔族と魔獣は味方でも、“完全に統率されているわけではない”ってことか)
太郎は騒ぎを聞きながら静かに理解していった。
魔獣は魔族と協力関係だが、
群れごとの“習性”や“主張”があるらしい。
それが戦況に大きく影響するため、
朝会での共有が混乱の原因になっていた。
「皆さん、焦らず順番に発言しましょう。
魔獣の行動分析は報告の精度が重要です」
ミラが落ち着いた声で促すが、
騒ぎはすぐには収まらない。
「順番など悠長に待てるか!」
「北の魔獣群は人類側の砦に近づきすぎている!」
「いや、あれはただの巡回で……!」
(同じ味方でも“情報の出どころ”が曖昧なら混乱するよな……)
太郎は現場改善の経験から、
何が問題か薄々理解し始めていた。
「おい! 全員黙れ!」
警備隊長ラグナの一喝で空気が一瞬で固まった。
「まず昨日の報告を確認する!
魔獣の行動記録、伝令の経路、人類側の動き。
整理してから話せ!」
「だが、その報告が……」
「無いなら無いで、どこから抜けたのか確認だ!」
ラグナの言葉は正しい。
だが、言い方はやはり荒い。
(仕組みが追いついてないから、こうなるんだ……
誰も悪気があるわけじゃないのに)
(魔獣の行動が“味方”なのか“人類への牽制”なのか……
情報が整理されてないから、議論が全部ぶつかってる)
太郎は静かに思考する。
魔族も魔獣も同盟者。
だからこそ、連絡手段や記録方法が整っていないと混乱を生む。
(現世でも、外部との連携って一番ミスが出るところだったよな……
部署間連携、引き継ぎ……似てる)
「太郎さん。
魔獣や魔物は私たちの仲間ですが、
各群れごとに指揮体系が違うのです。
伝令の伝わり方にも癖があります」
「癖……ですか」
「はい。黒狼族は走りながら情報を届けるので、
内容が端折られることがありますし、
大角鹿の群れは急ぎでなければ翌日しか動きません」
(そりゃ情報揺れるよ……)
「北側──黒狼族が巡回延長を希望している」
「黒狼族の隊長は、人類側の砦を牽制したいらしい」
「それなら南側の大角鹿の休息場をどうする」
「東は魔物の狩り場が狭まっている」
「どこもかしこも手が足りん!」
(味方の調整でここまで混乱してるんだな……
戦争より内部調整のほうが大変じゃないか?)
「太郎さん」
ミラが横で小声で言う。
「柔角族は、こういった多種族間の調整を得意とすると言われています。
いずれ、太郎さんにも……」
(いやいやいや……そんな伝統スキル俺知らないから……)
太郎は表情を変えずに頷いて見せた。
その瞬間、角がこてんと揺れた。
「今の揺れ……落ち着いた反応ですね」
「やはり柔角族だ」
(頼むから揺れないでくれ……!)
「北に振るべきだ!」
「いや南だ!」
「魔獣たちの動きが読めん!」
「なら読めるように報告しろ!」
議論は収まらない。
(全体的に、みんな疲れてる……
感情で動いてしまうのも無理ないよな)
太郎は深く息を吸い、
落ち着いてその混乱を見続けた。




